aster days
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そう、穴が空いたんだ。
マンホールに落ちたみたいに、引き込まれる身体。
暗がりに呑まれ、私の世界は一瞬にして変わってしまった。
aster days#01
叩きつけられた身体。
肩から着地し、側頭部を打った。
正直言うと、無茶苦茶痛い。声にならないくらい。
絶対にタンコブができた。
「っっくぅぅー…、」
目尻にじわりと涙が浮かぶ視界で、恐る恐る辺りを見回す。
石畳が敷かれた景色。
白を貴重にした、無機質な景色。
少しだけ和風な雰囲気もするが、どちらかと言うと地中海の白壁の景色に近いかもしれない。
穴のような暗がりに飲み込まれたと思ったら、この街並みだ。
知らない景色。知らない国。
夢でも見ているのだろうか。
とにかく、ここは何処なのか。それを知るのが一番先決だろう。
それに先程から肌がゾクゾクと粟立つのが止まらない。
この感覚はよく知っている。
心霊スポットの近くだとか、墓地の近くに行ったらよくなるアレだ。
所謂、『よくないもの』が大抵近くにいる時の感覚。
「女!貴様、どこから来た!?」
声をかけてきたのは黒い喪服のような着物を来た男。
葬式でもあるのか、こんな縁起の悪い格好をした人間が白昼堂々歩いているのは初めて見た。
しかもテレビでしか見たことのない…恐らく日本刀、を持っている。
「ど…どこから、って」
こっちが聞きたいくらいだ。
ここはどこなのか、銃刀法違反ではないのかとか、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「怪しいヤツめ、捕縛してやる!」
ゴツゴツとした手で手首を掴まれれば、ギシッと骨が軋む感覚。
男の握力はかなりの力だった。
「いっ…痛い!離して!」
声を張り上げれば、ビリッと震える空気。
手の力がゆるっと一瞬緩んだかと思えば、男は白目を向いて倒れた。
正直、この図だけでもかなりホラーだ。
「て、てんかん発作…?いや、とりあえず、離れなきゃ」
打ち付けた左肩を押さえて立ち上がる。
心臓がバクバクと音を鳴らす。
さっきから耳鳴りが酷い。
そういえば、幽霊が近くにい時は耳鳴りがする、なんて噂もあったかもしれない。
「ありゃりゃ、これは酷いッスねぇ。あなたの仕業ですか?」
焦る私の気持ちとは正反対の、間の抜けたのんびりとした声が不意に聞こえた。
音もなく、倒れた男の側に立つ金髪の男。
風に靡く白い羽織。
先程詰め寄ってきた男と同じ黒い着物。
そして、腰に下げているのは、やはり日本刀だった。
「誰、ですか」
「ボク?ボクは浦原喜助っス」
「ここはどこですか」
「ここは尸魂界っスよ」
「そう…る?…えっと」
「尸魂界。死者の魂が行き着く場所スよ」
「死、」
ちょっと待った。
つまり、私は死んだの?
嘘。だってあんな変な穴に落ちて、死んだなんて
「でもおかしいスね。見たところ、あなたは生者のようだ」
「え、あ…ならよかった、」
「まぁ、かといって元いた場所に戻す方法は分からないんっスけどね」
「………は?」
「すみません。多分、あなたを呼んだのはボクのせいです」
ははは、とゆるゆるとした笑みを浮かべて浦原と名乗った男は笑う。
言ってる意味がわからなくて、それはとても情けない顔で私は聞き返したのだろう。
ぽかんと、開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。
「ちょっと実験に失敗したみたいで。時空に歪みが…って、聞いてます?」
「戻す方法分からないって、どういうこと?」
「言ったでしょ。時空の歪みって。多分、あなたこの時代の人間でもなければ、恐らくこの世界の住人でもないんじゃないスか?」
「ちょっと待って。そんな現実味ないこと言われても」
「現実スよ。申し訳ないですけど」
ヘラっと。
そう言って目の前の男は笑う。
「ふ、」
「ふ?」
「ふざけないでください!!」
こんがらがる頭から絞り出したのは、その一言。
声が、木霊する。
張り上げた罵声で空気が震えるのが分かった。
あまりにも実感のわかない話だ。
単純にあの世ならどれだけ良かったか。
よく漫画アニメで、主人公が自分の知らない世界、知らない時代にトリップする話はある。
まさか自分の身に降りかかろうとは。
普通こんな逆境、漫画の主人公みたいに冷静に受け止められない。無理だ。
「さっきからヘラヘラと、なんですか!どうにかして戻してください!」
「偶然に偶然が重なったんスよ、可能性はゼロとは言いきれないですけど、恐らく無理です」
「なんで言い切るんですか!」
「希望的観測で物を言って、期待させるだけさせてガッカリさせるよりはいいじゃないっスか」
言っていることは最もだ。
けど、理不尽すぎる。私が何をしたって言うんだ。
やりきれない怒りでザワザワと心の中がざわめく。
理不尽だからこそ、答えが、正解が、解決論がないからこそ、この気持ちのやり場がなかった。
「一旦、落ち着きましょ。でなきゃあなた、」
倒れちゃいますよ。
浦原が言った言葉を遮るように、ぐらりと意識が遠のく。
貧血で倒れる時のように、意識が溶ける。
あぁ、なんだかすごく、お腹が減った。
マンホールに落ちたみたいに、引き込まれる身体。
暗がりに呑まれ、私の世界は一瞬にして変わってしまった。
aster days#01
叩きつけられた身体。
肩から着地し、側頭部を打った。
正直言うと、無茶苦茶痛い。声にならないくらい。
絶対にタンコブができた。
「っっくぅぅー…、」
目尻にじわりと涙が浮かぶ視界で、恐る恐る辺りを見回す。
石畳が敷かれた景色。
白を貴重にした、無機質な景色。
少しだけ和風な雰囲気もするが、どちらかと言うと地中海の白壁の景色に近いかもしれない。
穴のような暗がりに飲み込まれたと思ったら、この街並みだ。
知らない景色。知らない国。
夢でも見ているのだろうか。
とにかく、ここは何処なのか。それを知るのが一番先決だろう。
それに先程から肌がゾクゾクと粟立つのが止まらない。
この感覚はよく知っている。
心霊スポットの近くだとか、墓地の近くに行ったらよくなるアレだ。
所謂、『よくないもの』が大抵近くにいる時の感覚。
「女!貴様、どこから来た!?」
声をかけてきたのは黒い喪服のような着物を来た男。
葬式でもあるのか、こんな縁起の悪い格好をした人間が白昼堂々歩いているのは初めて見た。
しかもテレビでしか見たことのない…恐らく日本刀、を持っている。
「ど…どこから、って」
こっちが聞きたいくらいだ。
ここはどこなのか、銃刀法違反ではないのかとか、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「怪しいヤツめ、捕縛してやる!」
ゴツゴツとした手で手首を掴まれれば、ギシッと骨が軋む感覚。
男の握力はかなりの力だった。
「いっ…痛い!離して!」
声を張り上げれば、ビリッと震える空気。
手の力がゆるっと一瞬緩んだかと思えば、男は白目を向いて倒れた。
正直、この図だけでもかなりホラーだ。
「て、てんかん発作…?いや、とりあえず、離れなきゃ」
打ち付けた左肩を押さえて立ち上がる。
心臓がバクバクと音を鳴らす。
さっきから耳鳴りが酷い。
そういえば、幽霊が近くにい時は耳鳴りがする、なんて噂もあったかもしれない。
「ありゃりゃ、これは酷いッスねぇ。あなたの仕業ですか?」
焦る私の気持ちとは正反対の、間の抜けたのんびりとした声が不意に聞こえた。
音もなく、倒れた男の側に立つ金髪の男。
風に靡く白い羽織。
先程詰め寄ってきた男と同じ黒い着物。
そして、腰に下げているのは、やはり日本刀だった。
「誰、ですか」
「ボク?ボクは浦原喜助っス」
「ここはどこですか」
「ここは尸魂界っスよ」
「そう…る?…えっと」
「尸魂界。死者の魂が行き着く場所スよ」
「死、」
ちょっと待った。
つまり、私は死んだの?
嘘。だってあんな変な穴に落ちて、死んだなんて
「でもおかしいスね。見たところ、あなたは生者のようだ」
「え、あ…ならよかった、」
「まぁ、かといって元いた場所に戻す方法は分からないんっスけどね」
「………は?」
「すみません。多分、あなたを呼んだのはボクのせいです」
ははは、とゆるゆるとした笑みを浮かべて浦原と名乗った男は笑う。
言ってる意味がわからなくて、それはとても情けない顔で私は聞き返したのだろう。
ぽかんと、開いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。
「ちょっと実験に失敗したみたいで。時空に歪みが…って、聞いてます?」
「戻す方法分からないって、どういうこと?」
「言ったでしょ。時空の歪みって。多分、あなたこの時代の人間でもなければ、恐らくこの世界の住人でもないんじゃないスか?」
「ちょっと待って。そんな現実味ないこと言われても」
「現実スよ。申し訳ないですけど」
ヘラっと。
そう言って目の前の男は笑う。
「ふ、」
「ふ?」
「ふざけないでください!!」
こんがらがる頭から絞り出したのは、その一言。
声が、木霊する。
張り上げた罵声で空気が震えるのが分かった。
あまりにも実感のわかない話だ。
単純にあの世ならどれだけ良かったか。
よく漫画アニメで、主人公が自分の知らない世界、知らない時代にトリップする話はある。
まさか自分の身に降りかかろうとは。
普通こんな逆境、漫画の主人公みたいに冷静に受け止められない。無理だ。
「さっきからヘラヘラと、なんですか!どうにかして戻してください!」
「偶然に偶然が重なったんスよ、可能性はゼロとは言いきれないですけど、恐らく無理です」
「なんで言い切るんですか!」
「希望的観測で物を言って、期待させるだけさせてガッカリさせるよりはいいじゃないっスか」
言っていることは最もだ。
けど、理不尽すぎる。私が何をしたって言うんだ。
やりきれない怒りでザワザワと心の中がざわめく。
理不尽だからこそ、答えが、正解が、解決論がないからこそ、この気持ちのやり場がなかった。
「一旦、落ち着きましょ。でなきゃあなた、」
倒れちゃいますよ。
浦原が言った言葉を遮るように、ぐらりと意識が遠のく。
貧血で倒れる時のように、意識が溶ける。
あぁ、なんだかすごく、お腹が減った。
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