anemone days//short story
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「喜助、喜助はおらぬのか?」
浦原商店の奥。
計器の音だけが静かになり続ける浦原の研究室に、いた。
手にはピンクの……いかにも怪しい液体が入った試験管。
それを大事そうに指先で摘んだ男の顔は、昔馴染みの夜一ですらドン引きする顔であった。
「夜一サン、いいところに。」
「全然いいところに、って顔じゃないんじゃが?」
「いやいや聞いてくださいよ。世紀の大発明っスから。」
嫌な予感がする。という言葉をぐっと呑み込んだのは夜一なりの優しさだ。
呆れたように夜一が溜息をつけば、聞いてくれる同意ととった浦原が、それはもう極上の笑顔で笑うのだった。
「なんと!惚れ薬が出来ちゃいました!」
「……………はぁ。」
誰に使うつもりじゃ?
……なんて、愚問だろう。
スペシャル・ティータイム?
「名無しサン、喉渇きません?」
畳んだ洗濯物を片付けていた憐れなターゲット…名無しに、ニコニコと話しかける浦原。
どうせ止めても無駄だと分かっている夜一は、欠伸をしながら畳に寝転ぶ。
「あ、お茶ですか?後でいれるのでちょっと待ってくださいね」
「いやいや。たまにはボクが入れようかと思いまして」
浦原のその言葉を不審そうに眉を寄せる名無し。
……これは早速バレたかの、と夜一は卓袱台の上にあった煎餅に手を伸ばした。
「…浦原さんお茶葉の場所とか分かるんですか?」
「それくらいなら分かりますよぉ。大丈夫ですって、食事は兎も角お茶くらいならボクだって入れられますから」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
あーあ、と小さく落胆しながら夜一は煎餅をひと齧りする。
焦がし醤油の香ばしさと、海苔の程よい塩加減が最高だ。
「……………さーて」
うきうきと浮き足立つ浦原。
地面から1センチほど浮いているのでは?と疑いたくなるくらいだ。
どうせ名無しが入れた茶よりも不味い茶が出るのだろう。夜一は小さく溜息をついた。期待しないで待っていよう。
***
「浦原さん……玉露使いました?」
「イヤ?使ってないっスよ?」
「…ほんのり甘いんですけど…なんです?これ。」
せめて無味無臭にすればいいものを。
夜一は、濃く出しすぎたため渋味が主張する緑茶を、少し嫌そうに啜った。うーん不味い。
「まぁまぁ気になさらず。それよりほら。何かないっスか?」
「………何かって、何がですか?あ、おやつならそこのお煎餅がいいんじゃないですか?」
露骨に浦原が名無しの顔を覗き込むが、彼女は怪訝そうな表情を浮かべるばかり。
よくある、動悸・息切れ・火照り・恍惚感などは残念ながら見られない。
……まぁこの結果も夜一は予想済みだったのだが。
「いえ、そうじゃなくってですね、」
「?、変な浦原さん。私、店の前の掃除してきますね。夜一さんごゆっくりなさってください」
「うむ。…名無し、」
「はい?」
「頑張れよ」
店の掃除のことと勘違いしているのだろう。
特に何も疑問に思われず「はい」と花の咲くような笑顔で返された。
…薬が出来て下衆な笑みを浮かべていた、目の前の幼馴染とは天地の差がある。
全く、どうしてこうなったのやら。
「…………あーーー成功したはずなんっスけどねぇ……どうしてっスかね……」
机にうつ伏しながら額を天板に押し付ける、ひとでなし店主。
ブツブツと「…名無しサンとイチャイチャできると思ったのに……」と不純な願望が口から零れているのを、本人は気づいているのだろうか?いや、絶対気づいていない。
(そんなもの、効果がないに決まっておるじゃろう)
惚れ薬なんて、惚れていない相手を振り向かせるための薬だ。
つまり、そういうことだ。
(流石に媚薬を作り始めたら止めてやるかのぅ)
愚かな技術開発局・元局長を眺めながら、夜一はコマネズミのように働く少女の背中をぼんやり見守るのであった。
瀞霊廷の種馬と揶揄された男が、人間の少女に振り回されているのは実に滑稽だ。
もう少しの間、不味い茶を片手に傍観することにしよう。
浦原商店の奥。
計器の音だけが静かになり続ける浦原の研究室に、いた。
手にはピンクの……いかにも怪しい液体が入った試験管。
それを大事そうに指先で摘んだ男の顔は、昔馴染みの夜一ですらドン引きする顔であった。
「夜一サン、いいところに。」
「全然いいところに、って顔じゃないんじゃが?」
「いやいや聞いてくださいよ。世紀の大発明っスから。」
嫌な予感がする。という言葉をぐっと呑み込んだのは夜一なりの優しさだ。
呆れたように夜一が溜息をつけば、聞いてくれる同意ととった浦原が、それはもう極上の笑顔で笑うのだった。
「なんと!惚れ薬が出来ちゃいました!」
「……………はぁ。」
誰に使うつもりじゃ?
……なんて、愚問だろう。
スペシャル・ティータイム?
「名無しサン、喉渇きません?」
畳んだ洗濯物を片付けていた憐れなターゲット…名無しに、ニコニコと話しかける浦原。
どうせ止めても無駄だと分かっている夜一は、欠伸をしながら畳に寝転ぶ。
「あ、お茶ですか?後でいれるのでちょっと待ってくださいね」
「いやいや。たまにはボクが入れようかと思いまして」
浦原のその言葉を不審そうに眉を寄せる名無し。
……これは早速バレたかの、と夜一は卓袱台の上にあった煎餅に手を伸ばした。
「…浦原さんお茶葉の場所とか分かるんですか?」
「それくらいなら分かりますよぉ。大丈夫ですって、食事は兎も角お茶くらいならボクだって入れられますから」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
あーあ、と小さく落胆しながら夜一は煎餅をひと齧りする。
焦がし醤油の香ばしさと、海苔の程よい塩加減が最高だ。
「……………さーて」
うきうきと浮き足立つ浦原。
地面から1センチほど浮いているのでは?と疑いたくなるくらいだ。
どうせ名無しが入れた茶よりも不味い茶が出るのだろう。夜一は小さく溜息をついた。期待しないで待っていよう。
***
「浦原さん……玉露使いました?」
「イヤ?使ってないっスよ?」
「…ほんのり甘いんですけど…なんです?これ。」
せめて無味無臭にすればいいものを。
夜一は、濃く出しすぎたため渋味が主張する緑茶を、少し嫌そうに啜った。うーん不味い。
「まぁまぁ気になさらず。それよりほら。何かないっスか?」
「………何かって、何がですか?あ、おやつならそこのお煎餅がいいんじゃないですか?」
露骨に浦原が名無しの顔を覗き込むが、彼女は怪訝そうな表情を浮かべるばかり。
よくある、動悸・息切れ・火照り・恍惚感などは残念ながら見られない。
……まぁこの結果も夜一は予想済みだったのだが。
「いえ、そうじゃなくってですね、」
「?、変な浦原さん。私、店の前の掃除してきますね。夜一さんごゆっくりなさってください」
「うむ。…名無し、」
「はい?」
「頑張れよ」
店の掃除のことと勘違いしているのだろう。
特に何も疑問に思われず「はい」と花の咲くような笑顔で返された。
…薬が出来て下衆な笑みを浮かべていた、目の前の幼馴染とは天地の差がある。
全く、どうしてこうなったのやら。
「…………あーーー成功したはずなんっスけどねぇ……どうしてっスかね……」
机にうつ伏しながら額を天板に押し付ける、ひとでなし店主。
ブツブツと「…名無しサンとイチャイチャできると思ったのに……」と不純な願望が口から零れているのを、本人は気づいているのだろうか?いや、絶対気づいていない。
(そんなもの、効果がないに決まっておるじゃろう)
惚れ薬なんて、惚れていない相手を振り向かせるための薬だ。
つまり、そういうことだ。
(流石に媚薬を作り始めたら止めてやるかのぅ)
愚かな技術開発局・元局長を眺めながら、夜一はコマネズミのように働く少女の背中をぼんやり見守るのであった。
瀞霊廷の種馬と揶揄された男が、人間の少女に振り回されているのは実に滑稽だ。
もう少しの間、不味い茶を片手に傍観することにしよう。