日常篇//壱
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連れてこられたのは、花岡診療所と看板が立て掛けられた個人病院。
深夜で人気のない建物の中は暫く使った形跡がないものの、小綺麗なものだった。
「なぜ子供達を置いていったのですか」
「あの人数を守るには真選組に保護してもらった方が安全ですから。それに新八くん達が近くにいますし保護はされるでしょう。
貴方は一旦死んだことにしておいた方がいい。真選組経由で道信さんの生存を知られる方が問題です。敵の目を欺くなら、まず味方から、ですよ」
頬にべっとり付いた返り血を洗い流すように、彼女は流し台の冷水で顔を洗った。
それでも全身返り血で赤い。
まるで、赤鬼だ。
「しかし…私は実際、死んだはず」
「正確には死にかけた、ですけどね」
胸の傷跡をそっと撫でれば、多少の跡は残っているものの殆ど綺麗に消えていた。
「詮索はなしです。内緒にしておいて下さい」
そっと人差し指を立てて笑う名無し。
表情の穏やかさと血濡れの姿が違和感がありすぎて、どちらが本当の彼女のなのか、私にはもはや分からなかった。
***
「万事屋の兄ちゃん、あのお医者さんはどこ行ったんだよ!」
銀時が押し付けた名刺を頼りに、道信の子供達が万事屋に来ていた。
一足先に来ていた沖田の話では、道信は死んでしまったらしい。
夥しい血痕を残して煉獄関の刺客の死体が転がる中、忽然と遺体は消えた。
それと同時に失踪した名無し。
真選組は死亡と断定していたが、銀時には心当たりがあった。
「知らねーよ。何だお前ら、名無しに何の用だ?
」
「あの人が、先生を連れて行っちゃったんだよ!」
「そりゃお前。連中に死体を引きずり回されて晒し者にされるよりいいだろ」
「銀さん!」「銀ちゃん!」
同時に新八と神楽の非難するような声が上がる。
子供には残酷な表現、ってか?
実際死んでいて、死体が回収されたなら間違いなく試し斬りにでも使われただろう。
が、連れていったのは名無しだ。
全て見越した上で、恐らく馬車に同乗していたのだろう。そういうところは相変わらず頭がよく回る。
「あの女の人、まるで鬼みたいだった」
着物の裾をぎゅっと握りしめながら息子の一人が呟く。
なるほど、彼女が人を斬るのを見たのか。
その感想はご最もなのだが、それでも銀時は腑に落ちなかった。
「その鬼にお前らは助けられたんだよ。よく見ろ、お前らは返り血も浴びず、怪我もせず、キレーなもんじゃねェか」
「お姉ちゃんがね、隠れててって…毛布被せてくれたの」
遠慮がちに口を開いたのは、名無しが診たというおかっぱ頭の少女だ。
「お姉ちゃんは、鬼なんかじゃないよ。お医者さんだもん。
だって、私に言ってくれたのと同じように『頑張ったね』って笑ってたもん」
ねぇ、そうでしょ?
同意を求めるような視線が真っ直ぐ俺に突き刺さる。
…一人で泥をかぶろうとする性格は、全く誰に似たのやら。
「…そうだな。アイツはただの、お人好しのお医者さんだよ」
今は潜伏中、といったところだろう。
名無しが道信に肩入れする理由を、銀時は嫌という程に分かっていた。
彼を死なせたくない理由も、汚名を被ってでも子供達を守ったのも、全部全部。
***
煉獄関での一件が全てが終わった後、真選組では子供達の引き取り主を待っていた。
もうすぐ保護を申し出てきた男が屯所へ迎えに来る。
土方と沖田は真選組屯所の門で子供を連れて里親を待っていた。
「…一人で全員引き取るたァ、酔狂なやつもいるもんだな」
「ま、事情は人それぞれでさァ。それでも、コイツらの父親はもう戻って来ないんですからねィ。残酷な話だよ」
ザリ、と。
地面を草履で踏む音が、徐々に近づいてくる。
笠を目深に被った一人の男の影が真っ直ぐ真選組屯所へ向かってきた。
袈裟を着た大柄な男。
その体格も、足取りも、どこかで見たことのあるものだった。
深く被った笠を外し深々と一礼する男。
顔を上げた男を見て、その場にいた全員が目を見開いた。
「この度、里親を務めさせていただく、道信と申します」
彼を暗い闇に繋ぎ止めていた楔が解けたせいか、仏頂面ながらも表情はどこか晴れやかだった。
子供達の目からぼろぼろと涙が零れる。
それは悲しみの涙ではなくて、柔らかく、あたたかな、
茜色ドロップ#月下の赤鬼(後篇)
「末永くお幸せに。」
ね、先生。
真選組屯所の小高い木の上で、その様子を眺めていた名無しは小さく呟く。
穏やかに細められた赤い瞳には、再会を喜ぶ仲つむまじい『家族』の姿があたたかく映り込んでいた。
深夜で人気のない建物の中は暫く使った形跡がないものの、小綺麗なものだった。
「なぜ子供達を置いていったのですか」
「あの人数を守るには真選組に保護してもらった方が安全ですから。それに新八くん達が近くにいますし保護はされるでしょう。
貴方は一旦死んだことにしておいた方がいい。真選組経由で道信さんの生存を知られる方が問題です。敵の目を欺くなら、まず味方から、ですよ」
頬にべっとり付いた返り血を洗い流すように、彼女は流し台の冷水で顔を洗った。
それでも全身返り血で赤い。
まるで、赤鬼だ。
「しかし…私は実際、死んだはず」
「正確には死にかけた、ですけどね」
胸の傷跡をそっと撫でれば、多少の跡は残っているものの殆ど綺麗に消えていた。
「詮索はなしです。内緒にしておいて下さい」
そっと人差し指を立てて笑う名無し。
表情の穏やかさと血濡れの姿が違和感がありすぎて、どちらが本当の彼女のなのか、私にはもはや分からなかった。
***
「万事屋の兄ちゃん、あのお医者さんはどこ行ったんだよ!」
銀時が押し付けた名刺を頼りに、道信の子供達が万事屋に来ていた。
一足先に来ていた沖田の話では、道信は死んでしまったらしい。
夥しい血痕を残して煉獄関の刺客の死体が転がる中、忽然と遺体は消えた。
それと同時に失踪した名無し。
真選組は死亡と断定していたが、銀時には心当たりがあった。
「知らねーよ。何だお前ら、名無しに何の用だ?
」
「あの人が、先生を連れて行っちゃったんだよ!」
「そりゃお前。連中に死体を引きずり回されて晒し者にされるよりいいだろ」
「銀さん!」「銀ちゃん!」
同時に新八と神楽の非難するような声が上がる。
子供には残酷な表現、ってか?
実際死んでいて、死体が回収されたなら間違いなく試し斬りにでも使われただろう。
が、連れていったのは名無しだ。
全て見越した上で、恐らく馬車に同乗していたのだろう。そういうところは相変わらず頭がよく回る。
「あの女の人、まるで鬼みたいだった」
着物の裾をぎゅっと握りしめながら息子の一人が呟く。
なるほど、彼女が人を斬るのを見たのか。
その感想はご最もなのだが、それでも銀時は腑に落ちなかった。
「その鬼にお前らは助けられたんだよ。よく見ろ、お前らは返り血も浴びず、怪我もせず、キレーなもんじゃねェか」
「お姉ちゃんがね、隠れててって…毛布被せてくれたの」
遠慮がちに口を開いたのは、名無しが診たというおかっぱ頭の少女だ。
「お姉ちゃんは、鬼なんかじゃないよ。お医者さんだもん。
だって、私に言ってくれたのと同じように『頑張ったね』って笑ってたもん」
ねぇ、そうでしょ?
同意を求めるような視線が真っ直ぐ俺に突き刺さる。
…一人で泥をかぶろうとする性格は、全く誰に似たのやら。
「…そうだな。アイツはただの、お人好しのお医者さんだよ」
今は潜伏中、といったところだろう。
名無しが道信に肩入れする理由を、銀時は嫌という程に分かっていた。
彼を死なせたくない理由も、汚名を被ってでも子供達を守ったのも、全部全部。
***
煉獄関での一件が全てが終わった後、真選組では子供達の引き取り主を待っていた。
もうすぐ保護を申し出てきた男が屯所へ迎えに来る。
土方と沖田は真選組屯所の門で子供を連れて里親を待っていた。
「…一人で全員引き取るたァ、酔狂なやつもいるもんだな」
「ま、事情は人それぞれでさァ。それでも、コイツらの父親はもう戻って来ないんですからねィ。残酷な話だよ」
ザリ、と。
地面を草履で踏む音が、徐々に近づいてくる。
笠を目深に被った一人の男の影が真っ直ぐ真選組屯所へ向かってきた。
袈裟を着た大柄な男。
その体格も、足取りも、どこかで見たことのあるものだった。
深く被った笠を外し深々と一礼する男。
顔を上げた男を見て、その場にいた全員が目を見開いた。
「この度、里親を務めさせていただく、道信と申します」
彼を暗い闇に繋ぎ止めていた楔が解けたせいか、仏頂面ながらも表情はどこか晴れやかだった。
子供達の目からぼろぼろと涙が零れる。
それは悲しみの涙ではなくて、柔らかく、あたたかな、
茜色ドロップ#月下の赤鬼(後篇)
「末永くお幸せに。」
ね、先生。
真選組屯所の小高い木の上で、その様子を眺めていた名無しは小さく呟く。
穏やかに細められた赤い瞳には、再会を喜ぶ仲つむまじい『家族』の姿があたたかく映り込んでいた。