Re:pray
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ねぇ、ユウ。ユウってば。
時々、夢の中に出てくる『アイツ』。
少し大きめの中国服を身にまとい、幼い小さな手で俺の身体を揺する。
――これは、夢だ。
分かっているのに、どうしてもコイツの言葉には耳を傾けてしまう。
俺の深層心理が形を為しているのか。
はたまた、もしかしたら――もしかすると、本当に『アイツ』が俺に呼び掛けているのかもしれない。
…なんだよ。
俺はアイツとの身長差を埋めるように、しゃがみこむ。
相変わらず硬そうな癖っ毛。
鼻の頭には一本の傷跡。
よくもまぁこんなにも鮮明に思い出せるのだと、我ながら感心すると同時に呆れてしまう。
そんなにのんびりしてると…あの子も、とられちゃうよ。
何が。誰に。
訊かなくても分かっている。
…アイツが決めたことじゃねぇか。
俺がそう答えれば、呆れたように目の前のコイツは眉を顰める。
プリプリと怒ったような顔は、確かに生前の『あの人』に少し――似ていた、かもしれない。
もー!それは無責任だよ、ユウ。
…無責任?
うん。『面倒見る』ってあの子に言ったの、ユウじゃん。
確かに言った。
それは俺が死んでしまうまで・という意味で言ったつもりだった。
しかし現実はどうだ。
俺はアイツに生かされて、刀を振るえている。
俺はまだ――生きている。
それに、アイツが決めたことって言うけど、そこにユウの気持ちはないじゃんか。
………俺の?
そうそう。
だってユウってば聞き分けよさそうな顔してるくせに、ワガママだし、俺様だし、すーぐ手が出るし、怒りやすいし、自分勝手だし。
おいコラ。
事実じゃん。
ケタケタ笑いながら子供の頃のままの姿のアイツは、くるりとその場で背中を向ける。
…確かに自分勝手だ。
俺が生きたいがために、かつて目の前のコイツを再生不可能になるまで破壊したのだから。
――大事なんでしょ?あの子のこと。
背中越しに振り向いて、彼は笑う。
無邪気に、子供のように、あの人の面影を残して。
…そうかもな。
なら手放しちゃダメだよ。神様なんかに負けちゃダメだ。
黒の教団に所属しているというのに、神様に負けるな・なんて。
全くもって、アイツらしい物言いだ。
ふと、俺は気がついてしまった。
手放すな・とは言われたが、俺はまだ
(手を、とってすらいない)
こっちの世界にアイツが来たのは、俺が手を引く勇気がなかったから。責任を持ちたくなかったからだ。
投げやりな言い方をすれば、勝手にアイツがついてきただけだった。
それを俺の元から・なんて。自意識過剰にも程がある。
最初から彼女の手を握っていなかったのは、俺だった。
アイツはただ、俺の服の裾を握っていたに過ぎない。
ねぇ。もっとワガママに…自由になってもいいんじゃない?
――今度は…手を離さないようにね、『神田ユウ』。
少年だったアイツは、いつの間にかいなかった。
そこにはかつて蓮の花を一緒に見た『あの人』が、朧気な記憶を吹き飛ばしてしまう程の満面の笑顔で
笑っていた。
Re:pray#23
good-bye,halcyon days-04(CHINA crisis-05)
アジア支部で寝泊まりしたせいか。久しぶりにアイツが夢に出てきた。
「珍しいっスね、神田先輩が朝の鍛錬お休みになるなんて」
任務で同行していたチャオジーがタオルで汗を拭きながら見上げてくる。
俺も、鍛錬をサボるなんて初めてだ。
「…たまたまだ。」
「体調悪かったら言ってくださいっス!いつも以上に頑張りますから!」
いつも以上に張り切っているのは、彼自身の故郷にいるからだろうか。
アジア支部の食堂は中華料理が多く、嬉しそうに朝食を摂っていた姿を思い出した。
「あぁ、いたいた。」
壁をスルリとすり抜け、やってきたのはよく知っている精霊だった。
ピンクの髪、赤い瞳。人ならざる『守神』。
はたりと柘榴のような双眸と視線が絡むが、少し怪訝そうに目を細め、一瞬で逸らされてしまう。
「チャオジー、悪いんだけどバクのとこに行ってやってくれねーか?呼んでるみたいでさ。」
「支部長が…っスか?了解っス」
「神田先輩、失礼します」と丁寧に一礼して、彼はだだっ広い廊下を駆けて行く。
石畳から反響する足音が完全に消えるまで、俺はぼんやりとその背中を見送った。
「…何やってんだよ、お前」
不機嫌そうに口を開いたのは、俺じゃない。
ふわふわと宙を漂いながら眉を顰める守神だ。
「何の話だ」
「アイツ、知ってたぞ」
全部。
そう言いながら痛ましそうに目を細めるフォー。
…全部、とは。
「どういうことだ。」
「………あぁもう!やっぱ無理だ!口が堅いなんて勝手に決めつけやがって、あのバカ!」
ガシガシと髪を掻き毟り、怒り、開き直り、目の前の精霊は声を荒らげる。
「名無しは!全部お前の事情知ってたんだよ!
バカバクから聞いたぞ、妙な任務につかせやがって!何で止めなかったんだよ!」
――呪符の件は、誰かから聞いたのだと思っていた。
しかしそうじゃない。『全部』だと?
それを知っているのはコムイと、ここにいる一部の人間、モヤシ、教団の上層部の人間に限られる。
「…どこからだ」
「知らねーよ、研究所跡まで見てたからな。多分最初から最後まで、」
出生のことまで、文字通り全てだろう。
コムイではないだろう。
そんなことを易々と口にする男ではない。
チャン家であり、責任を誰よりも感じていたバクもありえない。
ならば、考えられるのは一人だけ。
(――マルコム・C・ルベリエ。)
時々、夢の中に出てくる『アイツ』。
少し大きめの中国服を身にまとい、幼い小さな手で俺の身体を揺する。
――これは、夢だ。
分かっているのに、どうしてもコイツの言葉には耳を傾けてしまう。
俺の深層心理が形を為しているのか。
はたまた、もしかしたら――もしかすると、本当に『アイツ』が俺に呼び掛けているのかもしれない。
…なんだよ。
俺はアイツとの身長差を埋めるように、しゃがみこむ。
相変わらず硬そうな癖っ毛。
鼻の頭には一本の傷跡。
よくもまぁこんなにも鮮明に思い出せるのだと、我ながら感心すると同時に呆れてしまう。
そんなにのんびりしてると…あの子も、とられちゃうよ。
何が。誰に。
訊かなくても分かっている。
…アイツが決めたことじゃねぇか。
俺がそう答えれば、呆れたように目の前のコイツは眉を顰める。
プリプリと怒ったような顔は、確かに生前の『あの人』に少し――似ていた、かもしれない。
もー!それは無責任だよ、ユウ。
…無責任?
うん。『面倒見る』ってあの子に言ったの、ユウじゃん。
確かに言った。
それは俺が死んでしまうまで・という意味で言ったつもりだった。
しかし現実はどうだ。
俺はアイツに生かされて、刀を振るえている。
俺はまだ――生きている。
それに、アイツが決めたことって言うけど、そこにユウの気持ちはないじゃんか。
………俺の?
そうそう。
だってユウってば聞き分けよさそうな顔してるくせに、ワガママだし、俺様だし、すーぐ手が出るし、怒りやすいし、自分勝手だし。
おいコラ。
事実じゃん。
ケタケタ笑いながら子供の頃のままの姿のアイツは、くるりとその場で背中を向ける。
…確かに自分勝手だ。
俺が生きたいがために、かつて目の前のコイツを再生不可能になるまで破壊したのだから。
――大事なんでしょ?あの子のこと。
背中越しに振り向いて、彼は笑う。
無邪気に、子供のように、あの人の面影を残して。
…そうかもな。
なら手放しちゃダメだよ。神様なんかに負けちゃダメだ。
黒の教団に所属しているというのに、神様に負けるな・なんて。
全くもって、アイツらしい物言いだ。
ふと、俺は気がついてしまった。
手放すな・とは言われたが、俺はまだ
(手を、とってすらいない)
こっちの世界にアイツが来たのは、俺が手を引く勇気がなかったから。責任を持ちたくなかったからだ。
投げやりな言い方をすれば、勝手にアイツがついてきただけだった。
それを俺の元から・なんて。自意識過剰にも程がある。
最初から彼女の手を握っていなかったのは、俺だった。
アイツはただ、俺の服の裾を握っていたに過ぎない。
ねぇ。もっとワガママに…自由になってもいいんじゃない?
――今度は…手を離さないようにね、『神田ユウ』。
少年だったアイツは、いつの間にかいなかった。
そこにはかつて蓮の花を一緒に見た『あの人』が、朧気な記憶を吹き飛ばしてしまう程の満面の笑顔で
笑っていた。
Re:pray#23
good-bye,halcyon days-04(CHINA crisis-05)
アジア支部で寝泊まりしたせいか。久しぶりにアイツが夢に出てきた。
「珍しいっスね、神田先輩が朝の鍛錬お休みになるなんて」
任務で同行していたチャオジーがタオルで汗を拭きながら見上げてくる。
俺も、鍛錬をサボるなんて初めてだ。
「…たまたまだ。」
「体調悪かったら言ってくださいっス!いつも以上に頑張りますから!」
いつも以上に張り切っているのは、彼自身の故郷にいるからだろうか。
アジア支部の食堂は中華料理が多く、嬉しそうに朝食を摂っていた姿を思い出した。
「あぁ、いたいた。」
壁をスルリとすり抜け、やってきたのはよく知っている精霊だった。
ピンクの髪、赤い瞳。人ならざる『守神』。
はたりと柘榴のような双眸と視線が絡むが、少し怪訝そうに目を細め、一瞬で逸らされてしまう。
「チャオジー、悪いんだけどバクのとこに行ってやってくれねーか?呼んでるみたいでさ。」
「支部長が…っスか?了解っス」
「神田先輩、失礼します」と丁寧に一礼して、彼はだだっ広い廊下を駆けて行く。
石畳から反響する足音が完全に消えるまで、俺はぼんやりとその背中を見送った。
「…何やってんだよ、お前」
不機嫌そうに口を開いたのは、俺じゃない。
ふわふわと宙を漂いながら眉を顰める守神だ。
「何の話だ」
「アイツ、知ってたぞ」
全部。
そう言いながら痛ましそうに目を細めるフォー。
…全部、とは。
「どういうことだ。」
「………あぁもう!やっぱ無理だ!口が堅いなんて勝手に決めつけやがって、あのバカ!」
ガシガシと髪を掻き毟り、怒り、開き直り、目の前の精霊は声を荒らげる。
「名無しは!全部お前の事情知ってたんだよ!
バカバクから聞いたぞ、妙な任務につかせやがって!何で止めなかったんだよ!」
――呪符の件は、誰かから聞いたのだと思っていた。
しかしそうじゃない。『全部』だと?
それを知っているのはコムイと、ここにいる一部の人間、モヤシ、教団の上層部の人間に限られる。
「…どこからだ」
「知らねーよ、研究所跡まで見てたからな。多分最初から最後まで、」
出生のことまで、文字通り全てだろう。
コムイではないだろう。
そんなことを易々と口にする男ではない。
チャン家であり、責任を誰よりも感じていたバクもありえない。
ならば、考えられるのは一人だけ。
(――マルコム・C・ルベリエ。)