日常篇//壱
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ピンポーン…
「ごめんくださ〜い、桂ですけど〜」
インターホンだけが虚しく響く。
艶やかな長髪を揺らして、男は万事屋の前に立っていた。
「留守か…事は一刻を争うというのに…」
桂が溜息をつきながら、諦めていたその時。
ガラリと開いた扉。
そこには白い超大型犬と、
「定春、誰?お客さん?変な勧誘はお断りしておいて…」
ふぁ、と欠伸をしながら出てくる女。
よれっとした寝巻きの甚平。
寝起きなのか眠たそうな赤い双眸に、柔らかそうな黒髪。
鈴のような声は、聞き間違えるはずもなかった。
「名無し!?」
「ん…?あぁ、小太郎かぁ。久しぶり」
茜色ドロップ#薬と攘夷は程々に
「生きていたのか…縁起でもないが、死んだのかと思ったぞ」
「まぁ色々あったけどね」
万事屋の応接室で茶を出して名無しが欠伸を呑気に漏らす。
相変わらず格好は寝巻きのままで、いつもより眠そうだった。
「…着替えたらどうだ?」
「何よ、急患の対応で昨晩は寝てないんだから。小太郎が帰ったら二度寝するからいいの」
茶を啜ってソファに深く座り直す。
数年前とほとんど何も変わらない彼女。
強いて言うなら攘夷戦争時よりも張り詰めた空気がかなり和らいだ、という点くらいか。
「まさか一緒に住んでいるとはな」
「まぁね。」
あっけらかんと笑い、小さく首を傾ける彼女は相変わらずだ。
変わったのは恐らく、俺達だろう。
「ところで、」
前置きをひとつ零し、名無しがそっと湯呑みを置く。
「攘夷活動に、銀時を誘ったらしいね」
にこり、と。
それはとてもとても綺麗な笑顔。
綺麗すぎて、圧が凄い。
「そうだが。名無しも、どうだ。この腐った国を立て直すために、」
「やらないよ。」
桂の言葉を遮るように名無しがピシャリと断った。
まるで答えなど最初から決まっているかのように。
「小太郎。私ね、こう見えて怒っているのよ」
目が一切笑っていない。
形のいい口元だけが緩やかに弧を描き、真紅の双眸がじっと桂を見遣る。
「大義名分を掲げて、銀時にこれ以上『誰』を殺させるつもり?」
しん、と水を打ったような静けさ。
外の大通りの喧騒が、酷く遠くに聞こえる。
「…知っていたのか。」
「ある人から聞いたからね。銀時らしいと言えば、らしいけど」
急須に入ったままのせいで少し濃いめに出てしまった茶を湯呑みにもう一度注ぐ。
もう湯気は立たない、温くなった茶をじっと見つめた。
「銀時がやるって言うなら、止めないよ。けれど、またあんな風にイタズラに人が死んで、銀時が傷つくのを私は見たくない」
湯のみの中でゆらりと揺れる茶の水面を眺める。
「ねぇ、小太郎。もう一度聞くけど、」
名無しの視線が、真っ直ぐ刺さる。
「『先生』を殺させただけじゃなく、これ以上銀時に何の業を背負わせれば気が済むの?」
窓の外の喧騒が遠く聞こえる。
沈黙を破ったのは、桂の方からだった。
「…随分過保護になったな」
「銀時には何度も助けられたもの。小さい頃から、何度も、何度も。
――だから今度は私が守る番。」
張り詰めていた空気がふっと緩む。
そっと瞼を落として、名無しはすっかり冷めた茶を啜った。
「っていうか、テロリストなんて儲からないし、怪我人出るし、銀時や私が参加するわけないじゃない」
「まぁ、それもそうだな」
「小太郎もそんな危ないことしてたら、いつか大怪我するんだから」
「銀時の心配をしたと思ったら…次は俺の心配か?」
「そりゃそうよ」
困ったように笑う彼女の表情は、先程とは別人のように寂しげだった。
「知り合いが死ぬのは、もう見たくないもの」
「ごめんくださ〜い、桂ですけど〜」
インターホンだけが虚しく響く。
艶やかな長髪を揺らして、男は万事屋の前に立っていた。
「留守か…事は一刻を争うというのに…」
桂が溜息をつきながら、諦めていたその時。
ガラリと開いた扉。
そこには白い超大型犬と、
「定春、誰?お客さん?変な勧誘はお断りしておいて…」
ふぁ、と欠伸をしながら出てくる女。
よれっとした寝巻きの甚平。
寝起きなのか眠たそうな赤い双眸に、柔らかそうな黒髪。
鈴のような声は、聞き間違えるはずもなかった。
「名無し!?」
「ん…?あぁ、小太郎かぁ。久しぶり」
茜色ドロップ#薬と攘夷は程々に
「生きていたのか…縁起でもないが、死んだのかと思ったぞ」
「まぁ色々あったけどね」
万事屋の応接室で茶を出して名無しが欠伸を呑気に漏らす。
相変わらず格好は寝巻きのままで、いつもより眠そうだった。
「…着替えたらどうだ?」
「何よ、急患の対応で昨晩は寝てないんだから。小太郎が帰ったら二度寝するからいいの」
茶を啜ってソファに深く座り直す。
数年前とほとんど何も変わらない彼女。
強いて言うなら攘夷戦争時よりも張り詰めた空気がかなり和らいだ、という点くらいか。
「まさか一緒に住んでいるとはな」
「まぁね。」
あっけらかんと笑い、小さく首を傾ける彼女は相変わらずだ。
変わったのは恐らく、俺達だろう。
「ところで、」
前置きをひとつ零し、名無しがそっと湯呑みを置く。
「攘夷活動に、銀時を誘ったらしいね」
にこり、と。
それはとてもとても綺麗な笑顔。
綺麗すぎて、圧が凄い。
「そうだが。名無しも、どうだ。この腐った国を立て直すために、」
「やらないよ。」
桂の言葉を遮るように名無しがピシャリと断った。
まるで答えなど最初から決まっているかのように。
「小太郎。私ね、こう見えて怒っているのよ」
目が一切笑っていない。
形のいい口元だけが緩やかに弧を描き、真紅の双眸がじっと桂を見遣る。
「大義名分を掲げて、銀時にこれ以上『誰』を殺させるつもり?」
しん、と水を打ったような静けさ。
外の大通りの喧騒が、酷く遠くに聞こえる。
「…知っていたのか。」
「ある人から聞いたからね。銀時らしいと言えば、らしいけど」
急須に入ったままのせいで少し濃いめに出てしまった茶を湯呑みにもう一度注ぐ。
もう湯気は立たない、温くなった茶をじっと見つめた。
「銀時がやるって言うなら、止めないよ。けれど、またあんな風にイタズラに人が死んで、銀時が傷つくのを私は見たくない」
湯のみの中でゆらりと揺れる茶の水面を眺める。
「ねぇ、小太郎。もう一度聞くけど、」
名無しの視線が、真っ直ぐ刺さる。
「『先生』を殺させただけじゃなく、これ以上銀時に何の業を背負わせれば気が済むの?」
窓の外の喧騒が遠く聞こえる。
沈黙を破ったのは、桂の方からだった。
「…随分過保護になったな」
「銀時には何度も助けられたもの。小さい頃から、何度も、何度も。
――だから今度は私が守る番。」
張り詰めていた空気がふっと緩む。
そっと瞼を落として、名無しはすっかり冷めた茶を啜った。
「っていうか、テロリストなんて儲からないし、怪我人出るし、銀時や私が参加するわけないじゃない」
「まぁ、それもそうだな」
「小太郎もそんな危ないことしてたら、いつか大怪我するんだから」
「銀時の心配をしたと思ったら…次は俺の心配か?」
「そりゃそうよ」
困ったように笑う彼女の表情は、先程とは別人のように寂しげだった。
「知り合いが死ぬのは、もう見たくないもの」
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