不意に触れた唇に面食らったのか、真っ赤な顔で名無しが無遠慮にこちらを見上げてくる。

「か、かかか、神田さん、不意打ちはズルいです！」

口元を抑えて狼狽えるコイツは正直かなり面白い。
こういう反応をするからやめられない・ということに本人は残念ながら気づいていないのだろう。

「今からキスするって予告すればいいのか？」
「そ、そういうのじゃ、なくてですね。こう…雰囲気といいますか…」

「ほら、あるじゃないですか」と口篭りながら、弱々しく・そして曖昧に抗議する名無し。

言いたいことは分かる。
…なるほど、雰囲気か。ご所望ならば仕方ない。


「名無し。」


名前を呼んで顎をそっと掴む。
俺と視線が絡むような角度で顔を向けさせれば、火を噴くのではないのか・と錯覚する程に紅潮する頬。

今度は掠めるように…ではなく、しっとりと味わうように柔らかく唇を重ねる。
やわりとした感触に少し高い体温の唇。

（あぁ、クセになりそうだ）



05.不意打ち



「よ、予告すれば、いいってわけじゃ、ないんですよ！？」

深い口付けに腰を抜かした名無しがキャンキャンと訴えるが、知らぬ存ぜぬだ。

「雰囲気は完璧だっただろうが」
「くっ…か、完璧だから、タチが悪いんですよ…！」

まだまだ師匠に勝てない弟子は、今日も手のひらの上で転がされる。