Re:pray
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『…好きにしろ』
親愛なる師はそう言って踵を返して行った。
彼の考えも、気遣いも、汲んであげたいのは山々だが――
「神田ユウはどうした。」
「あとは好きにしろ・とのことなので、話合いは私だけで十分かと。師の手を煩わせる程のお返事でもないので」
そう答えれば、目の前のルベリエは深く溜息を吐いて一人掛けのソファに深く座り直した。
「…意外だったな。」
「何がですか?」
「もう長くない彼が弟子を取ったことが、だ」
しかも意外にもそれに執着していることも。
空になったティーカップを置き、ルベリエがそっと瞼を閉じた。
「先程の件ですけど、お受けしようかと。」
「…君も変わっているな。普通は断るところではないのかね?」
「うーん…」
確かに『普通』ならそうかもしれない。
けれどそんな価値観は当の昔に捨ててしまった。
あの日から、ずっと。
「長官がいかに人でなしかは方々から聞いていますけど…ほら。それは戦争中の話で、戦う『エクソシスト』側からだけの意見ですし。
勿論、無茶な戦いを強要されたら、命が誰しも惜しいはずですから反発するのは当然ですよね」
そんな詳しく聞き及んでいたわけではないけれど、誰しもが監査官を『ヴァチカンの狗』『エクソシストをただの兵器としか思わぬ上層部』と口を揃えて言っていた。
戦争を経験していないからか、はたまた別の世界からやってきたせいか。
組織とは往々にしてそういう形であり、戦争中ならばそれはある意味『正しい』組織の形だと、私は口に出さないもののそう感じていた。
無茶な出撃を要求する上官と、それに反発する前線の兵士。
紐解けば、歴史上ずっと繰り返されている戦争の縮図だ。
「それは…まるで君が『命は惜しくない』と言っているようにも聞こえるが?」
眉ひとつ動かさず問うてくるルベリエ。
そう訊いてきた彼に、私は笑った。
「ただ、少し気が変わりまして。…ひとつ、お尋ねしたい事が。」
「何だね?」
「『長くない』って、どういうことですか?」
真っ直ぐ、目の前の老猾な男を見遣れば、僅かに目が細まる。
聞き逃すわけがない、些細な一言。
「…君は知らされていないのならば、知る必要はない。」
「必要があるかどうかは私が決めます。
――長官。これは『お願い』ではありません。『交換条件』です。」
紅茶の雫が乾き、茶色の茶渋がついたティースプーン。
ただの食器も力を込めてしまえば『抉る』くらいは出来るだろう。
逆手に握り、自分自身の眼に突きつけた。
アイスクリームを掬う要領で眼球を抉ることなんて容易いだろう。
「別にいいんですよ?こんな目、私にはなんの価値もありませんから。今すぐ抉り取って叩き潰しても。」
惜しいとは思わない。
私は、何にも執着などしないのだから。
「…それは脅しに近いな」とルベリエが呆れたように呟き、呼び鈴をひとつ鳴らす。
ドアの前で待機していた部下を呼び、ティーカップを指さした。
「話せば長くなる。…新しい紅茶はいかがかね」
「頂きましょう。嘘偽りのない真実をお話してくださるのなら。」
Re:pray#15
inescapable Your(my) fate-02
そう。
私は、何にも執着しないと思っていたのに。
親愛なる師はそう言って踵を返して行った。
彼の考えも、気遣いも、汲んであげたいのは山々だが――
「神田ユウはどうした。」
「あとは好きにしろ・とのことなので、話合いは私だけで十分かと。師の手を煩わせる程のお返事でもないので」
そう答えれば、目の前のルベリエは深く溜息を吐いて一人掛けのソファに深く座り直した。
「…意外だったな。」
「何がですか?」
「もう長くない彼が弟子を取ったことが、だ」
しかも意外にもそれに執着していることも。
空になったティーカップを置き、ルベリエがそっと瞼を閉じた。
「先程の件ですけど、お受けしようかと。」
「…君も変わっているな。普通は断るところではないのかね?」
「うーん…」
確かに『普通』ならそうかもしれない。
けれどそんな価値観は当の昔に捨ててしまった。
あの日から、ずっと。
「長官がいかに人でなしかは方々から聞いていますけど…ほら。それは戦争中の話で、戦う『エクソシスト』側からだけの意見ですし。
勿論、無茶な戦いを強要されたら、命が誰しも惜しいはずですから反発するのは当然ですよね」
そんな詳しく聞き及んでいたわけではないけれど、誰しもが監査官を『ヴァチカンの狗』『エクソシストをただの兵器としか思わぬ上層部』と口を揃えて言っていた。
戦争を経験していないからか、はたまた別の世界からやってきたせいか。
組織とは往々にしてそういう形であり、戦争中ならばそれはある意味『正しい』組織の形だと、私は口に出さないもののそう感じていた。
無茶な出撃を要求する上官と、それに反発する前線の兵士。
紐解けば、歴史上ずっと繰り返されている戦争の縮図だ。
「それは…まるで君が『命は惜しくない』と言っているようにも聞こえるが?」
眉ひとつ動かさず問うてくるルベリエ。
そう訊いてきた彼に、私は笑った。
「ただ、少し気が変わりまして。…ひとつ、お尋ねしたい事が。」
「何だね?」
「『長くない』って、どういうことですか?」
真っ直ぐ、目の前の老猾な男を見遣れば、僅かに目が細まる。
聞き逃すわけがない、些細な一言。
「…君は知らされていないのならば、知る必要はない。」
「必要があるかどうかは私が決めます。
――長官。これは『お願い』ではありません。『交換条件』です。」
紅茶の雫が乾き、茶色の茶渋がついたティースプーン。
ただの食器も力を込めてしまえば『抉る』くらいは出来るだろう。
逆手に握り、自分自身の眼に突きつけた。
アイスクリームを掬う要領で眼球を抉ることなんて容易いだろう。
「別にいいんですよ?こんな目、私にはなんの価値もありませんから。今すぐ抉り取って叩き潰しても。」
惜しいとは思わない。
私は、何にも執着などしないのだから。
「…それは脅しに近いな」とルベリエが呆れたように呟き、呼び鈴をひとつ鳴らす。
ドアの前で待機していた部下を呼び、ティーカップを指さした。
「話せば長くなる。…新しい紅茶はいかがかね」
「頂きましょう。嘘偽りのない真実をお話してくださるのなら。」
Re:pray#15
inescapable Your(my) fate-02
そう。
私は、何にも執着しないと思っていたのに。