日常篇//壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あら、神楽ちゃん」
「あ。名無し。お仕事アルか?」
「そうそう。…ありゃ、お友達?」
そう言って名無しと呼ばれた女の人は、小さく首を傾げながら微笑んだ。
「そうネ!そよちゃんアルヨ!
そよちゃん、これが万事屋の裏社長名無しアル。お医者さんやってるネ」
「わぁ、すごい。お医者様ですか!」
「いやぁ……っていうか待って。裏社長って何よ」
「帳簿握ってるの名無しだからネ」
「それは家計簿ね。」
苦笑いを浮かべて小さく肩を竦める名無しさん。
印象的な赤い瞳が神楽ちゃんを見て柔らかく蕩ける。
「よーし、暑いから何か奢ってあげよう。神楽ちゃんとそよちゃんは何がいい?」
「冷たいものがいいネ!」
「えっと、じゃあ私も、」
「ん。」
ふわりと弓形に目を細めて名無しさんは近くにあった店に入る。
そこで何か瓶のようなものを三本頼んで持ってきてくれた。
水色のガラス瓶の中で透明な水がたぷりと波打つ。
氷水から上げたばかりなのか、冷たい水滴がキラキラと反射して眩しかった。
「これは?」
「ラムネだよ。こうして…おっと、」
凸型のキャップを押し込んで開ければ、シュワシュワと泡を立てて零れる飲み物。
瓶の中でコロリと青いガラス玉が、硬い音を立てて転がる。
「袖、濡れないように気をつけてね、二人とも」
「分かったアル!」
そう言って勢いよく開けると、神楽ちゃんのラムネは勢いよく泡を吹いた。
元気よく返事した矢先に開けるのを失敗してて、失礼かもしれないけどちょっと笑ってしまった。
そっと、そっと…
「あ。」
「あ、上手いね、そよちゃん」
「すごいアル!私、手がベタベタネ」
むう、と口先を尖らせる神楽ちゃんを見て、苦笑いを浮かべる名無しさん。
店主に声を掛ければ、濡れたタオルを借りてきてくれたようで神楽ちゃんに手渡した。
何だか、面倒見のいいお姉さんみたい。
そのやり取りを微笑ましく眺めていると、道路の向こうから黒服の男の人の影が見えた。
私が一瞬息を呑むと同時に、名無しさんが背中に背負っていた小引出しのついた薬箱を私の目の前に降ろす。
そのすぐ側に彼女が立てば、私は大通りの景色がすっぽりと見えなくなった。
…もしかして、
「お仕事お疲れ様です、土方さん」
「…あぁ、名無しか。丁度いい、人を捜してるんだが」
「珍しいですね。人探しのお仕事なんて」
「まぁな。…この方なんだが、見たことないか?長い黒髪で、この着物をお召になっている」
…多分、それは私だ。
「その子なら向こうに行きましたよ」
「そうか、すまねェな」
「いえいえ。」
とてもいい笑顔で笑いながら手を振る名無しさん。
あの制服は、確か真選組。
まさかそんな人達とも知り合いだったなんて。それにさっきのは確か副長の土方さんだ。鬼の副長…って噂になっている、あの。
「名無し、どうして嘘ついたアルか?」
「んんー…何となくかな。」
地面に置いていた荷物を背負い直す名無しさん。
途端、私を隠すように被さった影はぱっと明るくなった。
恐る恐る見上げれば、そこには悪戯っぽく笑う彼女。
「たまにはお外で遊びたいもんね」
シシッ、と笑う顔は無邪気な子供のようで。
空になったラムネ瓶を名無しさんが軽く振れば、彼女の持っているガラスが夏日に照らされてキラリと光った。
あぁ、なんて眩しい、
「夕方までには戻ってくるんだよ。」
神楽ちゃんの頭をくしゃりと撫でたあと、ぱちりと視線が絡む。
小さく彼女は笑ったあと、そっと頭を撫でてくれた。
こんな風に撫でられるのなんて、両親と兄以外誰もいなかった。
憧れていた普通の扱いに、なんだか少し涙が零れそうになる。
「お兄ちゃんが心配するだろうから、程々にね」
真夏の太陽を背負って、名無しさんはそのまま仕事へ戻っていった。
神楽ちゃんと私が大きく手を振ると、まるで子供みたいに大きく手を振り返してくれた。
茜色と女王と姫と
私の町娘としての休暇は半日で終わってしまったけど、神楽ちゃんと過ごした思い出と、名無しさんの笑顔が脳裏に焼きついて離れなかった。
城まで送られる車の中、ラムネ瓶の中で転がっていたビー玉を夕陽にかざせば、それは目が眩むほどの赤橙に輝いた。
「あ。名無し。お仕事アルか?」
「そうそう。…ありゃ、お友達?」
そう言って名無しと呼ばれた女の人は、小さく首を傾げながら微笑んだ。
「そうネ!そよちゃんアルヨ!
そよちゃん、これが万事屋の裏社長名無しアル。お医者さんやってるネ」
「わぁ、すごい。お医者様ですか!」
「いやぁ……っていうか待って。裏社長って何よ」
「帳簿握ってるの名無しだからネ」
「それは家計簿ね。」
苦笑いを浮かべて小さく肩を竦める名無しさん。
印象的な赤い瞳が神楽ちゃんを見て柔らかく蕩ける。
「よーし、暑いから何か奢ってあげよう。神楽ちゃんとそよちゃんは何がいい?」
「冷たいものがいいネ!」
「えっと、じゃあ私も、」
「ん。」
ふわりと弓形に目を細めて名無しさんは近くにあった店に入る。
そこで何か瓶のようなものを三本頼んで持ってきてくれた。
水色のガラス瓶の中で透明な水がたぷりと波打つ。
氷水から上げたばかりなのか、冷たい水滴がキラキラと反射して眩しかった。
「これは?」
「ラムネだよ。こうして…おっと、」
凸型のキャップを押し込んで開ければ、シュワシュワと泡を立てて零れる飲み物。
瓶の中でコロリと青いガラス玉が、硬い音を立てて転がる。
「袖、濡れないように気をつけてね、二人とも」
「分かったアル!」
そう言って勢いよく開けると、神楽ちゃんのラムネは勢いよく泡を吹いた。
元気よく返事した矢先に開けるのを失敗してて、失礼かもしれないけどちょっと笑ってしまった。
そっと、そっと…
「あ。」
「あ、上手いね、そよちゃん」
「すごいアル!私、手がベタベタネ」
むう、と口先を尖らせる神楽ちゃんを見て、苦笑いを浮かべる名無しさん。
店主に声を掛ければ、濡れたタオルを借りてきてくれたようで神楽ちゃんに手渡した。
何だか、面倒見のいいお姉さんみたい。
そのやり取りを微笑ましく眺めていると、道路の向こうから黒服の男の人の影が見えた。
私が一瞬息を呑むと同時に、名無しさんが背中に背負っていた小引出しのついた薬箱を私の目の前に降ろす。
そのすぐ側に彼女が立てば、私は大通りの景色がすっぽりと見えなくなった。
…もしかして、
「お仕事お疲れ様です、土方さん」
「…あぁ、名無しか。丁度いい、人を捜してるんだが」
「珍しいですね。人探しのお仕事なんて」
「まぁな。…この方なんだが、見たことないか?長い黒髪で、この着物をお召になっている」
…多分、それは私だ。
「その子なら向こうに行きましたよ」
「そうか、すまねェな」
「いえいえ。」
とてもいい笑顔で笑いながら手を振る名無しさん。
あの制服は、確か真選組。
まさかそんな人達とも知り合いだったなんて。それにさっきのは確か副長の土方さんだ。鬼の副長…って噂になっている、あの。
「名無し、どうして嘘ついたアルか?」
「んんー…何となくかな。」
地面に置いていた荷物を背負い直す名無しさん。
途端、私を隠すように被さった影はぱっと明るくなった。
恐る恐る見上げれば、そこには悪戯っぽく笑う彼女。
「たまにはお外で遊びたいもんね」
シシッ、と笑う顔は無邪気な子供のようで。
空になったラムネ瓶を名無しさんが軽く振れば、彼女の持っているガラスが夏日に照らされてキラリと光った。
あぁ、なんて眩しい、
「夕方までには戻ってくるんだよ。」
神楽ちゃんの頭をくしゃりと撫でたあと、ぱちりと視線が絡む。
小さく彼女は笑ったあと、そっと頭を撫でてくれた。
こんな風に撫でられるのなんて、両親と兄以外誰もいなかった。
憧れていた普通の扱いに、なんだか少し涙が零れそうになる。
「お兄ちゃんが心配するだろうから、程々にね」
真夏の太陽を背負って、名無しさんはそのまま仕事へ戻っていった。
神楽ちゃんと私が大きく手を振ると、まるで子供みたいに大きく手を振り返してくれた。
茜色と女王と姫と
私の町娘としての休暇は半日で終わってしまったけど、神楽ちゃんと過ごした思い出と、名無しさんの笑顔が脳裏に焼きついて離れなかった。
城まで送られる車の中、ラムネ瓶の中で転がっていたビー玉を夕陽にかざせば、それは目が眩むほどの赤橙に輝いた。