Re:pray
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アジア支部から馬車に揺られ、辿り着いたのは海岸沿いの村。
この海の向こうに、違う世界の故郷があり、アクマの国がある。
「行くぞ、名無し。」
「はい!」
一歩前を歩く元帥二人を追いかけるように、私は小走りで駆けて行った。
***
「ようこそ、エクソシスト様。」
協力者であり、この村の村長である男の元へ案内される。
アクマの襲撃を何度も目の当たりにしているせいか、表情はどこか陰鬱な印象を受けた。
「早速ですが宿に案内させていただきたいのですが…その…」
「どうかされましたかな?」
「…恐らく、村人に擬態しているアクマが、何人か…」
ティエドールが村長に尋ねれば、苦々しい顔で老齢の男は項垂れた。
アクマが人間の『皮』を被れば、人間はおろかエクソシストですら判別は不可能に近い。
だからアクマは人間の世界に溶け込み、毒のようにジワジワとヒトを食らっていく。
元の魂は人間のソレなのだから、人間社会に溶け込むことは造作もないのだろう。
「ふむ。じゃあ村人の『判別』は名無しちゃんにお願いしようかな」
「分かりました!」
「神田と僕は宿で待機してるよ」
一瞬、神田が何か言いかけるように口を開くが、それをティエドールが制する。
まるで『お前は黙っていなさい』と言わんばかりに。
***
「どうしてアイツ一人で行かせた」
椅子に座り、持ち歩いているイーゼルとスケッチブック、木炭を取り出し始めたティエドールに俺は問うた。
分厚いレンズの向こうから、ちらりとこちらを伺い見るような視線が向けられる。
「――何日治ってないんだい?」
「…なんの事だ。」
「僕は君の師匠だよ。そのくらい分かるよ。
その団服の下の怪我、もう何日治ってないんだい?」
俺は、反論出来なかった。
膿んだような傷は包帯で適当に隠し、刀を振るう度に激痛が走る肩の怪我は一番酷かった。
呪符はもう効果を成していない。
いつ、動かなくなってもおかしくなかった。
「…チッ。アンタのそういう目敏いところが、嫌いなんだ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ベッドに座り込み、六幻を立て掛ける。
もうこれを振るうことが出来るのは、何回だろう。
確実に近づいてくる『死』の足音。
無意識の内にずっとそれを待ち焦がれていたのに、今はこんなにも――口惜しい。
「アンタが教団へ帰ってきたのがタイミングが良すぎるとは思ったが」
「まだ弟子をひとり立ちさせるには心許ないだろうと思ってね」
…あぁ。アイツを遺して、俺は逝くのか。
つまりティエドール元帥は引き継ぎに来たのだ。
あの無鉄砲で、ころころと笑う彼女を。
「…死ぬのが惜しいかい?」
「今はな。」
自分でも驚く程に即答できた。
満足いく人生とは到底言えなかったが、『終わる』ことがこんなにも心残りになるだなんて、昔の自分では考えられなかったことだ。
俺がそう答えると、目の前の師は…少し悲しそうにただ黙って笑っていた。
***
挙動が歪だった、村のはずれに住んでいる老婆。
はたまた仲睦まじい、一見普通の兄妹まで。
(これで、5人)
あまり広くない村中を駆ければ、人のふりをしているアクマはごまんといた。
それもそのはず。アクマによって殺され、身内を失った家族がこの村には溢れている。
死を嘆き、誰かに願わずにはいられなかったのだろう。
手を差し出してきた相手が、悪だと知っていても。
(――あの時、)
私だったら、どうしただろうか。
…無駄な問答だ。恐らく愚かしくも願っただろう。
もう一度、両親に会いたい・と。
幸か不幸か、私のいた世界には『千年伯爵』も『神様』もいなかったわけだけれども。
仮に願いが届いたとして、両親がアクマになったとして。私は『もう一度』彼らを殺す――いや、壊すことになっていただろう。
…皮肉な話だ。
結局のところ、どう足掻いても私が死ぬことも、両親と相見えることもないのだから。
『ああぁ、お母さん、お母さん!』
中国語で聞き取ることができないが、恐らく母の名前を呼んでいるのだろう。
別れの言葉を紡ぐ前に。目の前で母親がいなくなってしまう覚悟を決めさせる前に。無情にも機械の骸となり、光になって霧散してしまう。
『視た』だけでアクマを結果的に破壊するこの瞳は、慈悲がないように思えてしまった。
だからだろう。
突然身内を失ってしまった、残された家族から罵倒されるのは。
『この、悪魔!人殺し…人殺し!!』
悲しみが感情を塗り潰した瞬間、誰かを罵倒せずにはいられない。
知ってる。経験済だ。
それでその人の心が少しでも晴れるなら、甘んじて罵倒を受けよう。
(ごめんなさい。)
投げられる石を避けることもせず、私は呟くように謝罪の言葉を心の中でそっと呟く。
痛い。痛くない。痛い。痛くない。
こめかみに当たった投石。手の甲で雑に拭えば鮮やかな赤が滲む。
――痛くない。大丈夫だ。平気だ。
「…あと、何体いるんだろうなぁ」
潜むアクマは数知れず。虱潰しに村人と顔を合わせていくしかない。
――あぁ、面倒だ。
いや…逆に考えよう。この心無い誹りから、穏やかな元帥とぶっきらぼうな師を守れるのだと思えば。
(大丈夫だ。痛くない。)
Re:pray#18
CHINA crisis-03
いくら人々が嘆こうとも、それでも私は壊し続ける。
この『瞳』の価値を証明するために。
顔も知らない人達の命を『こんなもの』で奪ってしまった。
唯一の肉親を『こんなもの』で喪ってしまった。
そう思わないために、これは『価値あるものだ』と証明し続けなければ。
(これは、贖罪だ)
あの日、ひとり生き延びてしまった私が、唯一出来ること。
痛くない。痛くない。痛くない。
心も、体も、何もかも。
何にも執着しない。自分は死んでしまったものだと諦めてしまえば、こんなもの、
『行くぞ、名無し。』
出来てしまった、だいじなもの。
手放すのが怖い。
看取るのが怖い。
離れてしまうのが、
(大丈夫だ。痛くない。痛くない。)
痛くなんか、ない。
この海の向こうに、違う世界の故郷があり、アクマの国がある。
「行くぞ、名無し。」
「はい!」
一歩前を歩く元帥二人を追いかけるように、私は小走りで駆けて行った。
***
「ようこそ、エクソシスト様。」
協力者であり、この村の村長である男の元へ案内される。
アクマの襲撃を何度も目の当たりにしているせいか、表情はどこか陰鬱な印象を受けた。
「早速ですが宿に案内させていただきたいのですが…その…」
「どうかされましたかな?」
「…恐らく、村人に擬態しているアクマが、何人か…」
ティエドールが村長に尋ねれば、苦々しい顔で老齢の男は項垂れた。
アクマが人間の『皮』を被れば、人間はおろかエクソシストですら判別は不可能に近い。
だからアクマは人間の世界に溶け込み、毒のようにジワジワとヒトを食らっていく。
元の魂は人間のソレなのだから、人間社会に溶け込むことは造作もないのだろう。
「ふむ。じゃあ村人の『判別』は名無しちゃんにお願いしようかな」
「分かりました!」
「神田と僕は宿で待機してるよ」
一瞬、神田が何か言いかけるように口を開くが、それをティエドールが制する。
まるで『お前は黙っていなさい』と言わんばかりに。
***
「どうしてアイツ一人で行かせた」
椅子に座り、持ち歩いているイーゼルとスケッチブック、木炭を取り出し始めたティエドールに俺は問うた。
分厚いレンズの向こうから、ちらりとこちらを伺い見るような視線が向けられる。
「――何日治ってないんだい?」
「…なんの事だ。」
「僕は君の師匠だよ。そのくらい分かるよ。
その団服の下の怪我、もう何日治ってないんだい?」
俺は、反論出来なかった。
膿んだような傷は包帯で適当に隠し、刀を振るう度に激痛が走る肩の怪我は一番酷かった。
呪符はもう効果を成していない。
いつ、動かなくなってもおかしくなかった。
「…チッ。アンタのそういう目敏いところが、嫌いなんだ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
ベッドに座り込み、六幻を立て掛ける。
もうこれを振るうことが出来るのは、何回だろう。
確実に近づいてくる『死』の足音。
無意識の内にずっとそれを待ち焦がれていたのに、今はこんなにも――口惜しい。
「アンタが教団へ帰ってきたのがタイミングが良すぎるとは思ったが」
「まだ弟子をひとり立ちさせるには心許ないだろうと思ってね」
…あぁ。アイツを遺して、俺は逝くのか。
つまりティエドール元帥は引き継ぎに来たのだ。
あの無鉄砲で、ころころと笑う彼女を。
「…死ぬのが惜しいかい?」
「今はな。」
自分でも驚く程に即答できた。
満足いく人生とは到底言えなかったが、『終わる』ことがこんなにも心残りになるだなんて、昔の自分では考えられなかったことだ。
俺がそう答えると、目の前の師は…少し悲しそうにただ黙って笑っていた。
***
挙動が歪だった、村のはずれに住んでいる老婆。
はたまた仲睦まじい、一見普通の兄妹まで。
(これで、5人)
あまり広くない村中を駆ければ、人のふりをしているアクマはごまんといた。
それもそのはず。アクマによって殺され、身内を失った家族がこの村には溢れている。
死を嘆き、誰かに願わずにはいられなかったのだろう。
手を差し出してきた相手が、悪だと知っていても。
(――あの時、)
私だったら、どうしただろうか。
…無駄な問答だ。恐らく愚かしくも願っただろう。
もう一度、両親に会いたい・と。
幸か不幸か、私のいた世界には『千年伯爵』も『神様』もいなかったわけだけれども。
仮に願いが届いたとして、両親がアクマになったとして。私は『もう一度』彼らを殺す――いや、壊すことになっていただろう。
…皮肉な話だ。
結局のところ、どう足掻いても私が死ぬことも、両親と相見えることもないのだから。
『ああぁ、お母さん、お母さん!』
中国語で聞き取ることができないが、恐らく母の名前を呼んでいるのだろう。
別れの言葉を紡ぐ前に。目の前で母親がいなくなってしまう覚悟を決めさせる前に。無情にも機械の骸となり、光になって霧散してしまう。
『視た』だけでアクマを結果的に破壊するこの瞳は、慈悲がないように思えてしまった。
だからだろう。
突然身内を失ってしまった、残された家族から罵倒されるのは。
『この、悪魔!人殺し…人殺し!!』
悲しみが感情を塗り潰した瞬間、誰かを罵倒せずにはいられない。
知ってる。経験済だ。
それでその人の心が少しでも晴れるなら、甘んじて罵倒を受けよう。
(ごめんなさい。)
投げられる石を避けることもせず、私は呟くように謝罪の言葉を心の中でそっと呟く。
痛い。痛くない。痛い。痛くない。
こめかみに当たった投石。手の甲で雑に拭えば鮮やかな赤が滲む。
――痛くない。大丈夫だ。平気だ。
「…あと、何体いるんだろうなぁ」
潜むアクマは数知れず。虱潰しに村人と顔を合わせていくしかない。
――あぁ、面倒だ。
いや…逆に考えよう。この心無い誹りから、穏やかな元帥とぶっきらぼうな師を守れるのだと思えば。
(大丈夫だ。痛くない。)
Re:pray#18
CHINA crisis-03
いくら人々が嘆こうとも、それでも私は壊し続ける。
この『瞳』の価値を証明するために。
顔も知らない人達の命を『こんなもの』で奪ってしまった。
唯一の肉親を『こんなもの』で喪ってしまった。
そう思わないために、これは『価値あるものだ』と証明し続けなければ。
(これは、贖罪だ)
あの日、ひとり生き延びてしまった私が、唯一出来ること。
痛くない。痛くない。痛くない。
心も、体も、何もかも。
何にも執着しない。自分は死んでしまったものだと諦めてしまえば、こんなもの、
『行くぞ、名無し。』
出来てしまった、だいじなもの。
手放すのが怖い。
看取るのが怖い。
離れてしまうのが、
(大丈夫だ。痛くない。痛くない。)
痛くなんか、ない。