Re:pray
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目新しい景色。
初めての飛行機に私は浮き足立っていた。
吹き抜けるような空の色。
いつもは見上げるだけの白い雲は絨毯のように広がり、青い陰影を柔らかく落としていた。
「あら?あれ何かしら。」
「大きな鳥じゃないか?」
通路を挟んだ反対側から若い夫婦の声が聞こえる。
快適な空の旅が突如終わったのは、それから数秒後の話だった。
Re:pray#25
fragment of memories-02(jungle cruise-03)
耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、頬を叩いたのは感じたこともない暴風だった。
シートベルトをしていなかった身体は宙を舞い、呆気なく空へ放り出される。
落ちる、落ちる。
墜ちていく。
遠くなる、黒煙を上げてバラバラになっていく飛行機の機体。
大きな翅を生やした影が飛行機から飛び出してくる。
逆光で上手く見えないが、紛れもなくアレは鳥ではなかった。
異形の怪物。その時は宇宙人なのかと、一瞬思ってしまった程だ。
飛行機の剥き出しになった鉄片を掴み、こちらへ鋭く投げてくる。
まるでテレビで見た、オリンピックの槍投げのように。
脇腹を抉る痛みに息を呑む。
痛い、痛い。
落ちていく、痛い、熱い、寒い、怖い、アレは何?
思考を焼き切るような激痛に声も出ない。
上空の空気は刺すように冷たいのに、肉々しい傷口は焼けるように痛い。
翼を背負った、ヒトガタの影は物凄いスピードでこちらへ近づいてくる。
嫌だ。
嫌だ。
死ぬのは、
(嫌だ。)
分厚い雲の中へ潜る寸前。
『人形』のようで『天使』のようなそれは、光の粒となって砕けて消えた。
***
目が覚めれば、体のあちこちが痛かった。
頬に当たる木々の枝。
服は所々破れて、見るも無残な姿になっていた。
けれど確かに息をして、瞬きも出来ている。
「………………………生きてる、」
かなり高い所から落ちたというのにまさか生きているとは思わず、確かめるように独り言を呟いた。
グズグズと痛む脇腹を撫でれば、指にこびり付く乾いた血。
赤黒い粉は鉄臭く、僅かに生臭い。
けれど血液独特のヌメリは、
(……塞がってる)
指を紙切れで切った程度の傷ならまだ分かる。
しっかり見たわけではないけれど、間違いなく死んでもおかしくない傷だったはずだ。
脇腹の服は大きく破れ、腹部周りの布は赤茶色に染まっている。
怪我があったことは間違いない。気の所為なんかじゃない。
雲を突き抜ける程の高さから落ちたというのに、骨折すらしていない。精々かすり傷程度だ。
混乱していた思考がクリアになっていくにつれ、急に怖くなった。
他でもない、自分自身が。
引っかかっていた小高い木から身体を起こし、辺りを見回す。
鬱蒼とした緑が辺りを覆い尽くし、まさに絵に描いたような『密林』だった。
見たこともない鳥の群れが空を横切る。
先程の異形の怪物かと一瞬身を竦めるが、どうやらあれは普通の鳥類のようだった。
ここから少し離れた場所から燻るような煙が立っている。
人。もしくは飛行機が落ちた場所だろう。
節々が痛む身体に鞭打って、恐る恐る木から降りればそこは異世界のようだった。
今にも恐竜や大型の肉食獣が出てもおかしくない。木々の間を蔓が伝い、巨木は苔で覆われている。
熱帯地域に生えていそうな草花、いかにも南国と言わんばかりの大きな葉。
足元は根が大きくうねり、腐葉土になりかけている枯葉が地面を覆っていた。
毒蛇でも飛び出してきそうな茂みは、あまり立ち入りたくない雰囲気だ。
ゴクリ・と生唾を飲む喉が上下する。
ここにいても仕方がない。
あの煙が立つ方向へ。
震えそうな足を叱咤して、まだ真新しいスニーカーで一歩前へ踏み出した。
初めての飛行機に私は浮き足立っていた。
吹き抜けるような空の色。
いつもは見上げるだけの白い雲は絨毯のように広がり、青い陰影を柔らかく落としていた。
「あら?あれ何かしら。」
「大きな鳥じゃないか?」
通路を挟んだ反対側から若い夫婦の声が聞こえる。
快適な空の旅が突如終わったのは、それから数秒後の話だった。
Re:pray#25
fragment of memories-02(jungle cruise-03)
耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、頬を叩いたのは感じたこともない暴風だった。
シートベルトをしていなかった身体は宙を舞い、呆気なく空へ放り出される。
落ちる、落ちる。
墜ちていく。
遠くなる、黒煙を上げてバラバラになっていく飛行機の機体。
大きな翅を生やした影が飛行機から飛び出してくる。
逆光で上手く見えないが、紛れもなくアレは鳥ではなかった。
異形の怪物。その時は宇宙人なのかと、一瞬思ってしまった程だ。
飛行機の剥き出しになった鉄片を掴み、こちらへ鋭く投げてくる。
まるでテレビで見た、オリンピックの槍投げのように。
脇腹を抉る痛みに息を呑む。
痛い、痛い。
落ちていく、痛い、熱い、寒い、怖い、アレは何?
思考を焼き切るような激痛に声も出ない。
上空の空気は刺すように冷たいのに、肉々しい傷口は焼けるように痛い。
翼を背負った、ヒトガタの影は物凄いスピードでこちらへ近づいてくる。
嫌だ。
嫌だ。
死ぬのは、
(嫌だ。)
分厚い雲の中へ潜る寸前。
『人形』のようで『天使』のようなそれは、光の粒となって砕けて消えた。
***
目が覚めれば、体のあちこちが痛かった。
頬に当たる木々の枝。
服は所々破れて、見るも無残な姿になっていた。
けれど確かに息をして、瞬きも出来ている。
「………………………生きてる、」
かなり高い所から落ちたというのにまさか生きているとは思わず、確かめるように独り言を呟いた。
グズグズと痛む脇腹を撫でれば、指にこびり付く乾いた血。
赤黒い粉は鉄臭く、僅かに生臭い。
けれど血液独特のヌメリは、
(……塞がってる)
指を紙切れで切った程度の傷ならまだ分かる。
しっかり見たわけではないけれど、間違いなく死んでもおかしくない傷だったはずだ。
脇腹の服は大きく破れ、腹部周りの布は赤茶色に染まっている。
怪我があったことは間違いない。気の所為なんかじゃない。
雲を突き抜ける程の高さから落ちたというのに、骨折すらしていない。精々かすり傷程度だ。
混乱していた思考がクリアになっていくにつれ、急に怖くなった。
他でもない、自分自身が。
引っかかっていた小高い木から身体を起こし、辺りを見回す。
鬱蒼とした緑が辺りを覆い尽くし、まさに絵に描いたような『密林』だった。
見たこともない鳥の群れが空を横切る。
先程の異形の怪物かと一瞬身を竦めるが、どうやらあれは普通の鳥類のようだった。
ここから少し離れた場所から燻るような煙が立っている。
人。もしくは飛行機が落ちた場所だろう。
節々が痛む身体に鞭打って、恐る恐る木から降りればそこは異世界のようだった。
今にも恐竜や大型の肉食獣が出てもおかしくない。木々の間を蔓が伝い、巨木は苔で覆われている。
熱帯地域に生えていそうな草花、いかにも南国と言わんばかりの大きな葉。
足元は根が大きくうねり、腐葉土になりかけている枯葉が地面を覆っていた。
毒蛇でも飛び出してきそうな茂みは、あまり立ち入りたくない雰囲気だ。
ゴクリ・と生唾を飲む喉が上下する。
ここにいても仕方がない。
あの煙が立つ方向へ。
震えそうな足を叱咤して、まだ真新しいスニーカーで一歩前へ踏み出した。