とあるカルデアの一幕
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彼の髪は、人間だった頃もふわふわだった。
初対面の時に彼自身のことをゆるふわ系・と称したら、何を勘違いしたのか『あぁ、髪は適当にセットしてるから』とふにゃふにゃと笑っていたのが印象に残っている。
「今はゆるふわ系…というか、どちらかと言うと白いモ●ゾーですね」
「酷いよぉ、リツカちゃん」
やっとの想いで英霊の座に引きずり上げ、再会に至った目の前の古代イスラエルの王――ソロモン、もといロマニ・アーキマンだった男は、困ったように笑うのだった。
***
「ふわふわしてるし、大きな猫みたい」
今日はレイシフトの予定も、シュミレーターによるトレーニングの予定も入っていない。
可愛い部下だった彼女は、今やボクのマスターだ。
いや。『部下』と一言で片付けてしまうには、少し語弊があるかもしれない。
藤丸立香ちゃんは、ボクの、初恋の女の子だ。
それは勿論誰にも打ち明ける訳でもなく、彼女の重荷になるだろうからこそ、そっと胸の奥に大事に大事に仕舞っていた淡い感情で。
(まぁレオナルドにはバレてしまっていたんだけれど)
流石の洞察力というか、なんというか。
彼女曰く『キミは分かり易すぎるんだよ』と言っていた。失礼な話だ。
唇を噛み締め、泣きそうな顔で前を向く彼女の顔を見つめながら、『あぁ初恋が叶わないなんて、本当のことだったんだなぁ』と。
いつかの、消えゆく意識の中でそっと思ったというのに。
今やご覧の通り、だ。
彼女の諦めの悪さと、奇跡を引き寄せる類まれなる運命に手を取られ、ボクは再びこの世界に現界した。
詳細は…まぁ、今日のところは割愛しようか。
目下の厄介事はリツカちゃんやカルデアスタッフの頑張りによって片付き、あの怒涛の過酷業務とはありがたくも程遠くなった。
全てが終わった今、不定期に発生する特異点の修正がカルデアの主な業務だ。
新所長であるゴルドルフ所長のサポートや、本来の医療担当、はたまたおざなりになりがちだった引き継ぎがボクの主な仕事になりつつある。
…当たり前だけど、たまにはボクだってサーヴァントとして働いているんだぞぅ。
『ドクターは忙しいですし、無理はしないでください』と有難い気遣いまでされてしまっているが。
…難易度の高いレイシフト先にマーリンがよくついて行っているのは、ボクとしてはなんだか癪だけど。
まぁ、そんなこんなで。
平和・とは一概には言えないけれど、生前や『ロマニ・アーキマン』だった頃に比べて心穏やかに過ごせるようになったのは、僕の背後で髪を弄っている彼女のおかげだろう。
「時々髪が絡んで大変なんだよぅ、この長さ。」
「昔はどうしてたんです?やっぱり、身の回りの世話してくれる方が綺麗にしてくれていたとか?」
「情けない話だけど、まぁそんなところかな」
現代に生きる彼女にはしっくりこない話にも関わらず、くすくすと笑いながら「王様ですもんねぇ」と呟いた。
リツカちゃんからしたら『ロマニ・アーキマン』としての付き合いの方が長く、そちらの方が印象的だったのだろう。
魔術王だとかグランドキャスターだとか、仰々しいばかりの肩書きがあるにも関わらず、以前と変わらないフレンドリーな態度にボクは内心ホッとした。
今更、彼女からギルガメッシュ王やオジマンディアス王に対するような態度を取られたら、少なからずボクは寂しかっただろうし、ちょっと傷ついたかもしれない。
それにしても、だ。
(う、わわ、リツカちゃん、いい匂い、近い、どうしよう)
平静を装って片付いていない仕事を片手間にこなしているが、ふらりと遊びに来た彼女からしたら知ったことではないらしい。
いや、来てくれるのは大歓迎だ。むしろ嬉しい。
けれど距離が近い。
彼女のお気に入りの石鹸の匂いやカルデアの支給品ではなくなったシャンプーの香りが、元・三十路童貞からしたら刺激が強すぎるのであって。
心臓が早鐘を打つようにバクバクしている。
理由は、分かりきっていた。
「そうだ。髪、といてあげますね!」
「へ、」
「一人で手入れするの大変だもんね、ちょっと櫛とか持ってきまーす!」
「ちょ、ちょっと、リツカちゃん!」
カルデアに来た当初よりも随分と行動的になった彼女の背中を見送りながら、僕は小さく息をついた。
手を煩わせてしまう申し訳なさと、『ボクのため』にしてくれる・という喜びと、彼女がいなくなった部屋の寂しさと。
複雑な感情がぐるぐる巡って、胸がいっぱいになる。
けれどそれは生前の空っぽさに比べたら、酷く満たされた気分だった。
僅かな罪悪感と、弾むような歓喜と、早く戻ってきて欲しいと焦がれる我儘。
(あぁ、我ながら面倒くさい性格だなぁ)
彼女が戻ってくるまでに、もう少しで仕上がる書類を片付けてしまおう。
その間に湯を沸かして、コーヒーを入れて…あぁ彼女は温かいココアがいいだろうか。
まさか人を待つことが、こんなにもワクワクすることだったなんて。
思わず緩んでしまいそうな口元を両手で抑え、ボクは電気ケトルのスイッチを軽く押した。
嗚呼、至上の幸福は此処に。
「わ、本当だ。癖毛も相まってすごく絡みますね…」
「そうなんだよぉ、切っちゃおうかなぁ」
「ダメですよ、勿体ない。」
「えぇ…じゃあリツカちゃんがお手入れしてよ…なーんて、」
「いいですよ。」
「えっ」
軽はずみな発言から、まさか習慣化される時が来ようとは。
嬉しい、恥ずかしい、嬉しい、情けない、嬉しい、申し訳ない、嬉しい、嬉しい、嬉しい。
あぁ。
今日もボクの心はキミの手によって、
穏やかに、心地よく、掻き乱される。
初対面の時に彼自身のことをゆるふわ系・と称したら、何を勘違いしたのか『あぁ、髪は適当にセットしてるから』とふにゃふにゃと笑っていたのが印象に残っている。
「今はゆるふわ系…というか、どちらかと言うと白いモ●ゾーですね」
「酷いよぉ、リツカちゃん」
やっとの想いで英霊の座に引きずり上げ、再会に至った目の前の古代イスラエルの王――ソロモン、もといロマニ・アーキマンだった男は、困ったように笑うのだった。
***
「ふわふわしてるし、大きな猫みたい」
今日はレイシフトの予定も、シュミレーターによるトレーニングの予定も入っていない。
可愛い部下だった彼女は、今やボクのマスターだ。
いや。『部下』と一言で片付けてしまうには、少し語弊があるかもしれない。
藤丸立香ちゃんは、ボクの、初恋の女の子だ。
それは勿論誰にも打ち明ける訳でもなく、彼女の重荷になるだろうからこそ、そっと胸の奥に大事に大事に仕舞っていた淡い感情で。
(まぁレオナルドにはバレてしまっていたんだけれど)
流石の洞察力というか、なんというか。
彼女曰く『キミは分かり易すぎるんだよ』と言っていた。失礼な話だ。
唇を噛み締め、泣きそうな顔で前を向く彼女の顔を見つめながら、『あぁ初恋が叶わないなんて、本当のことだったんだなぁ』と。
いつかの、消えゆく意識の中でそっと思ったというのに。
今やご覧の通り、だ。
彼女の諦めの悪さと、奇跡を引き寄せる類まれなる運命に手を取られ、ボクは再びこの世界に現界した。
詳細は…まぁ、今日のところは割愛しようか。
目下の厄介事はリツカちゃんやカルデアスタッフの頑張りによって片付き、あの怒涛の過酷業務とはありがたくも程遠くなった。
全てが終わった今、不定期に発生する特異点の修正がカルデアの主な業務だ。
新所長であるゴルドルフ所長のサポートや、本来の医療担当、はたまたおざなりになりがちだった引き継ぎがボクの主な仕事になりつつある。
…当たり前だけど、たまにはボクだってサーヴァントとして働いているんだぞぅ。
『ドクターは忙しいですし、無理はしないでください』と有難い気遣いまでされてしまっているが。
…難易度の高いレイシフト先にマーリンがよくついて行っているのは、ボクとしてはなんだか癪だけど。
まぁ、そんなこんなで。
平和・とは一概には言えないけれど、生前や『ロマニ・アーキマン』だった頃に比べて心穏やかに過ごせるようになったのは、僕の背後で髪を弄っている彼女のおかげだろう。
「時々髪が絡んで大変なんだよぅ、この長さ。」
「昔はどうしてたんです?やっぱり、身の回りの世話してくれる方が綺麗にしてくれていたとか?」
「情けない話だけど、まぁそんなところかな」
現代に生きる彼女にはしっくりこない話にも関わらず、くすくすと笑いながら「王様ですもんねぇ」と呟いた。
リツカちゃんからしたら『ロマニ・アーキマン』としての付き合いの方が長く、そちらの方が印象的だったのだろう。
魔術王だとかグランドキャスターだとか、仰々しいばかりの肩書きがあるにも関わらず、以前と変わらないフレンドリーな態度にボクは内心ホッとした。
今更、彼女からギルガメッシュ王やオジマンディアス王に対するような態度を取られたら、少なからずボクは寂しかっただろうし、ちょっと傷ついたかもしれない。
それにしても、だ。
(う、わわ、リツカちゃん、いい匂い、近い、どうしよう)
平静を装って片付いていない仕事を片手間にこなしているが、ふらりと遊びに来た彼女からしたら知ったことではないらしい。
いや、来てくれるのは大歓迎だ。むしろ嬉しい。
けれど距離が近い。
彼女のお気に入りの石鹸の匂いやカルデアの支給品ではなくなったシャンプーの香りが、元・三十路童貞からしたら刺激が強すぎるのであって。
心臓が早鐘を打つようにバクバクしている。
理由は、分かりきっていた。
「そうだ。髪、といてあげますね!」
「へ、」
「一人で手入れするの大変だもんね、ちょっと櫛とか持ってきまーす!」
「ちょ、ちょっと、リツカちゃん!」
カルデアに来た当初よりも随分と行動的になった彼女の背中を見送りながら、僕は小さく息をついた。
手を煩わせてしまう申し訳なさと、『ボクのため』にしてくれる・という喜びと、彼女がいなくなった部屋の寂しさと。
複雑な感情がぐるぐる巡って、胸がいっぱいになる。
けれどそれは生前の空っぽさに比べたら、酷く満たされた気分だった。
僅かな罪悪感と、弾むような歓喜と、早く戻ってきて欲しいと焦がれる我儘。
(あぁ、我ながら面倒くさい性格だなぁ)
彼女が戻ってくるまでに、もう少しで仕上がる書類を片付けてしまおう。
その間に湯を沸かして、コーヒーを入れて…あぁ彼女は温かいココアがいいだろうか。
まさか人を待つことが、こんなにもワクワクすることだったなんて。
思わず緩んでしまいそうな口元を両手で抑え、ボクは電気ケトルのスイッチを軽く押した。
嗚呼、至上の幸福は此処に。
「わ、本当だ。癖毛も相まってすごく絡みますね…」
「そうなんだよぉ、切っちゃおうかなぁ」
「ダメですよ、勿体ない。」
「えぇ…じゃあリツカちゃんがお手入れしてよ…なーんて、」
「いいですよ。」
「えっ」
軽はずみな発言から、まさか習慣化される時が来ようとは。
嬉しい、恥ずかしい、嬉しい、情けない、嬉しい、申し訳ない、嬉しい、嬉しい、嬉しい。
あぁ。
今日もボクの心はキミの手によって、
穏やかに、心地よく、掻き乱される。