short story
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神田が中央庁へ仕事で出掛けた夜。
久しぶりに一人でベッドへ入ったものの、名無しはすぐ飛び起きた。
例の如く、夢見が悪かった。
『これはマズい』と直感で悟り、慌てて跳ね起きたのでそんなに《悪いもの》は見ていないのだが……。
神田とベッドに潜っている時は、実の所ほぼ『ない』と言ってもいい。
悪夢なんて見ていたっけ?なんて笑い飛ばせそうなくらい縁遠くなっていたのだ。
それがこのザマだ。
一晩いないだけでまさかこうなるなんて。
(……神田さん効果、絶大過ぎる。)
彼は魔除けか何かのご利益でもあるのだろうか。
…それはまぁ冗談として。
気恥ずかしいやら情けないやら嬉しいやら。
名無しとしては非常に複雑な心境だった。
恋人欠乏症
『そっちは変わりねぇか?』
教団本部から出る前より、些か疲れた声音なのは気の所為ではないだろう。
電話越しに聞く三日ぶりの声は、少し覇気がないように聞こえた。
「はい。神田さんは……ちょっとお疲れです?」
『会議が眠くて仕方ねぇ』
でしょうね。
そもそも座学が好きではない上、ヴァチカン中央庁の会議となれば面倒な話が数多く出るはず。
守秘義務で彼もあまり詳しい内容を語らないし、無理に聞こうとも思わないが。
――疲れているのに、こんな事を言ってもいいのだろうか。
考えを一巡、二巡させ、意を決したように肺が目一杯膨らむ程の空気を取り込み、静かに吐き出してみる。
……無理のない範囲の我儘なら許してもらえるだろうか。
緊張して駆け足になる心拍数。今にもはち切れそうな心臓へ手を当て、名無しはそっと口を開いた。
「あの……困らせると分かってるんですけど、ひとついいですか?」
『どうした?』
「……一人で寝るのは、その、寂しいので、早く帰ってきてくださいね」
少しだけ後ろめたくて、声をそっと潜める。
けれど受話器の向こうの彼にはしっかり聞こえていたようで、一瞬息を呑む音がした。
『おーい神田。次の会議始まっちゃうよォ』
電話の向こうでティエドールの声が遠くから聞こえる。
……貴重な休憩時間に電話を入れてくれたのだろう。
それを理解した途端、急に申し訳なさが膨らみ、込み上げ、聞き分けのない子供のようなお願いをしたことを後悔してしまった。
「す、すみません。なんでもないです。会議、頑張ってくださいね。」
『あっ、オイ、名無し!』
受話器のフックを指で押し、電話を慌てて切る。
向こうで神田が声を荒らげていた気がするが――いやいや、気の所為だろう。気にしてはいけない。
肺が潰れてしまいそうなくらい深く溜息をつきながら、名無しは声が聞こえなくなった受話器をそっと戻すのであった。
***
「…………元帥。」
「ん?どしたの神田。」
「とっととクソつまらねぇ会議なんて終わらせましょう。急用が出来た。」
午前の気だるげな雰囲気は何処へやら。
目が完全に据わった弟子を眺めながら、ティエドールは小さく肩を竦める。
(……毎回名無しちゃんに気合い入れて貰った方がいいかなぁ〜)
扱いやすいのか扱いにくいのか。
少なくとも、名無しが絡むと笑ってしまうくらい単純になるのは間違いないだろう。
可愛い弟子の為に「そうだねぇ、早く終わらせちゃおう」とティエドールはのんびり相槌を打つのであった。
久しぶりに一人でベッドへ入ったものの、名無しはすぐ飛び起きた。
例の如く、夢見が悪かった。
『これはマズい』と直感で悟り、慌てて跳ね起きたのでそんなに《悪いもの》は見ていないのだが……。
神田とベッドに潜っている時は、実の所ほぼ『ない』と言ってもいい。
悪夢なんて見ていたっけ?なんて笑い飛ばせそうなくらい縁遠くなっていたのだ。
それがこのザマだ。
一晩いないだけでまさかこうなるなんて。
(……神田さん効果、絶大過ぎる。)
彼は魔除けか何かのご利益でもあるのだろうか。
…それはまぁ冗談として。
気恥ずかしいやら情けないやら嬉しいやら。
名無しとしては非常に複雑な心境だった。
恋人欠乏症
『そっちは変わりねぇか?』
教団本部から出る前より、些か疲れた声音なのは気の所為ではないだろう。
電話越しに聞く三日ぶりの声は、少し覇気がないように聞こえた。
「はい。神田さんは……ちょっとお疲れです?」
『会議が眠くて仕方ねぇ』
でしょうね。
そもそも座学が好きではない上、ヴァチカン中央庁の会議となれば面倒な話が数多く出るはず。
守秘義務で彼もあまり詳しい内容を語らないし、無理に聞こうとも思わないが。
――疲れているのに、こんな事を言ってもいいのだろうか。
考えを一巡、二巡させ、意を決したように肺が目一杯膨らむ程の空気を取り込み、静かに吐き出してみる。
……無理のない範囲の我儘なら許してもらえるだろうか。
緊張して駆け足になる心拍数。今にもはち切れそうな心臓へ手を当て、名無しはそっと口を開いた。
「あの……困らせると分かってるんですけど、ひとついいですか?」
『どうした?』
「……一人で寝るのは、その、寂しいので、早く帰ってきてくださいね」
少しだけ後ろめたくて、声をそっと潜める。
けれど受話器の向こうの彼にはしっかり聞こえていたようで、一瞬息を呑む音がした。
『おーい神田。次の会議始まっちゃうよォ』
電話の向こうでティエドールの声が遠くから聞こえる。
……貴重な休憩時間に電話を入れてくれたのだろう。
それを理解した途端、急に申し訳なさが膨らみ、込み上げ、聞き分けのない子供のようなお願いをしたことを後悔してしまった。
「す、すみません。なんでもないです。会議、頑張ってくださいね。」
『あっ、オイ、名無し!』
受話器のフックを指で押し、電話を慌てて切る。
向こうで神田が声を荒らげていた気がするが――いやいや、気の所為だろう。気にしてはいけない。
肺が潰れてしまいそうなくらい深く溜息をつきながら、名無しは声が聞こえなくなった受話器をそっと戻すのであった。
***
「…………元帥。」
「ん?どしたの神田。」
「とっととクソつまらねぇ会議なんて終わらせましょう。急用が出来た。」
午前の気だるげな雰囲気は何処へやら。
目が完全に据わった弟子を眺めながら、ティエドールは小さく肩を竦める。
(……毎回名無しちゃんに気合い入れて貰った方がいいかなぁ〜)
扱いやすいのか扱いにくいのか。
少なくとも、名無しが絡むと笑ってしまうくらい単純になるのは間違いないだろう。
可愛い弟子の為に「そうだねぇ、早く終わらせちゃおう」とティエドールはのんびり相槌を打つのであった。