short story
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ここ最近、黒の教団本部の食堂にてささやかな変化が訪れている。
「お前、今日何にするんだ?」
「テンプラ……いや、サバのミソニも捨て難い…」
食堂の夕飯時。
注文窓口へ向かってずらりと並ぶ長蛇の列を眺めながら、ラビは最後尾に大人しく並んだ。
彼の前に並んだ団員二人は顔見知り同士なのだろう。
メニューボードを眺めながら本日の夕食を真剣に悩む様は、平和のそのものなのだが──。
(……最近、日本食頼む団員増えたさね)
ラビの後ろにも一人、また一人と団員が増えていく。
「俺はラタトゥイユにしようかな」とか「私はムサカにするわ」という会話の中で、時折「俺は……ニクジャガを食べてみるとするか」なんて台詞も聞こえてきた。
(まぁ、予想はつくけど)
露になっている左目で食堂を見渡せば、目立たないようで目立つ二人組が目に留まった。
長身の彼の方は昔に比べて人を寄せつけない空気が和らいだものの、相変わらず国一つ傾けそうな美貌(ただし仏頂面)である。
片や身長に伸び悩んでいるのであろう、隣の彼に比べて随分と小柄な彼女は牛乳瓶をテーブルに置き、それはもう美味しそうにサバの味噌煮を頬張っていた。
にこにこと機嫌良さそうに舌鼓を打つ名無しの姿は、見ていて心地よい食べっぷりである。
フードファイターのような食事量のアレンとは違うベクトルではあるが、すいすいと食べるその姿は気持ちのいいものであった。
美少女と言うには隣人が絶世の美女──いや。美男子であるせいか少しばかり物足りないところがあるものの、柔らかい物腰と愛らしい笑顔で隠れファンが実の所多い。
ただし気軽に発破を掛けようものなら、教団の美少女代表リナリー・リー(過保護その2)に笑顔で脅さ……失礼。圧を掛けられた上、《たまたま》近くを通ったハワード・リンク(過保護その3)に雑用と小姑のような小言を押し付けられ、最終関門・恋人である神田ユウ(過保護その1)に蛇の如く睨まれる。
そんなこんなで本人達は無自覚なのだろうが、教団の凸凹コンビならぬ凸凹カップルは、人がごった返した食堂でも実の所よく目立つ。
余談だが、団員の間では『あの神田ユウを即座に諌めることが出来る弟子』と名無しの入団当初からある意味話題の師弟ではあったのだが、まさか数年後に恋人の間柄になるとは団員の多くは耳を疑っただろう。
……まぁ、神田の周りの同僚 からすれば『やっと収まるところに収まった』とそっと胸を撫で下ろしたのだが。
そんな彼らを自然と目で追うようになれば、次に注目すべきは彼らの食事メニューだ。
神田は相変わらず(というかよく飽きないものだ)蕎麦と天麩羅なのだが、名無しが食べるメニューはエスニック料理もあれば王道の洋食もあるのだが、食堂のラインナップではややマイナーメニューであった日本食をよく食べていた。
やはり祖国の味は落ち着くのだろう。一番いい表情 で食べるものだから、そりゃまぁ気になる団員は増える増える。
味噌や醤油は多少くせがあるものの、ハマる団員は即座にハマり、最初は敬遠していた団員も気がつけば虜になっていたという。
──前置きが長くなってしまった。
そんなこんなで『今日名無しが食べていたメニュー』を頼む団員は結構多い。
多い、のだが──。
名無しを食べているメニューをチェックしていた男性団員二人が、機嫌よく食べている名無しを見て『可愛いな』なんてヒソヒソ声で会話をしている。
その会話が聞こえているのか(いや、あの距離だと聞こえるはずも無いのだが)団員二人の熱視線に気づいた神田が、天麩羅を齧りながら射殺せそうな視線を即座に向ける。
そして固まる団員二人。いっそ憐れである。
(俺も今日はサバの味噌煮にしようかね)
ラビの食堂観察記録
「よっ。お二人さん、お向かい座っていい〜?」
「ラビさん、こんばんは!あ、同じメニューじゃないですか、奇遇ですね。」
「……オイ、断る前に座ってんじゃねぇよ」
相変わらずにこにこ顔の名無しと、露骨に嫌そうな顔をする神田。
『二人の時間を邪魔するな』と言わんばかりの視線だが、そんなことはラビからすれば知ったことではない。
「ユウ、睨みすぎさ〜。皆怖がってるっしょ?」
「どいつもこいつもチラチラチラチラ見すぎなんだよ。鬱陶しい」
神田の言い分は分からないでもないが、遠巻きに見ることすら牽制されるとは。
愛が重そうな性格をしていそうだとは思っていたが、ここまで独占欲が強いとなると一周まわって面白い。
ラビとしてはついつい面白半分で絡みたくなるのだ。
「何がですか?」
しかも当人は無自覚ときた。
いや。無自覚だからこそ、神田がやきもきしているのだろうが。
「名無しの食べてるメシ、美味そうだな〜って見てたんさ」
「なるほど、だからラビさんも味噌煮なんですね。」
あながち間違いではないが、そうじゃない。
彼女の隣に座る不機嫌な恋人は「はぁ……」と今日も呆れ顔で溜息をつくのであった。
「お前、今日何にするんだ?」
「テンプラ……いや、サバのミソニも捨て難い…」
食堂の夕飯時。
注文窓口へ向かってずらりと並ぶ長蛇の列を眺めながら、ラビは最後尾に大人しく並んだ。
彼の前に並んだ団員二人は顔見知り同士なのだろう。
メニューボードを眺めながら本日の夕食を真剣に悩む様は、平和のそのものなのだが──。
(……最近、日本食頼む団員増えたさね)
ラビの後ろにも一人、また一人と団員が増えていく。
「俺はラタトゥイユにしようかな」とか「私はムサカにするわ」という会話の中で、時折「俺は……ニクジャガを食べてみるとするか」なんて台詞も聞こえてきた。
(まぁ、予想はつくけど)
露になっている左目で食堂を見渡せば、目立たないようで目立つ二人組が目に留まった。
長身の彼の方は昔に比べて人を寄せつけない空気が和らいだものの、相変わらず国一つ傾けそうな美貌(ただし仏頂面)である。
片や身長に伸び悩んでいるのであろう、隣の彼に比べて随分と小柄な彼女は牛乳瓶をテーブルに置き、それはもう美味しそうにサバの味噌煮を頬張っていた。
にこにこと機嫌良さそうに舌鼓を打つ名無しの姿は、見ていて心地よい食べっぷりである。
フードファイターのような食事量のアレンとは違うベクトルではあるが、すいすいと食べるその姿は気持ちのいいものであった。
美少女と言うには隣人が絶世の美女──いや。美男子であるせいか少しばかり物足りないところがあるものの、柔らかい物腰と愛らしい笑顔で隠れファンが実の所多い。
ただし気軽に発破を掛けようものなら、教団の美少女代表リナリー・リー(過保護その2)に笑顔で脅さ……失礼。圧を掛けられた上、《たまたま》近くを通ったハワード・リンク(過保護その3)に雑用と小姑のような小言を押し付けられ、最終関門・恋人である神田ユウ(過保護その1)に蛇の如く睨まれる。
そんなこんなで本人達は無自覚なのだろうが、教団の凸凹コンビならぬ凸凹カップルは、人がごった返した食堂でも実の所よく目立つ。
余談だが、団員の間では『あの神田ユウを即座に諌めることが出来る弟子』と名無しの入団当初からある意味話題の師弟ではあったのだが、まさか数年後に恋人の間柄になるとは団員の多くは耳を疑っただろう。
……まぁ、神田の周りの
そんな彼らを自然と目で追うようになれば、次に注目すべきは彼らの食事メニューだ。
神田は相変わらず(というかよく飽きないものだ)蕎麦と天麩羅なのだが、名無しが食べるメニューはエスニック料理もあれば王道の洋食もあるのだが、食堂のラインナップではややマイナーメニューであった日本食をよく食べていた。
やはり祖国の味は落ち着くのだろう。一番いい
味噌や醤油は多少くせがあるものの、ハマる団員は即座にハマり、最初は敬遠していた団員も気がつけば虜になっていたという。
──前置きが長くなってしまった。
そんなこんなで『今日名無しが食べていたメニュー』を頼む団員は結構多い。
多い、のだが──。
名無しを食べているメニューをチェックしていた男性団員二人が、機嫌よく食べている名無しを見て『可愛いな』なんてヒソヒソ声で会話をしている。
その会話が聞こえているのか(いや、あの距離だと聞こえるはずも無いのだが)団員二人の熱視線に気づいた神田が、天麩羅を齧りながら射殺せそうな視線を即座に向ける。
そして固まる団員二人。いっそ憐れである。
(俺も今日はサバの味噌煮にしようかね)
ラビの食堂観察記録
「よっ。お二人さん、お向かい座っていい〜?」
「ラビさん、こんばんは!あ、同じメニューじゃないですか、奇遇ですね。」
「……オイ、断る前に座ってんじゃねぇよ」
相変わらずにこにこ顔の名無しと、露骨に嫌そうな顔をする神田。
『二人の時間を邪魔するな』と言わんばかりの視線だが、そんなことはラビからすれば知ったことではない。
「ユウ、睨みすぎさ〜。皆怖がってるっしょ?」
「どいつもこいつもチラチラチラチラ見すぎなんだよ。鬱陶しい」
神田の言い分は分からないでもないが、遠巻きに見ることすら牽制されるとは。
愛が重そうな性格をしていそうだとは思っていたが、ここまで独占欲が強いとなると一周まわって面白い。
ラビとしてはついつい面白半分で絡みたくなるのだ。
「何がですか?」
しかも当人は無自覚ときた。
いや。無自覚だからこそ、神田がやきもきしているのだろうが。
「名無しの食べてるメシ、美味そうだな〜って見てたんさ」
「なるほど、だからラビさんも味噌煮なんですね。」
あながち間違いではないが、そうじゃない。
彼女の隣に座る不機嫌な恋人は「はぁ……」と今日も呆れ顔で溜息をつくのであった。