Re:pray
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「ちょっと目が霞んで見えにくいだけですよ、神田さん」
教団に帰った後、神田ユウはすぐさま彼女を連れて医務室へ直行した。
オロオロと困ったような顔をする名無しとは対照的に、表情は微動だにしないものの、足早に真っ直ぐ向かう神田。
私が記憶している彼の性格とは…少し変化があったようだった。
(恐らく、あれは『福音の瞳』。長らく探していたイノセンスの修復師が…見つかったのか)
ヴァチカンの監査官として素直に喜べなくなったあたり、私もかなりアレン・ウォーカーに毒された・と言うべきなのだろう。
福音の瞳のイノセンスについては、その特異性からヴァチカンの記録に残されていることが多い。
『イノセンスの修復師』と言われる所以もあって、だ。
幾度となく繰り返されてきた伯爵との戦争において、イノセンスの数が限られている教団側は圧倒的不利だ。
イノセンスを破壊されれば適合者は無力化され、この戦争に『次』があったとしても勝率は著しく低くなる。
その中で唯一イノセンスの復元ができるイノセンスが、『福音の瞳』だった。
無機質物を『本来あるべき、正しい姿』に戻す・という性質だから、イノセンスの修復に使われるようになるのは必然的だ。
アクマに対しても、つまるところ『魂』を正しい姿に戻す過程で『破壊』という結果になっているだけ。
これだけ聞けば教団にとってどれだけ重要なイノセンスかよく分かる。
では、私は何を危惧したか。
――イノセンスの修復の折りに、『視てしまう』らしい。
それはイノセンスに刻まれた数々の記憶。
凄惨な適合者の最期も、全部。
(だから適合者は、殆どが発狂の末、)
非業の死を遂げる。
他人の死をまざまざと見せつけられ続ければ、そうなるだろう。
それは耐え難い苦行であると同時に、ヴァチカンにとっての希望だ。
そう。監査官として…喜ばしいことの、はずなのに。
「いいから大人しく診察されとけ。」
「ね、寝て起きたら治りますってば!」
問答無用で彼女を小脇に抱える神田ユウ。
小柄ながらも必死に抵抗するが呆気なく連行される名無し名無し。
永くはないだろう、第二エクソシストの青年。
短命であろう運命を背負わされた少女。
――あぁ。神よ。
(願わくば、あの二人に穏やかな日々を)
我らが崇拝する残酷な神とは違う、顔も名も知らぬ何処かの神に、私は祈った。
Re:pray#08
Mont Saint-Michel of heresy-05
「よいしょ、と。」
持って帰った『彼女』の骨を、教団の集団墓地に眠らせる。
本当はあの島の方がよかったかもしれないが、勝手が分からなかったし、万が一悪用されるかもしれない。
名を知らないため『彼女』のファーストネームすら彫ることが出来ないが、あんな薄暗い地下で眠るよりはマシだろう。
一晩寝れば視力も戻った。
肉体への負担が大きかったのだろう・とあやふやな診察結果に、神田さんが呆れたような空気を出してくるものだから、当事者である私は随分焦ったものだ。
あぁ、だから言ったのに。
「優しい人なのは、分かってるんだけどね」
困った人でしょ?
真新しい墓石に語りかけるが、返事はない。
降り注ぐ日差しと風の匂い。
もうすぐ、春が来る。
「ここはあそこより明るいし、日当たりもいいし、快適だと思うよ」
墓石をそっと指先でなぞれば、ザラりとした石の感触が指紋を擽った。
鮮やかなブルーが眩しい、アイリスの花束を置いてゆっくりと立ち上がる。
――あの時。
彼女が冷たい水の中で最後に助けを求めたのは、崇拝していた神ではなかった。
『助けて、 おとうさま、』
裏切られて、見捨てられて。それでもあの司祭は彼女の父だった。
どうしようもない男でも、彼女からしたら唯一の『肉親』だったのだ。
死者の想いは、生者に届くことは最早叶わぬ。
だからこそ歯痒く、赦せなかった。
あの司祭が今後どう罪を贖うのかは…私には、分からないけども。
「おやすみなさい。…いつかの優しい潮騒が、あなたに届きますように」
願わくば、彼女がいつか愛した海のような
穏やかに続く眠りの中、揺蕩うことができますように。
教団に帰った後、神田ユウはすぐさま彼女を連れて医務室へ直行した。
オロオロと困ったような顔をする名無しとは対照的に、表情は微動だにしないものの、足早に真っ直ぐ向かう神田。
私が記憶している彼の性格とは…少し変化があったようだった。
(恐らく、あれは『福音の瞳』。長らく探していたイノセンスの修復師が…見つかったのか)
ヴァチカンの監査官として素直に喜べなくなったあたり、私もかなりアレン・ウォーカーに毒された・と言うべきなのだろう。
福音の瞳のイノセンスについては、その特異性からヴァチカンの記録に残されていることが多い。
『イノセンスの修復師』と言われる所以もあって、だ。
幾度となく繰り返されてきた伯爵との戦争において、イノセンスの数が限られている教団側は圧倒的不利だ。
イノセンスを破壊されれば適合者は無力化され、この戦争に『次』があったとしても勝率は著しく低くなる。
その中で唯一イノセンスの復元ができるイノセンスが、『福音の瞳』だった。
無機質物を『本来あるべき、正しい姿』に戻す・という性質だから、イノセンスの修復に使われるようになるのは必然的だ。
アクマに対しても、つまるところ『魂』を正しい姿に戻す過程で『破壊』という結果になっているだけ。
これだけ聞けば教団にとってどれだけ重要なイノセンスかよく分かる。
では、私は何を危惧したか。
――イノセンスの修復の折りに、『視てしまう』らしい。
それはイノセンスに刻まれた数々の記憶。
凄惨な適合者の最期も、全部。
(だから適合者は、殆どが発狂の末、)
非業の死を遂げる。
他人の死をまざまざと見せつけられ続ければ、そうなるだろう。
それは耐え難い苦行であると同時に、ヴァチカンにとっての希望だ。
そう。監査官として…喜ばしいことの、はずなのに。
「いいから大人しく診察されとけ。」
「ね、寝て起きたら治りますってば!」
問答無用で彼女を小脇に抱える神田ユウ。
小柄ながらも必死に抵抗するが呆気なく連行される名無し名無し。
永くはないだろう、第二エクソシストの青年。
短命であろう運命を背負わされた少女。
――あぁ。神よ。
(願わくば、あの二人に穏やかな日々を)
我らが崇拝する残酷な神とは違う、顔も名も知らぬ何処かの神に、私は祈った。
Re:pray#08
Mont Saint-Michel of heresy-05
「よいしょ、と。」
持って帰った『彼女』の骨を、教団の集団墓地に眠らせる。
本当はあの島の方がよかったかもしれないが、勝手が分からなかったし、万が一悪用されるかもしれない。
名を知らないため『彼女』のファーストネームすら彫ることが出来ないが、あんな薄暗い地下で眠るよりはマシだろう。
一晩寝れば視力も戻った。
肉体への負担が大きかったのだろう・とあやふやな診察結果に、神田さんが呆れたような空気を出してくるものだから、当事者である私は随分焦ったものだ。
あぁ、だから言ったのに。
「優しい人なのは、分かってるんだけどね」
困った人でしょ?
真新しい墓石に語りかけるが、返事はない。
降り注ぐ日差しと風の匂い。
もうすぐ、春が来る。
「ここはあそこより明るいし、日当たりもいいし、快適だと思うよ」
墓石をそっと指先でなぞれば、ザラりとした石の感触が指紋を擽った。
鮮やかなブルーが眩しい、アイリスの花束を置いてゆっくりと立ち上がる。
――あの時。
彼女が冷たい水の中で最後に助けを求めたのは、崇拝していた神ではなかった。
『助けて、 おとうさま、』
裏切られて、見捨てられて。それでもあの司祭は彼女の父だった。
どうしようもない男でも、彼女からしたら唯一の『肉親』だったのだ。
死者の想いは、生者に届くことは最早叶わぬ。
だからこそ歯痒く、赦せなかった。
あの司祭が今後どう罪を贖うのかは…私には、分からないけども。
「おやすみなさい。…いつかの優しい潮騒が、あなたに届きますように」
願わくば、彼女がいつか愛した海のような
穏やかに続く眠りの中、揺蕩うことができますように。