short story
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風呂上がり。
ベッドの縁に座った神田の背後で、名無しは意気揚々と彼の髪の手入れの続きを始めた。
丁寧なタオルドライから始まり、手櫛で整え、毛先を中心にヘアオイルを塗り込んでいく。
仕上げは、科学班が作ったというドライヤーを片手に名無しはご機嫌で乾かしていった。
神田の髪から香る、名無しと同じシャンプーの匂い。
洗われた時の心地良さに加え、揺れる度に香る匂いに神田当人は満更でもなさそうだった。
「すごいですね、魔術と科学でドライヤーが再現できるなんて。」
「……本来はそういう使い方じゃねぇはずなんだがな。」
コムイが『リナリーの美髪のために!』と躍起になって作った代物が始まりだったようだ。
科学班が仕事の合間にあーでもない、こーでもないと試行錯誤した結果、名無しが手に持っている品が仕上がったらしい。
リナリーは勿論、女性陣や男性陣全員からもドライヤーの出来は大好評。
余談だが、当時『いつもこんなまともな物を作ってくれれば……』と溜息混じりの声が方々から聞こえてきたとか。
名無しの細い指で髪を梳きながら、地肌から乾かすように丁寧に風を当てていく。
頭を撫でられるような心地良さに目を細め、神田はされるがまま大人しくしていた。
まるでブラッシングが好きな猫のようだ。
「石鹸で洗うのは何かこだわりがあったんですか?」
「身体まで全部洗えるから楽だろ。」
「聞いた私が馬鹿でした。」
妙なところで合理的な彼の言い分に、流石の名無しも呆れ顔だった。
地肌が弱いとかシャンプーが好きじゃないとか、石鹸を使う人にはそれなりの理由があるものだが、まさか楽をしたいからだなんて。
「シャンプーで洗いましょう。もしくは、ちゃんと石鹸で洗った後はリンスをつけましょう。折角綺麗な髪なんですから」
誰もが一度は憧れる、神田の髪。
歩く度に揺れる髪は上質な絹糸のようで、真っ直ぐと伸びた後ろ髪は彼の性格そのもののようにも見えた。
勿論、名無しもその憧れた面々の一人である。
「手順多くて面倒くせぇ。」
「今日は特別念入りに手入れしているだけですよ。普段はタオルドライと、ブラッシングと、ドライヤーできちんと乾かすだけで十分ですし…。いえ、欲を言えばちゃんとヘアオイルとかつけて欲しいですけど」
細めていた目を開き、嫌そうに口元を歪める神田。
彼のそんな子供っぽい表情を見て、髪を乾かしながら名無しは小さく笑った。
「露骨に『面倒くせ〜』って顔するのやめましょうよ」
「面倒だろ。」
「だって勿体ないでしょう?呪符でどうにかなるとはいえ、手入れを怠っていい理由にはなりませんよ」
顔のいい彼のことだ。
きっとショートヘアーも似合うのだろうが、動く度に軽やかに揺れる長髪がバッサリ切られてしまうのは無性に勿体ない。
彼自身が頓着ないのなら髪の手入れなど諦めていいかもしれないが。
これは、名無しのお節介であり、我儘だ。
「そんなに気になるなら、名無しが手入れすりゃあいいだろ。」
相変わらず面倒くさそうに言い放つ神田だが……名無しはといえばパッと表情を華やがせていた。
そんなお願い、願ったり叶ったりだ。
「いいんです?しちゃっても。」
「そこは普通『面倒くせぇ』って言うところじゃねぇのか?」
「何言ってるんですか。役得ってやつですよ」
パーソナルスペースに置いてくれることが何より嬉しい。
そんなことを口にしたところで、きっと神田は『今更だな』と笑うのだろうけど。
神田といえば、嬉しそうな、はたまた呆れたような表情を浮かべていた。
お人好し、世話焼き、面倒としか思えないことを嬉々として取り組む彼女の姿勢が、理解できないと同時に擽ったかった。
役得と言えるのはむしろ、
バスタイムの役得
「俺もだ。」
二人だけの時間。
その約束が、またひとつ増えたのだから。
ベッドの縁に座った神田の背後で、名無しは意気揚々と彼の髪の手入れの続きを始めた。
丁寧なタオルドライから始まり、手櫛で整え、毛先を中心にヘアオイルを塗り込んでいく。
仕上げは、科学班が作ったというドライヤーを片手に名無しはご機嫌で乾かしていった。
神田の髪から香る、名無しと同じシャンプーの匂い。
洗われた時の心地良さに加え、揺れる度に香る匂いに神田当人は満更でもなさそうだった。
「すごいですね、魔術と科学でドライヤーが再現できるなんて。」
「……本来はそういう使い方じゃねぇはずなんだがな。」
コムイが『リナリーの美髪のために!』と躍起になって作った代物が始まりだったようだ。
科学班が仕事の合間にあーでもない、こーでもないと試行錯誤した結果、名無しが手に持っている品が仕上がったらしい。
リナリーは勿論、女性陣や男性陣全員からもドライヤーの出来は大好評。
余談だが、当時『いつもこんなまともな物を作ってくれれば……』と溜息混じりの声が方々から聞こえてきたとか。
名無しの細い指で髪を梳きながら、地肌から乾かすように丁寧に風を当てていく。
頭を撫でられるような心地良さに目を細め、神田はされるがまま大人しくしていた。
まるでブラッシングが好きな猫のようだ。
「石鹸で洗うのは何かこだわりがあったんですか?」
「身体まで全部洗えるから楽だろ。」
「聞いた私が馬鹿でした。」
妙なところで合理的な彼の言い分に、流石の名無しも呆れ顔だった。
地肌が弱いとかシャンプーが好きじゃないとか、石鹸を使う人にはそれなりの理由があるものだが、まさか楽をしたいからだなんて。
「シャンプーで洗いましょう。もしくは、ちゃんと石鹸で洗った後はリンスをつけましょう。折角綺麗な髪なんですから」
誰もが一度は憧れる、神田の髪。
歩く度に揺れる髪は上質な絹糸のようで、真っ直ぐと伸びた後ろ髪は彼の性格そのもののようにも見えた。
勿論、名無しもその憧れた面々の一人である。
「手順多くて面倒くせぇ。」
「今日は特別念入りに手入れしているだけですよ。普段はタオルドライと、ブラッシングと、ドライヤーできちんと乾かすだけで十分ですし…。いえ、欲を言えばちゃんとヘアオイルとかつけて欲しいですけど」
細めていた目を開き、嫌そうに口元を歪める神田。
彼のそんな子供っぽい表情を見て、髪を乾かしながら名無しは小さく笑った。
「露骨に『面倒くせ〜』って顔するのやめましょうよ」
「面倒だろ。」
「だって勿体ないでしょう?呪符でどうにかなるとはいえ、手入れを怠っていい理由にはなりませんよ」
顔のいい彼のことだ。
きっとショートヘアーも似合うのだろうが、動く度に軽やかに揺れる長髪がバッサリ切られてしまうのは無性に勿体ない。
彼自身が頓着ないのなら髪の手入れなど諦めていいかもしれないが。
これは、名無しのお節介であり、我儘だ。
「そんなに気になるなら、名無しが手入れすりゃあいいだろ。」
相変わらず面倒くさそうに言い放つ神田だが……名無しはといえばパッと表情を華やがせていた。
そんなお願い、願ったり叶ったりだ。
「いいんです?しちゃっても。」
「そこは普通『面倒くせぇ』って言うところじゃねぇのか?」
「何言ってるんですか。役得ってやつですよ」
パーソナルスペースに置いてくれることが何より嬉しい。
そんなことを口にしたところで、きっと神田は『今更だな』と笑うのだろうけど。
神田といえば、嬉しそうな、はたまた呆れたような表情を浮かべていた。
お人好し、世話焼き、面倒としか思えないことを嬉々として取り組む彼女の姿勢が、理解できないと同時に擽ったかった。
役得と言えるのはむしろ、
バスタイムの役得
「俺もだ。」
二人だけの時間。
その約束が、またひとつ増えたのだから。