Re:pray
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アクマが巣食う国、日本に近い中国はアクマの脅威に常に晒されていた。
海を渡れば人々が住まう国。
海を超えればアクマが巣食う国。
狩られる人間と、狩るアクマ。
狩られるアクマと、狩るエクソシスト。
「こうも多かったら辟易しちゃうねぇ」
「確かに。あ、神田さーん、大っきいのそっちに行きました!」
襲われていた海岸沿いの村を、ティエドールの作った彫刻が覆い隠すように護る。
その彫刻の上でアクマを迎撃するのは名無しと、
「ふん。二幻『八花螳蜋』」
息ひとつ乱さず、神田が振るう六幻によって、三つの顔を持つ巨大化したアクマが粉々に粉砕された。
「うん。これで打ち止めかな」
「だろうな。」
ティエドールが造った戦士の彫刻の上へ、足蹴にするように降り立った神田。
辺りを見回しながら、抜刀されていた六幻を鞘に納める。
同じように楽園ノ彫刻の上で埃を拭う、名無しを見下ろしながら。
Re:pray#16
CHINA crisis-01
『――保留にした?』
『はい。お受けするかどうかは、もう少し待ってください・ってお伝えしました』
ルベリエが帰った後すぐ、コイツは俺の所へわざわざ報告しに来た。
…正直、気にしていなかった…わけではない。
けれど名無しの口振りからして承諾してしまうものだと思っていたから、意外といえば意外だった。
鍛錬中だった俺は手の甲で汗を拭い、誰にも気づかれないような安堵の息をそっと零した。
本音を言えば、かつての親友を母体にした『第三エクソシスト』の計画自体、俺自身赦せたわけではない。
『彼』を再生不可能になるまで、完膚なきまでに破壊したのは俺なわけだが、それでも――どうしても、赦すことができなかった。
それは教団も、ルベリエも、俺自身に対しても。
だからだろう。心のどこかでほっとしたのは。
コイツを連れてきたのは俺だ。
いくら彼女が選んだ結果とはいえ、責任を感じないわけではなかった。
また俺のせいで『壊れる』のかと。
少しだけ、怖かった。
『ほら、私は半人前ですし!まだまだ神田さんに鍛えてもらう必要がありますから!』
嬉々とした表情で、無遠慮に見上げてくる名無し。
――俺は、いつまでコイツの『師』でいることが、出来るのだろう。
そう思った瞬間、この残りの寿命が途端に口惜しくなった。
もう長くない。
恐らく次に『死んだ』ら、きっと終わり。
泥の底に沈み、陽の目は二度と拝めないだろう。
(あぁ。やっと『神田ユウ』として、やりてぇこと見つけたのに。
…皮肉なもんだな、アルマ。)
『そうだな。――最期まで、ちゃんと面倒見てやる』
俺が、終わってしまう最期まで。
そう答えてやれば、仔犬のように無邪気な弟子は『はい!』と元気よく返事を返した。
***
そんなやり取りをしたのが、数日前。
今、俺はティエドール元帥と名無し、三人で中国へ来ていた。
少し前までマリとミランダ、チャオジーが任務についていた『前線任務』だ。
未だに個体数が多い、日本から飛来してくるアクマを殲滅する――今、一番の激戦区の任務だ。
と言っても、かつての過激さはなりを潜めつつある。戦争中に比べたら生易しいものだった。
「相変わらず寒ィな。」
「これでも今年は暖冬な方なんだがな…」
拠点として使われるのは、最寄りであるアジア支部。
その敷地内には、殉職した団員が火葬され、埋葬された集団墓地があった。
支部長であるバクに案内され、俺はそこへ墓参りに来ていた。
「…戦争以来だな」
ポツリと呟き、見下ろすのは六幻の親のような存在である、ズゥ・メイ・チャンの墓。
バクの母方の大叔父であり、第二エクソシストの悲劇に誰よりも心を痛めていた老人。
俺が見ていた『蓮の花』を知っていた、唯一の男。
「私は…席を外した方がいいな」
「いや。必要ねぇ」
持っていた花を適当に生け、俺は墓の前から立ち上がる。
墓石と語らう趣味はない。
それに、かの老人から受けた教えは――今もこの胸に。
「最初で、最後の墓参りになるだろうからな。形だけでもしておきたかっただけだ。」
俺がそう答えれば、バクは気まずそうに視線を落とし「…そうか。」と一言呟いた。
責任なんかねぇのに、無駄に気を負っていたコイツならこれで全て伝わるだろう。
「神田ユウ。ひとつ聞いてもいいか。」
「んだよ」
「…どうして今更、弟子なんかとる気になったんだ?」
粉雪がちらつく寒空の下、バクが不思議そうに問うてきた。
…どうして?……なんでだろうな。
ちゃんとした答えは相変わらず俺の中でも見つけられてなかった。
けれど、あぁ。
――きっと、こういうことだろう。
「さぁな。…何か、残して起きたかったのかもな。『神田ユウ』が確かにそこにいた、何かを」
壊すことしか出来なかった自分が、何かを育てる・ということを。
絶対に俺を忘れないでいてくれる、誰かが欲しかったのかもしれない。
海を渡れば人々が住まう国。
海を超えればアクマが巣食う国。
狩られる人間と、狩るアクマ。
狩られるアクマと、狩るエクソシスト。
「こうも多かったら辟易しちゃうねぇ」
「確かに。あ、神田さーん、大っきいのそっちに行きました!」
襲われていた海岸沿いの村を、ティエドールの作った彫刻が覆い隠すように護る。
その彫刻の上でアクマを迎撃するのは名無しと、
「ふん。二幻『八花螳蜋』」
息ひとつ乱さず、神田が振るう六幻によって、三つの顔を持つ巨大化したアクマが粉々に粉砕された。
「うん。これで打ち止めかな」
「だろうな。」
ティエドールが造った戦士の彫刻の上へ、足蹴にするように降り立った神田。
辺りを見回しながら、抜刀されていた六幻を鞘に納める。
同じように楽園ノ彫刻の上で埃を拭う、名無しを見下ろしながら。
Re:pray#16
CHINA crisis-01
『――保留にした?』
『はい。お受けするかどうかは、もう少し待ってください・ってお伝えしました』
ルベリエが帰った後すぐ、コイツは俺の所へわざわざ報告しに来た。
…正直、気にしていなかった…わけではない。
けれど名無しの口振りからして承諾してしまうものだと思っていたから、意外といえば意外だった。
鍛錬中だった俺は手の甲で汗を拭い、誰にも気づかれないような安堵の息をそっと零した。
本音を言えば、かつての親友を母体にした『第三エクソシスト』の計画自体、俺自身赦せたわけではない。
『彼』を再生不可能になるまで、完膚なきまでに破壊したのは俺なわけだが、それでも――どうしても、赦すことができなかった。
それは教団も、ルベリエも、俺自身に対しても。
だからだろう。心のどこかでほっとしたのは。
コイツを連れてきたのは俺だ。
いくら彼女が選んだ結果とはいえ、責任を感じないわけではなかった。
また俺のせいで『壊れる』のかと。
少しだけ、怖かった。
『ほら、私は半人前ですし!まだまだ神田さんに鍛えてもらう必要がありますから!』
嬉々とした表情で、無遠慮に見上げてくる名無し。
――俺は、いつまでコイツの『師』でいることが、出来るのだろう。
そう思った瞬間、この残りの寿命が途端に口惜しくなった。
もう長くない。
恐らく次に『死んだ』ら、きっと終わり。
泥の底に沈み、陽の目は二度と拝めないだろう。
(あぁ。やっと『神田ユウ』として、やりてぇこと見つけたのに。
…皮肉なもんだな、アルマ。)
『そうだな。――最期まで、ちゃんと面倒見てやる』
俺が、終わってしまう最期まで。
そう答えてやれば、仔犬のように無邪気な弟子は『はい!』と元気よく返事を返した。
***
そんなやり取りをしたのが、数日前。
今、俺はティエドール元帥と名無し、三人で中国へ来ていた。
少し前までマリとミランダ、チャオジーが任務についていた『前線任務』だ。
未だに個体数が多い、日本から飛来してくるアクマを殲滅する――今、一番の激戦区の任務だ。
と言っても、かつての過激さはなりを潜めつつある。戦争中に比べたら生易しいものだった。
「相変わらず寒ィな。」
「これでも今年は暖冬な方なんだがな…」
拠点として使われるのは、最寄りであるアジア支部。
その敷地内には、殉職した団員が火葬され、埋葬された集団墓地があった。
支部長であるバクに案内され、俺はそこへ墓参りに来ていた。
「…戦争以来だな」
ポツリと呟き、見下ろすのは六幻の親のような存在である、ズゥ・メイ・チャンの墓。
バクの母方の大叔父であり、第二エクソシストの悲劇に誰よりも心を痛めていた老人。
俺が見ていた『蓮の花』を知っていた、唯一の男。
「私は…席を外した方がいいな」
「いや。必要ねぇ」
持っていた花を適当に生け、俺は墓の前から立ち上がる。
墓石と語らう趣味はない。
それに、かの老人から受けた教えは――今もこの胸に。
「最初で、最後の墓参りになるだろうからな。形だけでもしておきたかっただけだ。」
俺がそう答えれば、バクは気まずそうに視線を落とし「…そうか。」と一言呟いた。
責任なんかねぇのに、無駄に気を負っていたコイツならこれで全て伝わるだろう。
「神田ユウ。ひとつ聞いてもいいか。」
「んだよ」
「…どうして今更、弟子なんかとる気になったんだ?」
粉雪がちらつく寒空の下、バクが不思議そうに問うてきた。
…どうして?……なんでだろうな。
ちゃんとした答えは相変わらず俺の中でも見つけられてなかった。
けれど、あぁ。
――きっと、こういうことだろう。
「さぁな。…何か、残して起きたかったのかもな。『神田ユウ』が確かにそこにいた、何かを」
壊すことしか出来なかった自分が、何かを育てる・ということを。
絶対に俺を忘れないでいてくれる、誰かが欲しかったのかもしれない。