Re:set
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『呼ばれた』ような気がした。
吸い寄せられるように茂みの中へ歩を進める。お気に入りの靴が汚れるのも気にしないまま。
草葉の間で見つけたそれは子供心を擽るには十分な、淡い虹色の『匣』だった。
好奇心旺盛だった幼い私は、ついついそれを触ってしまったのだ。
触れた瞬間音もなく、濡れてしまった角砂糖のようにほろりと空気にとける。
まるでそこに最初から『なかった』かのように。
ズキッと目の奥に鈍い痛みが走る。
小さく柔らかい手の甲で目元を擦れば、ほろりと涙が一粒こぼれた。
『名無し、何してるの?早く行くわよ』
…懐かしい、母の呼ぶ声がする。
なくなってしまった『それ』に興味が失せてしまった私は、保育園仕込みの元気な声で『はーい』と返事をしたのだった。
Re:set#02
「……う、あ…?」
変な体勢で寝ていたからか、首・肩・腰が痛い。
おお…今ならアリナ〇ンのCMに出てしまえそうだ。
ベッドには綺麗な寝顔ですぅすぅと寝息を立てている美丈夫が一人。
なるほど、美人の寝顔はもしかしたら国宝に値するかもしれない。綺麗とはこういうことを言うのだろう。
時計を見れば朝の6時過ぎだ。
冬のこの季節は日の出が緩やかなせいか、東の空がようやく白んでくる時間帯だった。
「…洗濯物、しちゃおうかな」
床に座り込んで寝てしまっていたからだろう、立ち上がるだけで関節の節々が悲鳴を上げる。
あぁ、これが花も恥じらう16歳なのだから笑えてくる。現実はこんなものだ。
よろよろと立ち上がった瞬間、何かに引っ張られる感覚。
ぐるりと視界が回って、後頭部が安いカーペットの上にゴツンとキスした。痛い。
「――お前、誰だ。」
帳のように流れてくる絹糸のような黒髪。
射抜くような切れ長の鋭い視線。
…あぁ、なるほど。私は今、助けたはずの人に組み敷かれているのか。
吸い込まれるような黒い双眸。
道を歩けば誰しもが振り返るような顔の造型は、美人の一言に尽きる。
が。
「お…………男の、人だったんですか!?」
鈴が鳴るように涼やかな声であろう…と勝手に想像したものとは裏腹に、降ってきたのは冷ややかな男性の声。
あまり褒められた状況ではないにも関わらず、私は能天気な事を口走ってしまった。
……あぁ、これはまずい。
地雷ワードだったのか、美人を気にしているのか。
目の前の美形の『男性』は、不機嫌そうに眉を思い切り顰めてしまった。
***
何故か私は、目の前の『男性』の前で正座をしている。
いやいや、だって髪長いし。美人だし。
クールビューティな寝顔を見たら、十人中九人は『女性』だと思うだろう。
まさか目を覚ました途端、こんな不機嫌そうな青年と御対面することになるとは露とも思っていなかった。
…なんとなく、その威圧的な空気に正座をしてしまい、今に至る。
おかしい。私が家主なはずなのに。
「…本当にここは日本なんだな?」
「は、はい。そうです。」
「19世紀でもない、と。」
「21世紀ですけど…」
半ば脅し、半ば尋問じみた質問に答えれば、目の前の彼――神田ユウと名乗った青年は、諦めたように溜息をついた。
「…クソウサギが無闇にイノセンスに触れたせいか…」
まさか野生のウサギのことを言っているわけではないだろう。
誰かの愛称(?)だろうか。もしかしたら友人かもしれない。
忌々しそうに舌打ちをする神田さんは、正直に言おう。
無茶苦茶、怖い。
美人が怒ったら怖いって雰囲気のことを指しているのか、それとも顔の造形か。
…いや。彼の場合両方だろう。
「…あの、」
「…何だ。」
「ええっと、服、洗濯しませんか?泥だらけですし…その、部屋が汚れちゃうなー…なんて。」
我ながらこの状況で呑気なものだ。
いやいや、でもこの気まずい空気をどうにかしたいのも本音で。
ぐるぐる巡る思考回路をフル回転させた結果、洗濯するという当初の目的に行き着いた。
「…わかった。」
「あぁよかった。ついでに、ほら。その…雪やら泥やらで汚れちゃってますし!お風呂もよければどうぞ、寒いですし」
脱衣所へ押し込むように案内すれば、部屋を圧迫していた空気が僅かに緩む。
ほっと一息つきながら冷蔵庫を開ければ、結局ありつくことが出来なかった昨晩の賄いと、計画的に使われている食材が目に入った。
まぁ、つまるところ…ろくな食材が残っていない。
だからこそ今日は買い出しに出かける予定だったのだけれど。
「…とりあえず、着替えだよね…」
父が昔使っていたジャージとTシャツでいいだろうか。部屋をしっかり暖めておこう。
問題は彼が思ったより背丈が高かったこと。サイズはもしかしたら合わないかもしれない。
(パンイチ…よりはマシか。うん。とりあえず下着はもう一回我慢してもらおう)
19世紀がどういう生活をしていたのか皆目検討がつかないが、なんだか警察に突き出すわけにもいかなさそうだ。
とにかく今は、
「…お腹、減ったなぁ」
盛大に鳴り響く腹の虫を抑えるように、やわやわとした腹部をそっとひと撫でした。
吸い寄せられるように茂みの中へ歩を進める。お気に入りの靴が汚れるのも気にしないまま。
草葉の間で見つけたそれは子供心を擽るには十分な、淡い虹色の『匣』だった。
好奇心旺盛だった幼い私は、ついついそれを触ってしまったのだ。
触れた瞬間音もなく、濡れてしまった角砂糖のようにほろりと空気にとける。
まるでそこに最初から『なかった』かのように。
ズキッと目の奥に鈍い痛みが走る。
小さく柔らかい手の甲で目元を擦れば、ほろりと涙が一粒こぼれた。
『名無し、何してるの?早く行くわよ』
…懐かしい、母の呼ぶ声がする。
なくなってしまった『それ』に興味が失せてしまった私は、保育園仕込みの元気な声で『はーい』と返事をしたのだった。
Re:set#02
「……う、あ…?」
変な体勢で寝ていたからか、首・肩・腰が痛い。
おお…今ならアリナ〇ンのCMに出てしまえそうだ。
ベッドには綺麗な寝顔ですぅすぅと寝息を立てている美丈夫が一人。
なるほど、美人の寝顔はもしかしたら国宝に値するかもしれない。綺麗とはこういうことを言うのだろう。
時計を見れば朝の6時過ぎだ。
冬のこの季節は日の出が緩やかなせいか、東の空がようやく白んでくる時間帯だった。
「…洗濯物、しちゃおうかな」
床に座り込んで寝てしまっていたからだろう、立ち上がるだけで関節の節々が悲鳴を上げる。
あぁ、これが花も恥じらう16歳なのだから笑えてくる。現実はこんなものだ。
よろよろと立ち上がった瞬間、何かに引っ張られる感覚。
ぐるりと視界が回って、後頭部が安いカーペットの上にゴツンとキスした。痛い。
「――お前、誰だ。」
帳のように流れてくる絹糸のような黒髪。
射抜くような切れ長の鋭い視線。
…あぁ、なるほど。私は今、助けたはずの人に組み敷かれているのか。
吸い込まれるような黒い双眸。
道を歩けば誰しもが振り返るような顔の造型は、美人の一言に尽きる。
が。
「お…………男の、人だったんですか!?」
鈴が鳴るように涼やかな声であろう…と勝手に想像したものとは裏腹に、降ってきたのは冷ややかな男性の声。
あまり褒められた状況ではないにも関わらず、私は能天気な事を口走ってしまった。
……あぁ、これはまずい。
地雷ワードだったのか、美人を気にしているのか。
目の前の美形の『男性』は、不機嫌そうに眉を思い切り顰めてしまった。
***
何故か私は、目の前の『男性』の前で正座をしている。
いやいや、だって髪長いし。美人だし。
クールビューティな寝顔を見たら、十人中九人は『女性』だと思うだろう。
まさか目を覚ました途端、こんな不機嫌そうな青年と御対面することになるとは露とも思っていなかった。
…なんとなく、その威圧的な空気に正座をしてしまい、今に至る。
おかしい。私が家主なはずなのに。
「…本当にここは日本なんだな?」
「は、はい。そうです。」
「19世紀でもない、と。」
「21世紀ですけど…」
半ば脅し、半ば尋問じみた質問に答えれば、目の前の彼――神田ユウと名乗った青年は、諦めたように溜息をついた。
「…クソウサギが無闇にイノセンスに触れたせいか…」
まさか野生のウサギのことを言っているわけではないだろう。
誰かの愛称(?)だろうか。もしかしたら友人かもしれない。
忌々しそうに舌打ちをする神田さんは、正直に言おう。
無茶苦茶、怖い。
美人が怒ったら怖いって雰囲気のことを指しているのか、それとも顔の造形か。
…いや。彼の場合両方だろう。
「…あの、」
「…何だ。」
「ええっと、服、洗濯しませんか?泥だらけですし…その、部屋が汚れちゃうなー…なんて。」
我ながらこの状況で呑気なものだ。
いやいや、でもこの気まずい空気をどうにかしたいのも本音で。
ぐるぐる巡る思考回路をフル回転させた結果、洗濯するという当初の目的に行き着いた。
「…わかった。」
「あぁよかった。ついでに、ほら。その…雪やら泥やらで汚れちゃってますし!お風呂もよければどうぞ、寒いですし」
脱衣所へ押し込むように案内すれば、部屋を圧迫していた空気が僅かに緩む。
ほっと一息つきながら冷蔵庫を開ければ、結局ありつくことが出来なかった昨晩の賄いと、計画的に使われている食材が目に入った。
まぁ、つまるところ…ろくな食材が残っていない。
だからこそ今日は買い出しに出かける予定だったのだけれど。
「…とりあえず、着替えだよね…」
父が昔使っていたジャージとTシャツでいいだろうか。部屋をしっかり暖めておこう。
問題は彼が思ったより背丈が高かったこと。サイズはもしかしたら合わないかもしれない。
(パンイチ…よりはマシか。うん。とりあえず下着はもう一回我慢してもらおう)
19世紀がどういう生活をしていたのか皆目検討がつかないが、なんだか警察に突き出すわけにもいかなさそうだ。
とにかく今は、
「…お腹、減ったなぁ」
盛大に鳴り響く腹の虫を抑えるように、やわやわとした腹部をそっとひと撫でした。