Re:set
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居間で布団を敷いてはいるがそこに横たわることはなかった。
片膝を立て、毛布を肩に羽織ればそれなりに暖はとれる。
カレンダーの曜日は、ここに来て何度目かの月曜日を指し示していた。
朝の6時。
真冬の季節、日の出はまだ遠い。
カーテンの隙間から見える町並みはまるでロンドンの街を彷彿させるように、濃い霧がかかっていた。
居間と隣り合わせの寝室の扉がそっと音を立てて開く。
遠慮がちに揺れたドアの隙間から顔を出すのは、寝癖で髪が好き勝手跳ねまわった名無しの姿。
「わ、神田さん。もう起きてたんですか?おはようございます」
「あぁ。」
俺が起きていることに面食らったのか、少し恥ずかしそうに寝癖を抑えて彼女がはにかむ。
あれからアクマの襲撃はない。
アレンの話によれば調査していた遺跡から三体アクマが姿を消したらしい。
そのうちの一体は、先日の夜遭遇した個体だろう。
アレンが繰る『方舟』と科学班が調べたところ、元々そこには空間の"歪み"が生じていたらしい。
ラビが触れたものはイノセンスの『抜け殻』、つまるところ本物はそこにはなかった。
定期報告される情報と照らし合わせば、名無しが言っていたことと合点がついていく。
その歪みを通って、昔からアクマがこちらに漏れていたとしたら。
何かに引き寄せられていると仮定すれば、それは抜け殻になっていたイノセンスの本体だろう。
ならばそのイノセンスは?
それは恐らく――
(…こういう頭脳労働は、俺の仕事じゃねぇぞ。)
考えるのは、得意じゃない。
けれど振るい慣れているはずの刀がない以上、この現地で出来ることは限られている。
アレンが科学班と束になってこちらに干渉する方法を探しているらしいが…さて、それはいつになることやら。
「神田さん。朝ごはん、置いておきますね」
「…?、あぁ、学校か」
「はい。一応、真面目な普通の学生ですから。サボっちゃいたい気持ちも、ないわけじゃないんですけどね」
紺色のバッグと黒いダッフルコート。
裾から見えるのは赤いプリーツのスカート。
先程まで元気よく跳ねていた寝癖はキチンと直され、身だしなみはきちんと整っていた。
(普通、か。)
「そうか、気をつけて行ってこい。」
「はい!行ってきます!」
にこにこと上機嫌で部屋を出ていく名無し。
玄関のドアが重たそうな音を立てて滑らかに閉まる。
残されたのは俺と、外気から流れ込んできた冷えきった空気だけ。
Re:set#06
「名無し、ごめん!世界史のノート、写させて!」
「うん。いいよー」
前回、体調を崩して保健室にいたせいだろう。
中学が同じだった友人が申し訳なさそうに頼み込んでくるのを、無下に断る理由もない。
黒板を書き写したノートを渡せば「ありがとう!」と礼を言って彼女は足早に席へ戻った。
(友人、かぁ)
どこからどこまでが、友人なのだろう。
小学生の低学年の時は『みんなで仲良くしましょう』と先生に言われたっけ。
高学年くらいになると、何となく仲良しグループができる。
中学になるといじめだってあったし、男女の仲だって少しずつ変化していった。
名前を知っていれば友人なのだろうか。
それともそれなりに会話をする程度で友人なのか。
お弁当を一緒に食べたり、放課後遊んだりしたら友人なのか?
(あぁ。バイトが忙しくて…遊びに行ったりなんかしてないもんなぁ)
両親が亡くなったのは中学に入ってすぐだった。いわゆる、思春期真っ盛り。
お金には困ってはいなかったが、遠い親戚からは『お金は大事に使いなさい』と口酸っぱく言われたため、朝は新聞配達のバイトをこっそりしたっけ。
後ろ指を指されないよう勉強も人並み以上に頑張ったつもりだ。
両親がいなくなって暫くは腫れ物扱いをされたが、友人関係は学校内で悪目立ちするようなことはしなかった。
それが地続きで、今もこうして平々凡々な学校生活を無事におくれている。
…それでいい。これでいいんだ。
少し歪な私は、こうやってバランスを取らなければ。
世界に取り残されてしまう。日常に、置いて行かれてしまう。
――あぁ。じゃあ、なんで私はあの人を助けてしまったんだろう。
突如舞い込んだ非日常。
知らない彼。知らない世界。
少しだけ知っていた奇異な悪意。
普通を望むなら見て見ぬふりをしてしまえば良かったのでは。
そう思うこともなかったけれど、気がつけば身体が動いていたのだから仕方ない。
『まぁ、その…一人暮らしは寂しいなーって思っていたんです。理由、それじゃダメですか?』
そう。その言葉は、本心。
口に出せば簡単だったんだ。
(私は、寂しかったんだなぁ)
どこか他人事のように、ぼんやり振り返る。
それはどこか諦めていた感情で、見て見ぬふりをし続けていた私からのメッセージ。
普通であることが、普通じゃなくなりつつある自分には、こんなにも
(息苦しい)
まだ自分は普通だ。まともだ。一般人だ。正常だ。
必死に取り繕うとするのは…あぁ、本当に疲れる。
授業開始のチャイムが鳴り響く。
今日もまた、私はこの世界で『普通』を演じていく。
片膝を立て、毛布を肩に羽織ればそれなりに暖はとれる。
カレンダーの曜日は、ここに来て何度目かの月曜日を指し示していた。
朝の6時。
真冬の季節、日の出はまだ遠い。
カーテンの隙間から見える町並みはまるでロンドンの街を彷彿させるように、濃い霧がかかっていた。
居間と隣り合わせの寝室の扉がそっと音を立てて開く。
遠慮がちに揺れたドアの隙間から顔を出すのは、寝癖で髪が好き勝手跳ねまわった名無しの姿。
「わ、神田さん。もう起きてたんですか?おはようございます」
「あぁ。」
俺が起きていることに面食らったのか、少し恥ずかしそうに寝癖を抑えて彼女がはにかむ。
あれからアクマの襲撃はない。
アレンの話によれば調査していた遺跡から三体アクマが姿を消したらしい。
そのうちの一体は、先日の夜遭遇した個体だろう。
アレンが繰る『方舟』と科学班が調べたところ、元々そこには空間の"歪み"が生じていたらしい。
ラビが触れたものはイノセンスの『抜け殻』、つまるところ本物はそこにはなかった。
定期報告される情報と照らし合わせば、名無しが言っていたことと合点がついていく。
その歪みを通って、昔からアクマがこちらに漏れていたとしたら。
何かに引き寄せられていると仮定すれば、それは抜け殻になっていたイノセンスの本体だろう。
ならばそのイノセンスは?
それは恐らく――
(…こういう頭脳労働は、俺の仕事じゃねぇぞ。)
考えるのは、得意じゃない。
けれど振るい慣れているはずの刀がない以上、この現地で出来ることは限られている。
アレンが科学班と束になってこちらに干渉する方法を探しているらしいが…さて、それはいつになることやら。
「神田さん。朝ごはん、置いておきますね」
「…?、あぁ、学校か」
「はい。一応、真面目な普通の学生ですから。サボっちゃいたい気持ちも、ないわけじゃないんですけどね」
紺色のバッグと黒いダッフルコート。
裾から見えるのは赤いプリーツのスカート。
先程まで元気よく跳ねていた寝癖はキチンと直され、身だしなみはきちんと整っていた。
(普通、か。)
「そうか、気をつけて行ってこい。」
「はい!行ってきます!」
にこにこと上機嫌で部屋を出ていく名無し。
玄関のドアが重たそうな音を立てて滑らかに閉まる。
残されたのは俺と、外気から流れ込んできた冷えきった空気だけ。
Re:set#06
「名無し、ごめん!世界史のノート、写させて!」
「うん。いいよー」
前回、体調を崩して保健室にいたせいだろう。
中学が同じだった友人が申し訳なさそうに頼み込んでくるのを、無下に断る理由もない。
黒板を書き写したノートを渡せば「ありがとう!」と礼を言って彼女は足早に席へ戻った。
(友人、かぁ)
どこからどこまでが、友人なのだろう。
小学生の低学年の時は『みんなで仲良くしましょう』と先生に言われたっけ。
高学年くらいになると、何となく仲良しグループができる。
中学になるといじめだってあったし、男女の仲だって少しずつ変化していった。
名前を知っていれば友人なのだろうか。
それともそれなりに会話をする程度で友人なのか。
お弁当を一緒に食べたり、放課後遊んだりしたら友人なのか?
(あぁ。バイトが忙しくて…遊びに行ったりなんかしてないもんなぁ)
両親が亡くなったのは中学に入ってすぐだった。いわゆる、思春期真っ盛り。
お金には困ってはいなかったが、遠い親戚からは『お金は大事に使いなさい』と口酸っぱく言われたため、朝は新聞配達のバイトをこっそりしたっけ。
後ろ指を指されないよう勉強も人並み以上に頑張ったつもりだ。
両親がいなくなって暫くは腫れ物扱いをされたが、友人関係は学校内で悪目立ちするようなことはしなかった。
それが地続きで、今もこうして平々凡々な学校生活を無事におくれている。
…それでいい。これでいいんだ。
少し歪な私は、こうやってバランスを取らなければ。
世界に取り残されてしまう。日常に、置いて行かれてしまう。
――あぁ。じゃあ、なんで私はあの人を助けてしまったんだろう。
突如舞い込んだ非日常。
知らない彼。知らない世界。
少しだけ知っていた奇異な悪意。
普通を望むなら見て見ぬふりをしてしまえば良かったのでは。
そう思うこともなかったけれど、気がつけば身体が動いていたのだから仕方ない。
『まぁ、その…一人暮らしは寂しいなーって思っていたんです。理由、それじゃダメですか?』
そう。その言葉は、本心。
口に出せば簡単だったんだ。
(私は、寂しかったんだなぁ)
どこか他人事のように、ぼんやり振り返る。
それはどこか諦めていた感情で、見て見ぬふりをし続けていた私からのメッセージ。
普通であることが、普通じゃなくなりつつある自分には、こんなにも
(息苦しい)
まだ自分は普通だ。まともだ。一般人だ。正常だ。
必死に取り繕うとするのは…あぁ、本当に疲れる。
授業開始のチャイムが鳴り響く。
今日もまた、私はこの世界で『普通』を演じていく。