Re:pray
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ガタン、ゴトン。
規則的に揺れる、列車の車内。
…懐かしい。
確か彼と行った最初の任務も、こんな風に列車に揺られて向かって行った。
こんな風に過去の事に思いを馳せるなんて。
きっと延々とループする過去の中、彼が現れて私の手を取ってくれる、都合のいい幻を見たせいかもしれない。
もう、何が現実で、何が過去で、何が幻なのか。
疲れきった思考では正直判断がつかなかった。
ゆるゆると瞼を開ければ、眩い朝焼けが目にしみた。
――あぁ。確かこんな景色を、以前も見た気がする。
あの時は他人の悪夢を思い出して、気がつけば涙していた。
これも過去なのか、幻なのか。
ロクに働かない頭で考えるのは、やめた。
幻なら、このまま覚めないで欲しい。
「――起きたか。」
自分から離れてしまったはずの、大事で大切な彼が、目の前にいるのだから。
Re:pray#28
fragment of memories-05
ぼんやりとした様子で目を覚ます名無し。
夢か現か、はっきりしない様子からして、まだ完全に起きているわけではなさそうだ。
「飲むか?」
ミネラルウォーターのボトルを差し出せば、コクリと小さく頷く彼女。
一口含み、小さく上下する細い喉。
ボトルのキャップを閉めて、眠たそうに目元を擦る。
何度か瞬きを繰り返した後、彼女の目が丸く開かれた。
「…………………………あれ?
神田さん、何でここに」
「覚えてねぇのかよ」
あまりな物言いに、俺はつい溜息をついてしまった。
「え。でもあれは幻で…あれ?あれ?」と頭を抱えて狼狽える名無しは、少し滑稽だ。
「残念ながら現実だ。」
「あでっ!」
デコピンをひとつお見舞すれば、額を抑えたまま目を白黒させている。
過去の幻を延々と見せられたのだから、まだ夢か現かはっきりしないのは…まぁ当然かもしれない。
「ちょっと待ってください、鴉の人は、」
「アイツはお役御免だ。これからは俺と任務「それは困ります!」
食い気味に言葉を被せてくる名無し。
俺の元を離れた時に比べて、随分と痩せてしまった頬。
それに拍車がかかったように顔色は絶好調で悪かった。
にも関わらず『困る』ときた。
「何でだ。」
「何でって……、…理由は、長官から、聞いているんじゃないんですか」
歯切れ悪く答える名無し。
自分の口から言うのは憚られるのか、視線を落としながら口篭る。
「聞いてる。」
「じゃあ、なんで、」
――デジャヴを感じるも思ったら、あぁなるほど。
あの化け物・アポクリフォスに追われている時のアレンそっくりだ。
だからといって引く気はない。
もうこっちは腹は括ってる。
そうだ。
『頭が固い』『頑固』『他人の事情なんて関係ない』
全くもって俺らしいじゃねぇか。
「俺はお前の師で、お前は俺の弟子だからだ」
理由は、それだけで十分だ。
コイツの事情や都合なんて関係ない。
『最期まで面倒見てやる』と、俺は言った。
コイツの手によってそのリミットは引き伸ばされたんだから、拒否権はない。
…自分勝手?いいや。俺は元来そういうヤツだ。
「答えに、なって、」
「自滅願望があるような弟子を放っておくほど、血も涙もねぇ師のつもりはねぇよ」
そう答えれば動揺したように揺れる瞳。
「見たん、ですか」
「あぁ。」
顔色が悪い表情から、更に血の気が引く。
固く口を噤み、形のいい眉がきゅっと寄せられた。
何よりも耐え難い、恐らく一番彼女の心の『やわらかい』部分だ。
誰にも触れられたことがない、誰にも知られたことがない。
不可抗力とはいえ、それを何の断りもなく暴かれたのだ。
怒る訳でもなく、言い訳をする訳でもない。
ただ怒られる前の子供のように、ぐっと唇を固く閉じ、視線を落としていた。
まるで名無し自身が、悪いことをしてしまったかのように。
列車の車輪が不規則に、しかし規則的に揺れる音だけがコンパートメントに響く。
流れる沈黙。
まるで懺悔室のようだ。
アレを見たからと言って、正直俺は特に驚きはしなかった。というより、腑に落ちたという方がしっくりくる。
良くも悪くも同情もなければ、特に名無しの印象が変わったわけでもない。
彼女は、そうもいかないのだろうが。
――だが、ひとつだけ確実に言えることがある。
それはイノセンスに人生を翻弄され続けた俺だからこそ言える、唯一無二の事実だ。
「お前が自分自身を殺したいくらい責めるのを止める気はねぇ」
俺の声だけがやけに大きく響く。
縮こまった肩がピクリと跳ね、膝の上で固く握られた拳が更にキュッと握られた。
「けどな、これだけは言っておく」
あの惨劇は彼女が原因なのか?
そうかもしれない。
あれは彼女が望んだことなのか?
それは違う。
イノセンスの適合は彼女の意思なのか?
そんな訳、あるはずがない。
だったら、言えることはただひとつ。
「お前は、悪くない」
悪かったとすれば、アクマと、それを造った千年伯爵と、コイツを選んだイノセンスだ。
原因が名無しだとしても、彼女は悪くない。
なぜならコイツもある意味被害者だからだ。
くだらない『神』に選ばれてしまい、人生を狂わされた――
俯いたまま、ポツリと零した彼女の声は僅かに震えていた。
「…ズルいですよ。ダメです、そんな風に甘やかさないでください」
内罰的にも程がある。
きっと今までも、ずっと自分を責めてきたのだろう。
もう、いいだろう。
「師が弟子を甘やかして何が悪い」
「だってそんなこと言われると、自分を赦してしまうじゃないですか」
「お前がお前を赦せないなら、俺がお前を赦してやる。」
他の誰かが赦さなくても、俺が赦してやる。
生憎こちらは聖職者だ。
これくらいの権限、使っても構わないだろう。
「そんなグシャグシャになるまで泣いて懺悔するお前を、誰も責めやしねぇ。いるなら俺が叩き斬ってやる」
小さな拳に落ちる雫。
ぼろぼろと堰を切ったように滴るそれは、顔こそ見えないものの止めどない――まるで、雨のようだった。
「過激派、すぎやしませんか。神田さん…」
「元々俺はこんな性格だからな」
ハンカチなんて気の利いたものを持っていない俺は、親指で名無しの目元を拭ってやる。
大粒の雫が指先から手の甲へ、手の甲から少し汚れた袖へと吸い込まれた。
椅子から名無しの足元へしゃがみ込めば、目元を真っ赤に腫らしたアイツの泣き顔が見える。
「なさけないかお、してるから、あまり見ないでください」と彼女は抗議するが、知ったことか。
表立って泣くことすら、自分が赦せなかったのだろう。
人知れず、ずっとずっと彼女の心の奥底で隠し続けていた、
きっとこれがコイツの素顔だ。
「かんださん、」
「何だ。」
「ありがとう、ございます」
涙と隈でボロボロの顔だというのに。
少しだけ赦された名無しのぎこちない笑顔は、
今まで見た中でも一際、目に焼き付いた。
規則的に揺れる、列車の車内。
…懐かしい。
確か彼と行った最初の任務も、こんな風に列車に揺られて向かって行った。
こんな風に過去の事に思いを馳せるなんて。
きっと延々とループする過去の中、彼が現れて私の手を取ってくれる、都合のいい幻を見たせいかもしれない。
もう、何が現実で、何が過去で、何が幻なのか。
疲れきった思考では正直判断がつかなかった。
ゆるゆると瞼を開ければ、眩い朝焼けが目にしみた。
――あぁ。確かこんな景色を、以前も見た気がする。
あの時は他人の悪夢を思い出して、気がつけば涙していた。
これも過去なのか、幻なのか。
ロクに働かない頭で考えるのは、やめた。
幻なら、このまま覚めないで欲しい。
「――起きたか。」
自分から離れてしまったはずの、大事で大切な彼が、目の前にいるのだから。
Re:pray#28
fragment of memories-05
ぼんやりとした様子で目を覚ます名無し。
夢か現か、はっきりしない様子からして、まだ完全に起きているわけではなさそうだ。
「飲むか?」
ミネラルウォーターのボトルを差し出せば、コクリと小さく頷く彼女。
一口含み、小さく上下する細い喉。
ボトルのキャップを閉めて、眠たそうに目元を擦る。
何度か瞬きを繰り返した後、彼女の目が丸く開かれた。
「…………………………あれ?
神田さん、何でここに」
「覚えてねぇのかよ」
あまりな物言いに、俺はつい溜息をついてしまった。
「え。でもあれは幻で…あれ?あれ?」と頭を抱えて狼狽える名無しは、少し滑稽だ。
「残念ながら現実だ。」
「あでっ!」
デコピンをひとつお見舞すれば、額を抑えたまま目を白黒させている。
過去の幻を延々と見せられたのだから、まだ夢か現かはっきりしないのは…まぁ当然かもしれない。
「ちょっと待ってください、鴉の人は、」
「アイツはお役御免だ。これからは俺と任務「それは困ります!」
食い気味に言葉を被せてくる名無し。
俺の元を離れた時に比べて、随分と痩せてしまった頬。
それに拍車がかかったように顔色は絶好調で悪かった。
にも関わらず『困る』ときた。
「何でだ。」
「何でって……、…理由は、長官から、聞いているんじゃないんですか」
歯切れ悪く答える名無し。
自分の口から言うのは憚られるのか、視線を落としながら口篭る。
「聞いてる。」
「じゃあ、なんで、」
――デジャヴを感じるも思ったら、あぁなるほど。
あの化け物・アポクリフォスに追われている時のアレンそっくりだ。
だからといって引く気はない。
もうこっちは腹は括ってる。
そうだ。
『頭が固い』『頑固』『他人の事情なんて関係ない』
全くもって俺らしいじゃねぇか。
「俺はお前の師で、お前は俺の弟子だからだ」
理由は、それだけで十分だ。
コイツの事情や都合なんて関係ない。
『最期まで面倒見てやる』と、俺は言った。
コイツの手によってそのリミットは引き伸ばされたんだから、拒否権はない。
…自分勝手?いいや。俺は元来そういうヤツだ。
「答えに、なって、」
「自滅願望があるような弟子を放っておくほど、血も涙もねぇ師のつもりはねぇよ」
そう答えれば動揺したように揺れる瞳。
「見たん、ですか」
「あぁ。」
顔色が悪い表情から、更に血の気が引く。
固く口を噤み、形のいい眉がきゅっと寄せられた。
何よりも耐え難い、恐らく一番彼女の心の『やわらかい』部分だ。
誰にも触れられたことがない、誰にも知られたことがない。
不可抗力とはいえ、それを何の断りもなく暴かれたのだ。
怒る訳でもなく、言い訳をする訳でもない。
ただ怒られる前の子供のように、ぐっと唇を固く閉じ、視線を落としていた。
まるで名無し自身が、悪いことをしてしまったかのように。
列車の車輪が不規則に、しかし規則的に揺れる音だけがコンパートメントに響く。
流れる沈黙。
まるで懺悔室のようだ。
アレを見たからと言って、正直俺は特に驚きはしなかった。というより、腑に落ちたという方がしっくりくる。
良くも悪くも同情もなければ、特に名無しの印象が変わったわけでもない。
彼女は、そうもいかないのだろうが。
――だが、ひとつだけ確実に言えることがある。
それはイノセンスに人生を翻弄され続けた俺だからこそ言える、唯一無二の事実だ。
「お前が自分自身を殺したいくらい責めるのを止める気はねぇ」
俺の声だけがやけに大きく響く。
縮こまった肩がピクリと跳ね、膝の上で固く握られた拳が更にキュッと握られた。
「けどな、これだけは言っておく」
あの惨劇は彼女が原因なのか?
そうかもしれない。
あれは彼女が望んだことなのか?
それは違う。
イノセンスの適合は彼女の意思なのか?
そんな訳、あるはずがない。
だったら、言えることはただひとつ。
「お前は、悪くない」
悪かったとすれば、アクマと、それを造った千年伯爵と、コイツを選んだイノセンスだ。
原因が名無しだとしても、彼女は悪くない。
なぜならコイツもある意味被害者だからだ。
くだらない『神』に選ばれてしまい、人生を狂わされた――
俯いたまま、ポツリと零した彼女の声は僅かに震えていた。
「…ズルいですよ。ダメです、そんな風に甘やかさないでください」
内罰的にも程がある。
きっと今までも、ずっと自分を責めてきたのだろう。
もう、いいだろう。
「師が弟子を甘やかして何が悪い」
「だってそんなこと言われると、自分を赦してしまうじゃないですか」
「お前がお前を赦せないなら、俺がお前を赦してやる。」
他の誰かが赦さなくても、俺が赦してやる。
生憎こちらは聖職者だ。
これくらいの権限、使っても構わないだろう。
「そんなグシャグシャになるまで泣いて懺悔するお前を、誰も責めやしねぇ。いるなら俺が叩き斬ってやる」
小さな拳に落ちる雫。
ぼろぼろと堰を切ったように滴るそれは、顔こそ見えないものの止めどない――まるで、雨のようだった。
「過激派、すぎやしませんか。神田さん…」
「元々俺はこんな性格だからな」
ハンカチなんて気の利いたものを持っていない俺は、親指で名無しの目元を拭ってやる。
大粒の雫が指先から手の甲へ、手の甲から少し汚れた袖へと吸い込まれた。
椅子から名無しの足元へしゃがみ込めば、目元を真っ赤に腫らしたアイツの泣き顔が見える。
「なさけないかお、してるから、あまり見ないでください」と彼女は抗議するが、知ったことか。
表立って泣くことすら、自分が赦せなかったのだろう。
人知れず、ずっとずっと彼女の心の奥底で隠し続けていた、
きっとこれがコイツの素顔だ。
「かんださん、」
「何だ。」
「ありがとう、ございます」
涙と隈でボロボロの顔だというのに。
少しだけ赦された名無しのぎこちない笑顔は、
今まで見た中でも一際、目に焼き付いた。