彼女の好きなところ。
屈託ない笑顔。
美味しいご飯。
艶やかな黒い髪。
透き通るような白い肌。
喜怒哀楽がコロコロと変わる表情。

「ほら、まだボクから今日は一本も取れてないっスよ。」
「これから取ります、よ…っと！」

余裕のない状況であるにも関わらず、逆境を楽しむかのような笑み。
爛々とした黒い瞳が、視線鋭くボクに突き刺さる。

不屈の精神。
諦めるということを知らない、何度でも立ち上がる強い心。

あぁ、もしかしたらボクはマゾなのかもしれない。
彼女の獣のような目と視線が絡む度に、胸が疼いて仕方がない。

鏡のような曇りひとつ無い瞳に映るのはボクだけ。
本気を出せばボクが彼女の心の臓を止めることは容易い。
けれど大事な彼女にそんな酷い仕打ちは、当たり前の話だが到底出来なかった。

けれど適度に戦い、ギリギリの勝利を遠ざける。
勝利に喰らいつく瞬間にボクが本気を出せば、それに順応するように名無しの動きも鋭さを増した。

こんな教え甲斐のある弟子も、世界広しといえど珍しいだろう。

強く、強く。もっと強く。
彼女を戦士たらしめる原動力は、途方もない大きな目標。
勝ちを諦めない貪欲さ。
捨て身覚悟の思い切りの良さ。
常に次の手を考える思考回路。

挙げたらキリがない。

霊力バカといつかの誰かが渾名を授けたが、それはあくまでただの『資源』だ。
それを如何に使うか、活用するか。
『人間』が腹を括ったらここまで強くなれるのかと、感動を覚えた程だ。

「ほら、攻撃は当てないと意味がないっスよ。」
「分かってますよ！そんな余裕こいていたら、真っ二つになりますからね！」

見開かれた黒曜石のような双眸が、眩しい。
あぁ、ほら。
キミに見つめられる度、この胸がこんなにも躍ってしまう。



不意に、胸を疼かせた



だからどうか。
彼女が道半ばで倒れてしまわないように。
ボクは今日も、刃を振るう。