aster days
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六帖一間の部屋。
それは居間から程なく近い場所。
そこで彼女は眠り続ける。
aster days#18
「おはようございます、名無しサン」
被っていた帽子を脱ぎ、布団の横に胡座をかいて座り込んだ。
返事は、ない。
すぅすぅと規則的に繰り返される寝息と、首元を指でそっと撫でた時に感じる頸動脈の鼓動だけが彼女の生を肯定できる要素だった。
「ひよ里サン達は、昨日出て行っちゃいました。きっとボクらに迷惑かけない為だとは思うんスけどね」
ワクチンが間に合って、彼らの魂魄自殺を食い止めることが出来た。
けれど、起きた後が大変だった。
『なんで、名無しは起きんのや!浦原、お前何かしたんやろ!?』
そう言って浦原の胸倉を掴んできたひよ里。
名無しの底なしの霊力を使って『人間の魂魄を精製する』ことで、本来人間の魂魄が必要だったワクチンを誰の霊魂も犠牲になることなく作れた。
しかし、いくら底なしと言えどもそれを八人分だ。
義魂丸を媒体に霊力を込める度に見るからに彼女は消耗していった。
『名無しサン、もういいです!あなたが次目覚める保証が出来なくなります!』
そう言って止めようとした浦原を、彼女は笑って否定した。
『ひと一人分の魂魄分くらいの霊力、どうってことはないです。
それに、その魂魄どこから取ってくるんですか。絶対にあなたの手は汚させません。
…だから、大丈夫ですよ。私は、絶対大丈夫です』
だから、そんな泣きそうな顔しないでください。…似合わないですよ。
そう言って彼女は笑った。
そっと頬を撫でてくれた指差しは少しだけ乾いていて、血が通っていないのではと勘繰ってしまう程に冷たかった。
『名無しサンの霊力で魂魄を精製して、ワクチンに使いました。彼女が目を覚まさなくなる可能性も、知っていました』
『おどれ、なんちゅうことを…!』
殴られて当然だった。
けれどひよ里の拳は浦原に届くことはなく、平子に止められた。
『やめい、ひよ里!』
『離しぃや、真子!』
『頭冷やさんかい!こんなの…こんな結末、喜助が一番後悔しとるに決まっとるやろうが!!』
空気が震えるほどの怒鳴り声だった。
いつも飄々としていた彼からは想像もつかない声色。
そんなこと、ひよ里をはじめ誰しもが分かっていた。
虚化の餌食になった自分達を守るために、浦原達は尸魂界を追放された。
元の原因を辿れば藍染かもしれないが、油断をした自分達に責任の一端があると思ってしまうのは仕方がなかった。
『…なんでや』
力なく項垂れたひよ里が、弱々しい声で呟く。
『なんで、ウチらの為なんかに、名無しが犠牲にならんといけんかったんや』
大きなツリ目からボロボロと涙が、止めどなく零れた。
「ひよ里サンが、泣いてましたよ。…早く、起きてください、名無しサン」
頬を撫でれば、眠りにつく前に比べて血色が良くなった。
霊圧遮断義骸に入った名無しの霊圧は、殆ど感じられない。
けれど間違いなく言えるのは彼女の霊圧はまだ元に戻らない。
かなり時間がかかるだろう。それが何年どころの話ではなく、何十年も。
「…ボクは、ちゃんと待ってますから」
小さな手を両手で包むように握りしめる。
それはまるで祈るように、縋るように。
まだその手が握り返される日は、遠い。
それは居間から程なく近い場所。
そこで彼女は眠り続ける。
aster days#18
「おはようございます、名無しサン」
被っていた帽子を脱ぎ、布団の横に胡座をかいて座り込んだ。
返事は、ない。
すぅすぅと規則的に繰り返される寝息と、首元を指でそっと撫でた時に感じる頸動脈の鼓動だけが彼女の生を肯定できる要素だった。
「ひよ里サン達は、昨日出て行っちゃいました。きっとボクらに迷惑かけない為だとは思うんスけどね」
ワクチンが間に合って、彼らの魂魄自殺を食い止めることが出来た。
けれど、起きた後が大変だった。
『なんで、名無しは起きんのや!浦原、お前何かしたんやろ!?』
そう言って浦原の胸倉を掴んできたひよ里。
名無しの底なしの霊力を使って『人間の魂魄を精製する』ことで、本来人間の魂魄が必要だったワクチンを誰の霊魂も犠牲になることなく作れた。
しかし、いくら底なしと言えどもそれを八人分だ。
義魂丸を媒体に霊力を込める度に見るからに彼女は消耗していった。
『名無しサン、もういいです!あなたが次目覚める保証が出来なくなります!』
そう言って止めようとした浦原を、彼女は笑って否定した。
『ひと一人分の魂魄分くらいの霊力、どうってことはないです。
それに、その魂魄どこから取ってくるんですか。絶対にあなたの手は汚させません。
…だから、大丈夫ですよ。私は、絶対大丈夫です』
だから、そんな泣きそうな顔しないでください。…似合わないですよ。
そう言って彼女は笑った。
そっと頬を撫でてくれた指差しは少しだけ乾いていて、血が通っていないのではと勘繰ってしまう程に冷たかった。
『名無しサンの霊力で魂魄を精製して、ワクチンに使いました。彼女が目を覚まさなくなる可能性も、知っていました』
『おどれ、なんちゅうことを…!』
殴られて当然だった。
けれどひよ里の拳は浦原に届くことはなく、平子に止められた。
『やめい、ひよ里!』
『離しぃや、真子!』
『頭冷やさんかい!こんなの…こんな結末、喜助が一番後悔しとるに決まっとるやろうが!!』
空気が震えるほどの怒鳴り声だった。
いつも飄々としていた彼からは想像もつかない声色。
そんなこと、ひよ里をはじめ誰しもが分かっていた。
虚化の餌食になった自分達を守るために、浦原達は尸魂界を追放された。
元の原因を辿れば藍染かもしれないが、油断をした自分達に責任の一端があると思ってしまうのは仕方がなかった。
『…なんでや』
力なく項垂れたひよ里が、弱々しい声で呟く。
『なんで、ウチらの為なんかに、名無しが犠牲にならんといけんかったんや』
大きなツリ目からボロボロと涙が、止めどなく零れた。
「ひよ里サンが、泣いてましたよ。…早く、起きてください、名無しサン」
頬を撫でれば、眠りにつく前に比べて血色が良くなった。
霊圧遮断義骸に入った名無しの霊圧は、殆ど感じられない。
けれど間違いなく言えるのは彼女の霊圧はまだ元に戻らない。
かなり時間がかかるだろう。それが何年どころの話ではなく、何十年も。
「…ボクは、ちゃんと待ってますから」
小さな手を両手で包むように握りしめる。
それはまるで祈るように、縋るように。
まだその手が握り返される日は、遠い。
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