aster days
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「時が来るまで、彼女は貴方にお貸ししておきます。それでは、また」
そう言い残して藍染は断空を放ち、夜闇の中へ消えた。
残されたのは虚化した八人と、鉄裁、浦原、名無しの三人だった。
aster days#14
鉄裁の鬼道で十二番隊隊舎へ、瞬きのような速さで戻ってきた。
『虚化』『空間転移』とさっきから浦原と鉄裁が話をしているが、全く頭の中に入ってこない。
ただ、握ったままのひよ里の手がどんどん冷たくなっていくのは、嫌でもわかった。
これが良くない状況なのも。
「名無しサン。」
振り返れば浦原が音もなく立っていた。
黒い外套のフードで顔に影を落としているからか、表情は全く読めない。
「地下水路を通れば二番隊隊舎近くまで行けます」
浦原と同じ黒い外套で肩からふわりと包まれる。
そっと握らされたのは、小さな蛍のような機械だった。
「夜一サンの霊圧を感知してコイツが案内してくれます。…ボクらも平子サン達を治療したらそちらへ向かいますから」
嫌だ、怖い、ひとりにしないで。
口を開けば零れてしまいそうな本音をぐっと飲み込むように唇を固く噤む。
小さく、私は頷く。これが私のできる最大の強がりだった。
「…お気をつけて」
頭をそっとひと撫でする、大きな手。
泣きそうになる顔を見せまいと外套のフードを深くかぶった。
もう一度、今度は大きく頷き、以前教えてもらった地下水路へ走る。
きっとあの場にいても私は役に立たない。
どうして藍染に誘拐されたのかも、理由が分からなかった。
だからこそあの場にいてはいけない。
より安全な夜一の元へ、私は逃がされたのだ。
全部分かっている。
頭では分かっているし、理解も出来ている。
けど、
「っ、の…」
悔しさと、寂しさと、不安と、憤りと。
行き場を失くした感情が涙になって頬を伝う。
私は、何も出来ない。
外套の袖で振り払うように涙を拭う。泣いている場合ではない。
今、出来ることをしなければ。
先行する蛍の光を追いかけ、足音だけが無情に木霊す地下水路を全速力で走った。
***
案内された先にあったのは、何の変哲もない作業用梯子。
水路に沿って飛んでいた蛍は、すぃっと梯子の上へ飛んで行く。
「この上、なの?」
肩で息を整えながら、梯子を登る。
しばらく使っていないのか、触った欄干はかなり埃っぽかった。
頭上にあるのは、間違いない。
出口だ。
ぐっと扉を上に押し上げるが、ビクともしない。
しばらく使っていないから固まっているのか、それとも鍵がかかっているのか。
「っこの、開け、ぇ…っ」
背中から肩を使って全力で押し上げるも、やはりビクともしない。
狭い縦穴。
明かりは僅かに光る道先案内人の小さな光のみ。
狭くて暗くて、まるで井戸から這い上がるコーデリアの気分だ。
『お気をつけて』
「何が、お気をつけて、よ…っ!」
嫌な予感がぐるぐると頭から離れない。
どうしてひよ里達があんな目に。
藍染に連れて行かれた事件の後すぐ、私一人で夜一のところへ行かせるなんて、きっと本来の浦原ならしないことだろう。そんな人だ。
考えられる理由はひとつ。
十二番隊舎にいる方が、恐らく危険なのだ。
「自分のことを、気遣いなさいよ!」
分かっている。
普段の態度からは想像出来ないほどに人一倍責任を背負っていることも、色んなことに責任を感じてしまうあの性格も。
それを隠すために笑顔で振舞っていることも。
ひとつ屋根の下で暮らし始めてまだ1年経ってないが、そんな彼の性格は分かりきっていた。
「っの、開けってば!
早く『夜一さんのところへ!』」
ズルッ、と。
『何か』に呑み込まれる感覚。
瞬きを一度行えば、そこは暗い地下水路ではなく
「う、わ!」
宙へ放り出される身体。
受け身なんか取れるはずもなく、無様にも床に叩きつけられた。
待った。この感覚どこかで。
「ぶっ!」
「何奴じゃ!」
聞きなれた声。
同時に外套のフードを、手刀で払い落とされた。
金目に、褐色の肌。間違いない、夜一だった。
「名無しか!?何処から隊首室へ、」
「夜一さん!ひよ里ちゃん達と、浦原さんが!」
頼れる人は、もうこの人しかいない。
彼女の袴を掴んで、縋り付くように事の経緯を話した。
***
「なるほど、藍染が噛んでおったか」
座布団の上で胡座をかき、思案するように口元を手で覆う夜一。
ことのあらましを全て伝えた。
藍染達のこと、ひよ里達に起こった異変、浦原達のことも。
「ところで名無し。おぬし、鉄裁の時空転移でここに来たのか?」
「じくう…?いえ、水路を走って。でも出口が開かなくて」
「…………ふむ、」
しばし考え込む夜一。
今の時刻は丑三つ時。
外からは虫の鳴き声すら聞こえない、静寂に包まれた深夜だ。
二人の間に流れる沈黙がいつもより静かに聞こえた。
「名無し。鬼道の使い方は分かるか?」
「いえ、マユリさんから霊圧を込める方法だけ教わりました」
「十分じゃ。目を閉じろ」
夜一の暖かい手でそっと目元を覆われる。
促されるままに瞼を閉じ、ゆっくりと息を繰り返した。
「いいか、儂の霊圧を探せ。集中したら感覚で探せるはずじゃ。
霊圧を見つけたら念じろ、命令のようなものでもいい。おぬしの目の前に、儂が来るように」
「霊圧、」
夜一の霊圧。
目を塞いでいた手がそっと離れる。
気配は、もうこの部屋にはない。
意識をゆっくり沈めて、じっくり探す。
――、
いた。
先程まで目の前にいたのに、今はかなり離れた場所に。
けれど、二番隊隊舎の中にいる。
「『来い』」
言葉にして念じれば、トンッと床の上に立つ足音が聞こえた。
「名無し。」
目を開ければ夜一の姿。
にんまりと笑い、満足気に頷いた。
「十分じゃ。おぬし、ヤツらを助けられるぞ」
そう言い残して藍染は断空を放ち、夜闇の中へ消えた。
残されたのは虚化した八人と、鉄裁、浦原、名無しの三人だった。
aster days#14
鉄裁の鬼道で十二番隊隊舎へ、瞬きのような速さで戻ってきた。
『虚化』『空間転移』とさっきから浦原と鉄裁が話をしているが、全く頭の中に入ってこない。
ただ、握ったままのひよ里の手がどんどん冷たくなっていくのは、嫌でもわかった。
これが良くない状況なのも。
「名無しサン。」
振り返れば浦原が音もなく立っていた。
黒い外套のフードで顔に影を落としているからか、表情は全く読めない。
「地下水路を通れば二番隊隊舎近くまで行けます」
浦原と同じ黒い外套で肩からふわりと包まれる。
そっと握らされたのは、小さな蛍のような機械だった。
「夜一サンの霊圧を感知してコイツが案内してくれます。…ボクらも平子サン達を治療したらそちらへ向かいますから」
嫌だ、怖い、ひとりにしないで。
口を開けば零れてしまいそうな本音をぐっと飲み込むように唇を固く噤む。
小さく、私は頷く。これが私のできる最大の強がりだった。
「…お気をつけて」
頭をそっとひと撫でする、大きな手。
泣きそうになる顔を見せまいと外套のフードを深くかぶった。
もう一度、今度は大きく頷き、以前教えてもらった地下水路へ走る。
きっとあの場にいても私は役に立たない。
どうして藍染に誘拐されたのかも、理由が分からなかった。
だからこそあの場にいてはいけない。
より安全な夜一の元へ、私は逃がされたのだ。
全部分かっている。
頭では分かっているし、理解も出来ている。
けど、
「っ、の…」
悔しさと、寂しさと、不安と、憤りと。
行き場を失くした感情が涙になって頬を伝う。
私は、何も出来ない。
外套の袖で振り払うように涙を拭う。泣いている場合ではない。
今、出来ることをしなければ。
先行する蛍の光を追いかけ、足音だけが無情に木霊す地下水路を全速力で走った。
***
案内された先にあったのは、何の変哲もない作業用梯子。
水路に沿って飛んでいた蛍は、すぃっと梯子の上へ飛んで行く。
「この上、なの?」
肩で息を整えながら、梯子を登る。
しばらく使っていないのか、触った欄干はかなり埃っぽかった。
頭上にあるのは、間違いない。
出口だ。
ぐっと扉を上に押し上げるが、ビクともしない。
しばらく使っていないから固まっているのか、それとも鍵がかかっているのか。
「っこの、開け、ぇ…っ」
背中から肩を使って全力で押し上げるも、やはりビクともしない。
狭い縦穴。
明かりは僅かに光る道先案内人の小さな光のみ。
狭くて暗くて、まるで井戸から這い上がるコーデリアの気分だ。
『お気をつけて』
「何が、お気をつけて、よ…っ!」
嫌な予感がぐるぐると頭から離れない。
どうしてひよ里達があんな目に。
藍染に連れて行かれた事件の後すぐ、私一人で夜一のところへ行かせるなんて、きっと本来の浦原ならしないことだろう。そんな人だ。
考えられる理由はひとつ。
十二番隊舎にいる方が、恐らく危険なのだ。
「自分のことを、気遣いなさいよ!」
分かっている。
普段の態度からは想像出来ないほどに人一倍責任を背負っていることも、色んなことに責任を感じてしまうあの性格も。
それを隠すために笑顔で振舞っていることも。
ひとつ屋根の下で暮らし始めてまだ1年経ってないが、そんな彼の性格は分かりきっていた。
「っの、開けってば!
早く『夜一さんのところへ!』」
ズルッ、と。
『何か』に呑み込まれる感覚。
瞬きを一度行えば、そこは暗い地下水路ではなく
「う、わ!」
宙へ放り出される身体。
受け身なんか取れるはずもなく、無様にも床に叩きつけられた。
待った。この感覚どこかで。
「ぶっ!」
「何奴じゃ!」
聞きなれた声。
同時に外套のフードを、手刀で払い落とされた。
金目に、褐色の肌。間違いない、夜一だった。
「名無しか!?何処から隊首室へ、」
「夜一さん!ひよ里ちゃん達と、浦原さんが!」
頼れる人は、もうこの人しかいない。
彼女の袴を掴んで、縋り付くように事の経緯を話した。
***
「なるほど、藍染が噛んでおったか」
座布団の上で胡座をかき、思案するように口元を手で覆う夜一。
ことのあらましを全て伝えた。
藍染達のこと、ひよ里達に起こった異変、浦原達のことも。
「ところで名無し。おぬし、鉄裁の時空転移でここに来たのか?」
「じくう…?いえ、水路を走って。でも出口が開かなくて」
「…………ふむ、」
しばし考え込む夜一。
今の時刻は丑三つ時。
外からは虫の鳴き声すら聞こえない、静寂に包まれた深夜だ。
二人の間に流れる沈黙がいつもより静かに聞こえた。
「名無し。鬼道の使い方は分かるか?」
「いえ、マユリさんから霊圧を込める方法だけ教わりました」
「十分じゃ。目を閉じろ」
夜一の暖かい手でそっと目元を覆われる。
促されるままに瞼を閉じ、ゆっくりと息を繰り返した。
「いいか、儂の霊圧を探せ。集中したら感覚で探せるはずじゃ。
霊圧を見つけたら念じろ、命令のようなものでもいい。おぬしの目の前に、儂が来るように」
「霊圧、」
夜一の霊圧。
目を塞いでいた手がそっと離れる。
気配は、もうこの部屋にはない。
意識をゆっくり沈めて、じっくり探す。
――、
いた。
先程まで目の前にいたのに、今はかなり離れた場所に。
けれど、二番隊隊舎の中にいる。
「『来い』」
言葉にして念じれば、トンッと床の上に立つ足音が聞こえた。
「名無し。」
目を開ければ夜一の姿。
にんまりと笑い、満足気に頷いた。
「十分じゃ。おぬし、ヤツらを助けられるぞ」