aster days
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは、煌々と燃える星のように。
aster days#17
手のひらサイズの小さなガラス玉。
これに霊力を込めれば、擬似的な人間の魂魄が作れる…らしい。
しかし、それが平子達の魂魄自殺を食い止めるワクチンの材料になり得る保証はない。
(大丈夫。大丈夫だ。私が、やらなければ)
マユリに『霊力馬鹿』と渾名を頂いたくらいだ。出来ないわけがない。
出来ないと諦めた時点で、そこから前に進めない。諦めるな。
ぱんっと両頬を叩き、名無しは大きく息を吸った。
(あの人に、あんな顔をさせちゃいけない)
研究室で見た彼の表情は、腹を括った顔だったのだ。
罪のない人の命を、ただ刈りとるだけの、
「手は、汚させない」
あなたの手は、誰かを救うための手なのだから。
***
「…成功、っス」
くたくたに疲れた顔で浦原は奥の研究室から出てきた。
作ったワクチンを最初に投与したのは白。
最初に虚化したのは彼女だったため、進行が一番深刻だった。
今は顔を覆っていた仮面は消え、死んだように眠ってはいるが息はきちんと繰り返されていた。
鉄裁と名無しは畳の上に力なく座り込んだ。
「…よかったぁ…」
「まだ、安心するのは早いっス。早いところ他の人のワクチンも作らなければ」
浦原の幾分か安心が滲んだ声に、名無しは大きくひとつ頷いた。
自らの体調を、見て見ぬふりをして。
***
三番目に進行が酷かった平子の分のワクチンが出来た。
作業は順調だ。名無しの体調を、除けば。
「…っ、けほ、」
先程食べた食事を流しに戻してしまった。
ぐるぐると回る視界。
体調はまさしく絶不調だ。
あと五人分。
大丈夫。あとで粥を作って胃に流し込めばいい。
浦原や鉄裁には体調のことを悟られてはいけない。絶対に。
吐瀉物を排水口へ入念に流し、冷やした麦茶を喉へ流した。
胃酸で焼けた喉には酷く染みる。
「名無しサン?」
ワクチンの精製中は手が空くらしい。
浦原がのっそりとした動きで台所へ顔を出した。
「…どうかされました?」
「いえ。水の音が聞こえてきたモンっスから、洗い物でもしてるのかと思って」
浦原の言葉に「あぁ、」と曖昧に答えて、名無しは笑った。
「いえ、ちょうど終わったところです。」
「そうっスか。この家、縁側気持ちいいんっスよ。昼寝でもしませんか、ボクも少し眠いっス」
そういえばこの家の中をあまり散策してなかったのを思い出した。
見た目に反して、奥行があって意外と広いのは分かっていたが。
「中庭なんて、あったんですね」
「みたいっス。ボクも昨日家の中をふらっとして見つけたもんっスから」
温かい陽気が立ち込める中庭を囲うように、縁側が整備されていた。
確かにこれは昼寝スポットだろう。
部屋の中まで暖かい日差しが差し込む室内は、まるで今の状況を忘れさせてしまう程に穏やかだった。
浦原が持っていた二枚の座布団を畳に置けば昼寝の準備は整う。
ゴロリと寝転がる彼から少し離れたところで横になれば、畳の柔らかい匂いとぽかぽかとした陽気が眠気を誘った。
「これ、すぐ寝ちゃいそうですね」
「ボクもっス。夜はまた忙しくなりますから、今のうちに寝ちゃいましょ」
睡魔に誘われるまま目を閉じれば、視界が深い深い闇におちる。
『無茶を、するからだ』
懐かしい『彼』の声が、聞こえた気がした。
その昼寝から私が目覚めたのは、丸二日経った後の話だ。
aster days#17
手のひらサイズの小さなガラス玉。
これに霊力を込めれば、擬似的な人間の魂魄が作れる…らしい。
しかし、それが平子達の魂魄自殺を食い止めるワクチンの材料になり得る保証はない。
(大丈夫。大丈夫だ。私が、やらなければ)
マユリに『霊力馬鹿』と渾名を頂いたくらいだ。出来ないわけがない。
出来ないと諦めた時点で、そこから前に進めない。諦めるな。
ぱんっと両頬を叩き、名無しは大きく息を吸った。
(あの人に、あんな顔をさせちゃいけない)
研究室で見た彼の表情は、腹を括った顔だったのだ。
罪のない人の命を、ただ刈りとるだけの、
「手は、汚させない」
あなたの手は、誰かを救うための手なのだから。
***
「…成功、っス」
くたくたに疲れた顔で浦原は奥の研究室から出てきた。
作ったワクチンを最初に投与したのは白。
最初に虚化したのは彼女だったため、進行が一番深刻だった。
今は顔を覆っていた仮面は消え、死んだように眠ってはいるが息はきちんと繰り返されていた。
鉄裁と名無しは畳の上に力なく座り込んだ。
「…よかったぁ…」
「まだ、安心するのは早いっス。早いところ他の人のワクチンも作らなければ」
浦原の幾分か安心が滲んだ声に、名無しは大きくひとつ頷いた。
自らの体調を、見て見ぬふりをして。
***
三番目に進行が酷かった平子の分のワクチンが出来た。
作業は順調だ。名無しの体調を、除けば。
「…っ、けほ、」
先程食べた食事を流しに戻してしまった。
ぐるぐると回る視界。
体調はまさしく絶不調だ。
あと五人分。
大丈夫。あとで粥を作って胃に流し込めばいい。
浦原や鉄裁には体調のことを悟られてはいけない。絶対に。
吐瀉物を排水口へ入念に流し、冷やした麦茶を喉へ流した。
胃酸で焼けた喉には酷く染みる。
「名無しサン?」
ワクチンの精製中は手が空くらしい。
浦原がのっそりとした動きで台所へ顔を出した。
「…どうかされました?」
「いえ。水の音が聞こえてきたモンっスから、洗い物でもしてるのかと思って」
浦原の言葉に「あぁ、」と曖昧に答えて、名無しは笑った。
「いえ、ちょうど終わったところです。」
「そうっスか。この家、縁側気持ちいいんっスよ。昼寝でもしませんか、ボクも少し眠いっス」
そういえばこの家の中をあまり散策してなかったのを思い出した。
見た目に反して、奥行があって意外と広いのは分かっていたが。
「中庭なんて、あったんですね」
「みたいっス。ボクも昨日家の中をふらっとして見つけたもんっスから」
温かい陽気が立ち込める中庭を囲うように、縁側が整備されていた。
確かにこれは昼寝スポットだろう。
部屋の中まで暖かい日差しが差し込む室内は、まるで今の状況を忘れさせてしまう程に穏やかだった。
浦原が持っていた二枚の座布団を畳に置けば昼寝の準備は整う。
ゴロリと寝転がる彼から少し離れたところで横になれば、畳の柔らかい匂いとぽかぽかとした陽気が眠気を誘った。
「これ、すぐ寝ちゃいそうですね」
「ボクもっス。夜はまた忙しくなりますから、今のうちに寝ちゃいましょ」
睡魔に誘われるまま目を閉じれば、視界が深い深い闇におちる。
『無茶を、するからだ』
懐かしい『彼』の声が、聞こえた気がした。
その昼寝から私が目覚めたのは、丸二日経った後の話だ。