Re:pray
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何度目だろうか、この光景は。
アクマの襲撃を受け、空へ無防備にも放り出され、腹を貫かれて無慈悲な密林へ堕ちていく。
やっとの思いで見つけた母の死骸は目の前で崩れ落ち、壊れてしまう程に慟哭する彼女。
これが彼女の後悔だとするなら、なんと惨いことか。
きっと、『歪み』を通ってやってきたアクマの襲撃を何回か受けて、聡いアイツは察したのだろう。
彼らが狙っていたのは『彼女自身』だということを。
性根がお人好しで、生真面目な名無しのことだ。
ひとりだけ生き残ってしまった後悔は、いつしか自分のせいで多くの人間が死んでしまった・という責に変わっていた。
『お前のせいで』
(私のせいで)
責め苦のように続く悪夢は、まるで意識の奥まで刷り込ませるように繰り返される。
それは酷く耐え難い光景で逃れられぬ事実だからこそ、深く深く心を抉った。
(あぁ。だからか。)
彼女自身が、自分の命など勘定に入れない理由。
死に急いでいるような、無茶が過ぎる戦い方。
素人が無理をした結果だと思っていた。
そうじゃない。そうじゃ、なかった。
きっと彼女があの時、殺してしまいたい程に一番憎かったのは、
(本当に、ムカつくくらい似てるな)
彼女は、まるでかつての自分だ。
親友をこの手で屠り、何も掴もうとせず、握るのは一振の刃だけ。
『彼』のことが吹っ切れるまで、ずっと俺が殺したかった相手はアクマなんかじゃない。
俺自身だった。
もう、あの頃の俺とは違う。
壊すだけじゃない。
今度は、導くために、
Re:pray#27
fragment of memories-04
俺の体をすり抜けていく名無しの記憶の中の住人。
まるで霊体になったような気分だ。
名無しがひとつ欠伸を零し、通路の反対側にいたカップルがアクマに気づき、
その数秒後にアクマが空から急襲してくる。
それはもう見飽きた光景だ。
だから、ここで終わらせる。
粉々になる機体。
放り出される小さな身体。
アクマの放つ毒に、飛行機内にいた人間は黒く染まり、悶絶しながら死んでいく。
空へ手を伸ばしながら堕ちていく名無し。
掴め、掴め。
俺はまだ、お前の手を取っていない。
「名無し!」
久方ぶりに口にした、名前。
触れた手は思った以上に小さく、僅かに震えていた。
瞬きをした刹那、普段着だった髪の長かった少女は、黒いローブを纏ったショートヘアーの見慣れた姿に戻る。
「かんだ、さん?」
泣き腫らした目。
幻の中で眠ることも許されず、文字通り死にそうな顔をした彼女の手を力強く引いた。
抱きすくめれば小さな身体は腕の中にすんなり収まった。
冷え切った身体は今にも動かなくなってしまいそうで、言葉にできない衝動のまま腕に力を込める。
――あぁ。
もう、離しはしない。
上空から追撃しようとしてくるアクマに向けて、無慈悲に刀を振う。
霧散していく機械の身体。
幻のだからといって手心を加える必要は皆無だ。彼女を苦しませた原因ならば、尚更。
名無しを抱えたまま雲の中に入れば、そこはもう『現実』だった。
晴れていく霧。
鬱蒼とした針葉樹林の森。
ジャングルの動物臭い空気とは違う、鬱蒼とした立ち込める緑の匂い。
彼女の記憶に取り込まれる前の、森の中だった。
唯一違うのは、腕の中でぐったりと気を失っている名無しがいるくらいだ。
「…任務、完了か。」
小さな手に握られた、回収されたイノセンスを見て俺はそっと呟いた。
***
「お疲れ様です」
事態収拾を受け、後処理を始めるファインダー達から少し離れた場所。
鴉の面をとったリンクが気配もなく立っていた。
「イノセンスはヘブラスカに預けておいてやる。…言っておくが、コイツはもう渡さねぇぞ」
「結構です。先程長官もそう仰っておりましたから」
そう言った目の前の男の表情は、どこか晴れやかだった。
俺は内心首を傾げるが、問うたところでこの男は答える気はないのだろう。
「イノセンスの修復任務はまだもう少しありますが、あらかたは回収しましたから。
残りの任務は貴方と組むことになるでしょう」
ノアに破壊されたイノセンスは、かなりの数があったはずだ。
それこそ今回の戦争だけではなく、過去のものも遡れば両手両足では足りない程に。
「…随分と酷使したもんだな」
「その点は否定しません。だからこそ、貴方がちゃんと手綱を握ってあげてください」
私の言葉は、彼女には届きませんでしたから。
そう言って小さく肩を竦めるリンク。
今までの疑問に思っていたピースを組み合わせば、確かにそうかもしれない。
死に急ぐようなコイツに何を言っても無駄だっただろう。
「彼女のことを、よろしくお願いします。」
珍しく深々と頭を下げるリンクに面食らう。
俺は短く「あぁ」と返事を返し、名無しを抱えて森を後にした。
アクマの襲撃を受け、空へ無防備にも放り出され、腹を貫かれて無慈悲な密林へ堕ちていく。
やっとの思いで見つけた母の死骸は目の前で崩れ落ち、壊れてしまう程に慟哭する彼女。
これが彼女の後悔だとするなら、なんと惨いことか。
きっと、『歪み』を通ってやってきたアクマの襲撃を何回か受けて、聡いアイツは察したのだろう。
彼らが狙っていたのは『彼女自身』だということを。
性根がお人好しで、生真面目な名無しのことだ。
ひとりだけ生き残ってしまった後悔は、いつしか自分のせいで多くの人間が死んでしまった・という責に変わっていた。
『お前のせいで』
(私のせいで)
責め苦のように続く悪夢は、まるで意識の奥まで刷り込ませるように繰り返される。
それは酷く耐え難い光景で逃れられぬ事実だからこそ、深く深く心を抉った。
(あぁ。だからか。)
彼女自身が、自分の命など勘定に入れない理由。
死に急いでいるような、無茶が過ぎる戦い方。
素人が無理をした結果だと思っていた。
そうじゃない。そうじゃ、なかった。
きっと彼女があの時、殺してしまいたい程に一番憎かったのは、
(本当に、ムカつくくらい似てるな)
彼女は、まるでかつての自分だ。
親友をこの手で屠り、何も掴もうとせず、握るのは一振の刃だけ。
『彼』のことが吹っ切れるまで、ずっと俺が殺したかった相手はアクマなんかじゃない。
俺自身だった。
もう、あの頃の俺とは違う。
壊すだけじゃない。
今度は、導くために、
Re:pray#27
fragment of memories-04
俺の体をすり抜けていく名無しの記憶の中の住人。
まるで霊体になったような気分だ。
名無しがひとつ欠伸を零し、通路の反対側にいたカップルがアクマに気づき、
その数秒後にアクマが空から急襲してくる。
それはもう見飽きた光景だ。
だから、ここで終わらせる。
粉々になる機体。
放り出される小さな身体。
アクマの放つ毒に、飛行機内にいた人間は黒く染まり、悶絶しながら死んでいく。
空へ手を伸ばしながら堕ちていく名無し。
掴め、掴め。
俺はまだ、お前の手を取っていない。
「名無し!」
久方ぶりに口にした、名前。
触れた手は思った以上に小さく、僅かに震えていた。
瞬きをした刹那、普段着だった髪の長かった少女は、黒いローブを纏ったショートヘアーの見慣れた姿に戻る。
「かんだ、さん?」
泣き腫らした目。
幻の中で眠ることも許されず、文字通り死にそうな顔をした彼女の手を力強く引いた。
抱きすくめれば小さな身体は腕の中にすんなり収まった。
冷え切った身体は今にも動かなくなってしまいそうで、言葉にできない衝動のまま腕に力を込める。
――あぁ。
もう、離しはしない。
上空から追撃しようとしてくるアクマに向けて、無慈悲に刀を振う。
霧散していく機械の身体。
幻のだからといって手心を加える必要は皆無だ。彼女を苦しませた原因ならば、尚更。
名無しを抱えたまま雲の中に入れば、そこはもう『現実』だった。
晴れていく霧。
鬱蒼とした針葉樹林の森。
ジャングルの動物臭い空気とは違う、鬱蒼とした立ち込める緑の匂い。
彼女の記憶に取り込まれる前の、森の中だった。
唯一違うのは、腕の中でぐったりと気を失っている名無しがいるくらいだ。
「…任務、完了か。」
小さな手に握られた、回収されたイノセンスを見て俺はそっと呟いた。
***
「お疲れ様です」
事態収拾を受け、後処理を始めるファインダー達から少し離れた場所。
鴉の面をとったリンクが気配もなく立っていた。
「イノセンスはヘブラスカに預けておいてやる。…言っておくが、コイツはもう渡さねぇぞ」
「結構です。先程長官もそう仰っておりましたから」
そう言った目の前の男の表情は、どこか晴れやかだった。
俺は内心首を傾げるが、問うたところでこの男は答える気はないのだろう。
「イノセンスの修復任務はまだもう少しありますが、あらかたは回収しましたから。
残りの任務は貴方と組むことになるでしょう」
ノアに破壊されたイノセンスは、かなりの数があったはずだ。
それこそ今回の戦争だけではなく、過去のものも遡れば両手両足では足りない程に。
「…随分と酷使したもんだな」
「その点は否定しません。だからこそ、貴方がちゃんと手綱を握ってあげてください」
私の言葉は、彼女には届きませんでしたから。
そう言って小さく肩を竦めるリンク。
今までの疑問に思っていたピースを組み合わせば、確かにそうかもしれない。
死に急ぐようなコイツに何を言っても無駄だっただろう。
「彼女のことを、よろしくお願いします。」
珍しく深々と頭を下げるリンクに面食らう。
俺は短く「あぁ」と返事を返し、名無しを抱えて森を後にした。