Re:pray
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思ったより距離があって、気がつけば夕方だった。
目にも鮮やかな緑は壮大な夕陽に照らされ、茜色に染まっている。
原生植物を踏み荒らし、やっとの思いで辿り着いた先には飛行機の残骸。
機体の半分がへしゃげており、未だに炎は燻り続けていた。
鉄と、肉と、油と、煙の臭い。
思わず鼻を覆ってしまいそうな悪臭に目眩がした。
「…………ぁ、」
目を凝らして見てみれば、そこには何となく見覚えのある腕。
ボロボロになった座席の下から出ているのは、女性の腕だった。
見覚えのある結婚指輪。
昨日夕飯を作っていた時に、指を切った折の絆創膏も貼られている。
「お母さん!」
声を張り上げ、押し潰している瓦礫を押しのける。
歯を食いしばって持ち上げる残骸は僅かな隙間しか生まれない。子供の力で持ち上げることなんて到底不可能だった。
肩で、背中で。
必死に瓦礫を押しのければ、ゴトリと鈍い音がした。
それは程なく近い、足元から。
恐る恐る視線を落とせば、白い母の腕。
――腕だけ、だった。
身体から抜けてしまったマネキンの腕のように、飛行機の瓦礫の上に転がり落ちた。
呆然とした思考のまま、鉄くずを退けることを諦めて、転がり落ちた腕の方へフラフラと歩み寄る。
震える指先でそれを拾い上げれば、意外と重い、ずっしりとしたヒトの肉体そのものだった。
骨の関節から砕かれ、千切れた人間の腕。
千切れた傷口から瞬く間に星柄の痣が広がり、黒に染まった生白い腕は
私の手の中で、砕けて消えた。
「―――――!」
声にならない慟哭が、燃えるような夕暮色の密林へ木霊した。
Re:pray#26 fragment of memories-03(jungle cruise-04)
何日、経っただろう。
凄惨な光景が目に焼き付いて離れない。
膝を抱える両手は傷だらけだ。
お腹は空腹を訴えることもなくなり、突如降ってきたスコールで残骸を燻っていた炎もすっかり消えてしまった。
瓦礫に溜まった雨水が唯一、命を繋げる手立てだ。
瓦礫を少しずつ退けても、出てくるのは黒く染まった死体だけ。
触れれば砕けて、ガスのような靄に変わる。
それを吸えば息苦しくなったが、落ち着いて呼吸を繰り返せば徐々に苦しさが薄れたのは救いだろう。
しかし、もう疲れた。
夜は夜行性の動物の気配に神経を尖らせ、日が昇れば瓦礫を崩していく作業に戻る。
生存者は、いないのだろう。
頭では分かっているのに、どうしても手を止めることは出来なかった。
――けれどそれも限界だ。
(すごく、ねむい、)
あぁ。寝て目が覚めたら、私も死んでたらいいのに。
そんな淡い願望を抱いて、重たい瞼をそっと閉じた。
***
アジア系の人間が椅子に座り並ぶ狭い空間。
耳の鼓膜が僅かに圧迫されるような違和感。
小さな窓から見える景色は、透き通るような青と白の二色だった。
未来的なこの空間は見覚えがある。
そう。先程見た、空飛ぶ乗り物の中だ。
「お母さん、お菓子食べる?」
不意に聞こえてきた日本語。
生気のある少女の声。
それは先程の惨劇など『何もなかった』かのように、日常のありふれたワンシーンだった。
「ありがとう、名無し。」
「こらこら、ちゃんと座っていなさい、名無し」
前の座席を覗き込むように身を乗り出していたアイツは、先ほどと同じように「はーい」と返事をして、大人しく椅子に座った。
(どういう、ことだ。)
繰り返される、彼女の『後悔』。
抜け出すのことは叶わない、幻想と妄執の霧。
そう。それはまるで、懺悔のように。
目にも鮮やかな緑は壮大な夕陽に照らされ、茜色に染まっている。
原生植物を踏み荒らし、やっとの思いで辿り着いた先には飛行機の残骸。
機体の半分がへしゃげており、未だに炎は燻り続けていた。
鉄と、肉と、油と、煙の臭い。
思わず鼻を覆ってしまいそうな悪臭に目眩がした。
「…………ぁ、」
目を凝らして見てみれば、そこには何となく見覚えのある腕。
ボロボロになった座席の下から出ているのは、女性の腕だった。
見覚えのある結婚指輪。
昨日夕飯を作っていた時に、指を切った折の絆創膏も貼られている。
「お母さん!」
声を張り上げ、押し潰している瓦礫を押しのける。
歯を食いしばって持ち上げる残骸は僅かな隙間しか生まれない。子供の力で持ち上げることなんて到底不可能だった。
肩で、背中で。
必死に瓦礫を押しのければ、ゴトリと鈍い音がした。
それは程なく近い、足元から。
恐る恐る視線を落とせば、白い母の腕。
――腕だけ、だった。
身体から抜けてしまったマネキンの腕のように、飛行機の瓦礫の上に転がり落ちた。
呆然とした思考のまま、鉄くずを退けることを諦めて、転がり落ちた腕の方へフラフラと歩み寄る。
震える指先でそれを拾い上げれば、意外と重い、ずっしりとしたヒトの肉体そのものだった。
骨の関節から砕かれ、千切れた人間の腕。
千切れた傷口から瞬く間に星柄の痣が広がり、黒に染まった生白い腕は
私の手の中で、砕けて消えた。
「―――――!」
声にならない慟哭が、燃えるような夕暮色の密林へ木霊した。
Re:pray#26 fragment of memories-03(jungle cruise-04)
何日、経っただろう。
凄惨な光景が目に焼き付いて離れない。
膝を抱える両手は傷だらけだ。
お腹は空腹を訴えることもなくなり、突如降ってきたスコールで残骸を燻っていた炎もすっかり消えてしまった。
瓦礫に溜まった雨水が唯一、命を繋げる手立てだ。
瓦礫を少しずつ退けても、出てくるのは黒く染まった死体だけ。
触れれば砕けて、ガスのような靄に変わる。
それを吸えば息苦しくなったが、落ち着いて呼吸を繰り返せば徐々に苦しさが薄れたのは救いだろう。
しかし、もう疲れた。
夜は夜行性の動物の気配に神経を尖らせ、日が昇れば瓦礫を崩していく作業に戻る。
生存者は、いないのだろう。
頭では分かっているのに、どうしても手を止めることは出来なかった。
――けれどそれも限界だ。
(すごく、ねむい、)
あぁ。寝て目が覚めたら、私も死んでたらいいのに。
そんな淡い願望を抱いて、重たい瞼をそっと閉じた。
***
アジア系の人間が椅子に座り並ぶ狭い空間。
耳の鼓膜が僅かに圧迫されるような違和感。
小さな窓から見える景色は、透き通るような青と白の二色だった。
未来的なこの空間は見覚えがある。
そう。先程見た、空飛ぶ乗り物の中だ。
「お母さん、お菓子食べる?」
不意に聞こえてきた日本語。
生気のある少女の声。
それは先程の惨劇など『何もなかった』かのように、日常のありふれたワンシーンだった。
「ありがとう、名無し。」
「こらこら、ちゃんと座っていなさい、名無し」
前の座席を覗き込むように身を乗り出していたアイツは、先ほどと同じように「はーい」と返事をして、大人しく椅子に座った。
(どういう、ことだ。)
繰り返される、彼女の『後悔』。
抜け出すのことは叶わない、幻想と妄執の霧。
そう。それはまるで、懺悔のように。