とあるカルデアの一幕
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何度かレイシフトした後。
それは突然やってきた。
くたくたになった身体を休ませるために横になれば、すぐに堕ちていく意識。
暗い暗い意識の底へ。まるで呼吸の出来る深海へ、静かに、緩やかに。
眠りの中の穏やかなはずの黒は、塗り潰されたように漆黒の闇だった。
瞼を閉じればぐるぐると巡る凄惨な光景。
それは何度も見てきた。
あぁまたか、という諦めにも近い思いと、息をするのすら苦しくなるような、えも言えぬ感情がフツフツと沸いてくる。
『どうして助けてくれなかったのか』
『死ぬのは嫌だ』
『痛い、痛い。誰か助けてくれ』
もう生きているはずもない惨たらしい姿の、『人間』だったソレと目が合う。
誰か・という言葉は間違いなく自分に向けられている、ような気がした。
特異点を修正すれば、彼らが正しい歴史とは違う『死』結末自体リセットされる。
だから気に病む必要はない。
そう思いたいのに思えない。
割り切れない。
冷徹に徹することも、逆に全てを救う術も持ち合わせていない。
良心の呵責に耐えきれず、記憶に程なく近い『悪夢』の中で、私は目を閉じ、耳を塞いで、口を噤んで必死に耐えた。
「おや、少し疲れてるみたいだね。」
耳を塞いでいた手をそっと引かれ、おもむろに顔を上げた。
白いフードに、白いマントを羽織った後ろ姿。
淡い、花の香り。
握られた手は滑らかなのに、大きい。間違いなく男性の手だ。
手を引かれ走れば、遠くなる悪夢。
屍人の呻き声も、もう遠い。
あの、あなたは…?
そう問えばフードの下でくすりと小さく『彼』が笑った、気がした。
「まだ名乗る時じゃないさ」
くるりと軽い足取りで踵を返せば、マントから零れている白銀のくせ髪がふわりと揺れる。
彼が一挙一動動けば、鼻腔をくすぐる蜜花の香りが、何だか不思議だった。
ここに花なんて咲いていないのに。
「咲いているよ。ほら」
彼がトントン、と足を踏み鳴らせば音を立てて瓦解していく黒。
まるで世界の幕開けかのように、花弁を宙へ巻き上げながら広がっていく真っ赤な花畑。
その中央に高々と建てられた細長い建物。
目が眩む朝焼けのような、郷愁を感じさせる黄昏のような。黄金の空は高く、目映いくらいにキラキラと吹き抜けていた。
綺麗。
「そうだろう?ここは理想郷でもあり、監獄でもあるからね」
槍のような塔を指差しながら彼は笑う。
確かに牢のような作りにも、見えなくはないが…。
貴方はここで何をしているの?
そう問えば彼は穏やかに笑った。
「人々の紡ぐ物語を、ここで見守っているのさ」
もちろん、君の物語も。
さらりと頬を撫でられれば、生温い指先の体温が擽ったかった。
それと同時にアロマのような柔らかい花の香りが心地よく眠気を誘う。
寝ているのに眠くなる・だなんて変な話だが、不思議と眠たくなってきているのだ。
人間の三大欲求のひとつには、どう抗っても逆らえない。
「君には、頑張ってハッピーエンドの物語へ導いて貰わなきゃね」
だから、今はゆっくりおやすみ。
あぁ。柔らかい、暖かな声が、 遠のいて いく
***
どれくらい寝たのだろう。
目を開ければ見慣れた天井と、
「先輩!よかった、目が覚めて…」
「立香ちゃん、大丈夫だったかい!?どこか体調が悪いとか、目眩とかはない?」
マシュとロマニの姿。
どうしてこの二人がマイルームにいるのか分からないまま、私はゆっくりと身体を起こした。
「あの、どうして二人共ここに、」
「マシュが血相を変えて『先輩が起きないんです』って司令室にくるからさ。ビックリしちゃった」
ほっと息をつきながらロマニは破顔する。
マシュに至っては私の手を握りしめたまま心配そうに顔を覗き込んでいた。
「えっと、どれくらい寝ていました?」
「もう夕方ですよ、先輩」
「うわ…」
レイシフトの予定はなかったとはいえ、それは寝すぎだろう。
確かに最近眠りが浅くて、眠れていなかったのは事実だけども。
「きっと疲れていたんですね。今日は部屋でゆっくりしましょう、先輩。」
「そうだね。ありがとう、マシュ。ドクターも心配お掛けしました」
「いやいや。体調悪くなったらすぐに…って、あれ?立香ちゃん。その花、どうしたの?」
「花?」
ドクターが指差した先には、枕元に寄り添うように置かれた真っ赤な花。
名前も知らない、見たことがない種類の花に、私は小さく首を傾げた。
…見たことがない?いや、どこかで見たような…。
「誰かが置いていったんですかね」
「…だと、いいんだけど。」
珍しく呆れたように肩を竦めるロマニ。彼のそんな顔は初めて見た。
もしかしたら置き主を知っているのかもしれないが、詮索はよしておこう。
君がつむぐ未来に、花の加護があらんことを。
どこからか『声』が、聞こえたような 気がした。
箱庭の花園
あぁ、早く君に会いたいな。
それは突然やってきた。
くたくたになった身体を休ませるために横になれば、すぐに堕ちていく意識。
暗い暗い意識の底へ。まるで呼吸の出来る深海へ、静かに、緩やかに。
眠りの中の穏やかなはずの黒は、塗り潰されたように漆黒の闇だった。
瞼を閉じればぐるぐると巡る凄惨な光景。
それは何度も見てきた。
あぁまたか、という諦めにも近い思いと、息をするのすら苦しくなるような、えも言えぬ感情がフツフツと沸いてくる。
『どうして助けてくれなかったのか』
『死ぬのは嫌だ』
『痛い、痛い。誰か助けてくれ』
もう生きているはずもない惨たらしい姿の、『人間』だったソレと目が合う。
誰か・という言葉は間違いなく自分に向けられている、ような気がした。
特異点を修正すれば、彼らが正しい歴史とは違う『死』結末自体リセットされる。
だから気に病む必要はない。
そう思いたいのに思えない。
割り切れない。
冷徹に徹することも、逆に全てを救う術も持ち合わせていない。
良心の呵責に耐えきれず、記憶に程なく近い『悪夢』の中で、私は目を閉じ、耳を塞いで、口を噤んで必死に耐えた。
「おや、少し疲れてるみたいだね。」
耳を塞いでいた手をそっと引かれ、おもむろに顔を上げた。
白いフードに、白いマントを羽織った後ろ姿。
淡い、花の香り。
握られた手は滑らかなのに、大きい。間違いなく男性の手だ。
手を引かれ走れば、遠くなる悪夢。
屍人の呻き声も、もう遠い。
あの、あなたは…?
そう問えばフードの下でくすりと小さく『彼』が笑った、気がした。
「まだ名乗る時じゃないさ」
くるりと軽い足取りで踵を返せば、マントから零れている白銀のくせ髪がふわりと揺れる。
彼が一挙一動動けば、鼻腔をくすぐる蜜花の香りが、何だか不思議だった。
ここに花なんて咲いていないのに。
「咲いているよ。ほら」
彼がトントン、と足を踏み鳴らせば音を立てて瓦解していく黒。
まるで世界の幕開けかのように、花弁を宙へ巻き上げながら広がっていく真っ赤な花畑。
その中央に高々と建てられた細長い建物。
目が眩む朝焼けのような、郷愁を感じさせる黄昏のような。黄金の空は高く、目映いくらいにキラキラと吹き抜けていた。
綺麗。
「そうだろう?ここは理想郷でもあり、監獄でもあるからね」
槍のような塔を指差しながら彼は笑う。
確かに牢のような作りにも、見えなくはないが…。
貴方はここで何をしているの?
そう問えば彼は穏やかに笑った。
「人々の紡ぐ物語を、ここで見守っているのさ」
もちろん、君の物語も。
さらりと頬を撫でられれば、生温い指先の体温が擽ったかった。
それと同時にアロマのような柔らかい花の香りが心地よく眠気を誘う。
寝ているのに眠くなる・だなんて変な話だが、不思議と眠たくなってきているのだ。
人間の三大欲求のひとつには、どう抗っても逆らえない。
「君には、頑張ってハッピーエンドの物語へ導いて貰わなきゃね」
だから、今はゆっくりおやすみ。
あぁ。柔らかい、暖かな声が、 遠のいて いく
***
どれくらい寝たのだろう。
目を開ければ見慣れた天井と、
「先輩!よかった、目が覚めて…」
「立香ちゃん、大丈夫だったかい!?どこか体調が悪いとか、目眩とかはない?」
マシュとロマニの姿。
どうしてこの二人がマイルームにいるのか分からないまま、私はゆっくりと身体を起こした。
「あの、どうして二人共ここに、」
「マシュが血相を変えて『先輩が起きないんです』って司令室にくるからさ。ビックリしちゃった」
ほっと息をつきながらロマニは破顔する。
マシュに至っては私の手を握りしめたまま心配そうに顔を覗き込んでいた。
「えっと、どれくらい寝ていました?」
「もう夕方ですよ、先輩」
「うわ…」
レイシフトの予定はなかったとはいえ、それは寝すぎだろう。
確かに最近眠りが浅くて、眠れていなかったのは事実だけども。
「きっと疲れていたんですね。今日は部屋でゆっくりしましょう、先輩。」
「そうだね。ありがとう、マシュ。ドクターも心配お掛けしました」
「いやいや。体調悪くなったらすぐに…って、あれ?立香ちゃん。その花、どうしたの?」
「花?」
ドクターが指差した先には、枕元に寄り添うように置かれた真っ赤な花。
名前も知らない、見たことがない種類の花に、私は小さく首を傾げた。
…見たことがない?いや、どこかで見たような…。
「誰かが置いていったんですかね」
「…だと、いいんだけど。」
珍しく呆れたように肩を竦めるロマニ。彼のそんな顔は初めて見た。
もしかしたら置き主を知っているのかもしれないが、詮索はよしておこう。
君がつむぐ未来に、花の加護があらんことを。
どこからか『声』が、聞こえたような 気がした。
箱庭の花園
あぁ、早く君に会いたいな。