Re:set
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指先ひとつ動かせない。
ここに六幻があれば一瞬で切り伏せられるだろうに。
毒が広がると同時に逆さペンタクルが名無しの肌を覆う。
焼けるような吐き気と、脳髄を焼き切るような痛み。それは俺が何度も食らった猛毒と苦痛だ。
レベル3のアクマが、指先から伸びる糸を手繰り寄せながら嗤う。
朧気な影になっていたレベル2のアクマは、無残にも殺されたはずの女の姿から本来の姿へ戻っていく。
「…グルだったか」
『いくら丸腰のエクソシストと言えどモ、潰すには全力がいいだろうと思ってネ』
レベル3のアクマが指先を動かせば俺の指先が動く。
歪な足を前へ出せば、俺の足が前へ出る。
なるほど。マリオネットをどこか連想させるような姿は、まさにその通りという訳だ。
『さてさて。正義のエクソシストが無力な適合者を殺ス悲劇は、どんな味だろうネ』
Re:set#09
これは、骨を砕く感触だ。
すっかり折れ曲がってしまった鉄パイプを振り上げ、細い脚を目掛けて振り下ろす。
硬い何かが粉砕する音と共に、寝食をいくらか共にした少女のくぐもった悲鳴が喉の奥で鳴った。
「て、めぇ…!」
『おやぁ。手を下しているノは、お前だろう?エクソシスト』
ケタケタ嗤うレベル3と、その後ろで笑い転げるレベル2の耳障りな声が辺りに響く。
四肢の動きを糸で操るレベル3のアクマ。
そして恐らく、相手の記憶を読み取って擬態できるタイプのレベル2。
――最悪の組み合わせだ。
特に、丸腰の俺と、適合者だが戦闘慣れしていない一般人の名無しにとって。
『このタイプの適合者ハ、私にとって天敵でネ。レベル2と手を組むだなんテ、実に合理的だろう?』
アクマがサッカーボールを蹴るように脚を振り上げれば、俺の足元にいた名無しの身体が容易く宙に上がった。
雪と泥と血で汚れたアイツを見ては、喜劇を見ているかのようにアクマが嗤う。
「名無し!」
『呼んでも無駄だよォ、アクマのオイルはぁ、人間にとって毒なんだから。
ボクの毒で死ぬか、お前に嬲られるか。競走してみる?』
レベル2アクマの甲高い笑い声が響く。
――何がエクソシストだ。イノセンスがなければ、ただの、
(無力な人間と、同じじゃねぇか)
奥歯を音が鳴るほどに噛み締め、腕に力を込めても糸は千切れない。
『そうダ、コイツの家族に化けて殺してやるのもいいネぇ!ボクって優しいなァ!』
レベル2のアクマが足踏みをすれば、一瞬名無しの影にとけて徐々に人の形を成していく。
艶やかな黒髪の女。
どこか名無しに似ている姿は一目見て分かった。
――恐らく、母親だ。
狂喜に歪んだ表情は、名無しと似ても似つかなかったが。
(動け、目を覚ませ、)
唇を思い切り噛めば、口の端から俺の血が顎を伝い滴のように垂れていく。
ぐったりと動かない名無しの頬に、一滴、一滴と雨漏りのように零れた。
(寄生タイプなら恐らく毒で死なない。なら、)
引いていくペンタクルの模様。
ピクリと動く、細い指先。
『さァ、お母さンがあなたを殺してあげますネぇ!』
母親の姿を象ったアクマが、腕だけ砲塔に変えて名無しに向ける。
――目を、開けろ。
起きろ、
「名無し!!」
***
焼け付く痛みに慣れたのか、痛すぎて何が何だか分からなくなったのか。
眼球を抉りとるような痛みが遠のいていく…ような気がした。
頬に何か滴る感触。
それは生暖かい、雨や雪とは違う何か。
『さァ、お母さンが、あなたを殺してあげますネぇ!』
聞き覚えのある母の声と、電子音のような合成音声が重なって聞こえる。
――あぁ。これは、夢だろうか。それとも現実なのか。
あの日、私だけ生き残ってしまった天罰なのだろうか。
うっすら目を開けた視線の先には、殺意に満ちた母の顔があった。
(あなたに、殺されるなら、)
本望、かもしれない。
あぁ。
やっと、この生を終えることが出来るのか――
「名無し!!」
…聞こえる。
あの人の、声が。
必死に私の名前を呼ぶ、彼の、
罵倒にも近い悲痛な叫びが、何かの鍵を開けたような――気が、した。
――瞳を開け。前を向け。
汝、万物をあるべき姿へ還す者なり。
破壊を再生へ、破滅を救済へ。
汝、神の"福音"を贈る者なり。
憐れな姿をしかと捉えよ。
神の御業を、――
銃口の向こうに、母の姿を垣間見る。
…あぁ。違う。
この人は母さんじゃない。
あの人は死んだ。父と一緒に、原型を留めず。
無残な死に姿で、私の目の前で、
世界にひとり、私を置いていって。
「――お前は、誰だ。」
目の前の『ソレ』を睨みつければ、母の姿が霧散する。
黒い靄が撫でるように晴れた瞬間。マネキンのように白い陶磁の身体が光に包まれ、粒子となって四散する。
砕けた光の粉の向こうで、鎧を纏いしマリオネットのアクマが醜悪な表情に変わる。
忌々しげにこちらを見下ろす視線は酷く冷たい。
『チィ!』
余裕ぶっていた表情はもはや面影もない。
アクマが脚を大きく振りかぶれば、同時に落ちてくる神田さんの脚。
踵が脇腹へ、深く重くめり込む。
「名無し!」
…あぁ。口の中は血の味でいっぱいだし、身体中のあちこちが悲鳴をあげている。
神田さんが、私の名前を呼ぶ声が、酷く遠くに聞こえる。
けれど視線は逸らせなかった。
頭の中に響く天啓のような声が、目を逸らす事を許さない。
何より、私自身が。
『み、るな、見るな見るな、みるなァ!
あ、ァァァ、私の、粋を極めた、玉体、ガ、』
苦しみに悶え、のたうち回る身体。
騎士のような姿は醜悪な人形へ。
まるで退化するように、外装からほろほろと解けていく。
『あ、ァァァ、あぁぁぁぁ!』
アクマの、音波のような悲鳴が響く。
何か糸のようなものがプツリと切れた音と同時に、退化しかけたマリオネットのアクマは瓦礫の山から逃げていった。
「名無し!」
気が抜けてしまったかのように、地面へ倒れ込む身体。
あぁ。あちこちが痛い。
地面の冷たさを感じない程に、痛覚がそれをゆうに上回る。
「かんだ、さん。すみません…逃がしてしまいました、」
「今は喋るな。…気休め程度だろうが、これを口に含んどけ。」
そう言って神田さんは自分の手のひらへ歯を立てる。
ぷつりと溢れる玉のような赤い血。
唇へ押し当てられれば、彼の乾いた手のひらを伝う血の味が口いっぱいに広がった。
「…ん、…えへへ、美味しくないですねぇ…」
痛みが僅かに和らぐと同時に、どっと緊張感が身体から抜け落ちていく。
あぁ。すごく、なんだか眠いし、お腹が減った。
「――すまなかった。」
霞む意識の向こうで、神田さんが小さく呟いた懺悔の声が、聞こえた…気がした。
***
『ハッ、はぁっ、くそ、くそくそクソ!』
誇り高きレベル3の肉体は、あの小娘によって退化させられてしまった。
あの瞳はまさに神の福音であり、アクマにとっては死の宣告だ。
解けていく装甲を犠牲に、生き延びることが出来たのは不幸中の幸いだ。
『殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくっテ、元の姿に戻ってあの娘を殺して、あの男も殺して、恐ろしいイノセンスを破壊して、』
そうだ。そうだ。
伯爵の元へ戻ろう。増援を頂こう。
圧倒的な数で潰して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して――
「残念ながら、ここまでですよ。」
異形の爪で砕かれる、アクマの核であるダークマター。
本来選ばれたノアのみが操れるはずの、方舟の入口から伸びるイノセンスの刃。
――いや、これは
ノアでもあり、使徒でもある、
「逃がしはしませんとも。――哀れなアクマに、魂の救済を」
白銀の髪を揺らした青年が、憐れむような視線を私に向けル。
――アァ。我々の戦争ハ。
褒めテください、千年伯爵、千年ハクシャク、センネンハクシャク、
「おやすみなさい。」
涼やかな声が、最後に聞いた子守唄だった。
ここに六幻があれば一瞬で切り伏せられるだろうに。
毒が広がると同時に逆さペンタクルが名無しの肌を覆う。
焼けるような吐き気と、脳髄を焼き切るような痛み。それは俺が何度も食らった猛毒と苦痛だ。
レベル3のアクマが、指先から伸びる糸を手繰り寄せながら嗤う。
朧気な影になっていたレベル2のアクマは、無残にも殺されたはずの女の姿から本来の姿へ戻っていく。
「…グルだったか」
『いくら丸腰のエクソシストと言えどモ、潰すには全力がいいだろうと思ってネ』
レベル3のアクマが指先を動かせば俺の指先が動く。
歪な足を前へ出せば、俺の足が前へ出る。
なるほど。マリオネットをどこか連想させるような姿は、まさにその通りという訳だ。
『さてさて。正義のエクソシストが無力な適合者を殺ス悲劇は、どんな味だろうネ』
Re:set#09
これは、骨を砕く感触だ。
すっかり折れ曲がってしまった鉄パイプを振り上げ、細い脚を目掛けて振り下ろす。
硬い何かが粉砕する音と共に、寝食をいくらか共にした少女のくぐもった悲鳴が喉の奥で鳴った。
「て、めぇ…!」
『おやぁ。手を下しているノは、お前だろう?エクソシスト』
ケタケタ嗤うレベル3と、その後ろで笑い転げるレベル2の耳障りな声が辺りに響く。
四肢の動きを糸で操るレベル3のアクマ。
そして恐らく、相手の記憶を読み取って擬態できるタイプのレベル2。
――最悪の組み合わせだ。
特に、丸腰の俺と、適合者だが戦闘慣れしていない一般人の名無しにとって。
『このタイプの適合者ハ、私にとって天敵でネ。レベル2と手を組むだなんテ、実に合理的だろう?』
アクマがサッカーボールを蹴るように脚を振り上げれば、俺の足元にいた名無しの身体が容易く宙に上がった。
雪と泥と血で汚れたアイツを見ては、喜劇を見ているかのようにアクマが嗤う。
「名無し!」
『呼んでも無駄だよォ、アクマのオイルはぁ、人間にとって毒なんだから。
ボクの毒で死ぬか、お前に嬲られるか。競走してみる?』
レベル2アクマの甲高い笑い声が響く。
――何がエクソシストだ。イノセンスがなければ、ただの、
(無力な人間と、同じじゃねぇか)
奥歯を音が鳴るほどに噛み締め、腕に力を込めても糸は千切れない。
『そうダ、コイツの家族に化けて殺してやるのもいいネぇ!ボクって優しいなァ!』
レベル2のアクマが足踏みをすれば、一瞬名無しの影にとけて徐々に人の形を成していく。
艶やかな黒髪の女。
どこか名無しに似ている姿は一目見て分かった。
――恐らく、母親だ。
狂喜に歪んだ表情は、名無しと似ても似つかなかったが。
(動け、目を覚ませ、)
唇を思い切り噛めば、口の端から俺の血が顎を伝い滴のように垂れていく。
ぐったりと動かない名無しの頬に、一滴、一滴と雨漏りのように零れた。
(寄生タイプなら恐らく毒で死なない。なら、)
引いていくペンタクルの模様。
ピクリと動く、細い指先。
『さァ、お母さンがあなたを殺してあげますネぇ!』
母親の姿を象ったアクマが、腕だけ砲塔に変えて名無しに向ける。
――目を、開けろ。
起きろ、
「名無し!!」
***
焼け付く痛みに慣れたのか、痛すぎて何が何だか分からなくなったのか。
眼球を抉りとるような痛みが遠のいていく…ような気がした。
頬に何か滴る感触。
それは生暖かい、雨や雪とは違う何か。
『さァ、お母さンが、あなたを殺してあげますネぇ!』
聞き覚えのある母の声と、電子音のような合成音声が重なって聞こえる。
――あぁ。これは、夢だろうか。それとも現実なのか。
あの日、私だけ生き残ってしまった天罰なのだろうか。
うっすら目を開けた視線の先には、殺意に満ちた母の顔があった。
(あなたに、殺されるなら、)
本望、かもしれない。
あぁ。
やっと、この生を終えることが出来るのか――
「名無し!!」
…聞こえる。
あの人の、声が。
必死に私の名前を呼ぶ、彼の、
罵倒にも近い悲痛な叫びが、何かの鍵を開けたような――気が、した。
――瞳を開け。前を向け。
汝、万物をあるべき姿へ還す者なり。
破壊を再生へ、破滅を救済へ。
汝、神の"福音"を贈る者なり。
憐れな姿をしかと捉えよ。
神の御業を、――
銃口の向こうに、母の姿を垣間見る。
…あぁ。違う。
この人は母さんじゃない。
あの人は死んだ。父と一緒に、原型を留めず。
無残な死に姿で、私の目の前で、
世界にひとり、私を置いていって。
「――お前は、誰だ。」
目の前の『ソレ』を睨みつければ、母の姿が霧散する。
黒い靄が撫でるように晴れた瞬間。マネキンのように白い陶磁の身体が光に包まれ、粒子となって四散する。
砕けた光の粉の向こうで、鎧を纏いしマリオネットのアクマが醜悪な表情に変わる。
忌々しげにこちらを見下ろす視線は酷く冷たい。
『チィ!』
余裕ぶっていた表情はもはや面影もない。
アクマが脚を大きく振りかぶれば、同時に落ちてくる神田さんの脚。
踵が脇腹へ、深く重くめり込む。
「名無し!」
…あぁ。口の中は血の味でいっぱいだし、身体中のあちこちが悲鳴をあげている。
神田さんが、私の名前を呼ぶ声が、酷く遠くに聞こえる。
けれど視線は逸らせなかった。
頭の中に響く天啓のような声が、目を逸らす事を許さない。
何より、私自身が。
『み、るな、見るな見るな、みるなァ!
あ、ァァァ、私の、粋を極めた、玉体、ガ、』
苦しみに悶え、のたうち回る身体。
騎士のような姿は醜悪な人形へ。
まるで退化するように、外装からほろほろと解けていく。
『あ、ァァァ、あぁぁぁぁ!』
アクマの、音波のような悲鳴が響く。
何か糸のようなものがプツリと切れた音と同時に、退化しかけたマリオネットのアクマは瓦礫の山から逃げていった。
「名無し!」
気が抜けてしまったかのように、地面へ倒れ込む身体。
あぁ。あちこちが痛い。
地面の冷たさを感じない程に、痛覚がそれをゆうに上回る。
「かんだ、さん。すみません…逃がしてしまいました、」
「今は喋るな。…気休め程度だろうが、これを口に含んどけ。」
そう言って神田さんは自分の手のひらへ歯を立てる。
ぷつりと溢れる玉のような赤い血。
唇へ押し当てられれば、彼の乾いた手のひらを伝う血の味が口いっぱいに広がった。
「…ん、…えへへ、美味しくないですねぇ…」
痛みが僅かに和らぐと同時に、どっと緊張感が身体から抜け落ちていく。
あぁ。すごく、なんだか眠いし、お腹が減った。
「――すまなかった。」
霞む意識の向こうで、神田さんが小さく呟いた懺悔の声が、聞こえた…気がした。
***
『ハッ、はぁっ、くそ、くそくそクソ!』
誇り高きレベル3の肉体は、あの小娘によって退化させられてしまった。
あの瞳はまさに神の福音であり、アクマにとっては死の宣告だ。
解けていく装甲を犠牲に、生き延びることが出来たのは不幸中の幸いだ。
『殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくっテ、元の姿に戻ってあの娘を殺して、あの男も殺して、恐ろしいイノセンスを破壊して、』
そうだ。そうだ。
伯爵の元へ戻ろう。増援を頂こう。
圧倒的な数で潰して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して――
「残念ながら、ここまでですよ。」
異形の爪で砕かれる、アクマの核であるダークマター。
本来選ばれたノアのみが操れるはずの、方舟の入口から伸びるイノセンスの刃。
――いや、これは
ノアでもあり、使徒でもある、
「逃がしはしませんとも。――哀れなアクマに、魂の救済を」
白銀の髪を揺らした青年が、憐れむような視線を私に向けル。
――アァ。我々の戦争ハ。
褒めテください、千年伯爵、千年ハクシャク、センネンハクシャク、
「おやすみなさい。」
涼やかな声が、最後に聞いた子守唄だった。