Re:set
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『無事で何より。』
「イノセンスもねぇ状況が、無事といえるか分からねぇがな」
『大丈夫、神田の六幻はこっちにちゃんとあるから』
それを聞いて少しだけほっとした自分がいた。
戦争は終わったとはいえ、やはり自分のあるべき姿は『ソレ』なのだと。思わず嘲笑めいた笑みが零れてしまう。
『帰る方法もだけど、少しマズい状況なんだけど……』
「なんだよ、モヤシ。」
『…確認していたアクマの数が、遺跡の中をいくら捜索しても合わないんだ。もしかすると、そちらに、』
Re:set#05
今どき珍しい大衆食堂のアルバイトは時給もそこそこ。賄いも出て文句はない。
終わる時間がお世辞にも早いとは言えないので、寄り道せずに帰らなければいけないが。
(でも、今日から神田さんがおうちで待ってるし)
ビニール袋に入った、残り物のおでん。
簡単な夕飯は用意して家を出たけれど、ちゃんと彼はご飯を食べてくれただろうか?
見ず知らずだった人間を招き入れるなんて、我ながらどうかしている。
けれど、『そんなことはどうでもいい』のだ。
取るに足らない、些細なこと。
アパートが近い。
この角を左に曲がって、右手にある建物が今の我が家だ。
角を曲がる。
点々と等間隔に立ち並ぶ街灯の下で、人影がゆらりと揺れる。
すらりと伸びた細身の長身。今日買ったばかりのダウンコートと、揺れる髪紐。
「あ、神田さ…」
「伏せろ!」
鋭い剣幕。
彼の向けられた視線は私の頭上へ。
――あぁ。時々、『視る』アレだ。
ヒトの形をしたもの。
白い陶器のようで、マネキンのような。
死神の、ような。
***
はっ、と息をつけば湯気のような白い靄が空気にとける。
辺りを探すが『アクマ』の姿は見当たらない。
杞憂だ・と思ってやりたいのは山々だ。
しかし数々のアクマを見てきたモヤシが言うなら間違いないだろう。
俺がこちらに来たということは、同時にアクマがこちらへ来ている可能性も十分あるわけで。
寒空の下で僅かに聞こえてくる、人の足音。
がさりと鳴っているのはビニール袋の音だろうか。
人工的な街灯の光の下で、浮き足立ったような足取りは見たことがあるものだった。
(…名無しか。)
ほっと安堵の息をつきかけた時。
肌を刺すような、視線。
それはよく知っているモノだった。
高くそびえ立つ電柱の上、こちらをニタリと見下ろしてくるのは見飽きた宿敵。屠るべき獲物。
――いや、違う。
アクマが向けている視線の先は、俺じゃない。
「あ、神田さ…」
「伏せろ!」
声を荒らげると同時に、俺は駆け出した。
醜悪な笑みを浮かべるアクマが砲身を無防備な名無しに向ける。
虚空に浮かぶ異形を見上げた、名無しの横顔。
庇うことは、恐らく間に合わない。
イノセンスがないことを俺は、生まれて初めて恨んだ。
放たれるはずの轟音はなく、代わりに聞こえてきたのは『何か』が霧散するような音。
殺気を彼女へ向けていたアクマは、まるで星を撒き散らしたかのような光の粒子に変わり果てていた。
影も形もない。
アクマが破壊され、内蔵された人の魂が昇華する時だけ見せる僅かな瞬き。
「う、わぁ…びっくりした…」
大きく見開かれた瞳は夜闇のように艶やかな黒ではなく、
朝焼けのように、黎明の瞬間を彷彿させる
眩いほどの黄金色だった。
***
「アレを見たのは初めてじゃないのか?」
持ち帰ってきた夕飯を呑気に食べている名無しへ声を掛ければ、黒々とした双眸がこちらへ向けられる。
険しい顔をしているだろう俺とは対照的に、意外そうに瞬きを繰り返す目の前の彼女は緊張感の欠片もない。
むしろ異形の人形を見た後にも関わらず、動揺している素振りもない。
――これは質問ではない。確認だ。
「あのオバケですか?はい、ずっと前から、時々。」
温め直したおでんのちくわを頬張りながら、隠す素振りもなく素直に答える名無し。
オバケと認識しているあたり、アレは『良くないモノ』ということは分かっているらしい。
「あれはAKUMAだ。」
「あくま?」
「俺がいる組織と敵対していた人間が作った…生物兵器の名前だ」
そう。
本来なら伯爵から与えられているはずの情報を元に、イノセンスを持つエクソシストを真っ先に攻撃しているようにインプットされている。
だが、実際はどうだ。
(さっきのレベル1は、コイツに向けて攻撃しようとしていた)
考えられる理由は、ひとつだけ。
確信はない。
けれど、それは真実に近い事実だろう。
(まさか、違う世界で適合者を見つけるなんてな)
喜ぶべきなのか、憐れむべきなのか。
それは黒の教団のエクソシストとしての矜恃と、イノセンスに翻弄され続けた神田ユウとしての心情。
「ところで神田さんもおでん、食べられますか?ほら。外、走り回ったなら身体冷えているでしょう。
あったかいですよ?」
ふにゃふにゃと気の抜けたような笑顔で笑うこの少女を、神への贄にするのか。
柔らかく細められた名無しの瞳を見ても、俺の答えは未だ出てこなかった。
何が正解で何が正義なのだろう。誰か、答えを教えて欲しい。
「イノセンスもねぇ状況が、無事といえるか分からねぇがな」
『大丈夫、神田の六幻はこっちにちゃんとあるから』
それを聞いて少しだけほっとした自分がいた。
戦争は終わったとはいえ、やはり自分のあるべき姿は『ソレ』なのだと。思わず嘲笑めいた笑みが零れてしまう。
『帰る方法もだけど、少しマズい状況なんだけど……』
「なんだよ、モヤシ。」
『…確認していたアクマの数が、遺跡の中をいくら捜索しても合わないんだ。もしかすると、そちらに、』
Re:set#05
今どき珍しい大衆食堂のアルバイトは時給もそこそこ。賄いも出て文句はない。
終わる時間がお世辞にも早いとは言えないので、寄り道せずに帰らなければいけないが。
(でも、今日から神田さんがおうちで待ってるし)
ビニール袋に入った、残り物のおでん。
簡単な夕飯は用意して家を出たけれど、ちゃんと彼はご飯を食べてくれただろうか?
見ず知らずだった人間を招き入れるなんて、我ながらどうかしている。
けれど、『そんなことはどうでもいい』のだ。
取るに足らない、些細なこと。
アパートが近い。
この角を左に曲がって、右手にある建物が今の我が家だ。
角を曲がる。
点々と等間隔に立ち並ぶ街灯の下で、人影がゆらりと揺れる。
すらりと伸びた細身の長身。今日買ったばかりのダウンコートと、揺れる髪紐。
「あ、神田さ…」
「伏せろ!」
鋭い剣幕。
彼の向けられた視線は私の頭上へ。
――あぁ。時々、『視る』アレだ。
ヒトの形をしたもの。
白い陶器のようで、マネキンのような。
死神の、ような。
***
はっ、と息をつけば湯気のような白い靄が空気にとける。
辺りを探すが『アクマ』の姿は見当たらない。
杞憂だ・と思ってやりたいのは山々だ。
しかし数々のアクマを見てきたモヤシが言うなら間違いないだろう。
俺がこちらに来たということは、同時にアクマがこちらへ来ている可能性も十分あるわけで。
寒空の下で僅かに聞こえてくる、人の足音。
がさりと鳴っているのはビニール袋の音だろうか。
人工的な街灯の光の下で、浮き足立ったような足取りは見たことがあるものだった。
(…名無しか。)
ほっと安堵の息をつきかけた時。
肌を刺すような、視線。
それはよく知っているモノだった。
高くそびえ立つ電柱の上、こちらをニタリと見下ろしてくるのは見飽きた宿敵。屠るべき獲物。
――いや、違う。
アクマが向けている視線の先は、俺じゃない。
「あ、神田さ…」
「伏せろ!」
声を荒らげると同時に、俺は駆け出した。
醜悪な笑みを浮かべるアクマが砲身を無防備な名無しに向ける。
虚空に浮かぶ異形を見上げた、名無しの横顔。
庇うことは、恐らく間に合わない。
イノセンスがないことを俺は、生まれて初めて恨んだ。
放たれるはずの轟音はなく、代わりに聞こえてきたのは『何か』が霧散するような音。
殺気を彼女へ向けていたアクマは、まるで星を撒き散らしたかのような光の粒子に変わり果てていた。
影も形もない。
アクマが破壊され、内蔵された人の魂が昇華する時だけ見せる僅かな瞬き。
「う、わぁ…びっくりした…」
大きく見開かれた瞳は夜闇のように艶やかな黒ではなく、
朝焼けのように、黎明の瞬間を彷彿させる
眩いほどの黄金色だった。
***
「アレを見たのは初めてじゃないのか?」
持ち帰ってきた夕飯を呑気に食べている名無しへ声を掛ければ、黒々とした双眸がこちらへ向けられる。
険しい顔をしているだろう俺とは対照的に、意外そうに瞬きを繰り返す目の前の彼女は緊張感の欠片もない。
むしろ異形の人形を見た後にも関わらず、動揺している素振りもない。
――これは質問ではない。確認だ。
「あのオバケですか?はい、ずっと前から、時々。」
温め直したおでんのちくわを頬張りながら、隠す素振りもなく素直に答える名無し。
オバケと認識しているあたり、アレは『良くないモノ』ということは分かっているらしい。
「あれはAKUMAだ。」
「あくま?」
「俺がいる組織と敵対していた人間が作った…生物兵器の名前だ」
そう。
本来なら伯爵から与えられているはずの情報を元に、イノセンスを持つエクソシストを真っ先に攻撃しているようにインプットされている。
だが、実際はどうだ。
(さっきのレベル1は、コイツに向けて攻撃しようとしていた)
考えられる理由は、ひとつだけ。
確信はない。
けれど、それは真実に近い事実だろう。
(まさか、違う世界で適合者を見つけるなんてな)
喜ぶべきなのか、憐れむべきなのか。
それは黒の教団のエクソシストとしての矜恃と、イノセンスに翻弄され続けた神田ユウとしての心情。
「ところで神田さんもおでん、食べられますか?ほら。外、走り回ったなら身体冷えているでしょう。
あったかいですよ?」
ふにゃふにゃと気の抜けたような笑顔で笑うこの少女を、神への贄にするのか。
柔らかく細められた名無しの瞳を見ても、俺の答えは未だ出てこなかった。
何が正解で何が正義なのだろう。誰か、答えを教えて欲しい。