Re:pray
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窓の外に浮かぶのは、朝日が昇る前の翳った月。
――あぁ。
お前もどこかで、これを見ているのだろうか。
Re:pray#22
good-bye,halcyon days-03
明け方。
任務から帰ってきて、兄さんへ顔を見せに行った。
その帰り、早朝よりも早い時間。談話室の人影がひとつ。
「神田?」
「…帰ってきたのか、リナ。」
ぶっきらぼうな幼馴染は窓際に腰掛けて、外をぼんやりと眺めているようだった。
手には、一冊の本。
中途半端なページに挟まれたシンプルな栞は、あの子が愛用していたものだった。
あの子がいつもいた場所。
あの子が読みかけだった本。
溶け込むようにそこにいて、目が合えば花が咲くように笑い、声を掛ければ仔犬のようにころころと表情を変えていた彼女。
…もう、ここにはいないけれど。
――妹が出来たようで、嬉しかった。
ほら、だってここには男の人は多かったけれど、私より年下の女の子なんて一人もいなかったし。
その子が、突然いなくなった。
死んだわけではない。別の任務についただけ。
分かっているのに無性に寂しくて、あの子がいた痕跡を見る度に涙が溢れそうになった。
「――神田。ねぇ、後悔してるの?」
白んでいく、外の景色。
柔らかい朝日の逆光で、窓を背にした彼の表情は読み取れない。
誰に対しても無関心で、一匹狼だった彼。
それが初めて元帥として弟子をとって、少しずつ変わっていった。
勿論、いい方向へ。
任務に対してストイックな彼は、その胸の内を誰かに打ち明けることは皆無に等しい。
けれど、
「…さぁな。後悔する間も、なかったからな」
差し込む朝日で、僅かに照らされた端正な顔。
見間違いかもしれないけれど、私には――
(会いたいなら、素直に言えばいいのに)
ほら。
一番我慢している貴方が言えないなら、私が弱音を吐くわけにいかないじゃない。
***
「――はい。かしこまりました、ルベリエ様」
いつも通りの、定時連絡。
使い古したゴーレムをしまい、私はコンパートメントへ戻る。
戻ろうと、した。
ドアの細い窓ガラスから見えるのは、彼女ひとり。
お世辞にも寝心地がいいとは言えない座席に座ったまま、眠っていたはずだ。
乱雑に袖で拭う目元は、泣き腫らしたかのように赤くなっている。
大きく呼吸を繰り返し、空気が刺すように寒い季節だというのに汗を拭っていた。
時々、眠っていると夢として『視る』のだという。
以前見た誰かの死に際の記憶を、悪夢のように繰り返して。
自分が体験した事かのように、死んだ人間の記憶を思い出す。
…壊れないはずがない。
それは彼女が一番よく分かっている。
だからこそ親しい人間を意図的に遠ざけた。
――まるで、死にかけの猫のようだ。
死に姿をひた隠しにするように、誰にも悟られないように。
せめて・と『死んだ』後の己のイノセンスの回収係として鴉を指名してくる辺り、彼女は彼女自身に対して驚く程に冷徹だった。
蔑ろにする、では生温い。
まるで自分の命など、痛みなど、最初から数えていないようにも思えた。
彼女がフードを目深に被り、呼吸を整える。
それを見計らって私はコンパートメントのドアをノックした。
見ないふりをするのも優しさとは言うけれど、今回もそうなのだろうか。…これで、いいのだろうか。
「起きたんですか」
「はい。おはようございます」
何ともないように、彼女は笑う。
まだほのかに赤い目元を見て、私は仮面の下で歯痒さに眉を顰めるのだった。
――朝日に柔らかく照らされた彼女の笑顔が、あまりにも綺麗すぎて。
(看ていたのは、翳った十六夜月だけ)
――あぁ。
お前もどこかで、これを見ているのだろうか。
Re:pray#22
good-bye,halcyon days-03
明け方。
任務から帰ってきて、兄さんへ顔を見せに行った。
その帰り、早朝よりも早い時間。談話室の人影がひとつ。
「神田?」
「…帰ってきたのか、リナ。」
ぶっきらぼうな幼馴染は窓際に腰掛けて、外をぼんやりと眺めているようだった。
手には、一冊の本。
中途半端なページに挟まれたシンプルな栞は、あの子が愛用していたものだった。
あの子がいつもいた場所。
あの子が読みかけだった本。
溶け込むようにそこにいて、目が合えば花が咲くように笑い、声を掛ければ仔犬のようにころころと表情を変えていた彼女。
…もう、ここにはいないけれど。
――妹が出来たようで、嬉しかった。
ほら、だってここには男の人は多かったけれど、私より年下の女の子なんて一人もいなかったし。
その子が、突然いなくなった。
死んだわけではない。別の任務についただけ。
分かっているのに無性に寂しくて、あの子がいた痕跡を見る度に涙が溢れそうになった。
「――神田。ねぇ、後悔してるの?」
白んでいく、外の景色。
柔らかい朝日の逆光で、窓を背にした彼の表情は読み取れない。
誰に対しても無関心で、一匹狼だった彼。
それが初めて元帥として弟子をとって、少しずつ変わっていった。
勿論、いい方向へ。
任務に対してストイックな彼は、その胸の内を誰かに打ち明けることは皆無に等しい。
けれど、
「…さぁな。後悔する間も、なかったからな」
差し込む朝日で、僅かに照らされた端正な顔。
見間違いかもしれないけれど、私には――
(会いたいなら、素直に言えばいいのに)
ほら。
一番我慢している貴方が言えないなら、私が弱音を吐くわけにいかないじゃない。
***
「――はい。かしこまりました、ルベリエ様」
いつも通りの、定時連絡。
使い古したゴーレムをしまい、私はコンパートメントへ戻る。
戻ろうと、した。
ドアの細い窓ガラスから見えるのは、彼女ひとり。
お世辞にも寝心地がいいとは言えない座席に座ったまま、眠っていたはずだ。
乱雑に袖で拭う目元は、泣き腫らしたかのように赤くなっている。
大きく呼吸を繰り返し、空気が刺すように寒い季節だというのに汗を拭っていた。
時々、眠っていると夢として『視る』のだという。
以前見た誰かの死に際の記憶を、悪夢のように繰り返して。
自分が体験した事かのように、死んだ人間の記憶を思い出す。
…壊れないはずがない。
それは彼女が一番よく分かっている。
だからこそ親しい人間を意図的に遠ざけた。
――まるで、死にかけの猫のようだ。
死に姿をひた隠しにするように、誰にも悟られないように。
せめて・と『死んだ』後の己のイノセンスの回収係として鴉を指名してくる辺り、彼女は彼女自身に対して驚く程に冷徹だった。
蔑ろにする、では生温い。
まるで自分の命など、痛みなど、最初から数えていないようにも思えた。
彼女がフードを目深に被り、呼吸を整える。
それを見計らって私はコンパートメントのドアをノックした。
見ないふりをするのも優しさとは言うけれど、今回もそうなのだろうか。…これで、いいのだろうか。
「起きたんですか」
「はい。おはようございます」
何ともないように、彼女は笑う。
まだほのかに赤い目元を見て、私は仮面の下で歯痒さに眉を顰めるのだった。
――朝日に柔らかく照らされた彼女の笑顔が、あまりにも綺麗すぎて。
(看ていたのは、翳った十六夜月だけ)