キミを結わう
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最近、暇さえあれば名無しは科学班に出入りしているらしい。
『駄目駄目!神田は暫く立ち入り禁止だよ!』
様子を見に科学班に立ち入ろうとした瞬間。
紆余曲折あって腐れ縁になってしまったジョニーに、まさかの入室禁止を叩き付けられてしまった。
他の面々なら『関係ねぇだろ』と一蹴できるのだが、どうも親友 とどことなく似た雰囲気のあるジョニーに対し、塩対応をするのは憚られた。
だからこうして大人しく鍛錬場で黙々と鍛錬に励んでいるわけなのだが──
「……チッ。」
だからといって機嫌がマシになるわけではない。
他の人間ならどうでもいい。興味がないから。
ただ名無しに隠し事をされるのだけは我慢ならない神田であった。
命に関わることではないのだろう。だからその点は安心出来る。
だが面白くない。
こんなにも『独占欲が強かったのか』と改めて自覚すると同時に、女々しい自分に腹が立つ。
朝の鍛錬の時間、朝食、昼食、合間の鍛錬、夕食の時とそれなりに同じ時間を過ごすが、それでも足りない。
何が一番不満かと問われれば、名無しに『何コソコソやってんだ』と問い詰めても『今は秘密です』と逃げられてしまったことだ。
神田も頑固だが、それ以上に名無しも頑固である。
問い詰められることが分かっているからか、昼食の時間をずらし、夜の部屋の行き来もぱたりと止み、彼女の部屋に突撃してももぬけの殻だったり。
つまり、こうもひらりひらりと避けられてしまっては、神田の苛立ちも静かに募るもので。
名無しのことだ。いつかは打ち明けてくれるのだろう。
しかし元来、神田ユウという男は気が短い。
教団の中でも《怒りっぽい人物といえば》とアンケートをとれば真っ先に名前が浮かぶ人物である。
『恋人の意思を尊重する理性』と『強行突破で秘密を暴く』という天秤が、今や危うくゆらゆら揺れている最中だ。
結論から言えば。
神田ユウは、超絶不機嫌であった。
「神田、あまり不機嫌を露骨に出すものじゃない。他の団員が怯えるだろう?」
「分かってる。」
兄弟子であるマリにやんわり諌められるが、それでも三割増の眉間のしわは治まらない。
名無しが神田に隠れてこそこそプレゼントを用意している経緯を知っているマリは、『どうしたものか』と小さく肩を竦めた。
「名無しに当たるんじゃないぞ?」
「当たるも何も、鍛錬と飯の時くらいしか顔を合わせてねぇよ。問い詰めたら避けられた。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる神田に対し、「あー、」とマリは声を上げる。
ここは少しフォローを入れておくべきか。
でなければこの強硬派の弟分のことだ。『言わねぇなら身体に聞く』なんて言いかねない。
名無しは名無しで『上手くできない』『誕生日に間に合わない』と半べそでプレゼントを作っているところだ。彼女の作業時間をやんわり確保してやるのも、相談を受けた一人としての責務なのかもしれない。
「……何だよ。」
「いや、うん。もうすぐ神田の誕生日だろう?」
「あ?…そういえば何が欲しいか名無しに聞かれたな」
「何を神田に贈ればいいのか、随分悩んでる様子だったよ。」
内容は伏せて、オブラートに包み。
言葉を選びながらフォローするマリ。
だが予想に反して神田は僅かに眉を顰めて首を傾げた。
「悩む程のことじゃねぇだろ。」
「でも、名無しにとっては大事なことなんだろう」
自分のことに関して無頓着な彼本人からすれば、誕生日プレゼントで悩む事なんて《馬鹿馬鹿しい》の一言に尽きるのかもしれない。
今までだったら吐き捨てるように口にしたであろうその言葉も、今となっては眉を顰めるだけに留まる。
その柔らかい変化にマリは目元を細め、口元の笑みを深めた。
「待ってやるのも優しさだろう?」
「……ガキじゃねぇんだ。そのくらい分かってる。」
ツン、とそっぽを向く気配。
成人して、元帥になって、過去の精算を乗り越えたとはいえ、マリからすればまだまだ可愛い弟分なのだ。
心配するのは当然。また、彼 の変化を喜ぶのも必然の事だった。
勿論、それを口にした日には反抗期のティーンエイジャーのように躍起になって拗ねてしまうのだが。
短気で、素直じゃなく、意地張りで、頑固者。
それでも、──それでも。
同門 である彼を見守っていたくなるのは、マリにとって命の恩人であり、長年付き合いのある大切な仲間であるからだ。
書類を偽装した仮初の誕生日とはいえ、その生誕を祝おうと奔走する彼女を陰ながら手伝えるのは、この上なく光栄なことだった。
キミを結わう#中編
「まぁいい」
ぽそりと呟かれた言葉。
「俺のことであれこれ頭悩ましてんの、悪い気はしねぇな。」
──そう来たか。
独占欲もここまで来れば執着に近いが、はてさて。
普段任務と鍛錬以外にこだわりを見せない男が、恋に落ちるとこうも厄介なのか。
マリは思わずあんぐりと開けてしまった口元を、苦笑いでそっと閉じ、内心静かに合掌した。
『駄目駄目!神田は暫く立ち入り禁止だよ!』
様子を見に科学班に立ち入ろうとした瞬間。
紆余曲折あって腐れ縁になってしまったジョニーに、まさかの入室禁止を叩き付けられてしまった。
他の面々なら『関係ねぇだろ』と一蹴できるのだが、どうも
だからこうして大人しく鍛錬場で黙々と鍛錬に励んでいるわけなのだが──
「……チッ。」
だからといって機嫌がマシになるわけではない。
他の人間ならどうでもいい。興味がないから。
ただ名無しに隠し事をされるのだけは我慢ならない神田であった。
命に関わることではないのだろう。だからその点は安心出来る。
だが面白くない。
こんなにも『独占欲が強かったのか』と改めて自覚すると同時に、女々しい自分に腹が立つ。
朝の鍛錬の時間、朝食、昼食、合間の鍛錬、夕食の時とそれなりに同じ時間を過ごすが、それでも足りない。
何が一番不満かと問われれば、名無しに『何コソコソやってんだ』と問い詰めても『今は秘密です』と逃げられてしまったことだ。
神田も頑固だが、それ以上に名無しも頑固である。
問い詰められることが分かっているからか、昼食の時間をずらし、夜の部屋の行き来もぱたりと止み、彼女の部屋に突撃してももぬけの殻だったり。
つまり、こうもひらりひらりと避けられてしまっては、神田の苛立ちも静かに募るもので。
名無しのことだ。いつかは打ち明けてくれるのだろう。
しかし元来、神田ユウという男は気が短い。
教団の中でも《怒りっぽい人物といえば》とアンケートをとれば真っ先に名前が浮かぶ人物である。
『恋人の意思を尊重する理性』と『強行突破で秘密を暴く』という天秤が、今や危うくゆらゆら揺れている最中だ。
結論から言えば。
神田ユウは、超絶不機嫌であった。
「神田、あまり不機嫌を露骨に出すものじゃない。他の団員が怯えるだろう?」
「分かってる。」
兄弟子であるマリにやんわり諌められるが、それでも三割増の眉間のしわは治まらない。
名無しが神田に隠れてこそこそプレゼントを用意している経緯を知っているマリは、『どうしたものか』と小さく肩を竦めた。
「名無しに当たるんじゃないぞ?」
「当たるも何も、鍛錬と飯の時くらいしか顔を合わせてねぇよ。問い詰めたら避けられた。」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる神田に対し、「あー、」とマリは声を上げる。
ここは少しフォローを入れておくべきか。
でなければこの強硬派の弟分のことだ。『言わねぇなら身体に聞く』なんて言いかねない。
名無しは名無しで『上手くできない』『誕生日に間に合わない』と半べそでプレゼントを作っているところだ。彼女の作業時間をやんわり確保してやるのも、相談を受けた一人としての責務なのかもしれない。
「……何だよ。」
「いや、うん。もうすぐ神田の誕生日だろう?」
「あ?…そういえば何が欲しいか名無しに聞かれたな」
「何を神田に贈ればいいのか、随分悩んでる様子だったよ。」
内容は伏せて、オブラートに包み。
言葉を選びながらフォローするマリ。
だが予想に反して神田は僅かに眉を顰めて首を傾げた。
「悩む程のことじゃねぇだろ。」
「でも、名無しにとっては大事なことなんだろう」
自分のことに関して無頓着な彼本人からすれば、誕生日プレゼントで悩む事なんて《馬鹿馬鹿しい》の一言に尽きるのかもしれない。
今までだったら吐き捨てるように口にしたであろうその言葉も、今となっては眉を顰めるだけに留まる。
その柔らかい変化にマリは目元を細め、口元の笑みを深めた。
「待ってやるのも優しさだろう?」
「……ガキじゃねぇんだ。そのくらい分かってる。」
ツン、とそっぽを向く気配。
成人して、元帥になって、過去の精算を乗り越えたとはいえ、マリからすればまだまだ可愛い弟分なのだ。
心配するのは当然。また、
勿論、それを口にした日には反抗期のティーンエイジャーのように躍起になって拗ねてしまうのだが。
短気で、素直じゃなく、意地張りで、頑固者。
それでも、──それでも。
書類を偽装した仮初の誕生日とはいえ、その生誕を祝おうと奔走する彼女を陰ながら手伝えるのは、この上なく光栄なことだった。
キミを結わう#中編
「まぁいい」
ぽそりと呟かれた言葉。
「俺のことであれこれ頭悩ましてんの、悪い気はしねぇな。」
──そう来たか。
独占欲もここまで来れば執着に近いが、はてさて。
普段任務と鍛錬以外にこだわりを見せない男が、恋に落ちるとこうも厄介なのか。
マリは思わずあんぐりと開けてしまった口元を、苦笑いでそっと閉じ、内心静かに合掌した。