Ghost mechanic
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昼下がりの15時。
一通のメールがスマホに届いた。
『依頼物を送ったので確認して下さい』
英文だらけのメールの中に紛れ込む、日本語のメッセージ。
送り主は彼女だ。
依頼してから僅か14時間後に返事が返ってくるのは流石というか。
『助かる。ありがとう』
短く端的なメッセージを送った後、俺はそのデータをジェイムズに転送した。
現在FBIが捜査している組織の裏帳簿。
それは膨大な量で、尚且つセキュリティもかなり厳重な代物だ。
本当はこんなすぐにすぐと用意できるものではないが、そこは彼女の腕・といったところか。
「Ghost hacker、か。」
なるほど、言い得て妙だ。
ほんのひと握りの人間しか彼女の『本職』は知られていない。
かつての組織ですら彼女の実態を掴みきれなかったのだから、まさに『Ghost』だ。
「…今度美味いものでも差し入れるか。」
近い内に日本へ行く用事がある。
さて、どんなものを持っていったら彼女は喜ぶだろうか。
幽霊の生存確認方法
一人暮らしにしては少し広い2LDKのアパート。
そこに彼女は住んでいる。
一見すれば何の変哲もないアパート。
階段を登りながら駐車場を一瞥れば、相変わらず丁寧に扱われているRX-7が目に入った。
降谷のものと違って、色は艶やかな青だが。
インターホンを鳴らせば、部屋の奥へと響く電子音。
車はあるから恐らくいると思うのだが。
「ふぁい…」
幾分かの間を置いて開けられるドア。
…インターホンの意味を彼女は理解しているのだろうか。
「眠そうだな」
「アポ無しで来るからじゃないですか…」
恐らく徹夜明けだろう。
半ズボンにTシャツ、それはそれは色気のない格好だった。
…いや、そういえば彼女が着飾った姿をあまり見たことがないかもしれない。
「そう言うな。手土産だ」
真純に事前に聞いていてよかった。
最近出来た洋菓子屋のシュークリームが米花町で人気らしく、小さな店舗の割には結構並んだ代物だ。
「赤井さん、こういうのも買われるんですね…ちょっと意外です」
部屋にあげられ中に入れば、相変わらず生活感のない部屋だった。
シンプルな家具に、シンプルなカーテン。
リビングから引戸だけで仕切られた一部屋が、彼女が大抵いる場所だ。
「コーヒーでいいですか?」
「あぁ。」
積み上げられたサーバーと小型のスパコンを眺めながら、さながら秘密基地だな・と思った。
この部屋は一年を通して寒い。涼しいを通り越して、寒いのだ。
機械の排熱に負けないようにエアコンをかけっぱなしにしているのだから、当然といえば当然だ。
居間のソファには『副業』の作業着が乱雑に掛けられ、先程までここで仮眠を取っていたのだろう。毛布が床に落ちていた。
殺風景なリビングで、ここだけ妙に生活感に溢れていた。
(というより普通…男を家にあげるか?)
警戒心がないというか、信用されているととらえればいいのか。
多少心境は複雑だ。
「あ、すみません。座る場所がなかったですね」
器用に片手でマグカップを二つ、片手で先程買ったシュークリームの箱を持って名無しがやってくる。
どことなくやはり眠そうだ。…今度から連絡を入れて来るとしよう。
「珍しいですね、直接会って依頼だなんて」
「…いや、依頼は特にないが。」
「?、じゃあ何か御用ですか?マスタングのメンテナンスですか?」
もそもそとシュークリームを頬張りながらしのが小さく首を傾げる。
車のメンテナンス…なわけないだろう。そうじゃない。
意外とそういうところは鈍いのが、たまにキズだ。
「……なんだろうな。生存確認?」
「やめてくださいよ、ここは米花町ですよ」
確かに。
縁起でもないな。
「徹夜明けだろう。食事は食べたのか?」
「食べましたよー。先日降谷さんが作ってくれたおかずがタッパーに入ってますから」
口の端についたカスタードクリームをぺろりと舐めとる姿は、どこからどう見ても世界屈指のハッカーには見えないだろう。
……って、そうじゃない。
「まさか降谷くんもここに来ているのか?」
「?、まぁ、ご近所ですから…」
羨ましい。
率直に思った感想がそれだ。
確かに彼と彼女の家は近い。
そして生粋の世話焼き体質の彼の事だ、名無しの事が放っておけないのだろう。
組織の潜入が終わった今なら、以前の彼と比べて自由になる時間も多い。
名無しと知り合ったのは俺の方が先だというのに、なんだろう。この一歩リードされてしまった感は。
(…いっそ日本に引越すか?)
ジョディやキャメルが聞いたらさぞかし小言を言われるだろう。
現実的ではない思考回路を振り払うように、俺は苦いコーヒーを一口啜った。
一通のメールがスマホに届いた。
『依頼物を送ったので確認して下さい』
英文だらけのメールの中に紛れ込む、日本語のメッセージ。
送り主は彼女だ。
依頼してから僅か14時間後に返事が返ってくるのは流石というか。
『助かる。ありがとう』
短く端的なメッセージを送った後、俺はそのデータをジェイムズに転送した。
現在FBIが捜査している組織の裏帳簿。
それは膨大な量で、尚且つセキュリティもかなり厳重な代物だ。
本当はこんなすぐにすぐと用意できるものではないが、そこは彼女の腕・といったところか。
「Ghost hacker、か。」
なるほど、言い得て妙だ。
ほんのひと握りの人間しか彼女の『本職』は知られていない。
かつての組織ですら彼女の実態を掴みきれなかったのだから、まさに『Ghost』だ。
「…今度美味いものでも差し入れるか。」
近い内に日本へ行く用事がある。
さて、どんなものを持っていったら彼女は喜ぶだろうか。
幽霊の生存確認方法
一人暮らしにしては少し広い2LDKのアパート。
そこに彼女は住んでいる。
一見すれば何の変哲もないアパート。
階段を登りながら駐車場を一瞥れば、相変わらず丁寧に扱われているRX-7が目に入った。
降谷のものと違って、色は艶やかな青だが。
インターホンを鳴らせば、部屋の奥へと響く電子音。
車はあるから恐らくいると思うのだが。
「ふぁい…」
幾分かの間を置いて開けられるドア。
…インターホンの意味を彼女は理解しているのだろうか。
「眠そうだな」
「アポ無しで来るからじゃないですか…」
恐らく徹夜明けだろう。
半ズボンにTシャツ、それはそれは色気のない格好だった。
…いや、そういえば彼女が着飾った姿をあまり見たことがないかもしれない。
「そう言うな。手土産だ」
真純に事前に聞いていてよかった。
最近出来た洋菓子屋のシュークリームが米花町で人気らしく、小さな店舗の割には結構並んだ代物だ。
「赤井さん、こういうのも買われるんですね…ちょっと意外です」
部屋にあげられ中に入れば、相変わらず生活感のない部屋だった。
シンプルな家具に、シンプルなカーテン。
リビングから引戸だけで仕切られた一部屋が、彼女が大抵いる場所だ。
「コーヒーでいいですか?」
「あぁ。」
積み上げられたサーバーと小型のスパコンを眺めながら、さながら秘密基地だな・と思った。
この部屋は一年を通して寒い。涼しいを通り越して、寒いのだ。
機械の排熱に負けないようにエアコンをかけっぱなしにしているのだから、当然といえば当然だ。
居間のソファには『副業』の作業着が乱雑に掛けられ、先程までここで仮眠を取っていたのだろう。毛布が床に落ちていた。
殺風景なリビングで、ここだけ妙に生活感に溢れていた。
(というより普通…男を家にあげるか?)
警戒心がないというか、信用されているととらえればいいのか。
多少心境は複雑だ。
「あ、すみません。座る場所がなかったですね」
器用に片手でマグカップを二つ、片手で先程買ったシュークリームの箱を持って名無しがやってくる。
どことなくやはり眠そうだ。…今度から連絡を入れて来るとしよう。
「珍しいですね、直接会って依頼だなんて」
「…いや、依頼は特にないが。」
「?、じゃあ何か御用ですか?マスタングのメンテナンスですか?」
もそもそとシュークリームを頬張りながらしのが小さく首を傾げる。
車のメンテナンス…なわけないだろう。そうじゃない。
意外とそういうところは鈍いのが、たまにキズだ。
「……なんだろうな。生存確認?」
「やめてくださいよ、ここは米花町ですよ」
確かに。
縁起でもないな。
「徹夜明けだろう。食事は食べたのか?」
「食べましたよー。先日降谷さんが作ってくれたおかずがタッパーに入ってますから」
口の端についたカスタードクリームをぺろりと舐めとる姿は、どこからどう見ても世界屈指のハッカーには見えないだろう。
……って、そうじゃない。
「まさか降谷くんもここに来ているのか?」
「?、まぁ、ご近所ですから…」
羨ましい。
率直に思った感想がそれだ。
確かに彼と彼女の家は近い。
そして生粋の世話焼き体質の彼の事だ、名無しの事が放っておけないのだろう。
組織の潜入が終わった今なら、以前の彼と比べて自由になる時間も多い。
名無しと知り合ったのは俺の方が先だというのに、なんだろう。この一歩リードされてしまった感は。
(…いっそ日本に引越すか?)
ジョディやキャメルが聞いたらさぞかし小言を言われるだろう。
現実的ではない思考回路を振り払うように、俺は苦いコーヒーを一口啜った。
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