Re:pray
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簡単な会話だと聞き取れるようになったのは大きな進歩だと思う。
早口で流暢な英語は相変わらず目が点になってしまうけども。
松葉杖をついているせいだろう。
教団の中にある書架で本を読んでいると、色々な人に気を遣われてしまう。
勿論、善意で声をかけてくれているのは分かるのだが、完璧に言葉を聞き取ってあげることも難しいし、何より気を遣わせてしまうこと自体申し訳なかった。
(神田さん、早く帰ってこないかなぁ…)
唯一、肩の力を抜いて話が出来るのは今のところ彼だけだ。
ほかのエクソシストの人達についても紹介を受けたが、やはり緊張してしまうことに変わりはない。
言語の壁は予想以上に高い。
談話室の窓際に座れば、外の明るい光がふわりと差し込む。
ハードカバーの本を二冊。それと英和辞書。
分からない単語を丁寧に辞書で引きながら、本を読むのは勉強になる。
今までは、授業で与えられる単語や文法を鵜呑みにして覚えるだけだった。学校の授業とはそういうものだ。
けれど今は生きるための術になっている。本当の勉強とは自ら学ぶ姿勢が大事なのだと身に染みた。
(もうすぐ怪我も治るし、それまでに座学で覚えなくちゃいけないことは…覚えておかなきゃ)
大変だが、楽しい。
新しいことに挑戦するというのは、中々どうして悪くない。
「あら、名無し。読書?」
コツ、とヒールを鳴らしてやって来たのは、リナリーだ。
数少ない女性のエクソシストで、コムイさんの妹さん。
『分からないことがあったら、なんでも聞いてね。気軽にリナリーって呼んで頂戴!』とゆっくり、聞き取りやすい英語で話してくれたのをよく覚えている。
「うん。書架だと、よく心配されたり気を遣われちゃうから、」
「あぁ。なるほど。」
花の咲くような笑顔でクスクスと笑うリナリー。
…年上のお姉さんにこう言うのもなんだが、やっぱり何度見ても美人だ。
歩く度に揺れる長い黒髪も、スラリと伸びた美脚も眩しい。
それに加え性格も優しいときた。なるほど、これはモテるに違いない。
「それは多分、珍しいからじゃない?」
「?、あ。入団自体が少なくなっているから…とか?」
「それもあるけど。神田が世話を焼いてるから、かしら」
小さなテーブルの向かいに座り、リナリーが楽しそうに笑う。
…神田さんが、世話を焼いているから?
「そんなに珍しいんですか?」
「天変地異並にね。」
「てんぺんちい。」
それは大袈裟なのでは。
確かに彼はぶっきらぼうだし、お世辞にも愛想がいいわけでもない。
けれど天変地異は…言い過ぎなのでは…。
「本当よ?自分のことは自分でしろ、ってタイプだし。相変わらずアレン君とは喧嘩ばっかだし、私より年上なのに子供っぽいし、協調性もあまりないし。」
勿論、優しいんだけどね。分かりにくいけど。
小さく肩を竦めながらリナリーが困ったように笑う。
きっと面倒見のいい彼女は、もしかしたら昔の神田さんによく振り回されていたのだろうか。
仲裁に入ったり、叱ったり…あぁ、なんか想像出来るかも。
「ど、どうしよう……結構、頼っちゃってるの…迷惑に思われてないかな…」
「それはないと思うわ。」
ピシャリと即答するリナリー。
…ええっと、その根拠はどこから…?
「どちらかと言うと神田『が』世話を焼いてるもの。迷惑だと思っているなら、すぐに匙を投げるタイプだし。」
頼っているのと…世話を焼いているのは、どう違うのか。
小さく首を傾げるが、リナリーはただクスクスと楽しそうに笑うだけ。
「それに、こんな風に名無しとゆっくりお話出来るの、神田が任務に行ってる時くらいだけだもの。」
「えっと、それはどういう、」
「名無し。」
ここにいたのか。
刀を携えた彼が、石畳をコツコツと踵で鳴らしながらやってくる。
ソファの背面に立った彼を無遠慮に見上げれば、背中が仰け反るような形になった。
「おかえりなさい、神田さん!」
「帰ってくるの早すぎるわよ、神田。」
「…妙なこと吹き込んでねぇだろうな、リナリー」
じとりとリナリーを見遣る神田さんとは対照的に、目の前のチャイナ美人は…それはそれは美しく微笑む。
「さぁ?」
少し含んだように首を傾ける彼女を見て、神田さんは嫌そうに口元を僅かに歪める。
…なるほど。優等生学級委員長と、少し素行の悪い同級生…といったところか。
配役は言うまでもない。
「名無し。英会話の練習相手ならいくらでも付き合うわ。お茶会もしたいし、一緒にお買い物も行きたいもの。
ミランダも混ぜて、今度みんなで女子会しましょ?」
「う、うん!勉強、頑張るね。ありがとう、リナリー!」
お茶会。お買い物。
それは楽しみだ。…あぁ、でもその前にしっかり自立しなければ。
「気が済んだら早く兄さんのところへ報告してあげてよね、神田」
「ん。」
短い返事をひとつ返せば、リナリーは軽く手を振って談話室を後にした。
頭上から少し呆れたような神田さんの溜息がひとつ零れる。
「名無し。」
「はい?」
「正式に決まったから伝えておく。エクソシストとしての教育係、俺になったからな。」
教育係。
…つまるところ、師弟といった感じなのだろうか。
ティモシーくんと、クラウド元帥のような。
「…あれ?私、てっきり神田さんなのだとずっと思ってましたけど…」
「対アクマ武器の系統が違うからな。似たような適合者が使い方を教えるのが一番効率がいいんだが…」
あぁ。確かに。
神田さんの対アクマ武器は、腰に据えている刀である『六幻』。
かくいう私は『福音の瞳』と呼ばれる、この目…らしい。
刀でバッサバッサ斬っていく戦い方ではないだろうから、確かに『教える』という意味では適任かどうかは…怪しいかもしれない。
「…ま。まだ英語を完璧にマスターするのは、もう少し先の話になりそうだしな。日本語喋れる俺が担当になるよう、話はつけてきた」
「だ、だいぶ聞き取れるようになったんですよ?これでも、」
「ほう、そりゃ楽しみだな。」
ぽん・と頭をひと撫でされ、私の頭が少し沈む。
それが社交辞令なのか、本音なのか。
真意を理解することが出来なかったが、やることは決まっている。単純な話だ。
「う……さ、匙を投げられないように、頑張ります。」
「何の話だ?」
「迷惑だと思ったらちゃんと注意してくださいね!?」
「だから何の話だって聞いてんだろうが。」
呆れられないように、見限られないように。
今はとにかくこの環境に慣れなければ。
Re:pray#02
ほら、名無しと話している神田の顔ったら。
(あんな眉間にシワのない神田、初めて見たかも。)
あぁ。アレン君の言ってた通りだわ。
あんな表情をする神田、珍しいもの。
私の世界の、ささやかな変化。
それはまるで小さな新芽を見つけたような、喜ばしく、微笑ましい発見。
あぁ。今日も世界は美しい。
早口で流暢な英語は相変わらず目が点になってしまうけども。
松葉杖をついているせいだろう。
教団の中にある書架で本を読んでいると、色々な人に気を遣われてしまう。
勿論、善意で声をかけてくれているのは分かるのだが、完璧に言葉を聞き取ってあげることも難しいし、何より気を遣わせてしまうこと自体申し訳なかった。
(神田さん、早く帰ってこないかなぁ…)
唯一、肩の力を抜いて話が出来るのは今のところ彼だけだ。
ほかのエクソシストの人達についても紹介を受けたが、やはり緊張してしまうことに変わりはない。
言語の壁は予想以上に高い。
談話室の窓際に座れば、外の明るい光がふわりと差し込む。
ハードカバーの本を二冊。それと英和辞書。
分からない単語を丁寧に辞書で引きながら、本を読むのは勉強になる。
今までは、授業で与えられる単語や文法を鵜呑みにして覚えるだけだった。学校の授業とはそういうものだ。
けれど今は生きるための術になっている。本当の勉強とは自ら学ぶ姿勢が大事なのだと身に染みた。
(もうすぐ怪我も治るし、それまでに座学で覚えなくちゃいけないことは…覚えておかなきゃ)
大変だが、楽しい。
新しいことに挑戦するというのは、中々どうして悪くない。
「あら、名無し。読書?」
コツ、とヒールを鳴らしてやって来たのは、リナリーだ。
数少ない女性のエクソシストで、コムイさんの妹さん。
『分からないことがあったら、なんでも聞いてね。気軽にリナリーって呼んで頂戴!』とゆっくり、聞き取りやすい英語で話してくれたのをよく覚えている。
「うん。書架だと、よく心配されたり気を遣われちゃうから、」
「あぁ。なるほど。」
花の咲くような笑顔でクスクスと笑うリナリー。
…年上のお姉さんにこう言うのもなんだが、やっぱり何度見ても美人だ。
歩く度に揺れる長い黒髪も、スラリと伸びた美脚も眩しい。
それに加え性格も優しいときた。なるほど、これはモテるに違いない。
「それは多分、珍しいからじゃない?」
「?、あ。入団自体が少なくなっているから…とか?」
「それもあるけど。神田が世話を焼いてるから、かしら」
小さなテーブルの向かいに座り、リナリーが楽しそうに笑う。
…神田さんが、世話を焼いているから?
「そんなに珍しいんですか?」
「天変地異並にね。」
「てんぺんちい。」
それは大袈裟なのでは。
確かに彼はぶっきらぼうだし、お世辞にも愛想がいいわけでもない。
けれど天変地異は…言い過ぎなのでは…。
「本当よ?自分のことは自分でしろ、ってタイプだし。相変わらずアレン君とは喧嘩ばっかだし、私より年上なのに子供っぽいし、協調性もあまりないし。」
勿論、優しいんだけどね。分かりにくいけど。
小さく肩を竦めながらリナリーが困ったように笑う。
きっと面倒見のいい彼女は、もしかしたら昔の神田さんによく振り回されていたのだろうか。
仲裁に入ったり、叱ったり…あぁ、なんか想像出来るかも。
「ど、どうしよう……結構、頼っちゃってるの…迷惑に思われてないかな…」
「それはないと思うわ。」
ピシャリと即答するリナリー。
…ええっと、その根拠はどこから…?
「どちらかと言うと神田『が』世話を焼いてるもの。迷惑だと思っているなら、すぐに匙を投げるタイプだし。」
頼っているのと…世話を焼いているのは、どう違うのか。
小さく首を傾げるが、リナリーはただクスクスと楽しそうに笑うだけ。
「それに、こんな風に名無しとゆっくりお話出来るの、神田が任務に行ってる時くらいだけだもの。」
「えっと、それはどういう、」
「名無し。」
ここにいたのか。
刀を携えた彼が、石畳をコツコツと踵で鳴らしながらやってくる。
ソファの背面に立った彼を無遠慮に見上げれば、背中が仰け反るような形になった。
「おかえりなさい、神田さん!」
「帰ってくるの早すぎるわよ、神田。」
「…妙なこと吹き込んでねぇだろうな、リナリー」
じとりとリナリーを見遣る神田さんとは対照的に、目の前のチャイナ美人は…それはそれは美しく微笑む。
「さぁ?」
少し含んだように首を傾ける彼女を見て、神田さんは嫌そうに口元を僅かに歪める。
…なるほど。優等生学級委員長と、少し素行の悪い同級生…といったところか。
配役は言うまでもない。
「名無し。英会話の練習相手ならいくらでも付き合うわ。お茶会もしたいし、一緒にお買い物も行きたいもの。
ミランダも混ぜて、今度みんなで女子会しましょ?」
「う、うん!勉強、頑張るね。ありがとう、リナリー!」
お茶会。お買い物。
それは楽しみだ。…あぁ、でもその前にしっかり自立しなければ。
「気が済んだら早く兄さんのところへ報告してあげてよね、神田」
「ん。」
短い返事をひとつ返せば、リナリーは軽く手を振って談話室を後にした。
頭上から少し呆れたような神田さんの溜息がひとつ零れる。
「名無し。」
「はい?」
「正式に決まったから伝えておく。エクソシストとしての教育係、俺になったからな。」
教育係。
…つまるところ、師弟といった感じなのだろうか。
ティモシーくんと、クラウド元帥のような。
「…あれ?私、てっきり神田さんなのだとずっと思ってましたけど…」
「対アクマ武器の系統が違うからな。似たような適合者が使い方を教えるのが一番効率がいいんだが…」
あぁ。確かに。
神田さんの対アクマ武器は、腰に据えている刀である『六幻』。
かくいう私は『福音の瞳』と呼ばれる、この目…らしい。
刀でバッサバッサ斬っていく戦い方ではないだろうから、確かに『教える』という意味では適任かどうかは…怪しいかもしれない。
「…ま。まだ英語を完璧にマスターするのは、もう少し先の話になりそうだしな。日本語喋れる俺が担当になるよう、話はつけてきた」
「だ、だいぶ聞き取れるようになったんですよ?これでも、」
「ほう、そりゃ楽しみだな。」
ぽん・と頭をひと撫でされ、私の頭が少し沈む。
それが社交辞令なのか、本音なのか。
真意を理解することが出来なかったが、やることは決まっている。単純な話だ。
「う……さ、匙を投げられないように、頑張ります。」
「何の話だ?」
「迷惑だと思ったらちゃんと注意してくださいね!?」
「だから何の話だって聞いてんだろうが。」
呆れられないように、見限られないように。
今はとにかくこの環境に慣れなければ。
Re:pray#02
ほら、名無しと話している神田の顔ったら。
(あんな眉間にシワのない神田、初めて見たかも。)
あぁ。アレン君の言ってた通りだわ。
あんな表情をする神田、珍しいもの。
私の世界の、ささやかな変化。
それはまるで小さな新芽を見つけたような、喜ばしく、微笑ましい発見。
あぁ。今日も世界は美しい。