aster days
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食事が終わったあと、食器を片付けたら意外にも皆すんなりと帰って行った。
「じゃあ僕もそろそろ戻、」
「しませんよ。今日はここで寝てください」
aster days#09
『湯加減どうですか?』
「丁度いいっス」
あれよあれよと風呂に押し込められ、彼女から痛烈な一言を送られた。
『浦原さん、しばらくお風呂入ってないでしょう。ちょっとその、においますよ』
…ということを言われ、研究室に戻るに戻れなくなった。
確かに風呂は入っていなかった、というか日付の感覚があまりなかった。
端的に言ってしまえば、風呂に入ることすらすっかり忘れてしまっていた。
研究に没頭したらよくあることだ。
「名無しサン、背中流してくれるサービスはないんスか?」
『そういうのはそういうことができるお店に行ってくださいね』
扉一枚向こうから、洗濯物をこなしつつ答えられた。
…ん?洗濯物?
「もしかして名無しサン」
『はい?』
「ボクの下着」
『ちゃんと洗ってますよ』
やっぱり。
未成年にパンツ洗わせるとかどんなプレイだ。
申し訳なさと、ほんの少しの背徳感で思わず頭を抱えてしまった。
『あぁ嫌でしたか?すみません』
「普通、年頃の女の子だったらお父さんのパンツと一緒に洗わないで!って感覚じゃないんっスか?」
『あれは父親と娘では近しい遺伝子を持ってるから、本能的に父親と『万が一の間違い』が起きないようにするための生理現象らしいですよ』
「つまりボクの下着は」
『祖父のパンツ洗ってると思えばなんてことはないですね』
さいですか。
というか、祖父って。
死神は人間に比べたら何倍も生きてるけど、祖父はないでしょう、祖父は。
『タイマーかけて…よし。』
ガララッ
不意に風呂場の引き戸が開く音と共に、無造作に扉が開け放たれた。
開けた犯人は分かっている。タオル一枚持った名無しサンしかいない。
ボクは湯船に浸かったまま、呑気に手ぬぐいでタオルクラゲを作っていた。少し恥ずかしい。
「背中、流せばいいんですっけ?」
恥ずかしがるわけでもなく、キャーの一言もなしに、首をかしげながら彼女は笑った。
***
「さっき背中流すのは、」
「半分以上下心あったでしょう」
「はい」
お見通しスか。
「で、冗談半分でしたよね」
「はい」
わかっていらっしゃる。
「だから来たんですよ」
「名無しサン、意外と捻くれてるっスね」
「祖父に似たんでしょう、きっと。痒いところはありますか?」
「んん…全体的に、じゃあお願いします」
「わかりました」
丁度いい擦り心地。
腰に巻いたタオルの、張り付いた不愉快さがなければ完璧だった。
孫ができたらこんな感じなのだろうか。いや、奥さんすら予定は全然ないんスけど。
「自意識過剰だったらすみません。
…もしかして、私の約束のせいで休めなかったんですか?」
「いやいや、そんなことは…」
「お部屋にお邪魔した時、もしかして煮詰まってました?」
「…よく分かりましたね」
「マユリさんが、『浦原喜助はバカだけど天才だからネ。どうせ偶然キミを呼んでしまったがために、戻す方法が見つからないんだヨ、きっと。でなければこんな長く姿を見せないわけがないネ』って」
「ぶっ」
裏声で、しかも涅サンのモノマネのつもりなのか。
声は全く似ていないのに、口調は似すぎてて妙にツボに入った。
「お仕事の片手間でいいですよ。帰りたいのは山々ですけど、馬車馬のように頑張られても、ちょっとこっちが申し訳ない気分になっちゃいます」
「いや、でも約束ですから」
「『期限が決まってない仕事なんて思いついた時にすればええんや』ってひよ里ちゃんは言ってましたけど」
「それもどうなんスかね」
確かに期限は決まっていない。
けど、
「心配なんですよ。私を困らせるんですか?」
肩越しに、鏡の中で視線が絡む。
じっとこちらを見る双眸は、恐らくボクが折れなければ外されることはないだろう。
背中越しに、制限しているはずの彼女の霊圧が少しだけピリピリと感じた。
「…分かりました、じゃあ、お言葉に甘えて」
「お願いします。皆さん、心配されてましたよ」
「それはそれは」
満足そうに微笑んで、再び背中を擦る手が動き出す。
…あの面子が?心配?まぁ、お世辞でも有難く受け取っておきましょ。
「意外と怪我の痕だらけですね。擦ってて痛くないです?」
「あぁ、古傷ですから」
「死神って、大変なお仕事ですね」
「えぇまぁ」
ものすごく驚くわけでもなく、深く興味を持つわけでもなく。
社交辞令的な会話だとしても、こんな風に彼女と会話らしい会話をするのは初めてかもしれない。
いや、できるだけ会話をしないように、ボクがきっと、避けていた。
怒っている、嫌われている、憎まれている。そう思っていた。
「肩も凝るし」
「うぉっ、あぁぁ〜…」
首筋を掴まれれば、思わず変な声が出た。
…何っスか、これ。無茶苦茶気持ちいい。
思わず前傾姿勢をとってしまうほどに、名無しサンのマッサージは悶絶モノだった。
もちろん、気持ちいいという意味に他意はない。
「首と肩、ガッチガチですね」
「隊長兼、技術開発局の局長になって書類仕事は倍になりましたから…あぁぁー」
「あら、加齢じゃないんですね」
「えぇ〜頑張っている証拠っスよ〜。酷いなぁ」
「冗談ですよ、すみません」
クスクスと楽しそうに笑う名無しサン。
口では謝っているのに言葉に含められるはずの謝罪感はゼロだ。
大きな声で言えない如何わしい店も行ったことあるけれども、こんな楽しくて気持ちのいい風呂は初めてかもしれない。
久しぶり過ごす穏やかな夜は、ゆっくり更けていく。
「じゃあ僕もそろそろ戻、」
「しませんよ。今日はここで寝てください」
aster days#09
『湯加減どうですか?』
「丁度いいっス」
あれよあれよと風呂に押し込められ、彼女から痛烈な一言を送られた。
『浦原さん、しばらくお風呂入ってないでしょう。ちょっとその、においますよ』
…ということを言われ、研究室に戻るに戻れなくなった。
確かに風呂は入っていなかった、というか日付の感覚があまりなかった。
端的に言ってしまえば、風呂に入ることすらすっかり忘れてしまっていた。
研究に没頭したらよくあることだ。
「名無しサン、背中流してくれるサービスはないんスか?」
『そういうのはそういうことができるお店に行ってくださいね』
扉一枚向こうから、洗濯物をこなしつつ答えられた。
…ん?洗濯物?
「もしかして名無しサン」
『はい?』
「ボクの下着」
『ちゃんと洗ってますよ』
やっぱり。
未成年にパンツ洗わせるとかどんなプレイだ。
申し訳なさと、ほんの少しの背徳感で思わず頭を抱えてしまった。
『あぁ嫌でしたか?すみません』
「普通、年頃の女の子だったらお父さんのパンツと一緒に洗わないで!って感覚じゃないんっスか?」
『あれは父親と娘では近しい遺伝子を持ってるから、本能的に父親と『万が一の間違い』が起きないようにするための生理現象らしいですよ』
「つまりボクの下着は」
『祖父のパンツ洗ってると思えばなんてことはないですね』
さいですか。
というか、祖父って。
死神は人間に比べたら何倍も生きてるけど、祖父はないでしょう、祖父は。
『タイマーかけて…よし。』
ガララッ
不意に風呂場の引き戸が開く音と共に、無造作に扉が開け放たれた。
開けた犯人は分かっている。タオル一枚持った名無しサンしかいない。
ボクは湯船に浸かったまま、呑気に手ぬぐいでタオルクラゲを作っていた。少し恥ずかしい。
「背中、流せばいいんですっけ?」
恥ずかしがるわけでもなく、キャーの一言もなしに、首をかしげながら彼女は笑った。
***
「さっき背中流すのは、」
「半分以上下心あったでしょう」
「はい」
お見通しスか。
「で、冗談半分でしたよね」
「はい」
わかっていらっしゃる。
「だから来たんですよ」
「名無しサン、意外と捻くれてるっスね」
「祖父に似たんでしょう、きっと。痒いところはありますか?」
「んん…全体的に、じゃあお願いします」
「わかりました」
丁度いい擦り心地。
腰に巻いたタオルの、張り付いた不愉快さがなければ完璧だった。
孫ができたらこんな感じなのだろうか。いや、奥さんすら予定は全然ないんスけど。
「自意識過剰だったらすみません。
…もしかして、私の約束のせいで休めなかったんですか?」
「いやいや、そんなことは…」
「お部屋にお邪魔した時、もしかして煮詰まってました?」
「…よく分かりましたね」
「マユリさんが、『浦原喜助はバカだけど天才だからネ。どうせ偶然キミを呼んでしまったがために、戻す方法が見つからないんだヨ、きっと。でなければこんな長く姿を見せないわけがないネ』って」
「ぶっ」
裏声で、しかも涅サンのモノマネのつもりなのか。
声は全く似ていないのに、口調は似すぎてて妙にツボに入った。
「お仕事の片手間でいいですよ。帰りたいのは山々ですけど、馬車馬のように頑張られても、ちょっとこっちが申し訳ない気分になっちゃいます」
「いや、でも約束ですから」
「『期限が決まってない仕事なんて思いついた時にすればええんや』ってひよ里ちゃんは言ってましたけど」
「それもどうなんスかね」
確かに期限は決まっていない。
けど、
「心配なんですよ。私を困らせるんですか?」
肩越しに、鏡の中で視線が絡む。
じっとこちらを見る双眸は、恐らくボクが折れなければ外されることはないだろう。
背中越しに、制限しているはずの彼女の霊圧が少しだけピリピリと感じた。
「…分かりました、じゃあ、お言葉に甘えて」
「お願いします。皆さん、心配されてましたよ」
「それはそれは」
満足そうに微笑んで、再び背中を擦る手が動き出す。
…あの面子が?心配?まぁ、お世辞でも有難く受け取っておきましょ。
「意外と怪我の痕だらけですね。擦ってて痛くないです?」
「あぁ、古傷ですから」
「死神って、大変なお仕事ですね」
「えぇまぁ」
ものすごく驚くわけでもなく、深く興味を持つわけでもなく。
社交辞令的な会話だとしても、こんな風に彼女と会話らしい会話をするのは初めてかもしれない。
いや、できるだけ会話をしないように、ボクがきっと、避けていた。
怒っている、嫌われている、憎まれている。そう思っていた。
「肩も凝るし」
「うぉっ、あぁぁ〜…」
首筋を掴まれれば、思わず変な声が出た。
…何っスか、これ。無茶苦茶気持ちいい。
思わず前傾姿勢をとってしまうほどに、名無しサンのマッサージは悶絶モノだった。
もちろん、気持ちいいという意味に他意はない。
「首と肩、ガッチガチですね」
「隊長兼、技術開発局の局長になって書類仕事は倍になりましたから…あぁぁー」
「あら、加齢じゃないんですね」
「えぇ〜頑張っている証拠っスよ〜。酷いなぁ」
「冗談ですよ、すみません」
クスクスと楽しそうに笑う名無しサン。
口では謝っているのに言葉に含められるはずの謝罪感はゼロだ。
大きな声で言えない如何わしい店も行ったことあるけれども、こんな楽しくて気持ちのいい風呂は初めてかもしれない。
久しぶり過ごす穏やかな夜は、ゆっくり更けていく。