Re:pray
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教団に戻るのは久しぶりだ。
僕の可愛い弟子であり、今は同じ元帥の彼は元気にしているだろうか。
マリから聞いた話によると、なんと!
なんとあのユー君に!
「弟子が出来たんだって?」
「おや。マリ君から詳細は聞かれていないんですか?」
「帰ってからの楽しみにしようと思ってねぇ」
教団に戻って早速コムイ室長のところへ足を運ぶ。
本当は神田から直接聞きたいのだけれど、如何せん何故か彼は僕からの通信を切っているからね。
ゴーレムに向けて声を掛けても無駄というわけだ。万年反抗期かな?
「楽しみだなぁ。だって初の弟子じゃないか。神田の弟子なら…チャオジー君みたいな子かな。ほら、体力有り余ってそうな。」
「あー…まぁ見てみた方が早いかもしれませんね」
困ったように笑うコムイ君と別れたのが今し方だ。
久しぶりの教団の空気は、やはり戦争中に比べたら随分と良くなっている。
常に死の影が付きまとっていたあの頃と違い、明日に向かって生きようとする団員で溢れていた。
あの誰とも触れ合おうとしなかった愛弟子が、ついに弟子をとるだなんて。
時には父のように接し、師として彼を鍛えた身としては感慨深いことこの上なかった。
***
さて。
この麗らかなお昼時、きっと任務でなければ食堂にいるだろう。
端正な顔つきで、長身の彼はよく目立つ。
まぁ一番目立っている原因は、周りに撒き散らす『不機嫌オーラ』なのだけども。
相変わらず人で溢れかえっている食堂を見渡せば、見知った面々が歓談を交えながら昼食を取っていた。
うんうん、平和な光景だ。
顔見知りのメンバーに会う度に言葉を交わしつつ、よく目立つポニーテールをさがせば……
…いた。
相変わらず蕎麦を啜っている姿を見て、思わず苦笑してしまう。偏食ぶりは相変わらずだ。
「ユー…「神田さん、お待たせしました!」
大きく手を振ろうとして、僕は反射的にそれを止めた。
可愛らしい鈴の鳴るような声。
トレイを持って人混みを掻き分けて駆け寄るのは、15・6歳程の少女だ。
服装でひと目でわかる。彼女も、エクソシストだ。
「先に食ってるぞ。」
「はい、お構いなく。見てください、ジェリーさんがすごく盛って下さりました!」
にこにこと上機嫌の彼女は大きなオムライスを持って、自然な動きで神田の隣に座る。
ふわふわと綿飴のような笑顔を浮かべる少女に対して「そうか。」と一言返し、神田は再び蕎麦を啜った。
…ちょっと待った。
もしかしてあの子が弟子なんだろうか。
ユー君はその、あんな見た目に反して脳筋だし、丁寧ではないし、口も悪いし。
……いやいや。もしかしたら新しいエクソシストの友人かもしれない。うん、友達はいいね。そうだそうだ。
「午後からの鍛錬はどうされますか?」
「コムイに呼び出されてるからな。自主鍛錬しとけ。」
「はーい」
…こりゃ弟子だよね、うん。
彼女大丈夫なの?マリは『いい子ですよ』って言っていたけどさ。
いや。いい子なのは何となく分かるよ、仏頂面のユー君に対してずーっとニコニコしてるんだもん。
失礼だが、どこからどう見ても仲睦まじい師弟だ。
暫くすると蕎麦を食べ終えた神田が席を立った。どうやらコムイ君のところに行くらしい。
幸せそうにオムライスを頬張る彼女に一言声をかけて、食堂の出口に向かって行った。
…そもそも僕に気づかないあたり、彼らしくもなく気が緩んでいたのだろうか?
大してお腹も減っていないが、サンドイッチとコーヒーを頼んで僕は真っ直ぐ向かって行く。どこへ・なんて答えるまでもない。
「隣いいかな?」
オムライスを食べる少女に声を掛ければ、驚いたように目を丸くして見上げてきた。
一生懸命食事を嚥下した後、「どうぞ!」とこれまた元気のいい声で答えてくれる。
うーん…やっぱりユー君とは真反対のタイプだよねぇ。
「ありがとう。新しい団員…エクソシストかい?」
「はい、名無し名無しと申します!えっと、エクソシストの方…ですよね?」
名無しと名乗った少女は少し不安そうに訊ねてくる。
あぁ、そうか。僕の事はもしかしたら聞いてないかもしれない。ある意味好都合だ。
「うん。フロワ・ティエドール、エクソシストだよ。
…ところで名無しちゃん、一人でご飯食べていたのかい?」
「いえ、さっきまで師しょ…ええっと、神田元帥、がおられたんですけど、コムイ室長のところに向かわれてしまいまして」
あ。つまりティエドールさんが来られるまで一人でした。
照れ臭そうにはにかみ、彼女は小さく肩を竦めた。
なんと言うか、よく笑う子だ。あどけないというか、擦れてないというか。
「へぇ、神田君が師匠なのか。彼、厳しいから大変でしょ?怖いし、容赦ないし。」
我ながら演技臭い訊き方だと思う。
…ほら。弟子の弟子からの意見だって聞きたいじゃないか。彼、そういうこと絶対に話してくれないし。
「皆さん口を揃えてそう言われますよねぇ。もしかして…神田元帥って…昔問題児、だったとか…?」
昔、というかもしかしたら現在進行形かもしれないが。
元帥になっても彼の協調性の欠如はコムイ君の頭を悩ませているだろうに。
「うーん、まぁねぇ。」
「なんかそんな感じしますもんねぇ」
クスクスと笑いながら名無しはオムライスを頬張る。…あれ?意外と反応が薄い?
「でもほら、厳しいのは私のためですし!」
ポジティブに物事を捉える子なのだろう。こうして弟子のいい所を見つけてくれるのは、師匠として素直に嬉しかった。
「なるほどねぇ。他にいい所はあるかい?」
「言い出したらキリがないですよ~」
キリがない。
まさかそう来るとは。思わず面食らってしまった。
ぶっきらぼうだけど優しい。
鍛錬の教え方は感覚的だけど、ちゃんと最後まで面倒を見てくれる。
ちゃんと目を見て話をしてくれる。
意外と考えていることが分かりやすくて、可愛いところもある。
顔がいい。(これには僕も同意だ。)
「あとは英語に慣れてなかった時はゆっくり喋ってくれましたし、何より一緒に歩いていると合わせてくれるんです。」
「?、何をだい?」
「歩幅です。置いていかないように、少しゆっくり歩いてくれるんです。」
普段あんなに早歩きなのに。
ふにゃふにゃと笑いながら、次々と神田のいい所を述べていく名無し。
まだ少女といっても差し支えない歳なのに、よく視ていると素直に感心した。
というか、神田とは長い付き合いになるけれど、新たな一面を発見した気分だ。
『息子』の成長を、心から喜ばしく思う。
「…彼はいい師匠かい?」
一番、聞きたかったこと。
正直少し不安だった。
マリから『弟子をとった』と聞いた時からずっと。
中々人に心を開かない彼が、真っ向から一人の弟子と向き合うことが出来るのか・と。
昔、アレン君と向き合って対話することすら苦労していたというのに、1から関係を築くことが出来ているのか親心ながらも心配だったのだ。
でも、それは杞憂のようだ。
「はい!自慢の、世界一の師匠です!」
嘘偽りない、愚直なまでに真っ直ぐな表情。
言葉より名無しの笑顔が、何よりも真実を物語っていた。
「そうかい。それが聞けて安心したよぉ~」
「安心、ですか?」
スプーンでオムライスを掬って、名無しが小さく首を傾げる。
…あぁ、もしかしたらそろそろ頃合かなぁ~。
「名無し!!」
怒号のようにも聞こえる、愛弟子のよく通る声。
少し驚いたように目を丸くした彼女は、声がした先へ視線を向ける。…まるで飼い主と子犬だ。失礼かもしれないが。
「あれ?神田さん、もうお話終わったんですか?」
「あぁ、大した用件じゃなかった。
…………何してんだ、アンタ。」
僕に向き直り、それはもう嫌そうに問うてくる。まぁこうなるよね。
「んー…実態調査?」
「名無し、変なこと喋ってねぇだろうな。」
「え、え?」
目を白黒させて僕と神田を交互に見る名無し。
こらこら、そんな脅したら可哀想でしょう。こういう所が一般団員から怖がられているのに。
「あの、神田さん。話が全く見えないんですけど。」
「…はぁ。フロワ・ティエドール。黒の教団の元帥で、俺の師匠だ。」
「そうそう。あれぇ、言ってなかったけ?」
「わざとだろ。」
呆れながら僕にイヤミをチクチク言い放つユー君。
名無しちゃんはというと……うん、面白い程に目を丸くしてフリーズしちゃってる。この子、面白いなぁ。
「つ、つまり、師匠の師匠?大師匠?」
「ただの元帥の、偏屈なオッサンだと思ってくれていいぞ。」
「ええ~酷いな、ユー君。僕の可愛い孫弟子にそんなこと教えないでくれよ」
「帰ってきた途端、その名前で呼ぶな!」
神田の顔に『あぁ疲れる』とあからさまに書かれている。そんな露骨に嫌がらなくてもいいじゃないか。
「という訳でよろしくねぇ、名無しちゃん。僕の力になれることだったら、遠慮なく聞いてね。なんせ、師匠の師匠だし。」
「は…はい!ぜひ!」
「やめとけ。変人が伝染るぞ」
驚きはしたものの素直に返事をする名無しちゃんと、大きく溜息をつきながら制止する神田。
…なるほど。確かに良い方向に変わったかもしれない。
もしかしたら可愛い弟子のおかげかもしれないが、険悪になってもいけない。
ここは大人らしく、ぐっと言葉を呑み込んでおこう。
Re:pray#10
「小さい頃のユー君のスケッチもまだ残してるんだー。見るかい?名無しちゃん。」
「わぁ!見た「見なくていい。」
「ちょっとぉ、可愛い孫弟子とのスキンシップを邪魔しないでおくれ、ユー君。」
「そういうとこだぞ、アンタ。」
名無しちゃんの口を手で塞ぎ、ピシャリと牽制する神田。
…なるほど、面倒見がいいというより、もしかしたら彼は意外と過保護なのかもしれない。
彼の新しい一面が知れて、何だか嬉しく思う。
(うん。やっぱり今日も、教団は平和だなぁ)
「見たいです」「見なくていい」の押し問答をする可愛い弟子二人を眺めながら、僕は食後のコーヒーをゆっくり味わうことにした。
僕の可愛い弟子であり、今は同じ元帥の彼は元気にしているだろうか。
マリから聞いた話によると、なんと!
なんとあのユー君に!
「弟子が出来たんだって?」
「おや。マリ君から詳細は聞かれていないんですか?」
「帰ってからの楽しみにしようと思ってねぇ」
教団に戻って早速コムイ室長のところへ足を運ぶ。
本当は神田から直接聞きたいのだけれど、如何せん何故か彼は僕からの通信を切っているからね。
ゴーレムに向けて声を掛けても無駄というわけだ。万年反抗期かな?
「楽しみだなぁ。だって初の弟子じゃないか。神田の弟子なら…チャオジー君みたいな子かな。ほら、体力有り余ってそうな。」
「あー…まぁ見てみた方が早いかもしれませんね」
困ったように笑うコムイ君と別れたのが今し方だ。
久しぶりの教団の空気は、やはり戦争中に比べたら随分と良くなっている。
常に死の影が付きまとっていたあの頃と違い、明日に向かって生きようとする団員で溢れていた。
あの誰とも触れ合おうとしなかった愛弟子が、ついに弟子をとるだなんて。
時には父のように接し、師として彼を鍛えた身としては感慨深いことこの上なかった。
***
さて。
この麗らかなお昼時、きっと任務でなければ食堂にいるだろう。
端正な顔つきで、長身の彼はよく目立つ。
まぁ一番目立っている原因は、周りに撒き散らす『不機嫌オーラ』なのだけども。
相変わらず人で溢れかえっている食堂を見渡せば、見知った面々が歓談を交えながら昼食を取っていた。
うんうん、平和な光景だ。
顔見知りのメンバーに会う度に言葉を交わしつつ、よく目立つポニーテールをさがせば……
…いた。
相変わらず蕎麦を啜っている姿を見て、思わず苦笑してしまう。偏食ぶりは相変わらずだ。
「ユー…「神田さん、お待たせしました!」
大きく手を振ろうとして、僕は反射的にそれを止めた。
可愛らしい鈴の鳴るような声。
トレイを持って人混みを掻き分けて駆け寄るのは、15・6歳程の少女だ。
服装でひと目でわかる。彼女も、エクソシストだ。
「先に食ってるぞ。」
「はい、お構いなく。見てください、ジェリーさんがすごく盛って下さりました!」
にこにこと上機嫌の彼女は大きなオムライスを持って、自然な動きで神田の隣に座る。
ふわふわと綿飴のような笑顔を浮かべる少女に対して「そうか。」と一言返し、神田は再び蕎麦を啜った。
…ちょっと待った。
もしかしてあの子が弟子なんだろうか。
ユー君はその、あんな見た目に反して脳筋だし、丁寧ではないし、口も悪いし。
……いやいや。もしかしたら新しいエクソシストの友人かもしれない。うん、友達はいいね。そうだそうだ。
「午後からの鍛錬はどうされますか?」
「コムイに呼び出されてるからな。自主鍛錬しとけ。」
「はーい」
…こりゃ弟子だよね、うん。
彼女大丈夫なの?マリは『いい子ですよ』って言っていたけどさ。
いや。いい子なのは何となく分かるよ、仏頂面のユー君に対してずーっとニコニコしてるんだもん。
失礼だが、どこからどう見ても仲睦まじい師弟だ。
暫くすると蕎麦を食べ終えた神田が席を立った。どうやらコムイ君のところに行くらしい。
幸せそうにオムライスを頬張る彼女に一言声をかけて、食堂の出口に向かって行った。
…そもそも僕に気づかないあたり、彼らしくもなく気が緩んでいたのだろうか?
大してお腹も減っていないが、サンドイッチとコーヒーを頼んで僕は真っ直ぐ向かって行く。どこへ・なんて答えるまでもない。
「隣いいかな?」
オムライスを食べる少女に声を掛ければ、驚いたように目を丸くして見上げてきた。
一生懸命食事を嚥下した後、「どうぞ!」とこれまた元気のいい声で答えてくれる。
うーん…やっぱりユー君とは真反対のタイプだよねぇ。
「ありがとう。新しい団員…エクソシストかい?」
「はい、名無し名無しと申します!えっと、エクソシストの方…ですよね?」
名無しと名乗った少女は少し不安そうに訊ねてくる。
あぁ、そうか。僕の事はもしかしたら聞いてないかもしれない。ある意味好都合だ。
「うん。フロワ・ティエドール、エクソシストだよ。
…ところで名無しちゃん、一人でご飯食べていたのかい?」
「いえ、さっきまで師しょ…ええっと、神田元帥、がおられたんですけど、コムイ室長のところに向かわれてしまいまして」
あ。つまりティエドールさんが来られるまで一人でした。
照れ臭そうにはにかみ、彼女は小さく肩を竦めた。
なんと言うか、よく笑う子だ。あどけないというか、擦れてないというか。
「へぇ、神田君が師匠なのか。彼、厳しいから大変でしょ?怖いし、容赦ないし。」
我ながら演技臭い訊き方だと思う。
…ほら。弟子の弟子からの意見だって聞きたいじゃないか。彼、そういうこと絶対に話してくれないし。
「皆さん口を揃えてそう言われますよねぇ。もしかして…神田元帥って…昔問題児、だったとか…?」
昔、というかもしかしたら現在進行形かもしれないが。
元帥になっても彼の協調性の欠如はコムイ君の頭を悩ませているだろうに。
「うーん、まぁねぇ。」
「なんかそんな感じしますもんねぇ」
クスクスと笑いながら名無しはオムライスを頬張る。…あれ?意外と反応が薄い?
「でもほら、厳しいのは私のためですし!」
ポジティブに物事を捉える子なのだろう。こうして弟子のいい所を見つけてくれるのは、師匠として素直に嬉しかった。
「なるほどねぇ。他にいい所はあるかい?」
「言い出したらキリがないですよ~」
キリがない。
まさかそう来るとは。思わず面食らってしまった。
ぶっきらぼうだけど優しい。
鍛錬の教え方は感覚的だけど、ちゃんと最後まで面倒を見てくれる。
ちゃんと目を見て話をしてくれる。
意外と考えていることが分かりやすくて、可愛いところもある。
顔がいい。(これには僕も同意だ。)
「あとは英語に慣れてなかった時はゆっくり喋ってくれましたし、何より一緒に歩いていると合わせてくれるんです。」
「?、何をだい?」
「歩幅です。置いていかないように、少しゆっくり歩いてくれるんです。」
普段あんなに早歩きなのに。
ふにゃふにゃと笑いながら、次々と神田のいい所を述べていく名無し。
まだ少女といっても差し支えない歳なのに、よく視ていると素直に感心した。
というか、神田とは長い付き合いになるけれど、新たな一面を発見した気分だ。
『息子』の成長を、心から喜ばしく思う。
「…彼はいい師匠かい?」
一番、聞きたかったこと。
正直少し不安だった。
マリから『弟子をとった』と聞いた時からずっと。
中々人に心を開かない彼が、真っ向から一人の弟子と向き合うことが出来るのか・と。
昔、アレン君と向き合って対話することすら苦労していたというのに、1から関係を築くことが出来ているのか親心ながらも心配だったのだ。
でも、それは杞憂のようだ。
「はい!自慢の、世界一の師匠です!」
嘘偽りない、愚直なまでに真っ直ぐな表情。
言葉より名無しの笑顔が、何よりも真実を物語っていた。
「そうかい。それが聞けて安心したよぉ~」
「安心、ですか?」
スプーンでオムライスを掬って、名無しが小さく首を傾げる。
…あぁ、もしかしたらそろそろ頃合かなぁ~。
「名無し!!」
怒号のようにも聞こえる、愛弟子のよく通る声。
少し驚いたように目を丸くした彼女は、声がした先へ視線を向ける。…まるで飼い主と子犬だ。失礼かもしれないが。
「あれ?神田さん、もうお話終わったんですか?」
「あぁ、大した用件じゃなかった。
…………何してんだ、アンタ。」
僕に向き直り、それはもう嫌そうに問うてくる。まぁこうなるよね。
「んー…実態調査?」
「名無し、変なこと喋ってねぇだろうな。」
「え、え?」
目を白黒させて僕と神田を交互に見る名無し。
こらこら、そんな脅したら可哀想でしょう。こういう所が一般団員から怖がられているのに。
「あの、神田さん。話が全く見えないんですけど。」
「…はぁ。フロワ・ティエドール。黒の教団の元帥で、俺の師匠だ。」
「そうそう。あれぇ、言ってなかったけ?」
「わざとだろ。」
呆れながら僕にイヤミをチクチク言い放つユー君。
名無しちゃんはというと……うん、面白い程に目を丸くしてフリーズしちゃってる。この子、面白いなぁ。
「つ、つまり、師匠の師匠?大師匠?」
「ただの元帥の、偏屈なオッサンだと思ってくれていいぞ。」
「ええ~酷いな、ユー君。僕の可愛い孫弟子にそんなこと教えないでくれよ」
「帰ってきた途端、その名前で呼ぶな!」
神田の顔に『あぁ疲れる』とあからさまに書かれている。そんな露骨に嫌がらなくてもいいじゃないか。
「という訳でよろしくねぇ、名無しちゃん。僕の力になれることだったら、遠慮なく聞いてね。なんせ、師匠の師匠だし。」
「は…はい!ぜひ!」
「やめとけ。変人が伝染るぞ」
驚きはしたものの素直に返事をする名無しちゃんと、大きく溜息をつきながら制止する神田。
…なるほど。確かに良い方向に変わったかもしれない。
もしかしたら可愛い弟子のおかげかもしれないが、険悪になってもいけない。
ここは大人らしく、ぐっと言葉を呑み込んでおこう。
Re:pray#10
「小さい頃のユー君のスケッチもまだ残してるんだー。見るかい?名無しちゃん。」
「わぁ!見た「見なくていい。」
「ちょっとぉ、可愛い孫弟子とのスキンシップを邪魔しないでおくれ、ユー君。」
「そういうとこだぞ、アンタ。」
名無しちゃんの口を手で塞ぎ、ピシャリと牽制する神田。
…なるほど、面倒見がいいというより、もしかしたら彼は意外と過保護なのかもしれない。
彼の新しい一面が知れて、何だか嬉しく思う。
(うん。やっぱり今日も、教団は平和だなぁ)
「見たいです」「見なくていい」の押し問答をする可愛い弟子二人を眺めながら、僕は食後のコーヒーをゆっくり味わうことにした。