short story
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『もう少しで読み終えるので、待って頂けますか?』
そう言われたものの、実の所神田は名無しに対して何か特別な用事があったわけではない。
単純に『会いたかった』というだけ。自分でもこの変化に笑ってしまいそうになるが、不思議と不愉快ではなかった。
ハードカバーの本の厚みは、あと残り数ページ。
ベッドの端に座り、白く細い指で1ページ1ページ丁寧に読み進めていく姿はどこか儚ささえ感じる。
邪魔をするつもりではないのだが、手持ち無沙汰だった神田はベッドに深く腰掛け、もうすぐ後書きのページを読み終える名無しの背中をすっぽりと腕の中にしまい込んだ。
「神田さんにぎゅってされると、何だか安心しますね。」
警戒心ゼロの笑顔でころころと笑う名無し。
薄い肩や細い腰に腕を回せば、逆に神田は不安になってくるというのに。
(人の気も知らねぇで。)
護らなければいけないほど弱くもないが、決して強くもない。
彼女の強さは力でもなく、身体でもなく、精神的にタフなだけ。
その強さも、自らを薪にして走り続けるような危うさの上に成り立っているような気がして、目が離せないというのが実の所の本音である。
「私も神田さんを、後ろからぎゅってしてもいいですか?」
後書きを読み終えたのか、今度こそ本を丁寧に閉じた名無し。
読み終えたのなら少し早めの昼食……と思ったのだが、どうやら甘えたい気分らしい。
「あぁ。」と二つ返事で腕を解けば、「失礼しますね」と一言断り、名無しはベッドに座る神田の後ろから抱きついた。
……が、結果は抱きつく…というより、おんぶである。
神田自身、一見すれば線が細い身体に見えるが、セカンドエクソシストの強化された肉体ということを差し引いても、日頃の鍛錬の賜物故か胸板は厚く、背筋だって筋が浮いている。
団服のコートを普段着込んでいるため印象が薄いだけで、体格としては教団の中でも五本の指に入るくらい立派な方だ。
つまり要約すれば、名無しが神田を後ろから抱きしめても、おんぶをせがむ子供のように見えるか、取り憑いた背後霊のように見えるかの二択なのである。
「……思っていたのと違う。」
「そりゃそうだろ。」
神田ですら予想していた結果だ。
どう考えても体格差があるのだから、当然と言えば当然だった。
抱きつかれた当人としては背中に胸が当たっていて満更でもないのだが、それは蛇足かつ余計な一言だろう。
声のトーンと共に気落ちする名無しに対し、口元を緩めるような苦笑を零す。
「それも悪くねぇが、」と前置きをし、身体を捩る。
攫うように名無しの腰を抱き寄せて膝の上に乗せれば、驚いたように丸く見開いた双眸と視線が絡んだ。
「俺はこっちの方がいい。」
掻き抱いて、首筋に顔を埋める。
シャンプーの仄かに甘い香りと、石鹸の爽やかな匂い。
体温と柔らかさとコロコロ変わる表情と、全てを堪能するには、対面で抱きしめるのが一番いい。
名無しはというと照れたように「……えへへ。」と笑い、神田の胸元にするりと額を擦り寄せる。
きっとこれが、お互いの最善で最愛で最適解。
ハグの特権
(後ろから抱きしめられるのも悪くねぇんだが──まぁ、それは俺だけの特権だな。)
彼女を、腕の中の宝箱に仕舞うように抱きしめられるのは、きっと彼だけの独占権。
そう言われたものの、実の所神田は名無しに対して何か特別な用事があったわけではない。
単純に『会いたかった』というだけ。自分でもこの変化に笑ってしまいそうになるが、不思議と不愉快ではなかった。
ハードカバーの本の厚みは、あと残り数ページ。
ベッドの端に座り、白く細い指で1ページ1ページ丁寧に読み進めていく姿はどこか儚ささえ感じる。
邪魔をするつもりではないのだが、手持ち無沙汰だった神田はベッドに深く腰掛け、もうすぐ後書きのページを読み終える名無しの背中をすっぽりと腕の中にしまい込んだ。
「神田さんにぎゅってされると、何だか安心しますね。」
警戒心ゼロの笑顔でころころと笑う名無し。
薄い肩や細い腰に腕を回せば、逆に神田は不安になってくるというのに。
(人の気も知らねぇで。)
護らなければいけないほど弱くもないが、決して強くもない。
彼女の強さは力でもなく、身体でもなく、精神的にタフなだけ。
その強さも、自らを薪にして走り続けるような危うさの上に成り立っているような気がして、目が離せないというのが実の所の本音である。
「私も神田さんを、後ろからぎゅってしてもいいですか?」
後書きを読み終えたのか、今度こそ本を丁寧に閉じた名無し。
読み終えたのなら少し早めの昼食……と思ったのだが、どうやら甘えたい気分らしい。
「あぁ。」と二つ返事で腕を解けば、「失礼しますね」と一言断り、名無しはベッドに座る神田の後ろから抱きついた。
……が、結果は抱きつく…というより、おんぶである。
神田自身、一見すれば線が細い身体に見えるが、セカンドエクソシストの強化された肉体ということを差し引いても、日頃の鍛錬の賜物故か胸板は厚く、背筋だって筋が浮いている。
団服のコートを普段着込んでいるため印象が薄いだけで、体格としては教団の中でも五本の指に入るくらい立派な方だ。
つまり要約すれば、名無しが神田を後ろから抱きしめても、おんぶをせがむ子供のように見えるか、取り憑いた背後霊のように見えるかの二択なのである。
「……思っていたのと違う。」
「そりゃそうだろ。」
神田ですら予想していた結果だ。
どう考えても体格差があるのだから、当然と言えば当然だった。
抱きつかれた当人としては背中に胸が当たっていて満更でもないのだが、それは蛇足かつ余計な一言だろう。
声のトーンと共に気落ちする名無しに対し、口元を緩めるような苦笑を零す。
「それも悪くねぇが、」と前置きをし、身体を捩る。
攫うように名無しの腰を抱き寄せて膝の上に乗せれば、驚いたように丸く見開いた双眸と視線が絡んだ。
「俺はこっちの方がいい。」
掻き抱いて、首筋に顔を埋める。
シャンプーの仄かに甘い香りと、石鹸の爽やかな匂い。
体温と柔らかさとコロコロ変わる表情と、全てを堪能するには、対面で抱きしめるのが一番いい。
名無しはというと照れたように「……えへへ。」と笑い、神田の胸元にするりと額を擦り寄せる。
きっとこれが、お互いの最善で最愛で最適解。
ハグの特権
(後ろから抱きしめられるのも悪くねぇんだが──まぁ、それは俺だけの特権だな。)
彼女を、腕の中の宝箱に仕舞うように抱きしめられるのは、きっと彼だけの独占権。