short story
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雨音が瓦を叩く音。
お世辞にも建付けがいいとは言えない窓に、横殴りで吹き付ける雨風のお陰で名無しは目を覚ました。
衝立一枚向こうから銀時の穏やかな寝息が聞こえてくる。
よくこんな嵐の夜に眠れるのだと、浅い眠りを先程まで貪っていた事を棚に上げ、感心した。
さて。起きてしまえば中々二度寝が出来ない。
普段なら簡単に寝付けられるのかもしれないが、今日は生憎の台風直撃デーだ。
朝には通り過ぎてくれるだろうが、それまで起きておく…というのも酷な話なのであって。
(…夜食、食べよっかな)
夜中の2時。
早めの夕食だったせいか、中途半端な時間に起きてしまえば空腹を自覚してしまう。
何か温かいものをお腹に入れてしまえば眠たくなるだろう。
こっそり足音を立てず、それこそ気配を最大限に殺して。
細心の注意を払いつつ、台所へ。
電気ケトルに水を入れ、スイッチひとつ。
湯が沸き上がるまでの間、インスタントの袋麺を開ければパリッと子気味良い音が鳴る。
丼にそっと麺を置き、冷蔵庫から卵をひとつ取り出す。
黄身を崩さないよう麺の中央へ特等席のようにそっと乗せ、沸騰した湯をそっと掛ける。
サランラップをすれば完成まであと僅か。
夜食とは危険な代物だ。
こんな食事するには危険な時間に食べたくなるものは、大体インスタント・と相場が決まっている。
もしくは簡単なお茶漬け…まぁつまるところ炭水化物だ。
医者の端くれとしてあまり褒められた行動ではないのは重々承知だが、お腹が空いたのだ。人間の三大欲求には勝てない。無理。
――ガタガタと鳴る窓の音に紛れて、そろりとやってくる人の気配。
この、少し重たい足音は、
「…ふぁ。うまそーな匂いしてんなぁ、オイ。」
「銀時。起きたの?」
「こんだけ外が煩かったらなァ」
先程まで爆睡していたけどね。
喉まで出かかった言葉をぐっと呑み込み、名無しはサランラップを端から剥がす。
ふわりと香り立つ湯気は、鶏と醤油の匂いでいっぱいだ。
半熟になった玉子の黄身も、白くなった柔らかそうな白身も美味しそうの一言に尽きる。
「俺のは?」
「えー、自分で作ってよー」
今から食べようとしているのだ。
この機会を逃したら麺が伸びてしまう。
食べようと箸を持つが、銀時からの視線が痛い。
というか、まるで空腹で目が据わっているクマのようだ。涎が垂れかけてますよ、坂田さん。
「……………半分食べる?」
「俺、名無しのそういうとこ好きだわ。」
「私は銀時のそういうとこ嫌いだなー」
「え。」
ウキウキと嬉しそうな顔をしていた銀時が一瞬でフリーズする。
「冗談だよ」と笑えば「心臓に悪いからやめろよなぁ」と文句を言いながら向かいの席に座った。
…馬鹿な人。世界がどうひっくり返っても、私があなたの事を嫌いになるわけがないのに。
拝啓、あらしのよるに。
「ふぅ、ごちそーさん。」
「ごちそうさまでした。じゃあ食器洗おうかな…」
「ん。俺が洗っとくわ。」
「いいの?」
「その代わり俺の布団温めといてくれー」
冗談めいた、これまたイヤらしい笑みで銀時が笑う。
勿論、言葉の裏の裏をかけば『そういうこと』なのだが。
「…神楽ちゃんいるでしょ?」
「台風が煩いから聞こえやしねーだろ。」
そういう問題ではないと思う。
前言撤回。やっぱりこういうスケベなところは、嫌いじゃないけど少し嫌いかもしれない。
「…………その。手加減、してくれるのなら、」
「あー、善処する。」
銀時のこういう『善処』は本当にアテにならない。経験上、身をもってよく知っている。
けれど強く断る理由もない。
……あぁ。これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
お世辞にも建付けがいいとは言えない窓に、横殴りで吹き付ける雨風のお陰で名無しは目を覚ました。
衝立一枚向こうから銀時の穏やかな寝息が聞こえてくる。
よくこんな嵐の夜に眠れるのだと、浅い眠りを先程まで貪っていた事を棚に上げ、感心した。
さて。起きてしまえば中々二度寝が出来ない。
普段なら簡単に寝付けられるのかもしれないが、今日は生憎の台風直撃デーだ。
朝には通り過ぎてくれるだろうが、それまで起きておく…というのも酷な話なのであって。
(…夜食、食べよっかな)
夜中の2時。
早めの夕食だったせいか、中途半端な時間に起きてしまえば空腹を自覚してしまう。
何か温かいものをお腹に入れてしまえば眠たくなるだろう。
こっそり足音を立てず、それこそ気配を最大限に殺して。
細心の注意を払いつつ、台所へ。
電気ケトルに水を入れ、スイッチひとつ。
湯が沸き上がるまでの間、インスタントの袋麺を開ければパリッと子気味良い音が鳴る。
丼にそっと麺を置き、冷蔵庫から卵をひとつ取り出す。
黄身を崩さないよう麺の中央へ特等席のようにそっと乗せ、沸騰した湯をそっと掛ける。
サランラップをすれば完成まであと僅か。
夜食とは危険な代物だ。
こんな食事するには危険な時間に食べたくなるものは、大体インスタント・と相場が決まっている。
もしくは簡単なお茶漬け…まぁつまるところ炭水化物だ。
医者の端くれとしてあまり褒められた行動ではないのは重々承知だが、お腹が空いたのだ。人間の三大欲求には勝てない。無理。
――ガタガタと鳴る窓の音に紛れて、そろりとやってくる人の気配。
この、少し重たい足音は、
「…ふぁ。うまそーな匂いしてんなぁ、オイ。」
「銀時。起きたの?」
「こんだけ外が煩かったらなァ」
先程まで爆睡していたけどね。
喉まで出かかった言葉をぐっと呑み込み、名無しはサランラップを端から剥がす。
ふわりと香り立つ湯気は、鶏と醤油の匂いでいっぱいだ。
半熟になった玉子の黄身も、白くなった柔らかそうな白身も美味しそうの一言に尽きる。
「俺のは?」
「えー、自分で作ってよー」
今から食べようとしているのだ。
この機会を逃したら麺が伸びてしまう。
食べようと箸を持つが、銀時からの視線が痛い。
というか、まるで空腹で目が据わっているクマのようだ。涎が垂れかけてますよ、坂田さん。
「……………半分食べる?」
「俺、名無しのそういうとこ好きだわ。」
「私は銀時のそういうとこ嫌いだなー」
「え。」
ウキウキと嬉しそうな顔をしていた銀時が一瞬でフリーズする。
「冗談だよ」と笑えば「心臓に悪いからやめろよなぁ」と文句を言いながら向かいの席に座った。
…馬鹿な人。世界がどうひっくり返っても、私があなたの事を嫌いになるわけがないのに。
拝啓、あらしのよるに。
「ふぅ、ごちそーさん。」
「ごちそうさまでした。じゃあ食器洗おうかな…」
「ん。俺が洗っとくわ。」
「いいの?」
「その代わり俺の布団温めといてくれー」
冗談めいた、これまたイヤらしい笑みで銀時が笑う。
勿論、言葉の裏の裏をかけば『そういうこと』なのだが。
「…神楽ちゃんいるでしょ?」
「台風が煩いから聞こえやしねーだろ。」
そういう問題ではないと思う。
前言撤回。やっぱりこういうスケベなところは、嫌いじゃないけど少し嫌いかもしれない。
「…………その。手加減、してくれるのなら、」
「あー、善処する。」
銀時のこういう『善処』は本当にアテにならない。経験上、身をもってよく知っている。
けれど強く断る理由もない。
……あぁ。これが惚れた弱みというやつなのだろうか。