Re:pray
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「テメェが他のアクマを一撃で仕留めきれなかったせいじゃねぇか」
「神田だって手間取っていたじゃないですか!」
「も、もう!こんな時に喧嘩はやめましょうよ!」
犬猿の仲・と言えばいいのか。
なるほど、リナリーやラビさんが苦労するのが何となく…その、分かる、気がした。
Re:pray#11
jungle cruise-01
事の発端はアクマの討伐任務だった。
切り立った崖の上でアクマとの戦闘になり、任務は順調に片付くはずだったのだ。
群れの中にいたレベル2が爆弾を生成する能力を持っていなければ。
突き出た崖岩の淵、僅かな亀裂に爆弾を仕掛けられ足場ごと落下した。
崩落する中、なんとか『視て』レベル2は撃破できた…のだが。
「見事な密林ですね」
名無しが見渡す限りでは、完全な緑の木々と草だらけだ。
「まだこの辺りにあるとされる、ミニプラントも見つけていませんし。」
「置き土産にしちゃあ性質が悪すぎるだろ」
伯爵の野郎・と毒づく神田に、アレンが溜息をつきながら「あぁ、それは同感。」と頭を抱えた。
アクマの絶対数は減ってきてはいるが、千年伯爵の遺したアクマの生成工場…プラントが各地にまだ残っていた。
それは大規模なものではないが、如何せん数が多い。
それを魔術で動かしている守化縷が守護・整備しているのが現状で、未だにアクマが世からなくならない原因となっている。
ダークマターの塊だからこそ破壊が困難とされている。なので、こうしてアレンと神田が現場に出ているわけだが…
「そろそろ日が暮れますから、無闇に動くのは得策じゃないかもしれませんね」
「…チッ。」
崖の下に広がっている、鬱蒼とした木々で覆われた密林。
その中に落とされてしまい、こうして身動きもまともに取れない。
そしてこの険悪な空気ときた。
(仲が悪いとは聞いていたけど、これは確かに、)
コムイが出発前に『頑張ってね、名無しちゃん!』とエールを贈っていたことを、名無しはぼんやりと思い出した。
つまりこういうことか。こういうことなのか、頑張って・って。
「ほら、神田さんも落ち着きましょう。明るくなったら任務の続きになるんですから、今は休まないと!」
「………はぁ。分かってる。」
一旦苛立ちは収まったのか。
小さく溜息をついて神田は地面に座り込んだ。
「当面は水と食料…ですね。僕の持ち物は多少甘いものがあるくらいですけど…」
「俺は何もねぇぞ。…名無しは?」
「アレンさんと同じく。いえ、でも多分…何とかなると思います」
茂みを掻き分けて奥に進む名無し。
数メートル離れた場所で立ち止まり、ぺたぺたと確かめるように木に触れた。
***
「まさか名無しがこんなに詳しいのは…予想外でしたね。彼女、山育ちなんですか?」
亜熱帯の地域だからだろう。
自生していたバナナの木で、水・食料を確保出来た。
葉は保冷効果もあるらしく、野営地の地面にしっかりと敷き詰められている。
『幹を切ってくり抜いたら、明日の朝には水が出来ています。バナナは…種があってあまり美味しくないかもしれませんが、まぁないよりマシですよね』
まるで以前も同じことをしたかのように、手際よく準備をしたことに俺は違和感を感じた。
――あぁ。この感覚は『また』だ。
「…神田?」
「…知らねぇよ。少なくとも、住んでいた場所は街中だったしな」
近くの木に凭れてすぅすぅと寝息を立てる名無し。普通の人生ならば野宿すら経験がなく、こんな状況ですんなり寝れる訳が無い。
考えられるのはひとつだけ。
恐らく、こんな状況は今回が初めてではない。
理由は…分からないが。
(…あぁ。コイツのこと、殆ど知らねぇな)
名前と、よく笑うことと、性根が真っ直ぐなことだけ。
…そうだ。俺はまだ、何も知らない。
「ところで神田。」
「んだよ」
「落ちた時の怪我。…まだ治っていないんですか?」
今度は俺が面食らう番だった。
崖から落ちた時。
密林の海へ落ちる前に名無しを咄嗟に抱えて、木々の間から落下した時に確かに左腕を負傷した。
本来なら呪符ですぐに治る。そう、本来ならば。
「ずっと庇って動いていたでしょう?」
「チッ…目敏いヤツめ」
そう。
コイツが言いたい真意は、直近の怪我の件ではない。
(俺の、命の残量)
もしかしたらもう一度『死んだら』終わりかもしれない。
戦争中に死ななかっただけマシだが、もう永くはないだろう。
呪符は破綻しかけている。壊れかけているものを、今更どうしろというのだろうか。
「どうするんですか」
「どうもこうもねぇよ。…引き継ぎで元帥も来たんだろ。俺の役目が終われば、それ迄だ」
「神田はそれでいいんですか?」
「…どうしようもねぇだろ」
あぁ、以前なら『テメェには関係ない』『余計な口出しするな』と言えただろうに。
こうも悔いが残るものなのか。
まだ俺は、『生きた証』をこの世に残しちゃいない。
『神田ユウ』として生きることを決めた日から、ずっとずっと考えていた。
(弟子が出来たのは僥倖だがな)
唯一エクソシストとして残せるものとしたら、彼女かもしれない。
(最後まで、面倒見てやれねぇだろうな)
膝を抱えて寝息を立てる名無しを見て、俺は思わず小さく笑ってしまう。
どれだけ違和感を感じようと、気持ちのいいくらい嘘偽りのない表情は、俺には到底手の届かない代物だ。
代わりにしている訳ではない。
面影を重ねているわけでもない。
ただ無邪気に笑うその笑顔が、いなくなってしまった『親友』にどこか似ていた。
「…呑気な面だな。」
ぽそりと呟いた言葉は、ジャングルの木々のざわめきに溶けていった。
「神田だって手間取っていたじゃないですか!」
「も、もう!こんな時に喧嘩はやめましょうよ!」
犬猿の仲・と言えばいいのか。
なるほど、リナリーやラビさんが苦労するのが何となく…その、分かる、気がした。
Re:pray#11
jungle cruise-01
事の発端はアクマの討伐任務だった。
切り立った崖の上でアクマとの戦闘になり、任務は順調に片付くはずだったのだ。
群れの中にいたレベル2が爆弾を生成する能力を持っていなければ。
突き出た崖岩の淵、僅かな亀裂に爆弾を仕掛けられ足場ごと落下した。
崩落する中、なんとか『視て』レベル2は撃破できた…のだが。
「見事な密林ですね」
名無しが見渡す限りでは、完全な緑の木々と草だらけだ。
「まだこの辺りにあるとされる、ミニプラントも見つけていませんし。」
「置き土産にしちゃあ性質が悪すぎるだろ」
伯爵の野郎・と毒づく神田に、アレンが溜息をつきながら「あぁ、それは同感。」と頭を抱えた。
アクマの絶対数は減ってきてはいるが、千年伯爵の遺したアクマの生成工場…プラントが各地にまだ残っていた。
それは大規模なものではないが、如何せん数が多い。
それを魔術で動かしている守化縷が守護・整備しているのが現状で、未だにアクマが世からなくならない原因となっている。
ダークマターの塊だからこそ破壊が困難とされている。なので、こうしてアレンと神田が現場に出ているわけだが…
「そろそろ日が暮れますから、無闇に動くのは得策じゃないかもしれませんね」
「…チッ。」
崖の下に広がっている、鬱蒼とした木々で覆われた密林。
その中に落とされてしまい、こうして身動きもまともに取れない。
そしてこの険悪な空気ときた。
(仲が悪いとは聞いていたけど、これは確かに、)
コムイが出発前に『頑張ってね、名無しちゃん!』とエールを贈っていたことを、名無しはぼんやりと思い出した。
つまりこういうことか。こういうことなのか、頑張って・って。
「ほら、神田さんも落ち着きましょう。明るくなったら任務の続きになるんですから、今は休まないと!」
「………はぁ。分かってる。」
一旦苛立ちは収まったのか。
小さく溜息をついて神田は地面に座り込んだ。
「当面は水と食料…ですね。僕の持ち物は多少甘いものがあるくらいですけど…」
「俺は何もねぇぞ。…名無しは?」
「アレンさんと同じく。いえ、でも多分…何とかなると思います」
茂みを掻き分けて奥に進む名無し。
数メートル離れた場所で立ち止まり、ぺたぺたと確かめるように木に触れた。
***
「まさか名無しがこんなに詳しいのは…予想外でしたね。彼女、山育ちなんですか?」
亜熱帯の地域だからだろう。
自生していたバナナの木で、水・食料を確保出来た。
葉は保冷効果もあるらしく、野営地の地面にしっかりと敷き詰められている。
『幹を切ってくり抜いたら、明日の朝には水が出来ています。バナナは…種があってあまり美味しくないかもしれませんが、まぁないよりマシですよね』
まるで以前も同じことをしたかのように、手際よく準備をしたことに俺は違和感を感じた。
――あぁ。この感覚は『また』だ。
「…神田?」
「…知らねぇよ。少なくとも、住んでいた場所は街中だったしな」
近くの木に凭れてすぅすぅと寝息を立てる名無し。普通の人生ならば野宿すら経験がなく、こんな状況ですんなり寝れる訳が無い。
考えられるのはひとつだけ。
恐らく、こんな状況は今回が初めてではない。
理由は…分からないが。
(…あぁ。コイツのこと、殆ど知らねぇな)
名前と、よく笑うことと、性根が真っ直ぐなことだけ。
…そうだ。俺はまだ、何も知らない。
「ところで神田。」
「んだよ」
「落ちた時の怪我。…まだ治っていないんですか?」
今度は俺が面食らう番だった。
崖から落ちた時。
密林の海へ落ちる前に名無しを咄嗟に抱えて、木々の間から落下した時に確かに左腕を負傷した。
本来なら呪符ですぐに治る。そう、本来ならば。
「ずっと庇って動いていたでしょう?」
「チッ…目敏いヤツめ」
そう。
コイツが言いたい真意は、直近の怪我の件ではない。
(俺の、命の残量)
もしかしたらもう一度『死んだら』終わりかもしれない。
戦争中に死ななかっただけマシだが、もう永くはないだろう。
呪符は破綻しかけている。壊れかけているものを、今更どうしろというのだろうか。
「どうするんですか」
「どうもこうもねぇよ。…引き継ぎで元帥も来たんだろ。俺の役目が終われば、それ迄だ」
「神田はそれでいいんですか?」
「…どうしようもねぇだろ」
あぁ、以前なら『テメェには関係ない』『余計な口出しするな』と言えただろうに。
こうも悔いが残るものなのか。
まだ俺は、『生きた証』をこの世に残しちゃいない。
『神田ユウ』として生きることを決めた日から、ずっとずっと考えていた。
(弟子が出来たのは僥倖だがな)
唯一エクソシストとして残せるものとしたら、彼女かもしれない。
(最後まで、面倒見てやれねぇだろうな)
膝を抱えて寝息を立てる名無しを見て、俺は思わず小さく笑ってしまう。
どれだけ違和感を感じようと、気持ちのいいくらい嘘偽りのない表情は、俺には到底手の届かない代物だ。
代わりにしている訳ではない。
面影を重ねているわけでもない。
ただ無邪気に笑うその笑顔が、いなくなってしまった『親友』にどこか似ていた。
「…呑気な面だな。」
ぽそりと呟いた言葉は、ジャングルの木々のざわめきに溶けていった。