Good bye,halcyon days
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夕暮れ時。
「…名無し?」
乾いた血で赤黒くなった身体。
片脚を引き摺り、刀を杖代わりにしてでも前に進もうとするその姿は、まるで物怪のようだった。
振り返った彼女の目が、暗く影を落とした逆光の中でも赤く揺らめいた 気がした。
Good bye,halcyon days//歩く屍
「お前、どうした…それ、」
「…あぁ、土方さんかぁ。お久しぶりです」
へらりと笑うが、その表情は俺の中の記憶よりも随分ぎこちなかった。
憔悴しきった、と言えばいいのだろうか。
彼女が笑うと、頬にこびり付いた赤黒い血が、まるで塗装が剥げるようにひび割れて落ちる。
張り付いたメッキのような笑顔のようだと、思ってしまった。
「何で、刀なんか」
「すみません。何か棒のようなもの、ありませんか?」
俺の言葉を遮り、彼女は困ったように笑った。
***
攘夷派誠組の拠点に連れ帰り、応急処置用の添え木を渡せば「ありがとうございます」と言って彼女は手早く自分のズボンを破った。
赤黒く腫れた大腿は明らかに折れている。
応急処置なんかでどうにかならないのは素人目にもわかった。
それなのに医者であるはずの名無しは添え木で縛るだけだ。
あまりに痛々しい怪我に思わず俺は眉を顰めた。
「病院に行け」
「いいんですよ、これで。放っておけば治りますから」
「治るって、お前」
深く抉るように破れた服の下。
生白い肌が見えるだけで傷跡などない。
全部返り血のようにも見えるが、彼女のボロボロの格好を見る限り、それはありえなかった。
まるで、怪我が忽ち消えてしまったかのような。
自分で手当している間、微動だにしない表情の名無し。
痛みなど何も感じていないかのような、人形のような面構えだ。
俺の中の記憶では、少なくとも喜怒哀楽はっきりとした女だった。
怒ったかと思えばすぐに笑い、大抵いつも呑気に笑っていたはず。
(アイツが死んだからか)
花が咲いたような笑顔が見れなくなったのは、確か万事屋のあの男が死んでからだ。
腐れ縁だと割り切って、墓を建てた後線香を立てに赴いた。
わんわんと泣きじゃくる万事屋のガキ二人の間に立ち、じっと墓石を見つめる名無しの目は、
(まるで、何か腹を括ったかのような)
赤い双眸は、何を想っていたのだろう。
伏せがちになった瞼。長い睫毛が目元にそっと影を落とし、ただ固く口元を結んでいた。
「…まぁ、深くは聞かねェさ」
「そうですか、それは良かった。
私、土方さんのそういう所、好きですよ」
そう言って僅かに微笑む名無し。
少し安心したような表情が、逆に痛々しかった。
「俺は、好きじゃねぇ」
ポツリと呟けば、そっと細められる深紅の瞳。
小さく首を傾けて彼女は笑った。
「――優しい人。」
「…名無し?」
乾いた血で赤黒くなった身体。
片脚を引き摺り、刀を杖代わりにしてでも前に進もうとするその姿は、まるで物怪のようだった。
振り返った彼女の目が、暗く影を落とした逆光の中でも赤く揺らめいた 気がした。
Good bye,halcyon days//歩く屍
「お前、どうした…それ、」
「…あぁ、土方さんかぁ。お久しぶりです」
へらりと笑うが、その表情は俺の中の記憶よりも随分ぎこちなかった。
憔悴しきった、と言えばいいのだろうか。
彼女が笑うと、頬にこびり付いた赤黒い血が、まるで塗装が剥げるようにひび割れて落ちる。
張り付いたメッキのような笑顔のようだと、思ってしまった。
「何で、刀なんか」
「すみません。何か棒のようなもの、ありませんか?」
俺の言葉を遮り、彼女は困ったように笑った。
***
攘夷派誠組の拠点に連れ帰り、応急処置用の添え木を渡せば「ありがとうございます」と言って彼女は手早く自分のズボンを破った。
赤黒く腫れた大腿は明らかに折れている。
応急処置なんかでどうにかならないのは素人目にもわかった。
それなのに医者であるはずの名無しは添え木で縛るだけだ。
あまりに痛々しい怪我に思わず俺は眉を顰めた。
「病院に行け」
「いいんですよ、これで。放っておけば治りますから」
「治るって、お前」
深く抉るように破れた服の下。
生白い肌が見えるだけで傷跡などない。
全部返り血のようにも見えるが、彼女のボロボロの格好を見る限り、それはありえなかった。
まるで、怪我が忽ち消えてしまったかのような。
自分で手当している間、微動だにしない表情の名無し。
痛みなど何も感じていないかのような、人形のような面構えだ。
俺の中の記憶では、少なくとも喜怒哀楽はっきりとした女だった。
怒ったかと思えばすぐに笑い、大抵いつも呑気に笑っていたはず。
(アイツが死んだからか)
花が咲いたような笑顔が見れなくなったのは、確か万事屋のあの男が死んでからだ。
腐れ縁だと割り切って、墓を建てた後線香を立てに赴いた。
わんわんと泣きじゃくる万事屋のガキ二人の間に立ち、じっと墓石を見つめる名無しの目は、
(まるで、何か腹を括ったかのような)
赤い双眸は、何を想っていたのだろう。
伏せがちになった瞼。長い睫毛が目元にそっと影を落とし、ただ固く口元を結んでいた。
「…まぁ、深くは聞かねェさ」
「そうですか、それは良かった。
私、土方さんのそういう所、好きですよ」
そう言って僅かに微笑む名無し。
少し安心したような表情が、逆に痛々しかった。
「俺は、好きじゃねぇ」
ポツリと呟けば、そっと細められる深紅の瞳。
小さく首を傾けて彼女は笑った。
「――優しい人。」