Re:pray
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俺が、知っていること。
Re:pray#13
脇腹を抉った傷を縫合し、暫くして抜糸した次の日。
まさか来るわけがない・と思っていた俺が馬鹿だった。
「おはようございます!」
嬉々とした表情で、朝の鍛錬にやってくる名無し。
婦長に『暫く安静にしていなさい』と念を押されていたことを、コイツは忘れているのか。
それとも鍛錬はセーフだと考えているのか。
…恐らく後者だろう。
「部屋へ帰れ。」
その時俺は、さぞかし呆れた顔をしていただろう。
六幻の柄で頭を小突けば、何か言いたそうに口篭り、肩を落として教団へ戻って行った。
鍛錬は欠かすな・とは言ったが、まさかここまでとは。馬鹿がつくほど馬鹿真面目とはこのことだろう。
***
「先程はすみませんでした。」
朝飯を食いに食堂へ向かえば、こちらを窺うようにひょこひょことやってくる名無し。
開口一番にこれだ。
深々と頭を下げるものだから、怒るに怒れない。
「抜糸して一週間は安静だって言われただろうが。」
「すみません…」
「………来週から鍛錬、付き合ってやる」
そう言い聞かせれば、ぱあっと一気に表情が明るくなる。
叱られた後、甘やかされた時の…まるで子犬だ。
眩いくらいに素直。それがコイツだ。
***
好きな場所。
談話室の日当たりのいい窓際。
昼食を持ち出したのだろう、綺麗に食べられた皿がすぐ側に置かれたままだった。
食パンのクズが皿に残っているところからして、サンドイッチでも食べていたのだろうか。
本を開いたまま、壁に頭を預けてウトウト船を漕いでいる。
秋に差し掛かろうとしているこの季節、昼下がりの陽気はさぞかし心地よかったのだろう。
(…やっぱり子犬だな)
瞼を縁取る睫毛。白い肌。
薄く開かれた柔らかそうな唇。
すぅすぅと寝息をたてる姿は年齢よりあどけなく見える。
「起きろ、名無し。」
「ふぎゅ、」
餅のような頬を摘めば、間抜けな声を上げて目を覚ました。
「図鑑読んでたら寝ちゃってました…」
「活字追ってばかりだからだろ。」
「そうですけど…ほらでも、こういうの覚えたら楽しいですよ!」
名無しが持っているのは、鈍器のような厚みの植物図鑑だ。
…コイツの妙な知識はこういうところから吸収しているのだろうか。
***
「ジェリーさん!生姜焼き定食大盛りくださーい!」
「アラ、名無しちゃん。デザートは?」
「プリンが食べたいです!」
食べ合わせは特に気にしないらしい。
モヤシの食事量は論外として、寄生型イノセンス故か教団に来てからよく食べるようになった。
その割に筋肉が中々つかない。おかげで本人は『どうしたものか』と頭を捻らせている。
骨格や体質もあるのだろう、こればかりは仕方がない。
***
他に俺が知っていること。
頭がいい割に時々どうしようもなく無鉄砲だ。
まるで自分の命を勘定に入れていないようにも見えてしまう。
嘘をつかない。
何処までも愚直で、真っ直ぐで、
(――それは、本当か?)
時々彼女に感じる違和感。
その正体は未だに分からないけれど、それでもパズルのピースが合わないような、明確に答えることが出来ない違和感を感じているのは事実だった。
『神田さん、』
ふにゃふにゃと気の抜けたような笑顔で、いつも不思議なくらい笑っている。
突然、生きている世界が変わってしまった環境でも、ひたむきに、背筋を伸ばして笑っていた。
その笑顔には嘘偽りはなく、
(……?)
また、だ。
胸に痞えるような『それ』。
嘘はつかない。
その通りだ。
いつも笑っている。
その通りだ。
思い出せ、思い出せ。
『んなことしてたらいつか死ぬぞ。』
俺が言った一言。
アイツは【そうですね】とも【すみません、気をつけます】とも言わず、
ただ困ったように、曖昧に笑っていた。
(――あぁ。)
違和感が、少しだけなくなった…気がした。
何かに似ていると思った。
それはあまりにも『似ていなく』て、『似ていた』。
(昔の、)
自分自身に、似ていた。
自分の命を勘定に入れていない。
死を恐れる様子がない。
感じていた違和感はこれだ。
『普通』に生きていた小娘が、怖くないはずがないのだ。
それがどうして。なぜ。
――答えは、出てこなかった。
(そうだ。俺は、何も知らない。)
Re:pray#13
脇腹を抉った傷を縫合し、暫くして抜糸した次の日。
まさか来るわけがない・と思っていた俺が馬鹿だった。
「おはようございます!」
嬉々とした表情で、朝の鍛錬にやってくる名無し。
婦長に『暫く安静にしていなさい』と念を押されていたことを、コイツは忘れているのか。
それとも鍛錬はセーフだと考えているのか。
…恐らく後者だろう。
「部屋へ帰れ。」
その時俺は、さぞかし呆れた顔をしていただろう。
六幻の柄で頭を小突けば、何か言いたそうに口篭り、肩を落として教団へ戻って行った。
鍛錬は欠かすな・とは言ったが、まさかここまでとは。馬鹿がつくほど馬鹿真面目とはこのことだろう。
***
「先程はすみませんでした。」
朝飯を食いに食堂へ向かえば、こちらを窺うようにひょこひょことやってくる名無し。
開口一番にこれだ。
深々と頭を下げるものだから、怒るに怒れない。
「抜糸して一週間は安静だって言われただろうが。」
「すみません…」
「………来週から鍛錬、付き合ってやる」
そう言い聞かせれば、ぱあっと一気に表情が明るくなる。
叱られた後、甘やかされた時の…まるで子犬だ。
眩いくらいに素直。それがコイツだ。
***
好きな場所。
談話室の日当たりのいい窓際。
昼食を持ち出したのだろう、綺麗に食べられた皿がすぐ側に置かれたままだった。
食パンのクズが皿に残っているところからして、サンドイッチでも食べていたのだろうか。
本を開いたまま、壁に頭を預けてウトウト船を漕いでいる。
秋に差し掛かろうとしているこの季節、昼下がりの陽気はさぞかし心地よかったのだろう。
(…やっぱり子犬だな)
瞼を縁取る睫毛。白い肌。
薄く開かれた柔らかそうな唇。
すぅすぅと寝息をたてる姿は年齢よりあどけなく見える。
「起きろ、名無し。」
「ふぎゅ、」
餅のような頬を摘めば、間抜けな声を上げて目を覚ました。
「図鑑読んでたら寝ちゃってました…」
「活字追ってばかりだからだろ。」
「そうですけど…ほらでも、こういうの覚えたら楽しいですよ!」
名無しが持っているのは、鈍器のような厚みの植物図鑑だ。
…コイツの妙な知識はこういうところから吸収しているのだろうか。
***
「ジェリーさん!生姜焼き定食大盛りくださーい!」
「アラ、名無しちゃん。デザートは?」
「プリンが食べたいです!」
食べ合わせは特に気にしないらしい。
モヤシの食事量は論外として、寄生型イノセンス故か教団に来てからよく食べるようになった。
その割に筋肉が中々つかない。おかげで本人は『どうしたものか』と頭を捻らせている。
骨格や体質もあるのだろう、こればかりは仕方がない。
***
他に俺が知っていること。
頭がいい割に時々どうしようもなく無鉄砲だ。
まるで自分の命を勘定に入れていないようにも見えてしまう。
嘘をつかない。
何処までも愚直で、真っ直ぐで、
(――それは、本当か?)
時々彼女に感じる違和感。
その正体は未だに分からないけれど、それでもパズルのピースが合わないような、明確に答えることが出来ない違和感を感じているのは事実だった。
『神田さん、』
ふにゃふにゃと気の抜けたような笑顔で、いつも不思議なくらい笑っている。
突然、生きている世界が変わってしまった環境でも、ひたむきに、背筋を伸ばして笑っていた。
その笑顔には嘘偽りはなく、
(……?)
また、だ。
胸に痞えるような『それ』。
嘘はつかない。
その通りだ。
いつも笑っている。
その通りだ。
思い出せ、思い出せ。
『んなことしてたらいつか死ぬぞ。』
俺が言った一言。
アイツは【そうですね】とも【すみません、気をつけます】とも言わず、
ただ困ったように、曖昧に笑っていた。
(――あぁ。)
違和感が、少しだけなくなった…気がした。
何かに似ていると思った。
それはあまりにも『似ていなく』て、『似ていた』。
(昔の、)
自分自身に、似ていた。
自分の命を勘定に入れていない。
死を恐れる様子がない。
感じていた違和感はこれだ。
『普通』に生きていた小娘が、怖くないはずがないのだ。
それがどうして。なぜ。
――答えは、出てこなかった。
(そうだ。俺は、何も知らない。)