short story
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任務がないからヒマ…というわけではない。
すっかり習慣になってしまった、ラビから借りる新聞の山々。
スラスラと読めるようになったのは大きな進歩だ。
しかし、
(眠たい…)
薪と火が爆ぜる音。
少し抑え気味に交わされる、周りの人達の会話。
夜独特の静けさを孕んだ空気が心地よくて、瞼がついつい重くなってしまう。
散々日中、親愛なる師にしごかれたのだ。体力がついたとはいえ、やはり眠たいものは眠たいのだ。
(あぁ、無理。ねむたい、)
『すこしだけ』と壁に頭を預けた瞬間、微睡むように意識が溶けた。
***
夕飯時も過ぎ、一向に現れない彼女にしびれを切らしていつもの場所に向かう。
自室にいないのなら大体談話室の窓際にいる。本か、新聞を読み漁りながら。
いくつものソファが暖炉を囲うその空間は、少し前まであまり踏み入れることがなかった。
そういう場所が苦手だったのもあるし、立ち寄るべき理由も、用もなかった。
だが今は意外と手のかかる弟子のおかげで足を向ける機会が自然と増えるのであって。
顔を覗かせれば殆ど人がいないその空間。およそ任務か食事で席を立っているのだろう。
いつもの場所、見慣れた窓際。
ちょこんと座り込んだ人影はよく見知ったもので。
「オイ、名無し……」
ソファの背を掴みうつむき加減の彼女を見下ろせば、くるりとした黒目は柔らかく閉じられ、規則正しい寝息が聞こえてきているではないか。
うたた寝…ではなさそうだ。完全に熟睡だろう。
…そう。例えるなら子犬が布団の上で寝息を立てている様に似ている。
起こすのも躊躇してしまうような、それはそれは気持ちよさそうに寝ていた。
「…ここで寝るな。」
柔らかい頬を軽く摘むが、起きる気配は一向にない。
思い返せば昼間の鍛錬は少しハードだったかもしれない。
リナリー曰く『別に名無しはそこまで鍛える必要ないんじゃないの?』とのことだが、何だかんだでしっかり鍛錬についてくるのが面白くて、ついつい教えて鍛えて…まぁそういうことだ。
(いや、鍛えておいて損はねぇだろ)
こんな思考だから『脳筋』と揶揄されているのを、神田は気づいていないのだろうが。
起きない弟子に半ば呆れ、諦めたように背負えば、子供のようなぬくぬくとした体温が団服越しに伝わる。
柔らかい小さな体。思っていた以上に軽く、背中ではすぅすぅと子供のような寝息を立てていた。
「…警戒心がなさすぎるのも考えものだな」
起きたら少し叱っておこう。
小さな身体がずり落ちないように、神田は起こさないよう背負い直し、談話室を静かに後にした。
彼女の安眠療法
コンコン・と少し大きなノック音。
ベッドの足元で新聞を読み漁っていた俺は、ノロノロと扉の前へ向かった。
「はいさー」
「返しに来たぞ。」
ドアを開ければ、まさかのユウだ。
しかも持っているのは名無しに貸した新聞の束。
思わぬ来訪者に俺は少し面食らってしまい、新聞と彼の顔を見比べてしまった。
「…あー、寝落ちしちゃったんさ?」
「そんなとこだ」
声量を少し落として問えば、呆れたように小さく息をつくユウ。
ユウの広い背中でスースーと寝息を立てるのは、彼の愛弟子であり新聞を貸していた少女だ。
「世話になったな」
ぶっきらぼうに一言言い残し、足早に去っていく神田の歩調は意外にも柔らかだった。
(人って変わるもんさねー)
数年前の彼なら、人の面倒をみるどころか、知り合いが風邪引きそうなところで寝ていても放っておいただろう。
それがどうだ。
弟子を背負って部屋に連れ帰り、貸していたものを律儀に返却するだなんて。
(あ、でも後にも先にも多分名無し限定さね)
あぁ。だから人間は面白い。
友人の穏やかな変化に自然と笑みが零れ、俺は再び新聞の海へダイブした。
すっかり習慣になってしまった、ラビから借りる新聞の山々。
スラスラと読めるようになったのは大きな進歩だ。
しかし、
(眠たい…)
薪と火が爆ぜる音。
少し抑え気味に交わされる、周りの人達の会話。
夜独特の静けさを孕んだ空気が心地よくて、瞼がついつい重くなってしまう。
散々日中、親愛なる師にしごかれたのだ。体力がついたとはいえ、やはり眠たいものは眠たいのだ。
(あぁ、無理。ねむたい、)
『すこしだけ』と壁に頭を預けた瞬間、微睡むように意識が溶けた。
***
夕飯時も過ぎ、一向に現れない彼女にしびれを切らしていつもの場所に向かう。
自室にいないのなら大体談話室の窓際にいる。本か、新聞を読み漁りながら。
いくつものソファが暖炉を囲うその空間は、少し前まであまり踏み入れることがなかった。
そういう場所が苦手だったのもあるし、立ち寄るべき理由も、用もなかった。
だが今は意外と手のかかる弟子のおかげで足を向ける機会が自然と増えるのであって。
顔を覗かせれば殆ど人がいないその空間。およそ任務か食事で席を立っているのだろう。
いつもの場所、見慣れた窓際。
ちょこんと座り込んだ人影はよく見知ったもので。
「オイ、名無し……」
ソファの背を掴みうつむき加減の彼女を見下ろせば、くるりとした黒目は柔らかく閉じられ、規則正しい寝息が聞こえてきているではないか。
うたた寝…ではなさそうだ。完全に熟睡だろう。
…そう。例えるなら子犬が布団の上で寝息を立てている様に似ている。
起こすのも躊躇してしまうような、それはそれは気持ちよさそうに寝ていた。
「…ここで寝るな。」
柔らかい頬を軽く摘むが、起きる気配は一向にない。
思い返せば昼間の鍛錬は少しハードだったかもしれない。
リナリー曰く『別に名無しはそこまで鍛える必要ないんじゃないの?』とのことだが、何だかんだでしっかり鍛錬についてくるのが面白くて、ついつい教えて鍛えて…まぁそういうことだ。
(いや、鍛えておいて損はねぇだろ)
こんな思考だから『脳筋』と揶揄されているのを、神田は気づいていないのだろうが。
起きない弟子に半ば呆れ、諦めたように背負えば、子供のようなぬくぬくとした体温が団服越しに伝わる。
柔らかい小さな体。思っていた以上に軽く、背中ではすぅすぅと子供のような寝息を立てていた。
「…警戒心がなさすぎるのも考えものだな」
起きたら少し叱っておこう。
小さな身体がずり落ちないように、神田は起こさないよう背負い直し、談話室を静かに後にした。
彼女の安眠療法
コンコン・と少し大きなノック音。
ベッドの足元で新聞を読み漁っていた俺は、ノロノロと扉の前へ向かった。
「はいさー」
「返しに来たぞ。」
ドアを開ければ、まさかのユウだ。
しかも持っているのは名無しに貸した新聞の束。
思わぬ来訪者に俺は少し面食らってしまい、新聞と彼の顔を見比べてしまった。
「…あー、寝落ちしちゃったんさ?」
「そんなとこだ」
声量を少し落として問えば、呆れたように小さく息をつくユウ。
ユウの広い背中でスースーと寝息を立てるのは、彼の愛弟子であり新聞を貸していた少女だ。
「世話になったな」
ぶっきらぼうに一言言い残し、足早に去っていく神田の歩調は意外にも柔らかだった。
(人って変わるもんさねー)
数年前の彼なら、人の面倒をみるどころか、知り合いが風邪引きそうなところで寝ていても放っておいただろう。
それがどうだ。
弟子を背負って部屋に連れ帰り、貸していたものを律儀に返却するだなんて。
(あ、でも後にも先にも多分名無し限定さね)
あぁ。だから人間は面白い。
友人の穏やかな変化に自然と笑みが零れ、俺は再び新聞の海へダイブした。