Re:pray
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ノックが4回。
この合図は、きっと彼女だろう。
「どうぞ。」
声をかければ入ってくるのは、黒衣を纏った人影が二人。
中央庁直属の部隊――鴉。
そのうちの一人、小柄な方の『女の子』が一歩前に出る。
「お久しぶりです、コムイさん」
「…息災そうで何よりだよ。今日はヘブ君に用かな?」
「はい。預けに来ました。」
僕は、彼女の名前をぐっと呑み込んで、いつも通り朗らかに笑った。
以前と変わらないような声音で話す彼女は、仮面の下で笑ってくれているのだろうか。
Re:pray#21
good-bye,halcyon days-02
『イノセンスの回収任務なら、他のエクソシストを同行させるべきでは!?』
『彼女がそれを拒否したのだ、コムイ・リー室長。人員はアクマの討伐に回すべきだ・とね』
少し前にルベリエと交わした会話。
彼女はエクソシストであるのなら、まずは僕に話を通すべきだ・と抗議したのだ。
情けないことに、もう全て遅すぎた話だったのだが。
『心配をかけさせるのも忍びない。だからエクソシストの同行は不要だ。ただ、【彼女自身が死んだ時にイノセンスを回収できる誰か】を同行させること。
…それが彼女が出した、条件だよ』
冷徹で、冷静な判断だ。
恐らくリナリーやアレンが同行したとしたら、心配のあまり彼女を叱ってしまうかもしれない。いや。叱るだろう、きっと。
むしろ誰しもがイノセンスの回収・修復を止めただろう。
だから任務を全うする上では、彼女の提案は正確で最善で無駄のない判断だった。
『…なるべく干渉しない鴉をつけてくれ・と言われている。そこは安心たまえ』
ルベリエが視線を逸らしながらそう答える。
――そういえば、いつもいるはずのハワード・リンクの姿がない。
彼を見れば怪訝そうな表情でティーカップを傾けていた。
『…彼女に早々と死なれては、困るのだよ』
ぶっきらぼうに答えた『冷徹』な監査官長官は、すっかり温くなった紅茶をわざとらしく啜った。
***
「じゃあ次の任務もありますから。ヘブラスカのところへ行ってきますね」
「食事くらい、しっかり食べてから行けばいいのに」
そう僕が言うと、困ったように彼女は肩を竦めた。
「中央庁の『鴉』が教団の食堂なんかに行ったら、皆さん落ち着いて食事が出来ないでしょう?」
彼女の言葉に、僕は胸の奥がチクリと痛んだ。
これは――まるで拒絶だ。
ノックが3回。
少し乱暴な音のそれは、僕が返事するより早く開かれた。
「オイ、コムイ。この間の任務の報告書だ」
入って来たのは、彼女の師である彼。
最悪のタイミングとしか言いようがない。
僕はポーカーフェイスの下で思い切り狼狽えてしまった。
「…では室長。これにて失礼します」
それまで黙っていた鴉――リンクが、一礼して踵を返す。
追随するように彼女も黙って退室した。…神田の横を、すり抜けて。
僕は何故か心臓がバクバクした。
もしかしたら神田が止めてくれるのでは。
もしかしたら彼女が神田に話しかけるのでは。
もしかしたら、もしかしたら。
そんな期待と杞憂が混ざりあった予想は、呆気なく『何事もなく』通り過ぎてしまったのだけども。
「…アイツか。」
ポソリと。
沈黙を破ったのは、神田の呟き。
『誰』とは言わない。けれど、ひとりしかいない。
「…どうしてそう思うんだい?」
「歩き方。仕草。勘。」
なるほど、そうきたか。
彼女のことを一番近くで見ていただけあると、僕は素直に感心してしまった。
けれど僕は答えを持たない。
故に、明確な返答はできるはずもなかった。
「…さぁ。誰だろうね」
誤魔化すように曖昧に笑えば、デスクの上に持ってきた書類を少し乱雑に置きながら「嘘をつくのが下手だな、コムイ」と彼は珍しく笑った。
***
『…見事だな。』
揺蕩うだけだった奇怪を、イノセンスへと修復した彼女。
それを受け取ったヘブラスカは胎内にそっとしまった。
それを見届けた彼女は「それじゃ、また来ますね」と呆気なく踵を返そうとする。
『名無し。』
引き止めるように、ヘブラスカは彼女の名前を呼ぶ。
鴉部隊の面を被ったまま、彼女はゆっくりと振り返った。
『…少しは休んだらどうだ?』
『移動中に寝ているから大丈夫ですよ』
『――辛くは、』
ヘブラスカが言いかけた言葉を、そっと彼女は人差し指で遮る。
まるで子供を静かにさせるような、柔らかい仕草。
口元へ指を当てながら、きっと彼女は面の下で『笑って』いるのだろう。
「言葉にすると自覚しちゃうでしょう?だから、私は笑うんです。」
辛くとも、痛くとも、
――寂しくても。
隠しきれないその感情を覆うように、彼女は似合いもしない黒衣を纏って、面を被った。
弱音を紡がないように、なるだけ言葉少なに口を噤んで。
「大丈夫ですよ。」
口癖のように、言い聞かせるように。
彼女は今日も仮面の下で笑う。
この合図は、きっと彼女だろう。
「どうぞ。」
声をかければ入ってくるのは、黒衣を纏った人影が二人。
中央庁直属の部隊――鴉。
そのうちの一人、小柄な方の『女の子』が一歩前に出る。
「お久しぶりです、コムイさん」
「…息災そうで何よりだよ。今日はヘブ君に用かな?」
「はい。預けに来ました。」
僕は、彼女の名前をぐっと呑み込んで、いつも通り朗らかに笑った。
以前と変わらないような声音で話す彼女は、仮面の下で笑ってくれているのだろうか。
Re:pray#21
good-bye,halcyon days-02
『イノセンスの回収任務なら、他のエクソシストを同行させるべきでは!?』
『彼女がそれを拒否したのだ、コムイ・リー室長。人員はアクマの討伐に回すべきだ・とね』
少し前にルベリエと交わした会話。
彼女はエクソシストであるのなら、まずは僕に話を通すべきだ・と抗議したのだ。
情けないことに、もう全て遅すぎた話だったのだが。
『心配をかけさせるのも忍びない。だからエクソシストの同行は不要だ。ただ、【彼女自身が死んだ時にイノセンスを回収できる誰か】を同行させること。
…それが彼女が出した、条件だよ』
冷徹で、冷静な判断だ。
恐らくリナリーやアレンが同行したとしたら、心配のあまり彼女を叱ってしまうかもしれない。いや。叱るだろう、きっと。
むしろ誰しもがイノセンスの回収・修復を止めただろう。
だから任務を全うする上では、彼女の提案は正確で最善で無駄のない判断だった。
『…なるべく干渉しない鴉をつけてくれ・と言われている。そこは安心たまえ』
ルベリエが視線を逸らしながらそう答える。
――そういえば、いつもいるはずのハワード・リンクの姿がない。
彼を見れば怪訝そうな表情でティーカップを傾けていた。
『…彼女に早々と死なれては、困るのだよ』
ぶっきらぼうに答えた『冷徹』な監査官長官は、すっかり温くなった紅茶をわざとらしく啜った。
***
「じゃあ次の任務もありますから。ヘブラスカのところへ行ってきますね」
「食事くらい、しっかり食べてから行けばいいのに」
そう僕が言うと、困ったように彼女は肩を竦めた。
「中央庁の『鴉』が教団の食堂なんかに行ったら、皆さん落ち着いて食事が出来ないでしょう?」
彼女の言葉に、僕は胸の奥がチクリと痛んだ。
これは――まるで拒絶だ。
ノックが3回。
少し乱暴な音のそれは、僕が返事するより早く開かれた。
「オイ、コムイ。この間の任務の報告書だ」
入って来たのは、彼女の師である彼。
最悪のタイミングとしか言いようがない。
僕はポーカーフェイスの下で思い切り狼狽えてしまった。
「…では室長。これにて失礼します」
それまで黙っていた鴉――リンクが、一礼して踵を返す。
追随するように彼女も黙って退室した。…神田の横を、すり抜けて。
僕は何故か心臓がバクバクした。
もしかしたら神田が止めてくれるのでは。
もしかしたら彼女が神田に話しかけるのでは。
もしかしたら、もしかしたら。
そんな期待と杞憂が混ざりあった予想は、呆気なく『何事もなく』通り過ぎてしまったのだけども。
「…アイツか。」
ポソリと。
沈黙を破ったのは、神田の呟き。
『誰』とは言わない。けれど、ひとりしかいない。
「…どうしてそう思うんだい?」
「歩き方。仕草。勘。」
なるほど、そうきたか。
彼女のことを一番近くで見ていただけあると、僕は素直に感心してしまった。
けれど僕は答えを持たない。
故に、明確な返答はできるはずもなかった。
「…さぁ。誰だろうね」
誤魔化すように曖昧に笑えば、デスクの上に持ってきた書類を少し乱雑に置きながら「嘘をつくのが下手だな、コムイ」と彼は珍しく笑った。
***
『…見事だな。』
揺蕩うだけだった奇怪を、イノセンスへと修復した彼女。
それを受け取ったヘブラスカは胎内にそっとしまった。
それを見届けた彼女は「それじゃ、また来ますね」と呆気なく踵を返そうとする。
『名無し。』
引き止めるように、ヘブラスカは彼女の名前を呼ぶ。
鴉部隊の面を被ったまま、彼女はゆっくりと振り返った。
『…少しは休んだらどうだ?』
『移動中に寝ているから大丈夫ですよ』
『――辛くは、』
ヘブラスカが言いかけた言葉を、そっと彼女は人差し指で遮る。
まるで子供を静かにさせるような、柔らかい仕草。
口元へ指を当てながら、きっと彼女は面の下で『笑って』いるのだろう。
「言葉にすると自覚しちゃうでしょう?だから、私は笑うんです。」
辛くとも、痛くとも、
――寂しくても。
隠しきれないその感情を覆うように、彼女は似合いもしない黒衣を纏って、面を被った。
弱音を紡がないように、なるだけ言葉少なに口を噤んで。
「大丈夫ですよ。」
口癖のように、言い聞かせるように。
彼女は今日も仮面の下で笑う。