short story
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「女子会らしい話でもしましょうか。」
コーヒー派であるはずのリナリーが、『こっちの方が女子会っぽいでしょ?』と言いながら用意してくれた紅茶。
ベルガモットの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
レモンティーでもミルクティーでも美味しく飲めるこの茶葉は、イギリスでは定番中の定番だ。
三段にそびえ立つケーキスタンドは、下からサンドイッチ・スコーン・フルーツタルトが乗っている。
目にも賑やかなそれはまさに『アフタヌーンティー』といった様相だ。
そんな雰囲気の中、ミランダがサンドイッチを嚥下して首を傾げた。
「というのは?」
「この間、任務の移動中にラビとね、『フェチ』の話になって。」
「フェチ。」
角砂糖を混ぜたミルクティーを一口飲んで、名無しが復唱する。
……まさかのラビとそんな話をするなんて。
コムイが知ったら『僕のリナリーとそんな猥談をするなんて!』とチェーンソーを取り出すだろうに。
「えぇ…でも突然そんなこと言われても…」
「あるでしょ?ほら、ミランダはマリのどこが好きなの?」
年頃の少女時代にそんな話が出来なかったせいか、リナリーは興味津々だ。
身を乗り出して訊いてくるリナリーにたじろぎながらも、視線を右往左往させつつ考えるミランダ。
出てきた答えは――
「………………手、かしら。」
「なるほど。確かにいいわよね、手。」
うんうんと頷くリナリーは、どうやら守備範囲は広いようだ。
照れくさそうに頬を赤らめながら答えるミランダは、まるで初恋をした少女のような雰囲気だった。
「えっと、リナリーちゃんは?」
「私?うーん…強いて言うなら匂い、かな。」
「匂い?」
「うん。人によって結構匂いが違うのよ?兄さんはコーヒーとインクの匂いがして安心するし、アレン君は…大体お菓子の匂いかしら。」
それに関しては名無しも心当たりがある。
かといって匂いフェチかと言われると、そうでもない気がする。
そもそも『フェチ』と言われてもピンと来るものが――
「あ。」
ある。
「何か思い当たることでもあるのかしら?名無し。」
ニヤニヤと、珍しく底意地の悪そうな笑みを浮かべるリナリー。
ミランダも気になるらしくそわそわと落ち着かない様子だ。
「え、あ、いや。リンクさんが差し入れしてくださったフルーツタルト美味しいな〜って。」
「嘘が下手すぎるわよ。確かにタルトは美味しいけどね」
ストロベリーやブルーベリー、ラズベリーもたっぷりのったフルーツタルトは素直に美味しい。
甘さ控えめのカスタードクリームが絶妙に甘酸っぱさとマッチしており『流石ハワード・リンク!』と絶賛したい気持ちでいっぱいだ。
が、目の前の聡い女性には、名無しの薄っぺらい嘘など無意味だったようで。
『早く白状しろ』と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。リナリーさん、笑顔の圧が怖いです。
「う、ぐ……う、腕がね…結構好きだな…って。」
「腕?」
「うん。ここから、ここまでの。」
名無しが手のひらでポンポンと上腕から二の腕を撫でる。
ボディビルダーのように屈強な腕ではない。
しかし無駄な肉を削いだ……例えるなら『質のいい筋肉』を纏った腕なら、よく知っている。
というか真っ先に脳裏に過ったのは彼の腕だ。
……あの腕の中はとても安心する。
一番の安全地帯と言ってもいいだろう。
「?、団服、半袖の人…いたかしら?」
ミランダの、素朴な疑問。
まるで静かに凪いでいる水面に投じた、ひとつの石のようだ。
そう。基本的に黒の教団の団服は安全面も考慮した長袖だ。
つまり長袖の団服では中々『生腕』はお目にかかれない。
それを知っているとなると、半袖か、はたまた服を脱いでいるか――。
つまり、そういうことだ。
「…………ははーん。名無しはよく見ることがあるのね?」
妹に意地悪をする、姉のようだ。
ニマニマと笑うリナリーはどうやら気づいたらしい。
それと同時に自分の『失言』に気づき、顔を真っ赤に茹で上げる名無し。
撤回する理由が見つからず口をぱくぱくと泳がせる。
なかったことに出来るなら、ミランダのように『手』だとか、無難な『うなじ』だとか言えるのに。
しかし残念ながら時間は(戻せなくもないが)戻せない。
とんでもない地雷を掘り起こした張本人は、まだ意味が分かっておらず、ニヤつくリナリーと慌てる名無しを忙しなく見比べていた。
「神田くーん……って、おや?リナリー…と、名無しちゃん。どうしたんだい?」
ひょっこりやって来たのは、コムイだ。
どうやら神田を探してやって来たようだが……残念ながら話題の渦中(?)の彼はここにはいない。
ここにいるのは、心底楽しそうな愛妹と、オロオロと困ってる美女と、今にも恥ずかしさで暴発しそうな少女だった。
「な、なななな、なんでもないです!」
「?、そう?名無しちゃんがここにいるなら神田くんもいるかなーって思ったんだけど…。」
「兄さん、今日は女子会なのよ?いくら神田が性別不詳な顔をしてても彼は『男』なんだから。ね?名無し。」
「なんで私にきくの」
頭を抱えて困り顔の名無しは、恨めしそうにリナリーを見上げる……が、彼女は楽しそう…いや、愉しそうに笑うばかり。
「そっか…。神田君に用があったんだけど、仕方ないね。」
「コムイさん!私!呼んできます!」
「え、でも女子会中だろう?大丈…」
「私がだいじょばないので探してきます!今すぐ!」
規律の厳しい軍隊のように、キビキビと動く名無し。
まさに『逃げる口実が出来た!』と言わんばかりだ。脱兎の如く逃げ出して行った。
憐れな少女の受難
「……何か意地悪でもしたのかい?リナリー。」
「ちょっとだけね。だって名無しったら大胆なこと言うんだもの。」
リナリーはストレートのアールグレイティーを優雅に一口飲んで、それはもう聖女のように微笑むのであった。
その後、男4人の『フェチ』話をたまたま聞いてしまい、名無しが恥ずかしさで死にかけるのは――また別の話。
コーヒー派であるはずのリナリーが、『こっちの方が女子会っぽいでしょ?』と言いながら用意してくれた紅茶。
ベルガモットの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
レモンティーでもミルクティーでも美味しく飲めるこの茶葉は、イギリスでは定番中の定番だ。
三段にそびえ立つケーキスタンドは、下からサンドイッチ・スコーン・フルーツタルトが乗っている。
目にも賑やかなそれはまさに『アフタヌーンティー』といった様相だ。
そんな雰囲気の中、ミランダがサンドイッチを嚥下して首を傾げた。
「というのは?」
「この間、任務の移動中にラビとね、『フェチ』の話になって。」
「フェチ。」
角砂糖を混ぜたミルクティーを一口飲んで、名無しが復唱する。
……まさかのラビとそんな話をするなんて。
コムイが知ったら『僕のリナリーとそんな猥談をするなんて!』とチェーンソーを取り出すだろうに。
「えぇ…でも突然そんなこと言われても…」
「あるでしょ?ほら、ミランダはマリのどこが好きなの?」
年頃の少女時代にそんな話が出来なかったせいか、リナリーは興味津々だ。
身を乗り出して訊いてくるリナリーにたじろぎながらも、視線を右往左往させつつ考えるミランダ。
出てきた答えは――
「………………手、かしら。」
「なるほど。確かにいいわよね、手。」
うんうんと頷くリナリーは、どうやら守備範囲は広いようだ。
照れくさそうに頬を赤らめながら答えるミランダは、まるで初恋をした少女のような雰囲気だった。
「えっと、リナリーちゃんは?」
「私?うーん…強いて言うなら匂い、かな。」
「匂い?」
「うん。人によって結構匂いが違うのよ?兄さんはコーヒーとインクの匂いがして安心するし、アレン君は…大体お菓子の匂いかしら。」
それに関しては名無しも心当たりがある。
かといって匂いフェチかと言われると、そうでもない気がする。
そもそも『フェチ』と言われてもピンと来るものが――
「あ。」
ある。
「何か思い当たることでもあるのかしら?名無し。」
ニヤニヤと、珍しく底意地の悪そうな笑みを浮かべるリナリー。
ミランダも気になるらしくそわそわと落ち着かない様子だ。
「え、あ、いや。リンクさんが差し入れしてくださったフルーツタルト美味しいな〜って。」
「嘘が下手すぎるわよ。確かにタルトは美味しいけどね」
ストロベリーやブルーベリー、ラズベリーもたっぷりのったフルーツタルトは素直に美味しい。
甘さ控えめのカスタードクリームが絶妙に甘酸っぱさとマッチしており『流石ハワード・リンク!』と絶賛したい気持ちでいっぱいだ。
が、目の前の聡い女性には、名無しの薄っぺらい嘘など無意味だったようで。
『早く白状しろ』と言わんばかりに満面の笑みを浮かべる。リナリーさん、笑顔の圧が怖いです。
「う、ぐ……う、腕がね…結構好きだな…って。」
「腕?」
「うん。ここから、ここまでの。」
名無しが手のひらでポンポンと上腕から二の腕を撫でる。
ボディビルダーのように屈強な腕ではない。
しかし無駄な肉を削いだ……例えるなら『質のいい筋肉』を纏った腕なら、よく知っている。
というか真っ先に脳裏に過ったのは彼の腕だ。
……あの腕の中はとても安心する。
一番の安全地帯と言ってもいいだろう。
「?、団服、半袖の人…いたかしら?」
ミランダの、素朴な疑問。
まるで静かに凪いでいる水面に投じた、ひとつの石のようだ。
そう。基本的に黒の教団の団服は安全面も考慮した長袖だ。
つまり長袖の団服では中々『生腕』はお目にかかれない。
それを知っているとなると、半袖か、はたまた服を脱いでいるか――。
つまり、そういうことだ。
「…………ははーん。名無しはよく見ることがあるのね?」
妹に意地悪をする、姉のようだ。
ニマニマと笑うリナリーはどうやら気づいたらしい。
それと同時に自分の『失言』に気づき、顔を真っ赤に茹で上げる名無し。
撤回する理由が見つからず口をぱくぱくと泳がせる。
なかったことに出来るなら、ミランダのように『手』だとか、無難な『うなじ』だとか言えるのに。
しかし残念ながら時間は(戻せなくもないが)戻せない。
とんでもない地雷を掘り起こした張本人は、まだ意味が分かっておらず、ニヤつくリナリーと慌てる名無しを忙しなく見比べていた。
「神田くーん……って、おや?リナリー…と、名無しちゃん。どうしたんだい?」
ひょっこりやって来たのは、コムイだ。
どうやら神田を探してやって来たようだが……残念ながら話題の渦中(?)の彼はここにはいない。
ここにいるのは、心底楽しそうな愛妹と、オロオロと困ってる美女と、今にも恥ずかしさで暴発しそうな少女だった。
「な、なななな、なんでもないです!」
「?、そう?名無しちゃんがここにいるなら神田くんもいるかなーって思ったんだけど…。」
「兄さん、今日は女子会なのよ?いくら神田が性別不詳な顔をしてても彼は『男』なんだから。ね?名無し。」
「なんで私にきくの」
頭を抱えて困り顔の名無しは、恨めしそうにリナリーを見上げる……が、彼女は楽しそう…いや、愉しそうに笑うばかり。
「そっか…。神田君に用があったんだけど、仕方ないね。」
「コムイさん!私!呼んできます!」
「え、でも女子会中だろう?大丈…」
「私がだいじょばないので探してきます!今すぐ!」
規律の厳しい軍隊のように、キビキビと動く名無し。
まさに『逃げる口実が出来た!』と言わんばかりだ。脱兎の如く逃げ出して行った。
憐れな少女の受難
「……何か意地悪でもしたのかい?リナリー。」
「ちょっとだけね。だって名無しったら大胆なこと言うんだもの。」
リナリーはストレートのアールグレイティーを優雅に一口飲んで、それはもう聖女のように微笑むのであった。
その後、男4人の『フェチ』話をたまたま聞いてしまい、名無しが恥ずかしさで死にかけるのは――また別の話。