short story
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ルーマニアからの長期派遣から帰ってきた俺は、再び本部にて探索部隊として配置される事となった。
そこで俺は天使に出会う。
「今回同行することになりました、エクソシストの名無し名無しです。至らない点があるとは思いますが、よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀をし、屈託なくふわりと笑う彼女。
名無し名無しと名乗った東洋人の少女は、リナリーとは違う可愛らしさがあった。
あちらが『綺麗』なら、こちらは『可憐』だ。
あどけなさがまだ残る、はにかむような笑顔は男心にグッとくるものがある。
「肩肘張りすぎないようにな〜。ま、気楽にいくさ」
「貴方はもう少し緊張感を持った方がいいのでは?」
ブックマンの後継者と、何故か中央庁のルベリエの犬が同行していることは、この際目を瞑ろう。
美形とはいえ男は目の保養にならない。
神田ユウがまさにその典型だろう。人を軽く射殺せそうな視線は、いくら美人とはいえ怖いものは怖い。
(しっかし……可愛いなぁ、名無し。)
任務は真面目に取り組むべきなのは百も承知だが、少なくとも俺にとって癒しが出来たことに変わりはなかった。
とある探索部隊の失恋
「つ、疲れた…暑かった…!」
「はは、これでへばってちゃあユウに小言言われちゃうさ〜」
「貴方と彼女を一緒にしないでください。」
真夏のインドから方舟で帰還し、本部に着いた途端文句一つ零さなかった名無しが、糸が切れたように項垂れた。
ケタケタとからかうように笑うブックマンの後継者は汗ひとつかいておらず、大槌になっていたイノセンスをホルスターへ器用にしまい込んだ。
中央庁の監査官は名無しのサポートだったらしく、息のあったコンビネーションでアクマの捕縛を監査官が行い、名無しが『眼』でアクマの破壊を行った。
監査官の立ち回りもあり名無しには傷一つないのだが、彼女自身走り回ったせいか前髪が汗で張り付いてしまっている。
分かる。ルーマニアも地域によっては涼しいのだけど、首都の夏は毎年暑かった。
『暑いのは嫌だよな』とか『汗かいてる姿も可愛いな』とか考えながら、草臥れた彼女を見つつ俺は探索に必要な道具一式を床に置いた。
「しっかし暑いのは俺も堪えたさ〜。はー、団服脱ご〜っと」
「私も……団服、脱いじゃお…」
丈夫なジャケットよりも分厚い素材の団服を重々しく脱げば、シャツに袖を通した華奢な身体が露わになった。
肩は折れてしまいそうなくらい薄くて細いのに、胸周りはきちんとついている。何がとは言わないが。
あどけなさが残る顔の造形とは裏腹に、身体は少女から大人の女性になりつつある肉付きに、つい俺は音を立てて生唾を飲み込んだ。
……それと同時にブックマンの後継者は固まり、名無しの隣で涼しい顔をしていた監査官も僅かに目を見開く。
なんだ、この妙な空気。
「…………名無しは団服脱ぐの、部屋に帰ってからの方がいいんじゃないの?」
「え、どうしてですか、ラビさん」
「私もそう思います。」
「なんですか、リンクさんまで」
訝しげな声を上げながら、彼女は素直に再び団服を着込む。あぁ、シャツ姿も可愛かったのに。
本部の大広間に到着し、各々報告書を作ったり身体を休めたり──あとは解散するだけになった。
頑張れ俺。『一緒に食事でもどうですか?』と声を掛けるんだ。
「…ッあの、このあと、」
「名無し。」
俺の言葉を遮って、カツカツとブーツの踵を鳴らしながらやって来たのは、神田ユウ。
元帥になってもどうやら相変わらずのようで、最後に見た数年前と同じような仏頂面を浮かべている。
相変わらずの無表情で、男なのが実に勿体ない美人だ。いや、男に興味はないんだけど。
……って、今彼女の名前を呼んだ?
「神田さん、ただいま帰りました。」
「ん。」
花がほころぶように笑う彼女だが、今日見た中でとびきりのいい笑顔だ。
うわー眩しい。永遠に見ていたい。
柔らかそうな名無しの黒髪をくしゃりと撫でる神田。
無遠慮に撫で回す姿は『飼い主と子犬』のようにも見える。
羨ましい──じゃなくて、女の子の髪をあぁも雑に撫でるなんて、羨ましいけしからん。
……当の本人である名無しはくすぐったそうに笑っているけど。可愛いな、オイ。
「ユウ、お前さ〜…つけすぎだろ。」
「なんだ、いたのか。アホ兎。」
「最初からいたさ!」
「罵倒の前に労いの言葉ひとつくらい掛けてくれたってさ〜」なんて文句を言いながら、ブックマンの後継者は呆れ返りながら天を仰ぐ。
……つけすぎ、って、何がだろう。
「男の独占欲は醜いですよ、神田ユウ。」
「虫除けだ。悪い虫がつかねーようにな。」
「どっちが悪い虫なんだか。」
じとりと神田を見遣る監査官と、監査官に薄ら笑いを浮かべる神田。
ただならぬ空気を察して、探索部隊全員──勿論、俺も含めて──嫌な汗が背中に伝った。
中央庁と元帥、怖い。何、仲悪いの?この二人。
「………………あの、もしかして、」
黙ってやり取りを聞いていた名無しが団服の襟元のボタンを緩め、鏡のように映り込む窓ガラスを見つめる。
その一連の動きは一瞬で、何かを見つけた彼女は茹で上がったように顔を真っ赤に染め上げ、無言で神田の腰を思い切り叩いた。
「いて。」
「んなっな、な、な、なっ、なんてことをしてるんですか!」
「マーキング。言っただろ、悪い虫がつかないようにってな」
音だけはそこそこ立派だったのに、細腕で叩いた神田の体幹は一切乱れることなく。
言葉とは裏腹に、全く痛そうにしていない神田は『してやったり』顔でニヤリと笑う。
「今気づいたのか。」
「……暑くてもちゃんと団服着てましたから。」
「真面目で何よりだな。」
仏頂面を崩し、込み上げる感情を噛み殺すように含み笑いを浮かべる神田。
底意地の悪い元帥を見て、団服の襟を抑えながら「もう、知りません!」と声を上げて名無しは去ってしまった。…………あっ、食事に誘ってない。
早足に去っていく女の子の背中を眺めながら、溜息を盛大に吐き出した監査官は呆れた様子で神田へ呟いた。
「嫌われても知りませんからね。」
「その時は土下座でもなんでもしてやるよ。」
神田ユウの土下座とか想像つかないんだが。
「……ユウって俺の予想以上に独占欲つよつよさ〜」
犬も食わないような痴話喧嘩に肩を竦め、ブックマンの後継者も「は〜、シャワー浴びて飯食ってこよ〜」と呑気にその場を後にした。
「…………もしかしてあの二人、付き合ってるんです?」
取り残された俺の呟きに、本部着任が長い探索部隊の同僚が、同情するように黙って肩を軽く叩く。
アタックする前に俺の淡い恋心は、容赦なく神田ユウによって粉砕されたのだった。
誰か酒を奢ってくれ。
そこで俺は天使に出会う。
「今回同行することになりました、エクソシストの名無し名無しです。至らない点があるとは思いますが、よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧にお辞儀をし、屈託なくふわりと笑う彼女。
名無し名無しと名乗った東洋人の少女は、リナリーとは違う可愛らしさがあった。
あちらが『綺麗』なら、こちらは『可憐』だ。
あどけなさがまだ残る、はにかむような笑顔は男心にグッとくるものがある。
「肩肘張りすぎないようにな〜。ま、気楽にいくさ」
「貴方はもう少し緊張感を持った方がいいのでは?」
ブックマンの後継者と、何故か中央庁のルベリエの犬が同行していることは、この際目を瞑ろう。
美形とはいえ男は目の保養にならない。
神田ユウがまさにその典型だろう。人を軽く射殺せそうな視線は、いくら美人とはいえ怖いものは怖い。
(しっかし……可愛いなぁ、名無し。)
任務は真面目に取り組むべきなのは百も承知だが、少なくとも俺にとって癒しが出来たことに変わりはなかった。
とある探索部隊の失恋
「つ、疲れた…暑かった…!」
「はは、これでへばってちゃあユウに小言言われちゃうさ〜」
「貴方と彼女を一緒にしないでください。」
真夏のインドから方舟で帰還し、本部に着いた途端文句一つ零さなかった名無しが、糸が切れたように項垂れた。
ケタケタとからかうように笑うブックマンの後継者は汗ひとつかいておらず、大槌になっていたイノセンスをホルスターへ器用にしまい込んだ。
中央庁の監査官は名無しのサポートだったらしく、息のあったコンビネーションでアクマの捕縛を監査官が行い、名無しが『眼』でアクマの破壊を行った。
監査官の立ち回りもあり名無しには傷一つないのだが、彼女自身走り回ったせいか前髪が汗で張り付いてしまっている。
分かる。ルーマニアも地域によっては涼しいのだけど、首都の夏は毎年暑かった。
『暑いのは嫌だよな』とか『汗かいてる姿も可愛いな』とか考えながら、草臥れた彼女を見つつ俺は探索に必要な道具一式を床に置いた。
「しっかし暑いのは俺も堪えたさ〜。はー、団服脱ご〜っと」
「私も……団服、脱いじゃお…」
丈夫なジャケットよりも分厚い素材の団服を重々しく脱げば、シャツに袖を通した華奢な身体が露わになった。
肩は折れてしまいそうなくらい薄くて細いのに、胸周りはきちんとついている。何がとは言わないが。
あどけなさが残る顔の造形とは裏腹に、身体は少女から大人の女性になりつつある肉付きに、つい俺は音を立てて生唾を飲み込んだ。
……それと同時にブックマンの後継者は固まり、名無しの隣で涼しい顔をしていた監査官も僅かに目を見開く。
なんだ、この妙な空気。
「…………名無しは団服脱ぐの、部屋に帰ってからの方がいいんじゃないの?」
「え、どうしてですか、ラビさん」
「私もそう思います。」
「なんですか、リンクさんまで」
訝しげな声を上げながら、彼女は素直に再び団服を着込む。あぁ、シャツ姿も可愛かったのに。
本部の大広間に到着し、各々報告書を作ったり身体を休めたり──あとは解散するだけになった。
頑張れ俺。『一緒に食事でもどうですか?』と声を掛けるんだ。
「…ッあの、このあと、」
「名無し。」
俺の言葉を遮って、カツカツとブーツの踵を鳴らしながらやって来たのは、神田ユウ。
元帥になってもどうやら相変わらずのようで、最後に見た数年前と同じような仏頂面を浮かべている。
相変わらずの無表情で、男なのが実に勿体ない美人だ。いや、男に興味はないんだけど。
……って、今彼女の名前を呼んだ?
「神田さん、ただいま帰りました。」
「ん。」
花がほころぶように笑う彼女だが、今日見た中でとびきりのいい笑顔だ。
うわー眩しい。永遠に見ていたい。
柔らかそうな名無しの黒髪をくしゃりと撫でる神田。
無遠慮に撫で回す姿は『飼い主と子犬』のようにも見える。
羨ましい──じゃなくて、女の子の髪をあぁも雑に撫でるなんて、羨ましいけしからん。
……当の本人である名無しはくすぐったそうに笑っているけど。可愛いな、オイ。
「ユウ、お前さ〜…つけすぎだろ。」
「なんだ、いたのか。アホ兎。」
「最初からいたさ!」
「罵倒の前に労いの言葉ひとつくらい掛けてくれたってさ〜」なんて文句を言いながら、ブックマンの後継者は呆れ返りながら天を仰ぐ。
……つけすぎ、って、何がだろう。
「男の独占欲は醜いですよ、神田ユウ。」
「虫除けだ。悪い虫がつかねーようにな。」
「どっちが悪い虫なんだか。」
じとりと神田を見遣る監査官と、監査官に薄ら笑いを浮かべる神田。
ただならぬ空気を察して、探索部隊全員──勿論、俺も含めて──嫌な汗が背中に伝った。
中央庁と元帥、怖い。何、仲悪いの?この二人。
「………………あの、もしかして、」
黙ってやり取りを聞いていた名無しが団服の襟元のボタンを緩め、鏡のように映り込む窓ガラスを見つめる。
その一連の動きは一瞬で、何かを見つけた彼女は茹で上がったように顔を真っ赤に染め上げ、無言で神田の腰を思い切り叩いた。
「いて。」
「んなっな、な、な、なっ、なんてことをしてるんですか!」
「マーキング。言っただろ、悪い虫がつかないようにってな」
音だけはそこそこ立派だったのに、細腕で叩いた神田の体幹は一切乱れることなく。
言葉とは裏腹に、全く痛そうにしていない神田は『してやったり』顔でニヤリと笑う。
「今気づいたのか。」
「……暑くてもちゃんと団服着てましたから。」
「真面目で何よりだな。」
仏頂面を崩し、込み上げる感情を噛み殺すように含み笑いを浮かべる神田。
底意地の悪い元帥を見て、団服の襟を抑えながら「もう、知りません!」と声を上げて名無しは去ってしまった。…………あっ、食事に誘ってない。
早足に去っていく女の子の背中を眺めながら、溜息を盛大に吐き出した監査官は呆れた様子で神田へ呟いた。
「嫌われても知りませんからね。」
「その時は土下座でもなんでもしてやるよ。」
神田ユウの土下座とか想像つかないんだが。
「……ユウって俺の予想以上に独占欲つよつよさ〜」
犬も食わないような痴話喧嘩に肩を竦め、ブックマンの後継者も「は〜、シャワー浴びて飯食ってこよ〜」と呑気にその場を後にした。
「…………もしかしてあの二人、付き合ってるんです?」
取り残された俺の呟きに、本部着任が長い探索部隊の同僚が、同情するように黙って肩を軽く叩く。
アタックする前に俺の淡い恋心は、容赦なく神田ユウによって粉砕されたのだった。
誰か酒を奢ってくれ。