aster days
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目を覚ませば見知らぬ木目の天井。
綺麗に整った格子状の作りは、上等な日本家屋のようだった。
「喜助ェ!起きたで!」
声を張り上げるのは近くにいた少女。
金髪のツインテールに、可愛らしい八重歯。
射抜くような鋭い目付きは、少女らしい背丈と見た目の割に不釣り合いのようにも思えた。
「…あなたは?」
「あ?ウチか?ウチは猿柿ひよ里や。ねーちゃん、名前は言えるか?」
「…名無し、です」
「意識はハッキリしとるな。あぁ、その手首の鎖。外したらアカンで」
ひよ里と名乗った少女が指差すのは私の左手首。
細いブレスレットのような鎖が軽やかな金属音音を立てて小さく揺れた。
赤黒い、柘榴石のような飾りがついている、ごく普通のアクセサリーのように見えるが。
「霊力と霊圧を抑える道具ッス。
あの後アナタ、倒れたんっスよ。
まぁ倒れただけでよかった。あんだけ霊力垂れ流しにしてたら普通は即死ですから」
浦原が襖を開け、顔を覗かせる。
相変わらずの悪びれた様子を感じさせない笑顔。
布団を挟んで、ひよ里の反対側に腰を下ろした。
「…霊力って」
「んー、現世で言うとこの、霊感のような。魂から作り出される力、って言えばいいんスかね」
「魂、」
「霊力の源が魄睡、ブースターの役割が鎖結って言うんスけど、例えるなら、水道の水量と水圧ってトコすかね」
「だから何ですか。」
「物凄い量の水量を、物凄い水圧で垂れ流しにしている。それがあなたの今の状況ですよ、名無しサン」
言っている意味が、分かるような、分からないような。
「水は、湧く。けれど一気に放出したら枯れてしまう。
量も潤沢と言ってもいい、圧も勢いが良すぎる、しかしそれをコントロール出来ていないのがアナタっス」
「つまりや。こっちに来た拍子にリミッターがぶっ壊れて、このハゲにブチ切れて霊力垂れ流して、アンタの霊力が限界で倒れたっちゅーことやな」
ハゲ、と罵りながら親指を浦原に向けるひよ里。
なるほど、水の例えはわかりやすい。
「その霊力が完全になくなったら、」
「死ぬっスね」
この野郎。
変な状況に置かれた上で、原因となったこの男のせいでトドメを刺されかけたということか。なんて理不尽な話だ。
「で、そこでその霊力制御装置っス。頭痛とかはないっスか?」
「…ないですけど」
「ならよかったっス。そうそう、気をつけて下さいねぇ。
霊力の枯渇も問題っスけど、アナタ程の霊圧に当てられた普通の死神は、卒倒しちゃいますから」
「…あ、なるほど」
だから最初の問い詰めてきた男は突然白目を向いて気絶したのか。
それは少し、悪いことをしたかもしれない。
「…って、死神?誰が?」
「ボクらです」
「…ある意味あなたに私はトドメを刺されかけたから死神っていうのは、まぁ納得ですけど。なんですか?死神って」
「まぁその話は後々。それより、腹減らないっスか?霊力使うと、普通は腹減るんスよ」
「こんな状況でお腹なんて」
ぐぅぅぅ…
「…」
「……」
「………」
「腹の虫は素直そうで何よりっス」
「ちょっと恥ずかしいので黙ってて貰えますか?」
「ホンマ、デリカシーのないハゲやな。
名無し、ってゆったな。あんなハゲ、ムカついたら金玉潰してえぇからな」
「ひよ里サン、アナタも下ネタ言っちゃってるから、デリカシー云々を言えないんじゃ」
「じゃかましい!喜助ェ、飯をとってくる間に土下座して詫びとけや!」
ドスドスと不機嫌そうな足音を立てて、ひよ里は部屋を出ていった。
これまた足音に負けず、不機嫌そうに襖を勢いよく閉めて。
「…本当に、すみません」
頭をぐっと下げ、絞り出すように声を出す目の前の男。
ひよ里に言われたように急所を狙ってもいいし、恐らくその派手な金髪の頭に拳を振るっても、きっとこの男は反撃をしないだろう。
そんな風に思わせるような、声だった。
「…いいですよ、ってそう簡単に許せません。
だから、探してください。私が、元の場所に戻れる方法を」
「それは、」
「私も、手伝えることがあれば何でもします。お願いします。向こうには、残してきた子がいるんです」
「…分かりました。善処します」
「約束ですよ」
小指を差し出せば、心底驚いたような顔。
何よ、その顔。
「こっちの世界には指切りないんですか?」
「いやぁ、ありますけど。まさかこんな形で」
「仕方ないでしょう。誓約書でも書かせて血判押させたい気分なんですよ、こっちは。今はこれで我慢します」
何かしらでもいい。
ただの口約束で済ませて欲しくない。
形で、残しておきたい。
「分かりました。…約束っス」
aster days#02
絡む小指。
冷たい肌。
一回り太くて、少しだけカサついたソレは、間違いなく男の人の手だった。