aster days
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穏やかな昼下がり。
夕飯の買い物に出かけた時に、それは起こった。
「はっはっは、白哉坊、そんな瞬歩では追いつけぬぞ!」
何か紐らしきものを持った夜一が目の前を通り過ぎたあと。
「待て、四楓院夜一!」
真横の垣根から少年が飛び出てきた。
「あ。」
「へ?」
そう、例えるなら新幹線にはねられた気分だ。
激しいタックルのようにぶつかられて、倒れる景色が妙にスローモーションのように見えた。
最後に見たのは見事な晴天と心底驚いた少年の顔。
頭を打ち付けた衝撃を最後に、意識がプツリと途絶えた。
aster days#12
目を覚ますと、目の前に広がるのは見知らぬ天井だった。
見知らぬ部屋に寝かされている・だなんて人生であるかないかの体験を、私は一体何度体験するのだろうか。
しかも今回の天井は妙に高い。そして部屋が無駄に広い。
まだクラクラする頭を押さえながら、上半身をゆっくり起こした。
「あ!」
褐色の肌に、黒い髪。側にいた夜一そっくりの少年が声を上げた。
声の違いで別人だと分かったが、夜一に瓜二つすぎる。違いといえば、あの大きな胸がないくらいか。
「ねえさま、客人が起きられましたよ!ねえさまー!」
部屋を慌ただしく出ていく後ろ姿を呆然と見送ったあと、ゆっくりと辺りを見回す。
伝統的な日本家屋の作りをしているが、名無しが見たことある屋敷の中でもずば抜けて豪華な部屋だった。
その部屋の隅で、こちらを見ている少年がひとり。
歳は同じくらいか、それより少し上のように見える。黒髪を高く結い上げた姿と、生意気そうな目元が特徴的だった。
はて、どこかで会ったような。
「…あ。」
さっき、ぶつかって来た少年だ。
気まずそうに一度視線を逸らされたあと、ゆっくりと彼が立ち上がる。
寝かされていた布団の横へ、袴のシワを気にしながら静かに正座で腰を下ろした。
ひとつひとつの所作が丁寧で、育ちのいい印象だ。実際そうなのだろう。
「先程は、すまなかった。身体はまだ痛むか?」
「だ、大丈夫。そんな大したことないし」
そう答えると「そうか」と安心したように、ほっと息を吐いた。険しかった目元が柔らかくほころぶ。
怒っていたわけでは、なさそうだった。
「それより貴方は怪我はなかった?…ええっと、」
「白哉。…朽木、白哉だ」
「白哉くん。」
名前を確かめるように口にすれば、怪訝そうに彼の眉が一瞬揺れた…ような、気がした。
気のせいだろうか。
「そういえば夜一さんを追いかけていたみたいだけど、何かあったの?」
「………、………」
質問を投げかければ、一瞬口を開きかけるがすぐに噤む。
なにか嫌なことでも思い出したのか、形のいい細い眉に皺が寄った。綺麗な顔が台無しだ。
「いや、言いたくないならいいんだけど、」
「…髪紐を盗まれたのだ」
ポツリと忌々しそうに呟き、そっぽを向く白哉。相当嫌だったらしい、渋々答えているのが目に見えて分かった。
「なるほど。綺麗な色をしてるもんね、その紐」
彼の髪を結い上げている組紐は、シンプルながらも綺麗な品だった。
濃紺の艶やかな糸で編まれた紐は男性でも使いやすそうな色だ。彼の黒髪によく合っている。
じっとこちらを見る、黒い双眸と目が合う。
何か言いたげな視線が少し居心地が悪くて小さく首を傾げたら、ポツリと彼が呟いた。
「呆れないのか?」
「なんで?」
「髪紐如きで、お前は怪我をしたんだぞ」
「うーん…どういう意図があるにせよ、盗った夜一さんが悪いかなぁ、って思うけど」
どうして呆れなければいけないのか、正直よく分からなかった。
尸魂界の人達は少し感覚が違うのだろうか。
まぁ打ち所が悪くて気絶しただけだろう。幸い、ただのタンコブのようなので大事にする程でもないと思った。
「…変な女だ」
「失礼な。周りにいる人は変な人ばかりだけど、一緒にされたくないなぁ」
「そういう意味ではない」
呆れたように息をつき、「まぁいい」と呟く白哉。何だか私の読解力がないと言われているみたいで、少しだけムッとしてしまった。
どう考えていたのか教えてくれたっていいじゃないの。
「…ところで、ここってどこ?」
「四楓院家の離れだ。」
四楓院家、ということは夜一の家だろうか。
ということは、
「名無しサン、怪我は大丈夫っスか?」
「浦原さん。」
慌てて部屋にやってきたのは、白衣のままの浦原だった。確か昔、夜一の屋敷に世話になっていた時期があると言っていた。
帰れなくなった一件から、何だか彼は心配性になった…気がする。
これも気のせいだろうか。
「いやぁ、すまなんだ。まさか白哉坊の瞬歩があんなに下手だとは思わなくてな」
「四楓院、貴様、」
ひょっこり顔を出し、悪戯っぽく笑うのは夜一だ。茶化すような言い分に、白哉の顔が険しくなった。
なるほど。このようにおちょくられるから白哉はあまり夜一に対していいように思っていないのか。
何だか納得してしまった。
「まぁまぁ。…それにしても夜一さん、駄目ですよ。人のものを勝手に盗ったら」
「なに、少しからかってやろうかと思っただけじゃ」
「それでも駄目です。もっと悪質ですよ、それ」
布団の上で正座し、懇々と夜一に対して小言を言う名無し。
それを遠い目で見ながら、白哉はぽつりと呟いた。
「…四大貴族の当主に説教をするのか」
「名無しサン、多分貴族が何なのか知らないっスからねぇ。多分あなたにも気づいてないんじゃないっスか?」
「だろうな」
「…やはり、変な女だな」
開け放たれた障子から吹き込んだ風が、柔らかく頬を撫でる。
そんな、昼下がりが彼女と彼の出会いだった。
夕飯の買い物に出かけた時に、それは起こった。
「はっはっは、白哉坊、そんな瞬歩では追いつけぬぞ!」
何か紐らしきものを持った夜一が目の前を通り過ぎたあと。
「待て、四楓院夜一!」
真横の垣根から少年が飛び出てきた。
「あ。」
「へ?」
そう、例えるなら新幹線にはねられた気分だ。
激しいタックルのようにぶつかられて、倒れる景色が妙にスローモーションのように見えた。
最後に見たのは見事な晴天と心底驚いた少年の顔。
頭を打ち付けた衝撃を最後に、意識がプツリと途絶えた。
aster days#12
目を覚ますと、目の前に広がるのは見知らぬ天井だった。
見知らぬ部屋に寝かされている・だなんて人生であるかないかの体験を、私は一体何度体験するのだろうか。
しかも今回の天井は妙に高い。そして部屋が無駄に広い。
まだクラクラする頭を押さえながら、上半身をゆっくり起こした。
「あ!」
褐色の肌に、黒い髪。側にいた夜一そっくりの少年が声を上げた。
声の違いで別人だと分かったが、夜一に瓜二つすぎる。違いといえば、あの大きな胸がないくらいか。
「ねえさま、客人が起きられましたよ!ねえさまー!」
部屋を慌ただしく出ていく後ろ姿を呆然と見送ったあと、ゆっくりと辺りを見回す。
伝統的な日本家屋の作りをしているが、名無しが見たことある屋敷の中でもずば抜けて豪華な部屋だった。
その部屋の隅で、こちらを見ている少年がひとり。
歳は同じくらいか、それより少し上のように見える。黒髪を高く結い上げた姿と、生意気そうな目元が特徴的だった。
はて、どこかで会ったような。
「…あ。」
さっき、ぶつかって来た少年だ。
気まずそうに一度視線を逸らされたあと、ゆっくりと彼が立ち上がる。
寝かされていた布団の横へ、袴のシワを気にしながら静かに正座で腰を下ろした。
ひとつひとつの所作が丁寧で、育ちのいい印象だ。実際そうなのだろう。
「先程は、すまなかった。身体はまだ痛むか?」
「だ、大丈夫。そんな大したことないし」
そう答えると「そうか」と安心したように、ほっと息を吐いた。険しかった目元が柔らかくほころぶ。
怒っていたわけでは、なさそうだった。
「それより貴方は怪我はなかった?…ええっと、」
「白哉。…朽木、白哉だ」
「白哉くん。」
名前を確かめるように口にすれば、怪訝そうに彼の眉が一瞬揺れた…ような、気がした。
気のせいだろうか。
「そういえば夜一さんを追いかけていたみたいだけど、何かあったの?」
「………、………」
質問を投げかければ、一瞬口を開きかけるがすぐに噤む。
なにか嫌なことでも思い出したのか、形のいい細い眉に皺が寄った。綺麗な顔が台無しだ。
「いや、言いたくないならいいんだけど、」
「…髪紐を盗まれたのだ」
ポツリと忌々しそうに呟き、そっぽを向く白哉。相当嫌だったらしい、渋々答えているのが目に見えて分かった。
「なるほど。綺麗な色をしてるもんね、その紐」
彼の髪を結い上げている組紐は、シンプルながらも綺麗な品だった。
濃紺の艶やかな糸で編まれた紐は男性でも使いやすそうな色だ。彼の黒髪によく合っている。
じっとこちらを見る、黒い双眸と目が合う。
何か言いたげな視線が少し居心地が悪くて小さく首を傾げたら、ポツリと彼が呟いた。
「呆れないのか?」
「なんで?」
「髪紐如きで、お前は怪我をしたんだぞ」
「うーん…どういう意図があるにせよ、盗った夜一さんが悪いかなぁ、って思うけど」
どうして呆れなければいけないのか、正直よく分からなかった。
尸魂界の人達は少し感覚が違うのだろうか。
まぁ打ち所が悪くて気絶しただけだろう。幸い、ただのタンコブのようなので大事にする程でもないと思った。
「…変な女だ」
「失礼な。周りにいる人は変な人ばかりだけど、一緒にされたくないなぁ」
「そういう意味ではない」
呆れたように息をつき、「まぁいい」と呟く白哉。何だか私の読解力がないと言われているみたいで、少しだけムッとしてしまった。
どう考えていたのか教えてくれたっていいじゃないの。
「…ところで、ここってどこ?」
「四楓院家の離れだ。」
四楓院家、ということは夜一の家だろうか。
ということは、
「名無しサン、怪我は大丈夫っスか?」
「浦原さん。」
慌てて部屋にやってきたのは、白衣のままの浦原だった。確か昔、夜一の屋敷に世話になっていた時期があると言っていた。
帰れなくなった一件から、何だか彼は心配性になった…気がする。
これも気のせいだろうか。
「いやぁ、すまなんだ。まさか白哉坊の瞬歩があんなに下手だとは思わなくてな」
「四楓院、貴様、」
ひょっこり顔を出し、悪戯っぽく笑うのは夜一だ。茶化すような言い分に、白哉の顔が険しくなった。
なるほど。このようにおちょくられるから白哉はあまり夜一に対していいように思っていないのか。
何だか納得してしまった。
「まぁまぁ。…それにしても夜一さん、駄目ですよ。人のものを勝手に盗ったら」
「なに、少しからかってやろうかと思っただけじゃ」
「それでも駄目です。もっと悪質ですよ、それ」
布団の上で正座し、懇々と夜一に対して小言を言う名無し。
それを遠い目で見ながら、白哉はぽつりと呟いた。
「…四大貴族の当主に説教をするのか」
「名無しサン、多分貴族が何なのか知らないっスからねぇ。多分あなたにも気づいてないんじゃないっスか?」
「だろうな」
「…やはり、変な女だな」
開け放たれた障子から吹き込んだ風が、柔らかく頬を撫でる。
そんな、昼下がりが彼女と彼の出会いだった。