anemone days//short story
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気持ちのいい洗濯物日和。
その日は全員分の敷布団、掛布団を干して学校へ出かけた。
布団五組が中庭でぽかぽかと干される予定だったのだけど。
それが大きな誤算だった。
雨の日ハプニング
「げ…夕立…」
六時限中にバケツをひっくり返したような豪雨が降ってきた。
通り雨かもしれないが、一番に脳裏をよぎったのは布団の心配だった。
放課後になったあとすぐ、廊下に出て伝令神機でダイヤル発信する。
『はい、浦原商店です』
「あ、鉄裁さん!洗濯物も取り込んでおいてください、夕立が」
『うわー!鉄裁、大変だ!大雨だ!』
電話の向こうからジン太の声が聞こえる。
商店が学校から少し離れているとはいえ、遅かったか。
『お任せ下さい名無し殿』
「すみません、お願いします!」
電話を切ったあと、あちゃーと一人で呟いた。
最近の異常気象で5月でも夕立が降るようになったのは頭が痛い。
「あれ、名無しちゃん。今から帰るの?」
「あ、うん」
「早く行った方がいいよ、ほら」
織姫が笑いながら指差した先には、番傘を差した人影。
天鵞絨色の作務衣は毎日見ているものだった。何してるんだ、あの人は。
そこには傘を持ったオレンジ色の頭の頭の青年も立っていた。恐らく番傘の男が珍しかったのだろう、青年から話しかけているようだった。
それもそうだ。あの人はこんなところへ滅多にくる人じゃない。
「うわ…何してんの、浦原さん」
「浦原さん、目立つねぇ」
それを言うならオレンジ色の頭をした黒崎もかなり目立つ気がする。
いや、普段着が作務衣の下駄帽子も充分目立つんだけども。
***
「何してるんですか、浦原さん」
「あ、名無しサン。おかえりなさーい」
「よぉ、名無し。井上も一緒か」
織姫の傘に入れてもらって校門まで行けば、年甲斐もなく手をブンブン振る浦原と、少し疲れた顔の一護がいた。
「お迎えに上がりましたよ。傘、持って行ってなかったでしょ」
「あ…すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。さ、帰りましょうか」
自然な流れで手を差し出される。
…なんだろう、この手は。
「えっ、と。この手は何です?」
「鞄っス」
かぁぁっ、と顔が赤くなるのが自分でもわかった。
そりゃそうだ、傘もって手も握るなんてことは難しい。
しかも人前で。無茶苦茶恥ずかしい、死にたい。
思わず頭を抱えてしまった。
「って、私の分の傘は!?」
「ありませんよォ。普通相合傘じゃないっスか」
「ちょっと歳を考えた方がいいのでは」
「大丈夫っス、心はいつでもナウなヤングっスよ」
「その言い回しがもう若者感ゼロです」
「ささ、じゃあお暇しますね、黒崎サン、井上サン」
「ちょっと、スルーですか!あっ…織姫ちゃん、黒崎くん、また明日!」
手を大きく振る名無し。
浦原に連れて行かれるように、その背中は小さくなっていく。
「なに話してたの?黒崎くん」
「…惚気を一方的に聞かされてた…。話しかけなきゃよかった」
「ありゃ、それはお疲れ様」
真面目な話とおちゃらけたふざけた会話しか浦原としたことがなかった。
だから学校に来ているということは、尸魂界関係の…急ぎの用事だと思った。
何の用事だと訊ねてみれば、名無しの迎えだという。
基本的にあの男は他人に対して無関心だと思っていたから、その返答はかなり意外だった。
それからというものの、あれよあれよと惚気が出るわ出るわ。
男子高校生が聞くのをはばかられる内容まで飛び出てきた時は、少しだけ名無しが哀れになった。聞かなかったことにしてやるのが一護なりの優しさだ。
「あー、その。…送るわ、井上」
「へ!?えっ、あ、ありがとうございます!」
「なんで敬語なんだよ」
うん。
雨の日も、嫌いじゃなくなってきた。
***
「もう、雨の日なんて嫌いよ!」
浦原商店に帰れば大変なことになっている布団が四組。
一組は真っ先に取り込んだから、どうやら雨は間逃れたらしい。
「こりゃ今日の寝床どうしますかねぇ」
「客用の布団は二組ありますぞ」
「まだ夜は冷えるっスからねぇ。ガタイの大きい鉄裁サンで一組、雨サンとジン太サンで一組、ボクと名無しサンで一組。なんとか足りそうっスね!」
「ちょっと待った」
異を唱えたのは名無し。
「思春期なりかけの少年少女を同じ布団で寝かせるのはどうなんですか。あと何しれっと私と浦原さんの組み合わせなんですか。おかしいでしょう。
そこはジン太くんとチェンジですよ、チェンジ!」
「嫌ですよぉ。どうせなら名無しサンを抱き枕にして寝たいですもん」
「本人の意思も尊重して下さい」
この浦原家の頂点に君臨するのは彼だ。
意外(?)と浦原は我儘なのだ。他人から見ればしょうもないことに。
大体が私に対してのセクハラ関係だから、本当に頭が痛い。
「ふむ、ではこうしたら如何ですかな」
鉄裁が出てきた提案。それは――
***
「全然、一番大事なことが解決になってませんけど」
「いやぁ、鉄裁サン流石っス」
「店長に褒めていただくとは、いやはや」
「いやはや、じゃないですよ!私を売りましたね!?」
川の字に並べられた布団。修学旅行もびっくりのピッタリ具合だ。
そこに席順、もとい寝床順を示す紙が枕に置かれている。
浦原・名無し・雨・鉄裁・ジン太、の順番だ。
確かにお母さんポジションの鉄裁が間なら何の心配もいらない。
が、私の身の危険は相変わらずだった。
「普通そこは、浦原さん・ジン太くん・鉄裁さん・雨ちゃん・私、でしょう!」
「そしたらボクの意見が却下じゃないっスか。民主主義じゃないっスね」
「独裁者が何言ってるんですか」
「名無し、悪ィ。俺、店長の隣はちょっと」
「ジン太くん!?」
まさかの裏切り。
「だ、そうです。ささ、消灯時間ですよぉ〜。旅行みたいでワクワクしますねぇ」
寝巻きに着替えた浦原は至極楽しそうだ。
ワクワクするのは彼だけでは。
「名無し…」
「雨ちゃん、」
何か暖かい言葉を期待してしまった。
彼女からはグッと親指を立てて、一言。
「私は…弟でも妹でもどっちでもいいから…」
「おぉーい!誰だこの子に保健体育を教えたヤツは!!」
長い夜が、始まる。
その日は全員分の敷布団、掛布団を干して学校へ出かけた。
布団五組が中庭でぽかぽかと干される予定だったのだけど。
それが大きな誤算だった。
雨の日ハプニング
「げ…夕立…」
六時限中にバケツをひっくり返したような豪雨が降ってきた。
通り雨かもしれないが、一番に脳裏をよぎったのは布団の心配だった。
放課後になったあとすぐ、廊下に出て伝令神機でダイヤル発信する。
『はい、浦原商店です』
「あ、鉄裁さん!洗濯物も取り込んでおいてください、夕立が」
『うわー!鉄裁、大変だ!大雨だ!』
電話の向こうからジン太の声が聞こえる。
商店が学校から少し離れているとはいえ、遅かったか。
『お任せ下さい名無し殿』
「すみません、お願いします!」
電話を切ったあと、あちゃーと一人で呟いた。
最近の異常気象で5月でも夕立が降るようになったのは頭が痛い。
「あれ、名無しちゃん。今から帰るの?」
「あ、うん」
「早く行った方がいいよ、ほら」
織姫が笑いながら指差した先には、番傘を差した人影。
天鵞絨色の作務衣は毎日見ているものだった。何してるんだ、あの人は。
そこには傘を持ったオレンジ色の頭の頭の青年も立っていた。恐らく番傘の男が珍しかったのだろう、青年から話しかけているようだった。
それもそうだ。あの人はこんなところへ滅多にくる人じゃない。
「うわ…何してんの、浦原さん」
「浦原さん、目立つねぇ」
それを言うならオレンジ色の頭をした黒崎もかなり目立つ気がする。
いや、普段着が作務衣の下駄帽子も充分目立つんだけども。
***
「何してるんですか、浦原さん」
「あ、名無しサン。おかえりなさーい」
「よぉ、名無し。井上も一緒か」
織姫の傘に入れてもらって校門まで行けば、年甲斐もなく手をブンブン振る浦原と、少し疲れた顔の一護がいた。
「お迎えに上がりましたよ。傘、持って行ってなかったでしょ」
「あ…すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。さ、帰りましょうか」
自然な流れで手を差し出される。
…なんだろう、この手は。
「えっ、と。この手は何です?」
「鞄っス」
かぁぁっ、と顔が赤くなるのが自分でもわかった。
そりゃそうだ、傘もって手も握るなんてことは難しい。
しかも人前で。無茶苦茶恥ずかしい、死にたい。
思わず頭を抱えてしまった。
「って、私の分の傘は!?」
「ありませんよォ。普通相合傘じゃないっスか」
「ちょっと歳を考えた方がいいのでは」
「大丈夫っス、心はいつでもナウなヤングっスよ」
「その言い回しがもう若者感ゼロです」
「ささ、じゃあお暇しますね、黒崎サン、井上サン」
「ちょっと、スルーですか!あっ…織姫ちゃん、黒崎くん、また明日!」
手を大きく振る名無し。
浦原に連れて行かれるように、その背中は小さくなっていく。
「なに話してたの?黒崎くん」
「…惚気を一方的に聞かされてた…。話しかけなきゃよかった」
「ありゃ、それはお疲れ様」
真面目な話とおちゃらけたふざけた会話しか浦原としたことがなかった。
だから学校に来ているということは、尸魂界関係の…急ぎの用事だと思った。
何の用事だと訊ねてみれば、名無しの迎えだという。
基本的にあの男は他人に対して無関心だと思っていたから、その返答はかなり意外だった。
それからというものの、あれよあれよと惚気が出るわ出るわ。
男子高校生が聞くのをはばかられる内容まで飛び出てきた時は、少しだけ名無しが哀れになった。聞かなかったことにしてやるのが一護なりの優しさだ。
「あー、その。…送るわ、井上」
「へ!?えっ、あ、ありがとうございます!」
「なんで敬語なんだよ」
うん。
雨の日も、嫌いじゃなくなってきた。
***
「もう、雨の日なんて嫌いよ!」
浦原商店に帰れば大変なことになっている布団が四組。
一組は真っ先に取り込んだから、どうやら雨は間逃れたらしい。
「こりゃ今日の寝床どうしますかねぇ」
「客用の布団は二組ありますぞ」
「まだ夜は冷えるっスからねぇ。ガタイの大きい鉄裁サンで一組、雨サンとジン太サンで一組、ボクと名無しサンで一組。なんとか足りそうっスね!」
「ちょっと待った」
異を唱えたのは名無し。
「思春期なりかけの少年少女を同じ布団で寝かせるのはどうなんですか。あと何しれっと私と浦原さんの組み合わせなんですか。おかしいでしょう。
そこはジン太くんとチェンジですよ、チェンジ!」
「嫌ですよぉ。どうせなら名無しサンを抱き枕にして寝たいですもん」
「本人の意思も尊重して下さい」
この浦原家の頂点に君臨するのは彼だ。
意外(?)と浦原は我儘なのだ。他人から見ればしょうもないことに。
大体が私に対してのセクハラ関係だから、本当に頭が痛い。
「ふむ、ではこうしたら如何ですかな」
鉄裁が出てきた提案。それは――
***
「全然、一番大事なことが解決になってませんけど」
「いやぁ、鉄裁サン流石っス」
「店長に褒めていただくとは、いやはや」
「いやはや、じゃないですよ!私を売りましたね!?」
川の字に並べられた布団。修学旅行もびっくりのピッタリ具合だ。
そこに席順、もとい寝床順を示す紙が枕に置かれている。
浦原・名無し・雨・鉄裁・ジン太、の順番だ。
確かにお母さんポジションの鉄裁が間なら何の心配もいらない。
が、私の身の危険は相変わらずだった。
「普通そこは、浦原さん・ジン太くん・鉄裁さん・雨ちゃん・私、でしょう!」
「そしたらボクの意見が却下じゃないっスか。民主主義じゃないっスね」
「独裁者が何言ってるんですか」
「名無し、悪ィ。俺、店長の隣はちょっと」
「ジン太くん!?」
まさかの裏切り。
「だ、そうです。ささ、消灯時間ですよぉ〜。旅行みたいでワクワクしますねぇ」
寝巻きに着替えた浦原は至極楽しそうだ。
ワクワクするのは彼だけでは。
「名無し…」
「雨ちゃん、」
何か暖かい言葉を期待してしまった。
彼女からはグッと親指を立てて、一言。
「私は…弟でも妹でもどっちでもいいから…」
「おぉーい!誰だこの子に保健体育を教えたヤツは!!」
長い夜が、始まる。
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