short story
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「その火傷どうした。」
鍛錬が終わり、汗を拭っていた時。
名無しの白い細腕に、まだ出来て間もなさそうな火傷を見つけてしまった。
「あ、いえ、えっと……燭台を、倒してしまって」
相変わらず嘘が下手らしい。
視線が宙を彷徨い、全くと言っていいほど目が合わない。
ポーカーフェイスをしろ、とまでは言わないが、せめてもう少しくらい嘘が上手になった方が彼女のためではなかろうか。
「オイ。」
「わ、私、シャワー浴びてきます!」
話を無理矢理切り上げるためか、脱兎の如く逃げ出す名無し。
修行の成果か足が随分速くなった弟子の背中を見送りながら、俺は溜息をひとつ吐き出すのだった。
TEMPURA Challenge!
「こんにちは、神田さん!」
いつも俺の後ろをぴょこぴょこついてきているはずの弟子が、なぜか今日はカウンター越しにいる。
姿を見かけないと思ったら、どうやらジェリーの厨房にいたらしい。
「…………蕎麦。」
「はい!かしこまりました!」
満面の笑みで頷いたあと、厨房の奥に消える名無し。
何やらジェリーとこそこそしているようだが――
「おまたせしました!」
出てきたのは、いつもの蕎麦。
強いて言うなら天麩羅のラインナップが違うくらいか。
(…………?)
ふと。
天麩羅に、僅かな違和感。
一見いつもと変わらないように見えるが、直感が告げる。
これはいつもと違う、と。
サクッ
「あ。」
カウンターに並んだまま揚げたての天麩羅を一口齧れば、サクサクとした食感と白身魚の旨味が口いっぱいに広がった。
いつもと変わらない……いや、でもどこか違う。
それでもひとつ言えることは、
「美味い。」
ふわふわの鱚の天麩羅を嚥下すれば、目の前の恋人はあからさまに喜んだ。
そう。もし犬のように尻尾が生えていたなら、ちぎれんばかりに振り回していただろう。
「あらぁ〜、神田くん。お行儀悪いわよぉ」
「いつもの天麩羅と違うな?」
厨房から顔を出したジェリーの小言をスルーして端的に疑問を投げかければ、目の前のムエタイ料理人は満足そうに笑った。
「やだァ、気づいたの!?それ名無しちゃんが「わーわーわー!」
小柄な名無しが長身のジェリーを制そうと厨房の奥へ押し込もうとするが、残念ながらピクリとも動かない。
慌てだす弟子の口元をカウンター越しに押さえれば、手のひらの下でモゴモゴと抗議しだした。煩いが可愛い。
「神田くんの好物、美味しく作れるようになりたいって言い出してね。も〜ホント、愛されてるわね〜!」
きゃっきゃとはしゃぐジェリーに、背中を何度もバシバシと叩かれる。
…本当に料理人の肩書きであっているのか?と錯覚する程に、その力は強かった。痛てぇ。
大人しくなった名無しを見下ろせば『どうして暴露するんですか!』と訴えているような目でジェリーを見上げてる。
どうやら秘密の特訓だったらしい。
俺と視線が絡んだ瞬間、気まずそうに視線を右往左往させはじめた。
まるで『嘘がバレた』とバツが悪そうにしているが……残念ながら嘘だったのは最初から分かっていることだ。
むしろあれで隠し通しているつもりだったのだろうか。
柔らかい唇を覆っていた手を解放して、俺は小さく溜息をつく。
「名無し。」
「ぷはっ……は、はい。」
「他のやつには作るなよ。あと火傷はちゃんと軟膏塗っとけ。」
捲し立てるように名無しに言い聞かせ、足早に厨房のカウンターを離れる。
ちらりと横目で見た愛弟子の顔は、それはもう嬉しそうに緩みきっていたのだった。
鍛錬が終わり、汗を拭っていた時。
名無しの白い細腕に、まだ出来て間もなさそうな火傷を見つけてしまった。
「あ、いえ、えっと……燭台を、倒してしまって」
相変わらず嘘が下手らしい。
視線が宙を彷徨い、全くと言っていいほど目が合わない。
ポーカーフェイスをしろ、とまでは言わないが、せめてもう少しくらい嘘が上手になった方が彼女のためではなかろうか。
「オイ。」
「わ、私、シャワー浴びてきます!」
話を無理矢理切り上げるためか、脱兎の如く逃げ出す名無し。
修行の成果か足が随分速くなった弟子の背中を見送りながら、俺は溜息をひとつ吐き出すのだった。
TEMPURA Challenge!
「こんにちは、神田さん!」
いつも俺の後ろをぴょこぴょこついてきているはずの弟子が、なぜか今日はカウンター越しにいる。
姿を見かけないと思ったら、どうやらジェリーの厨房にいたらしい。
「…………蕎麦。」
「はい!かしこまりました!」
満面の笑みで頷いたあと、厨房の奥に消える名無し。
何やらジェリーとこそこそしているようだが――
「おまたせしました!」
出てきたのは、いつもの蕎麦。
強いて言うなら天麩羅のラインナップが違うくらいか。
(…………?)
ふと。
天麩羅に、僅かな違和感。
一見いつもと変わらないように見えるが、直感が告げる。
これはいつもと違う、と。
サクッ
「あ。」
カウンターに並んだまま揚げたての天麩羅を一口齧れば、サクサクとした食感と白身魚の旨味が口いっぱいに広がった。
いつもと変わらない……いや、でもどこか違う。
それでもひとつ言えることは、
「美味い。」
ふわふわの鱚の天麩羅を嚥下すれば、目の前の恋人はあからさまに喜んだ。
そう。もし犬のように尻尾が生えていたなら、ちぎれんばかりに振り回していただろう。
「あらぁ〜、神田くん。お行儀悪いわよぉ」
「いつもの天麩羅と違うな?」
厨房から顔を出したジェリーの小言をスルーして端的に疑問を投げかければ、目の前のムエタイ料理人は満足そうに笑った。
「やだァ、気づいたの!?それ名無しちゃんが「わーわーわー!」
小柄な名無しが長身のジェリーを制そうと厨房の奥へ押し込もうとするが、残念ながらピクリとも動かない。
慌てだす弟子の口元をカウンター越しに押さえれば、手のひらの下でモゴモゴと抗議しだした。煩いが可愛い。
「神田くんの好物、美味しく作れるようになりたいって言い出してね。も〜ホント、愛されてるわね〜!」
きゃっきゃとはしゃぐジェリーに、背中を何度もバシバシと叩かれる。
…本当に料理人の肩書きであっているのか?と錯覚する程に、その力は強かった。痛てぇ。
大人しくなった名無しを見下ろせば『どうして暴露するんですか!』と訴えているような目でジェリーを見上げてる。
どうやら秘密の特訓だったらしい。
俺と視線が絡んだ瞬間、気まずそうに視線を右往左往させはじめた。
まるで『嘘がバレた』とバツが悪そうにしているが……残念ながら嘘だったのは最初から分かっていることだ。
むしろあれで隠し通しているつもりだったのだろうか。
柔らかい唇を覆っていた手を解放して、俺は小さく溜息をつく。
「名無し。」
「ぷはっ……は、はい。」
「他のやつには作るなよ。あと火傷はちゃんと軟膏塗っとけ。」
捲し立てるように名無しに言い聞かせ、足早に厨房のカウンターを離れる。
ちらりと横目で見た愛弟子の顔は、それはもう嬉しそうに緩みきっていたのだった。