anemone days//short story
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「どうしたんですか?それ。」
浦原が両手いっぱいに抱えてきたのは、目にも鮮やかな色とりどりの飾り。
指で触れば金の粉がついてしまいそうな繊細な装飾から、はたまた可愛らしいトナカイのオーナメントまで。
高校から帰ってきた名無しは目を丸くして、浦原の手荷物をマジマジと眺めた。
「ほらぁ、もうすぐクリスマスっスから。」
ニコニコと上機嫌で、目の前の駄菓子屋店主はトロリと目元を蕩かせた。
White before Xmas
昔ながらの日本家屋らしい造りをしている浦原商店。
お世辞にも天井が高いとは言えない室内へ、突如巨大なクリスマスツリーが和室に鎮座した。
鉄裁よりも少し背の高いそれは明らかにこの家のサイズに相応しくない。
名無しは勿論、ジン太と雨はてっぺんまで手が届くはずもなかった。
「浦原さん、このツリー…大きすぎでは?」
「いやぁ。家の大きさ考えてなかったっス」
枝の形を整えながら「でもまぁ、ほら。ウチに入ったからいいじゃないっスかぁ」と家長が呑気に笑うものだから、居候の名無しがこれ以上文句を言えるはずもない。
「でも…大きいツリーって、なんかテンション上がりますね」
まだ未成年とはいえ、年齢的には高校生だ。
ジン太や雨ほどはしゃぐことはないけれど、やはりソワソワしてしまうのは仕方がない。
これがクリスマスの魔力なのだろうか。不可抗力である。
大量買いした飾りをひとつひとつ手に取っては、あれが可愛いこれが可愛いと鉄裁と選び始める名無し。
そんな彼女を眺めながら「選んだ甲斐があったっス。」と満足そうに浦原は呟くのだった。
***
「いやいや、ここはボクが。」
「店長。私なら背丈がバッチリですから、お任せくだされ」
「ズリーぞ!こういうのは末っ子に譲るもんじゃねーのか!?」
「私だって、つけたいもん…」
控えめな雨ですら主張するのは、ツリーの頂上につける星を誰がつけるか・という話らしい。
『らしい』というのも、名無しは別に星をつける云々は特段興味がなく、飾り付けが終わるタイミングを見計らって温かい緑茶を用意していた。
勿論、先日作った芋羊羹も添えて。
「あみだくじかジャンケンで決めればいいんじゃないですか?」
「それもそうですな。」
名無しの提案をひとつ返事で受諾し、テキパキとあみだくじを作っていく鉄裁。
丁寧に定規を使って線を引いている辺り、彼の性格がよく出ている。
「…ん?鉄裁さん、線が五本ありますよ?」
「名無し殿もどうぞ参加を。」
余った二本の線の片方に「じゃあ、」とボールペンで名前を書き込む。
確率は五分の一。まぁ当たることはないか・と急須をのんびり傾けた。
「あ。」
「どうっスか?」
「あー。」
「…名無しだね。」
四人であみだくじを囲い、顔を見合わせる。
…まさか引き当ててしまうとは。
「私は別にいいですよ。どうぞ他の人がつけてください。」
「いやいや。まぁあみだで決まったことっスから。」
「名無しならしょーがねーなー。譲ってやるよ」
「無欲の勝利……」
「さ、名無し殿。どうぞ」
鉄裁が、一際ピカピカ光っている星飾りを差し出してくる。
こうまで言われたら無下に断る訳にもいかず、数秒ほど迷った後「じゃあ、すみません」と受け取った。
――さて。
浦原が買ってきたツリーは椅子に登っても一番上まで届くかどうか・だ。
高い所の飾りは浦原と鉄裁が。低いところの飾りは名無し・ジン太・雨の三人で付けていた。つまるところ手の届く範囲だけだ。
「うーん…ちょっと脚立持ってきます。」
「あ。必要ないっスよ。」
「はい?」
『どういうことですか?』と聞き返すより早く、身体に回される腕。
不意に感じた身体の浮遊感で、僅かに肌が粟立った。
「う、わ!?」
「これなら届くんじゃないっスか?」
後ろのやや下あたりを振り返れば、満足そうにヘラヘラ笑っている浦原の顔。
まるで子供に高い高いをするように軽々と抱き上げられれば、確かにツリーの頂上へ届く。届くのだが。
「は、恥ずかしいから下ろしてください!」
「えー?ボクはただ『善意』で抱き上げてるだけっスよ?」
嘘だ!指がワキワキして無茶苦茶擽ったいんですけど!
喉まで出かけた言葉をぐっと呑み込む。
ここで抗議しては『ワキが弱い』と公言するようなものだ。浦原の悪ふざけは無視するに限る。
名無しは耐えるようにぐっと息を止めて、星をツリーに突き刺した。
そう。飾る・というより、むしろ木が星に突き刺さっていると言っても過言ではない。
まぁ一見すればちゃんと飾られている。問題はないだろう。
「終わりました!さぁ、早く下ろしてください…!」
「えぇ~どうしましょっかぁ」
ニタニタと楽しそうに笑う無精髭面を見ると、何だか無性にムシャクシャしてしまった。
軽く鼻っ柱に蹴りを入れれば「うっ」と声を上げて呆気なく降ろされる。あぁ、最初からこうすれば良かった。
「もう!人で遊ばないでください!」
へそを曲げた名無しは、歩調に怒気を含ませて足早に台所へ向かっていってしまう。
残されたのは鼻を抑えた浦原と、茶を啜る鉄裁。
呆れた顔のジン太と雨。
「オーイ、大丈夫か?店長」
「………白、」
「は?」
「白でした…」
何が・とジン太は聞き返そうとして、口を噤んだ。
エプロンをつけて忙しなく夕飯の支度をする名無しは、まだ空座第一高校の制服のまま。
つまり、女子の制服。
スカートだ。
「店長…スケベ…」
残念なものを見るような目をした雨と呟きが、眩いイルミネーションの光に消えていった。
浦原が両手いっぱいに抱えてきたのは、目にも鮮やかな色とりどりの飾り。
指で触れば金の粉がついてしまいそうな繊細な装飾から、はたまた可愛らしいトナカイのオーナメントまで。
高校から帰ってきた名無しは目を丸くして、浦原の手荷物をマジマジと眺めた。
「ほらぁ、もうすぐクリスマスっスから。」
ニコニコと上機嫌で、目の前の駄菓子屋店主はトロリと目元を蕩かせた。
White before Xmas
昔ながらの日本家屋らしい造りをしている浦原商店。
お世辞にも天井が高いとは言えない室内へ、突如巨大なクリスマスツリーが和室に鎮座した。
鉄裁よりも少し背の高いそれは明らかにこの家のサイズに相応しくない。
名無しは勿論、ジン太と雨はてっぺんまで手が届くはずもなかった。
「浦原さん、このツリー…大きすぎでは?」
「いやぁ。家の大きさ考えてなかったっス」
枝の形を整えながら「でもまぁ、ほら。ウチに入ったからいいじゃないっスかぁ」と家長が呑気に笑うものだから、居候の名無しがこれ以上文句を言えるはずもない。
「でも…大きいツリーって、なんかテンション上がりますね」
まだ未成年とはいえ、年齢的には高校生だ。
ジン太や雨ほどはしゃぐことはないけれど、やはりソワソワしてしまうのは仕方がない。
これがクリスマスの魔力なのだろうか。不可抗力である。
大量買いした飾りをひとつひとつ手に取っては、あれが可愛いこれが可愛いと鉄裁と選び始める名無し。
そんな彼女を眺めながら「選んだ甲斐があったっス。」と満足そうに浦原は呟くのだった。
***
「いやいや、ここはボクが。」
「店長。私なら背丈がバッチリですから、お任せくだされ」
「ズリーぞ!こういうのは末っ子に譲るもんじゃねーのか!?」
「私だって、つけたいもん…」
控えめな雨ですら主張するのは、ツリーの頂上につける星を誰がつけるか・という話らしい。
『らしい』というのも、名無しは別に星をつける云々は特段興味がなく、飾り付けが終わるタイミングを見計らって温かい緑茶を用意していた。
勿論、先日作った芋羊羹も添えて。
「あみだくじかジャンケンで決めればいいんじゃないですか?」
「それもそうですな。」
名無しの提案をひとつ返事で受諾し、テキパキとあみだくじを作っていく鉄裁。
丁寧に定規を使って線を引いている辺り、彼の性格がよく出ている。
「…ん?鉄裁さん、線が五本ありますよ?」
「名無し殿もどうぞ参加を。」
余った二本の線の片方に「じゃあ、」とボールペンで名前を書き込む。
確率は五分の一。まぁ当たることはないか・と急須をのんびり傾けた。
「あ。」
「どうっスか?」
「あー。」
「…名無しだね。」
四人であみだくじを囲い、顔を見合わせる。
…まさか引き当ててしまうとは。
「私は別にいいですよ。どうぞ他の人がつけてください。」
「いやいや。まぁあみだで決まったことっスから。」
「名無しならしょーがねーなー。譲ってやるよ」
「無欲の勝利……」
「さ、名無し殿。どうぞ」
鉄裁が、一際ピカピカ光っている星飾りを差し出してくる。
こうまで言われたら無下に断る訳にもいかず、数秒ほど迷った後「じゃあ、すみません」と受け取った。
――さて。
浦原が買ってきたツリーは椅子に登っても一番上まで届くかどうか・だ。
高い所の飾りは浦原と鉄裁が。低いところの飾りは名無し・ジン太・雨の三人で付けていた。つまるところ手の届く範囲だけだ。
「うーん…ちょっと脚立持ってきます。」
「あ。必要ないっスよ。」
「はい?」
『どういうことですか?』と聞き返すより早く、身体に回される腕。
不意に感じた身体の浮遊感で、僅かに肌が粟立った。
「う、わ!?」
「これなら届くんじゃないっスか?」
後ろのやや下あたりを振り返れば、満足そうにヘラヘラ笑っている浦原の顔。
まるで子供に高い高いをするように軽々と抱き上げられれば、確かにツリーの頂上へ届く。届くのだが。
「は、恥ずかしいから下ろしてください!」
「えー?ボクはただ『善意』で抱き上げてるだけっスよ?」
嘘だ!指がワキワキして無茶苦茶擽ったいんですけど!
喉まで出かけた言葉をぐっと呑み込む。
ここで抗議しては『ワキが弱い』と公言するようなものだ。浦原の悪ふざけは無視するに限る。
名無しは耐えるようにぐっと息を止めて、星をツリーに突き刺した。
そう。飾る・というより、むしろ木が星に突き刺さっていると言っても過言ではない。
まぁ一見すればちゃんと飾られている。問題はないだろう。
「終わりました!さぁ、早く下ろしてください…!」
「えぇ~どうしましょっかぁ」
ニタニタと楽しそうに笑う無精髭面を見ると、何だか無性にムシャクシャしてしまった。
軽く鼻っ柱に蹴りを入れれば「うっ」と声を上げて呆気なく降ろされる。あぁ、最初からこうすれば良かった。
「もう!人で遊ばないでください!」
へそを曲げた名無しは、歩調に怒気を含ませて足早に台所へ向かっていってしまう。
残されたのは鼻を抑えた浦原と、茶を啜る鉄裁。
呆れた顔のジン太と雨。
「オーイ、大丈夫か?店長」
「………白、」
「は?」
「白でした…」
何が・とジン太は聞き返そうとして、口を噤んだ。
エプロンをつけて忙しなく夕飯の支度をする名無しは、まだ空座第一高校の制服のまま。
つまり、女子の制服。
スカートだ。
「店長…スケベ…」
残念なものを見るような目をした雨と呟きが、眩いイルミネーションの光に消えていった。