anemone days//short story
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(ここが、噂の浦原商店。)
元・十二番隊隊長が引退して、現世で開いている、死神向けの店…らしい。
最近瀞霊廷公式の店になったらしく、周辺地区を担当している死神の間ではちょっとした話題になっていた。
何やら、看板娘が可愛いとか。
それと、店長が『ヤバい』とか。
「あの、ここが浦原商店?」
店の前で箒を使って素振りをしていた少年に声を掛ける。
素振りは素振りでも、野球の素振りだ。剣術の素振りではない。
「見りゃ分かるだろ。」
生意気そうな口調。
「ん。」と、ふてぶてしく指を指した先には、堂々と『浦原商店』と書かれた看板が。
…いや、文字くらい俺にだって読める。一応、念の為だ。念の為。
「あー…記憶置換のカードリッジ欲しいんだけど…」
そう声を掛ければ、これまた面倒くさそうに店の中へ案内された。
古い割には掃除が行き届いている店内。
もっとも、このサボり少年が掃除をしているわけではなさそうだが。
パッと見は駄菓子屋。これは現世の人間向け、所謂カモフラージュというヤツか。
…時々混じって怪しげな菓子もあるが、大丈夫なのか?
「名無しー、記憶置換のカードリッジ欲しいってヤツが来た。」
「はいはいー。いらっしゃいませ!」
水仕事をしていたのだろうか。
『浦』と書かれた紺色のエプロンで手を拭く、名無しと呼ばれた少女。
白いTシャツの袖から伸びる腕は華奢で白い。
さっぱりと切られた黒髪が柔らかく揺れる様は美少年のようにも見えるが、鈴の鳴るような声は女の子のソレだった。
松本副隊長のような華やかな顔立ちではないが、清涼剤のように爽やかな雰囲気と、ぱっと花が咲くような笑顔は、掛け値なしに可愛いと言えるだろう。
(う、うわ、好みドンピシャ。)
跳ね上がる心拍数。
営業用だとしても、にこにこと愛想のいい笑顔はついつい釘付けになってしまう。
「あ、あの、記憶置換のカードリッジをお願いしたいんだけど…」
「はい!少々お待ちください」
店の隅に置かれていた踏み台を持ち出し、のそりと登る彼女。
すらりとスキニージーンズで伸びた脚が眩しい。なんなら小ぶりなお尻も可愛い。
「…あれ?よっ……と………、うん?
……………んんん?」
踏み台の上で背伸びをする名無しは、『記憶置換カードリッジ』と油性ペンで書かれたダンボールに手を伸ばしている…
…が、棚の上に乱雑に積まれた箱へギリギリ届かない。
ガタッと揺れる足場は危なげで、ついハラハラ見てしまった。
「あ、あの、俺が取りま、」
「浦原さん!見てないで取ってください!届かないんですけど!」
勇気と、ほんの少しの下心を出して声をかければ、名無しの少しだけ怒気を含んだ声にかき消される。
店の奥に視線を向ければ、そこには怪しい男が一人。
縞々の帽子を目深く被り、それはもうニタニタとした笑顔で柱の影から四苦八苦する少女の様子を覗いていた。
断言しよう。恐らくこの人は変態だ。
「えー、なんで見てるの気がついたんっスか?」
「何となくですよ、なんとなく。
こんな変なところに置いたの、浦原さんでしょう?」
「鉄裁サンかジン太じゃないっスか?」
「よく出る商品なのに、鉄裁さんがこんな取りにくい場所に置いているとは思えません。
あとジン太くんもこんな高いところ手が届かないでしょう?ということで浦原さんです。」
「いやぁ、ご明察。見事な名推理っス。」
『大当たり』と書かれた扇子を取り出しながら、のそのそと作務衣姿の男が出てくる。
「あぁ、いらっしゃいませぇ」とヤル気のない声掛けをする様子から、浦原商店の店員のようだが…
(…………ん?浦原さん、って呼んでたよな?)
まさか、こんなゆるゆるとした人が。
元・護廷十三隊の十二番隊隊長で、技術開発局の設立者にして初代局長。
……こんな、変態が。
(取れなくて四苦八苦していた姿を、見ていたよな。絶対。…あと多分、尻。)
現在の隊長格の面々も…なんというか一癖二癖あるような面子だが、以前の護廷十三隊も中々変人が揃っていたようだ。
あ、ヤバい。変人って言っちゃった。
軽々と記憶置換のカードリッジが入れられたダンボールを下ろす浦原を、ジトリと恨めしそうに眺める名無し。
…身長が低いのがコンプレックスなのだろうか。可愛い。
「もう少し眺めていたかったんっスけど、残念です…」
「『浦原店長』。お客様の前なのでちょっと黙っててくださいね」
「あっ、その浦原店長って呼び方新鮮でイイっスね…!もう一回!」
「う・ら・は・ら・さ・ん?」
にっっっこり、と擬態語が聞こえそうなくらい、笑顔の圧がすごい。可愛いのに、ちょっと怖い。
そしてよく分かった。
この元・十二番隊隊長は、とんでもなく残念な人だということが。
「……コホン。すみません、失礼しました。こちらが商品です」
「あ、あぁ、どうも。」
気を取り直すように咳払いをした名無し。
会計をして商品を受け取れば、僅かに手が触れる。
おぉ……女の子の手に触れるなんて超久しぶり…。
柔らかい手だなぁ……
――ぞわり。
虚の霊圧よりも悪質な、鋭い敵意のある霊圧。
その発生源は、
(こ、怖っ!)
にこにこと笑顔を浮かべる名無しの、数歩後ろにいる浦原からだ。
扇子で口元を隠した表情は、笑っているのか無表情なのか分からない。
分からない、のだが。
帽子の影から覗く双眸は、朽木隊長よりも冷たく、更木隊長よりも怖かった。
目付きが、ではない。
視線が、怖い。
まるで『何勝手に触ってんだ。ピーーー(自主規制)するぞ♡』と思っていそうな…っていうか絶対思っている。怖すぎる。
――という雰囲気も一瞬だけで、弓なりに目を細める駄菓子屋店長。
間延びした、のんびりした口調で彼はこう言った。
「またのお越しをお待ちしておりますっス〜」
とある死神のジレンマ
俺は、思った。
出来るだけ買い物は…瀞霊廷でしよう。
…いやでも名無しは可愛いし……でも元隊長怖すぎるし……あぁどうしよう。
行きたいのに行けない。なんだ、このジレンマは。
元・十二番隊隊長が引退して、現世で開いている、死神向けの店…らしい。
最近瀞霊廷公式の店になったらしく、周辺地区を担当している死神の間ではちょっとした話題になっていた。
何やら、看板娘が可愛いとか。
それと、店長が『ヤバい』とか。
「あの、ここが浦原商店?」
店の前で箒を使って素振りをしていた少年に声を掛ける。
素振りは素振りでも、野球の素振りだ。剣術の素振りではない。
「見りゃ分かるだろ。」
生意気そうな口調。
「ん。」と、ふてぶてしく指を指した先には、堂々と『浦原商店』と書かれた看板が。
…いや、文字くらい俺にだって読める。一応、念の為だ。念の為。
「あー…記憶置換のカードリッジ欲しいんだけど…」
そう声を掛ければ、これまた面倒くさそうに店の中へ案内された。
古い割には掃除が行き届いている店内。
もっとも、このサボり少年が掃除をしているわけではなさそうだが。
パッと見は駄菓子屋。これは現世の人間向け、所謂カモフラージュというヤツか。
…時々混じって怪しげな菓子もあるが、大丈夫なのか?
「名無しー、記憶置換のカードリッジ欲しいってヤツが来た。」
「はいはいー。いらっしゃいませ!」
水仕事をしていたのだろうか。
『浦』と書かれた紺色のエプロンで手を拭く、名無しと呼ばれた少女。
白いTシャツの袖から伸びる腕は華奢で白い。
さっぱりと切られた黒髪が柔らかく揺れる様は美少年のようにも見えるが、鈴の鳴るような声は女の子のソレだった。
松本副隊長のような華やかな顔立ちではないが、清涼剤のように爽やかな雰囲気と、ぱっと花が咲くような笑顔は、掛け値なしに可愛いと言えるだろう。
(う、うわ、好みドンピシャ。)
跳ね上がる心拍数。
営業用だとしても、にこにこと愛想のいい笑顔はついつい釘付けになってしまう。
「あ、あの、記憶置換のカードリッジをお願いしたいんだけど…」
「はい!少々お待ちください」
店の隅に置かれていた踏み台を持ち出し、のそりと登る彼女。
すらりとスキニージーンズで伸びた脚が眩しい。なんなら小ぶりなお尻も可愛い。
「…あれ?よっ……と………、うん?
……………んんん?」
踏み台の上で背伸びをする名無しは、『記憶置換カードリッジ』と油性ペンで書かれたダンボールに手を伸ばしている…
…が、棚の上に乱雑に積まれた箱へギリギリ届かない。
ガタッと揺れる足場は危なげで、ついハラハラ見てしまった。
「あ、あの、俺が取りま、」
「浦原さん!見てないで取ってください!届かないんですけど!」
勇気と、ほんの少しの下心を出して声をかければ、名無しの少しだけ怒気を含んだ声にかき消される。
店の奥に視線を向ければ、そこには怪しい男が一人。
縞々の帽子を目深く被り、それはもうニタニタとした笑顔で柱の影から四苦八苦する少女の様子を覗いていた。
断言しよう。恐らくこの人は変態だ。
「えー、なんで見てるの気がついたんっスか?」
「何となくですよ、なんとなく。
こんな変なところに置いたの、浦原さんでしょう?」
「鉄裁サンかジン太じゃないっスか?」
「よく出る商品なのに、鉄裁さんがこんな取りにくい場所に置いているとは思えません。
あとジン太くんもこんな高いところ手が届かないでしょう?ということで浦原さんです。」
「いやぁ、ご明察。見事な名推理っス。」
『大当たり』と書かれた扇子を取り出しながら、のそのそと作務衣姿の男が出てくる。
「あぁ、いらっしゃいませぇ」とヤル気のない声掛けをする様子から、浦原商店の店員のようだが…
(…………ん?浦原さん、って呼んでたよな?)
まさか、こんなゆるゆるとした人が。
元・護廷十三隊の十二番隊隊長で、技術開発局の設立者にして初代局長。
……こんな、変態が。
(取れなくて四苦八苦していた姿を、見ていたよな。絶対。…あと多分、尻。)
現在の隊長格の面々も…なんというか一癖二癖あるような面子だが、以前の護廷十三隊も中々変人が揃っていたようだ。
あ、ヤバい。変人って言っちゃった。
軽々と記憶置換のカードリッジが入れられたダンボールを下ろす浦原を、ジトリと恨めしそうに眺める名無し。
…身長が低いのがコンプレックスなのだろうか。可愛い。
「もう少し眺めていたかったんっスけど、残念です…」
「『浦原店長』。お客様の前なのでちょっと黙っててくださいね」
「あっ、その浦原店長って呼び方新鮮でイイっスね…!もう一回!」
「う・ら・は・ら・さ・ん?」
にっっっこり、と擬態語が聞こえそうなくらい、笑顔の圧がすごい。可愛いのに、ちょっと怖い。
そしてよく分かった。
この元・十二番隊隊長は、とんでもなく残念な人だということが。
「……コホン。すみません、失礼しました。こちらが商品です」
「あ、あぁ、どうも。」
気を取り直すように咳払いをした名無し。
会計をして商品を受け取れば、僅かに手が触れる。
おぉ……女の子の手に触れるなんて超久しぶり…。
柔らかい手だなぁ……
――ぞわり。
虚の霊圧よりも悪質な、鋭い敵意のある霊圧。
その発生源は、
(こ、怖っ!)
にこにこと笑顔を浮かべる名無しの、数歩後ろにいる浦原からだ。
扇子で口元を隠した表情は、笑っているのか無表情なのか分からない。
分からない、のだが。
帽子の影から覗く双眸は、朽木隊長よりも冷たく、更木隊長よりも怖かった。
目付きが、ではない。
視線が、怖い。
まるで『何勝手に触ってんだ。ピーーー(自主規制)するぞ♡』と思っていそうな…っていうか絶対思っている。怖すぎる。
――という雰囲気も一瞬だけで、弓なりに目を細める駄菓子屋店長。
間延びした、のんびりした口調で彼はこう言った。
「またのお越しをお待ちしておりますっス〜」
とある死神のジレンマ
俺は、思った。
出来るだけ買い物は…瀞霊廷でしよう。
…いやでも名無しは可愛いし……でも元隊長怖すぎるし……あぁどうしよう。
行きたいのに行けない。なんだ、このジレンマは。