Re:pray
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『神田さん。――ごめんなさい』
アイツの声が、聴こえない。
目を覚ませば教団のベッドの上だった。
高い天井。消毒液の匂い。
脈拍を測るための機械や、名前も知らない妙な機械の音が、忙しない足音に紛れて聞こえてきた。
「あ。婦長、婦長!ユウが起きたさー!」
「…名前で呼ぶな。」
真っ先に視界に飛び込んできたのは、派手な色の頭と眼帯。
久しぶりに出した声は酷く、聞けたものではなかった。
Re:pray#20
good-bye,halcyon days-01
雪が降り積もった森の中。
久し振りに握った六幻を振るえば、風を切る音すら聞こえない完璧な一振りだった。
…身体が軽い。
それは『目が覚めた』直後のような、身軽さだった。
『ごめんね、神田。止められなかったよ』
項垂れる師。
目が覚めた俺が、やっと絞り出した言葉は思ったよりも淡白な一言だった。
『…アイツが決めたなら、仕方ねぇだろ』
そう。昔の俺ならその一言で全て済んでいたはずだったのに。
――仕方ない?本当にそうなのか?
胸の奥に突っかかった疑問が、いくら刀を振るっても振り払えない。
は・と息を吐き出せば、体温を孕んだ呼吸が冬の空にとけていく。
教団に来たばかりの頃、雪だ冬だ・と仔犬のようにはしゃいでいたアイツは――もう隣にいない。
「…思ったより、嘘が上手かったな」
思い返すのは、数ヶ月前の話。
秋も終わりに近付いてきていた時だった。
ルベリエが教団に来て、アイツにイノセンスの修復任務の『依頼』を持ってきた後の会話。
『保留にした?』
『はい。お受けするかどうかは、もう少し待ってください・ってお伝えしました』
保留。そう言ってしまえば確かに嘘ではないかもしれない。
けれど受ける気でいたのだろう。
その条件は恐らく、
「…チッ」
思わず毒づいてしまいそうになるが、ここまでくれば舌打ちしか出てこない。
苛立っているのは、俺自身にだった。
「…何に対しての謝罪か、分かんねぇだろうが。バカ名無し」
***
込み上げてくる吐瀉物も随分と見慣れてしまった。
あぁ、慣れって怖いなぁ・と他人事のように、吐き出してしまった胃液をぼんやり眺めた。
手の中には破壊されたはずのイノセンス。
そう。ここはいつかのエクソシストが『ノアの一族』に殺された場所だった。
灰褐色の肌、この眼によく似た金色の瞳。
心臓を握り潰され、それはどんなアクマよりも無慈悲な殺し方だった。
そして、最後に残った無防備なイノセンスを『壊して』彼はこの地を去っていく。
破壊されたイノセンスは原型を留めることが出来ない。
完全に消えた…かのように見えるが、それは違った。
『恐らく、破壊されたイノセンスはその場で奇怪になって存在し続けているだろう』
(あぁ、長官。その予想はビンゴですよ)
人相の悪い英国紳士を思い出しながら、私は持っていたミネラルウォーターを口に含んだ。
この無味無臭の、単に吐瀉物の不快感をなくためだけの飲み物にも慣れてしまった。
あぁ。暖かいお茶が飲みたい。
「終わりましたか」
サク・と新雪を踏む音。
上から下まで黒衣で覆われ、菱形の紋様が描かれた仮面を付けた青年が声を掛けてきた。
いつか聞いたことがある声のような気もするが、もはやそんな些細な事はどうでもよかった。
ルベリエが人員を選出したのだから彼がいてもおかしくない。
「はい、この通り。…ではヘブラスカへ届けに行きましょうか」
移動は…方舟を使わない。使いたくなかった。
別にやましいことをしているわけではないけれど、それでも居場所を知られるのが何となく嫌だった。
腰のポーチにイノセンスをしまい、ほぅと息を吐き出す。
凍りついた木々の間を吹き抜ける北風が、曖昧な輪郭の吐息をふわりと攫った。
「――寒いなぁ」
アイツの声が、聴こえない。
目を覚ませば教団のベッドの上だった。
高い天井。消毒液の匂い。
脈拍を測るための機械や、名前も知らない妙な機械の音が、忙しない足音に紛れて聞こえてきた。
「あ。婦長、婦長!ユウが起きたさー!」
「…名前で呼ぶな。」
真っ先に視界に飛び込んできたのは、派手な色の頭と眼帯。
久しぶりに出した声は酷く、聞けたものではなかった。
Re:pray#20
good-bye,halcyon days-01
雪が降り積もった森の中。
久し振りに握った六幻を振るえば、風を切る音すら聞こえない完璧な一振りだった。
…身体が軽い。
それは『目が覚めた』直後のような、身軽さだった。
『ごめんね、神田。止められなかったよ』
項垂れる師。
目が覚めた俺が、やっと絞り出した言葉は思ったよりも淡白な一言だった。
『…アイツが決めたなら、仕方ねぇだろ』
そう。昔の俺ならその一言で全て済んでいたはずだったのに。
――仕方ない?本当にそうなのか?
胸の奥に突っかかった疑問が、いくら刀を振るっても振り払えない。
は・と息を吐き出せば、体温を孕んだ呼吸が冬の空にとけていく。
教団に来たばかりの頃、雪だ冬だ・と仔犬のようにはしゃいでいたアイツは――もう隣にいない。
「…思ったより、嘘が上手かったな」
思い返すのは、数ヶ月前の話。
秋も終わりに近付いてきていた時だった。
ルベリエが教団に来て、アイツにイノセンスの修復任務の『依頼』を持ってきた後の会話。
『保留にした?』
『はい。お受けするかどうかは、もう少し待ってください・ってお伝えしました』
保留。そう言ってしまえば確かに嘘ではないかもしれない。
けれど受ける気でいたのだろう。
その条件は恐らく、
「…チッ」
思わず毒づいてしまいそうになるが、ここまでくれば舌打ちしか出てこない。
苛立っているのは、俺自身にだった。
「…何に対しての謝罪か、分かんねぇだろうが。バカ名無し」
***
込み上げてくる吐瀉物も随分と見慣れてしまった。
あぁ、慣れって怖いなぁ・と他人事のように、吐き出してしまった胃液をぼんやり眺めた。
手の中には破壊されたはずのイノセンス。
そう。ここはいつかのエクソシストが『ノアの一族』に殺された場所だった。
灰褐色の肌、この眼によく似た金色の瞳。
心臓を握り潰され、それはどんなアクマよりも無慈悲な殺し方だった。
そして、最後に残った無防備なイノセンスを『壊して』彼はこの地を去っていく。
破壊されたイノセンスは原型を留めることが出来ない。
完全に消えた…かのように見えるが、それは違った。
『恐らく、破壊されたイノセンスはその場で奇怪になって存在し続けているだろう』
(あぁ、長官。その予想はビンゴですよ)
人相の悪い英国紳士を思い出しながら、私は持っていたミネラルウォーターを口に含んだ。
この無味無臭の、単に吐瀉物の不快感をなくためだけの飲み物にも慣れてしまった。
あぁ。暖かいお茶が飲みたい。
「終わりましたか」
サク・と新雪を踏む音。
上から下まで黒衣で覆われ、菱形の紋様が描かれた仮面を付けた青年が声を掛けてきた。
いつか聞いたことがある声のような気もするが、もはやそんな些細な事はどうでもよかった。
ルベリエが人員を選出したのだから彼がいてもおかしくない。
「はい、この通り。…ではヘブラスカへ届けに行きましょうか」
移動は…方舟を使わない。使いたくなかった。
別にやましいことをしているわけではないけれど、それでも居場所を知られるのが何となく嫌だった。
腰のポーチにイノセンスをしまい、ほぅと息を吐き出す。
凍りついた木々の間を吹き抜ける北風が、曖昧な輪郭の吐息をふわりと攫った。
「――寒いなぁ」